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七宝伝〜今起こったこと〜  作者: nyao
二章 ~仲間~
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十四話「繋がるは時のいし」


ところがどっこい

(…何が?)






全身への衝撃と共に恭一は一気に意識を覚醒させた。

全くの習慣的に耳を澄ましたが物音は一つもない。見渡そうにも周囲には微かな埃が舞い上がっており、開いたばかりの瞳を僅かに細めながら恭一は身を起こした。


斬られたはずの傷口に手を当てて、不可解そうに眉が顰められる。


「・・・・ないな」


手を当てた場所には切傷や打撲はおろか服さえも全くの無事だった。斬られた、万一に殴打されたと言う形跡さえない。


埃が晴れてきたところで辺りを見渡してみる。

どうやら建物の中らしかった。四方を人口石に囲まれた無愛想な造り、僅かに開いた四角の窓口からは赤い光が差し込んでいた。また草臥れた石の壁に床には随分と埃が積もっていて人の出入りがなかった事を示している。


少なくともこの景色、恭一に見覚えはなかった。

覚えている限りの前の記憶は洸に斬られた場面。しかし今は男も洸の姿も周囲にはない。どころか気配、要は勘と経験則からの他人が潜んでいる可能性、もないと思われた。


僅かに考える素振りを示す、事もなく恭一はもう一度辺りを見渡してみた。


現在恭一の周囲だけが埃の量が減っているのは先ほど感じた衝撃の所為だろう。

それ以外では少し離れた、精確に言えば恭一がいる部屋から出た通路と思われる場所に僅かに誰かの足跡と思われる埃の少なくなった場所が一人の往復分だけあった。

通路から放り投げたにしては余りにも距離が離れすぎているし受ける衝撃も覚醒時とは比べ物にならないだろうことは想像に難くない。



取り敢えず、見つけた誰かの足跡を追って恭一は部屋を出た。


通路に出るとあったのは大きく広がった空間だった。工具のような機器が幾つもあって、何かの工場だったと思われる。だがそれらも一目で分かるほど埃にまみれていてここ数年、もしかすると数十年以上は使われていないといわれても信じられるような荒れ様だった。


