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七宝伝〜今起こったこと〜  作者: nyao
二章 ~仲間~
20/51

十五話「遅れて来た騎士(ナイト)」


そんな柄じゃないでしょ?




一人の少女が工場跡の入り口付近で佇んでいた。手頃な場所で腰を下ろすと小さなため息が一つ、零れた。


「素直に従ってくれる・・・・・・ような人には見えなかったよね」


少し丘になっているこの場所からはこの街が一望できる。だと言うのに此処の存在に気付く人は殆どいない。ここはそういう場所。

少女は眼下に広がる街を見下ろした。つい先ほどとは違う鋭い視線。


「でも、誘いには乗ってくる甘い人」


その確信はあった。

素直に渡しはしないだろうが、それでも誰かを騙すではなく真面目に取引に応じてくれるだろう、そんな確信。

そして現物さえあれば後は如何とでもなる。無傷で相手を無力化する事も、今の彼女の実力ならば少女にとってはなんら問題ないのだから。


「それにしても・・・」


少女の表情にほんの少し苦笑が浮かぶ。


「人質なんて、まるで悪人ですね」


それともう一人の彼女には本当に悪い事をしたと。


「ほんと、気が重いですよ・・・」


無関係、とは言わないがそれでも他人に迷惑を掛けて落ち込まずにはいられない。しかも人質を取っている自分を思い浮かべて存外似合ってしまっていると感じてしまうのも嫌だったりした。


それでも、と。少女はもう一度眼下の町を鋭い瞳で見下ろした。


「一度使ってしまった以上はもう猶予はない、か。奴等が来る前に・・・・例えあの子がミツキであれサラシマであれ、巻き込まれていいはずがない。

私は彼等を怨んでなど・・いない」


そして少女は日暮れを数え、謡いながら静かに待った、約束の来訪者が来るその刻を。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





切れる息を整えながら和佐はたどり着いた周囲を見渡した。


昨夜見に行って確証した事だが、所々に、隠してあるらしいが此処で何かがあったらしい。明るい状態で見てはっきりとした。

数箇所気があったはずの場所がただの地面になっていたり、地面を抉ったような痕がほんの微かに見て取れる。


だがそんなことは半分以上昨日の内にわかっていた事。


「・・・いない?」


何処にも標的、恭一の姿どころか人一人としている様子がなかった。


此処には来ていなかった、と言う考えが一瞬浮かんですぐさま消えた。そう言い切るには此処は余りにも静か過ぎる。

なら自分が遅かったのか、と考えて


「・・・・ぁ?」


其れを見つけた。


数日前、恭一と共に凪たちに遭ったときと同じ違和感。まるで塗皮一枚隔てたような感触の悪さ。


あの時はつられるように半ば無意識にした事。今は意識的に、和佐は全身に力を巡らせた。


「・・・・在った」


感覚を凝らして視れば確かに、在った。見えはしないものの確かに断層のようなものが存在はしている。

隙間を縫うようにその内部へと身体を割り入れる。


「あ?」


広がっていた景色に呆ける。何故なら何も変わりがなかったから。強いて上げるならば生物の気配が全くといっていいほどない事、だろうか。だがそれ以外は全く変わるところはないし、誰もいない。


誰も、恭一の姿も何処にもない。


「ちが、た・・・・・いや?」


そんなはずはない、と。ならばこの存在すら意味はないはず。だが存在している。

その意味は、


「どうしたんです?」


「っ!?」


背後からの声と肩に掛かった手。

突然の事に和佐は半ば反射的に振り向き様、背中に仕込んでいた小太刀を相手の存在の目視と同時に首脈へと斬りかかっていた。


「うわっ、と」


返ってきたのはそんな気の抜けた声だけ。伝わる手応えはない。

軽く息を吐きつつ和佐は後ろに跳んで大きく相手と距離をとった。


「お前は・・・?」


向き合って見ると流し姿の男が一人。


近辺では見た事はない。が、その男は尋常ではなかった。今時珍しい着物姿が、ではない。確かにそれは異常の一つなのだがそれだけでは大した問題ではない。

殺傷が無数、それも明らかに刃物で付けられたもの。更にはそれでも平然と佇む男の平静さ。


「ふぅ、今日は厄日ですね。問答無用で殴りかかられる事一度、斬りかかられる事一度。人違いだったりしたら今頃死人が出てますよ、絶対」


男が呟いた中に琴線が触れるものがあった。


「恭一・・・を知っているのか?」


問答無用で殴りかかる奴などたかが知れている。誰かに追われているか、今の和佐のように未知の場所に足を踏み入れたときか、最後にそういう習性があるか、である。


最初の二つは兎に角として最後などは恭一でしかありえない。そして和佐はそれを半ば確信していた。

刹那男に浮かんだ驚きもそれを助長している。


「おや、恭一君の知り合いの方ですか?」


確定。

隠すこともなく男は恭一に会った事があると言った。仮に恭一の知人であったならば自分が知らないのはおかしい。


どうして恭一が名乗ったのかは定かではないが、恐らくこの公園、此処で遭った。


「恭一は何処だ?」


負けるはずがない、とは思いつつも男に切傷はあっても打撲は一つもない。そして和佐の知りうる限り恭一は刃物を使わ――使えない(・・・・)


男の動向を探るが隙はまるでなかった。一仕事終えて家に帰る詩人、と言われても傷がなければ違和感がないだろう様子。


かなりできる。


和佐が警戒の色を浮かべると男は落胆するように肩を落した。


「あー、やっぱり・・・そうですか」


余裕とも取れるその仕草が、酷く癪に障る。


「恭一をどうしたっ!!」


「恭一君、ですかぁ・・・」


まるで昔に思いを馳せるように彼方へと視線を向けながら、


「ああ、大丈夫・・・じゃないですかね。少々手違いがあって現在行方不明ですけど。それに精々が迷子で済みますよ」


行方知れず、というところが気になりはしたが経緯は何にせよ男が隠し事をしている様子はない。

恭一を探して此処に来たというのに。胸の中で嘆息を一つ零す。


目の前の男に対して余計な事を考えるだけの余裕は和佐にはなかった。


「お前、何者だ?」


「僕ですか? 僕は神谷洸というものですよ。決して怪しくは無いので悪しからず」


何よりもその言動自体が怪しさ爆発である。


まるでたった今、とても重大な事を思い出したように洸がため息を一つ零した。


「あー、そういえば僕って今疲れている上にすごく忙しい身だったりするんですよ」


眉を顰めるその仕草は心底嫌そうだ。


「ですので、君の・・君達のお遊びに付き合っている時間はないんですよ」


「へぇ、お遊び、ね・・・」


細心の注意を払いつつ、もう一本小太刀を抜いて構えを取る。そのまま少しずつ洸へとにじり寄っていく。

一方近づいてくる和佐――の雰囲気か――を見て、洸の顔に明らかな落胆の表情が浮かんだ。


「ほんと、僕疲れているのに聞いてくれませんか」


「俺の質問に素直に答えてくれるなら聞いてやってもいいぜ?」


「無理ですねぇ」


即答だった。

和佐としてもさほど期待してはいなかったので表情に変化はない。


「そうか」


呟いて、足が止まった。此処が一足一刀の距離。

洸は嫌そうな顔のまま、まだ動かない。


「あぁ、そう言えば僕の方も一つだけ聞いておいてもいいかなって事がありましたよ」


「・・何だ」


「君の名前、何て言うんですか? 何だか君って一度纏わりつくと離れないって言うのか、しつこそうなんですよね」


「・・・上柳、和佐」


しつこい、という単語に僅かに眉を寄せ、同時に踏み込んでいた。

刃は一応峰打ち。が、一応だ。


洸はまだ動かない。


和佐が小太刀を振り下ろす。

ようやく、動いた。


片手は懐に、もう片手を袖の中に隠すと同時に横へ流れた。まさにそう表すのが正しい流暢な動き。


僅か遅れる事、誰もいない場所を斬撃が通り過ぎた。


「ちっ」


二撃目、と首を傾けた。

見えたのは袖から出されていた洸の手の内の輝き。それが、放たれた。


「?」


和佐の右を通り過ぎる。だがその軌道は避けるまでもない明らかな誤投。

手元が狂ったのかという思考は一瞬で、和佐はすぐに二撃目を放った。


「わっ?」


金属の擦れる音と間抜けな叫び声。


止められた。

洸の獲物は懐から出した手に握られた棒手裏剣。それが和佐の小太刀を受け止めている。


唐突に、全身の寒気に従い思い切り後ろへと跳ぶ。

視界に収まったのは笑みを浮かべながらもう片手にあった手裏剣を構える洸の姿。


到底間に合わない。


「っ!!」


息を呑んだ刹那、周りの景色が早送りのように素早く流れていった。

次に和佐が足をついたとき、一秒と満たないその間に二人の距離は六間ほど離れていた。


「はあはあはあ、は、は、は・・・はぁ、はぁ。はぁ・・・・ふぅ」


荒立つ呼吸を必死に宥める。


「すごいですね」


届いたのは感心するような、そんな声。


「?」


呼吸も儘ならないと言うのに洸が襲ってくる様子は無い。


訝しがりながらも呼吸を整えた後、和佐はある一つの事実に気付いた。

にこにこと笑っている洸の手に握られているもの。手裏剣は結局投げられていない。


投げられなかったのか、という考えはすぐに否定された。仮にそうだとしてもその後にできた隙を見て投げていればよかったはず。

だとすると残りは故意に投げなかった事になる。それはどうしてかと考えて、


「でもまだまだですね」


たしなめるような声に今はそれどころではなかったと我に返った。


恭一も見つかっていない状況、無駄に時間を掛けるのは好ましくない。なら必殺の一撃を放つまで。正直それでも終わるかどうか怪しいが。


決意するなり、和佐はすぐさま実行に移った。

一本、必要ない小太刀を背中に収める。残りの一本を相手に構え、膝を折って体勢を低く取る。


放つは必殺。


この程度の距離、間合は関係なかった。

折った膝、腕を限界まで張り、その力を衝に換えて前方へと放つ・・・刹那前。


「ぁ?」


首筋に感じた僅かな痛みと共に意識が遠ざかっていくのを感じた。


恐らくは倒れ往く身体で洸を見た。

あったのは微笑み。一見両手は何も構えていない。だが今の一撃は、


「油断大敵。本当に、まだまだですよ」


最後に聞き取れたのはそんな言葉。


全身が打たれたはずなのに感じない。和佐の身体が地面に倒れこんだ。






七宝殿〜居間で興っている事?〜


十五夜「遅れてこないと」



萌 はい、最近はすっかりわたしのコーナーになっちゃいましたあとがきです


真衣 もう作者さんの出る幕がなくなってきてますね〜、あの人何処に逝ったんでしょう?


萌 さあ? と、言う事で今回のお客は最初に少しだけ出てきました真衣ちゃんさんです


真衣 どもども、はじめましてです。萌さん


萌 ……ほぁ


真衣 どうしました?


萌 ほんとに舞ちゃんにそっくりなんだ、と思って


真衣 いやいや、そんな、照れちゃいますよ、そんな美人だなんて本当に、褒められると


萌 でも今のところ舞ちゃんを知ってる人と未だ会ってないんだよね


真衣 (ツッコミ無しですか)はい、そです、でも会っちゃったら大変な事になるかも…


萌 そ、その大変な事とは?


真衣 はい、恐らくその舞ちゃんさんとやらの立場がものすごく悪くなりますね


萌 どうして?


真衣 だって知り合いといったらあの恭一さんか、あの和佐さんしかいないでしょ


萌 …確かにそうかも


真衣 でしょう?


萌 舞ちゃん、大丈夫かな


真衣 ちなみに近日わたしと恭一さんと遇ってしまう予定が有るらしいですよ


萌 ど、どうしよう


真衣 どうしようもないでしょうから…放っときましょ


萌 ……いいのかな?


真衣 どうしようもない事ですしね〜


萌 う、ん………あっ! 話の紹介、未だしてないよぅ


真衣 (きっぱりと)大丈夫です


萌 ほぇ、どうして?


真衣 (何の迷いも無く)今回が和佐さんの話だからです


萌 そ、そうなの?


真衣 そうです(それはもう)


萌 う、うん…分かった


真衣 分かっていただけて嬉しいです


萌 ……あ、そういえば舞ちゃん、しばらく姿見てないけどどうしたのかな?


真衣 ……多分作者わるもの退治でしょ


萌 あ、そうなんだ、悪者退治って…頑張ってるんだね舞ちゃん、すごいよ


真衣 はい、という事で今回もお開きの時間になりました


萌 あ、はーい、じゃ皆、次回十六話でまたね〜そういえば和ちゃんも如何したのかな


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