足跡は左右の往復分。

彼方を見て、恭一は恐らく入り口ではないだろう方へと足を進めた。


やがて。


足跡は一つの部屋の中へと続いていた。耳を澄ましても音は何もなく、恭一は恐ろしく無遠慮に足を踏み入れた。


「・・・・・・・」


少女が一人、転がっていた。


両手両足を縄で縛り取られ、尚且つ後ろの柱に繋ぎ止められた状態で横たわっている。今は意識がないようだがこれでは意識があったとしても動くのは無理だろう。

近づいて見てみるとどこかで見たような少女である。それが何時だったかを思い出し掛けて、止めた。


彼女が誰であろうと恭一にはどうでもいい事だから。


恭一は先ず捕まっているらしい少女――恐らくは自身と同じようなもの――の首筋に手を当てて生存を確認。次いで口元において呼吸の有無も確かめた。

どちらも良好である。


外傷は無い様子。

さっと少女の身体に視線を走らせてから恭一はおもむろに手を伸ばし――少女の意識があれば顔を真っ赤にさせて拒絶しただろうが――身体調査をした。

他意も悪気も興味も、その他一切ないのだが――触診で武器の有無を確認。その際出てきた短棒を少女から遠ざけて床に転がす。


相手が完全に無害になった状態で初めて、恭一は至極まともな行動に移った。


「起きろ」


声だけでは反応が無かったので身体を揺らしつつ、何度か頬を叩く。


「おい、起きろ」


「・・・・・・ん」


「おい」


「ん・・・・んん・・?」


覚醒する仕草を見せた少女の身体を念のために押さえつけつつ最後にもう一度声をかける。


「起きろ」


「う・・・ん?」


少女の目がゆっくりと開いた。

まだ焦点があっていなかったようだが構わない。


「何処だ」


「ん・・・・・・・・・・ぇ?」


身動ぎをして、身体の動かない事に気付いたのか一気に少女の瞳が大きく開かれて、


「や、嫌っ!!」


「黙れ」


「ゃ、離してっ!!」


「黙れ、と言っている」


予想通り《、、、、》暴れ出した相手を更に力ずくで押さえつけて、恭一は正面から少女の顔を睨みつけて、殺気すら混めて低く呟いた。


ぴたりと少女の動きが止まる。


「え、あ・・きょ・・・」


瞬間、茹蛸のように少女の顔が真赤に染まった。


「きょ、きょ、きょ、恭一さん!!! ど、どうしてここに??」


「気付いたら此処にいた」


「きき、気付いたら、気付いたらって・・・・」


「少し黙れ」


言われたとおりに少女が押し黙る。顔は赤いままだったが。


少女の様子からしてどうやら彼女も恭一と同じ口らしい。と、なると彼女から情報を聞き出す事は実質不可能。無駄ということになる。


「あ、あの、恭一さん」


「何だ」


「その、わたし、どうしてこんな所に? そ、それに服が・・・・」


言い淀んだとおり少女の着ている制服は先ほどの触診の所為で着崩れていた。

恭一は言われた事を確かめるように少女を一瞥し、


「あ、あまり見ないでください。恥ずかしい・・・ですから」


頬を染めながら身をよじる少女をただ言われたとおりに視線から外した。


室内を一瞥してもう完全に用事がない事を確認した後、恭一は少女から身を離して質問に答える事無くそのまま部屋の出口へと向かう。


「あ、その、恭一さん・・・・・?」


控えめなようでどこか切羽詰った声に振り向いた。


「何だ」


「わたし、どうしてこんな・・・・服、が・・・・」


そこまで言って沈痛そうに顔を俯ける。恐らくは自分にどういった事があったのかを想像しているのだろう。が、


「武器を除いた」


恭一の言われるままに視線を動かし、床に転がった短棒を見止めると恐る恐るといった感じでもう一度恭一を見上げてきた。


「恭一さん、が?」


頷く。


「・・・・・・・・・・・よか、たぁ」


目に見えて肩から力が抜け、だがすぐにその顔一杯に紅潮した。


「きょ、恭一さん!!」


「何だ」


突然の大きな声だがその程度、恭一にとって威嚇にもならない。

ただじっと見つめて次の言葉を待つ。


「ぁ、え、その・・・・・できれば、縄を解いてほしい・・です」


先ほどまでの勢いは何処へやら。

瞳をじっと見つめると少女はすぐに恥ずかしそうに視線を逸らした。


少女に害意はない。ただ在るのは、


「・・・分かった」


ふと郷愁の念を感じている自分がいた事にわずかながら戸惑いを覚えながら、おもむろに近づいて素直に縄を解いていた。


「ありがとう、ございます」


「ひと・・・・・・」


出かけた言葉を呑み込む。


「いや、いい」


目の前の少女が彼女であるはずがないのだ。彼女とは歳、容姿、声、全てが違うし、何よりも、懐かしさを感じていたのは彼女に、ではなくて自分に、ではないか。


「恭一さん?」


不思議そうに見てくる少女を見て、言葉が漏れていた。


「誰、だ」


「え?」


「誰、だった」


「あ、その・・・・わたし、ですか?」


頷く。


「ぁ・・・はう、その・・・・・・・佐久、弥・・・です」


違う、そうではない、と。

だが恭一の内面など気付くはずもなく。


「名乗るのが遅くなってごめんなさい、恭一さん。それと、よろしくお願いしまず!?」


何がよろしく、なのか分からないがそういって深々と頭を下げて、自身が縛られていた柱の角に頭を見事に打ち付けた。


「う、うぅ〜」


打ち付けた部位を両手で押さえる少女、佐久弥の瞳は痛みに耐えるようにほんのちょっぴりと涙が滲んでいた。


「大丈夫か」


と、言ってから恭一は自身の発した言葉に心底驚いた。

佐久弥の方はさほど気にしていない、というかそれを見る余裕が持てていなかったのだが。それに恭一の事を余りよく知るはずも無い彼女にとってそれがどれほど驚く事は分かるはずも無いだろう。


「だ、大丈夫・・です」


「そう、か」


纏わりつく何かを振り払うように、恭一は向けられたものから視線を逸らして踵を反した。


「あ、あの」


もう用のない部屋を出て、今度は足跡の反対側へと向かう。


「恭一さん・・・?」


後ろから追ってくる気配はするがもう構わない。彼女には敵意はない。だから、


だから安心していい、と?


「恭一さんっ!!」


煩いほどの叫び声に足は自然と止まり、気がつくと恭一は振り返っていた。


「何だ」


「え、あ、そのぉ・・・・・」


応えたと言うのに佐久弥の方は視線を合わせようとせずに戸惑いを見せている。

生憎か、同様の反応には慣れていたので恭一は視線を逸らさずにただじっと待つだけ。


その内気まずくなってきたのか彷徨っていた視線が稀に恭一を覗くようになり、見られていると分かるとすぐさま俯いた。


ふと、何か素晴らしい事を思いついたように佐久弥は顔を上げ、


「そ、そうですっ、恭一さんはどうしてこんな場所にいたんですか?」


「気付いたら此処にいた、と言った」


「そ、そうでしたね」


再び俯く。

しかも以前よりもより気まずそうに。


同じように、素晴らしい事を思いついたように佐久弥が顔を上げた。


「そ、そうですっ!!」


「だから気付いたら此処に」


「ち、違いますっ!!」


顔を真っ赤にして否定する。どうやら嘘はないらしいと分かる。


「それはその・・・・・忘れてください」


「なら何だ」


「女の子・・・恭一さん、同い年くらいの短髪の女の子を見ませんでしたか?」


短髪の女の子、と言われて思い出す顔が一つはあったが見たか、と問われて見たと答えるうちには見ていないと判断。

首を横に振った。


「いや、知らない」


「そう、ですか・・・」


聞かれた事により逆に恭一にも一人の男の顔が浮かんでいた。

あの神谷洸と名乗った男。


「男じゃなくて女、か」


「え・・あ、はい。女の子、ですけど・・・・それが何か?」


「ならいい」


しばらく見つめて、佐久弥は見返しては俯いてを繰り返していて、もう用事がないと判断した恭一は再び前へと向き直り歩き出した。

後ろからは追ってくる足音が一つ響いている。


「あの、何処に向かっているのですか?」


後ろからの窺うような声。それに恭一は何処へ向かっているのかを考えてみて、


「知らない」


「そう、知らないです・・・え!? 知らないんですか?」


「知らない、と言った」


「そ、そうでしたよね」


申し訳ないような寂しいような憂い声。


また、零れる。


「足跡に聞けばいい」


「え、あ・・・・・なるほど」


歩きながら、理由は定かではないが恭一は次第に苛立ってきている自分がいるのを感じていた。

おっかなびっくりと言った感じで後ろについてくる彼女。その存在がどうしようもなく忘れているような何かを思い浮かばせる。


「あの、恭一さん・・?」


「何だっ!!」


振り返って叫んで、自分が叫んだ事に気がつく。


「あ、そ、その・・・・なんでもないです、はい」


身を縮めるような姿に浮かぶ何かを振り払うように、恭一は再び前を向いて先ほどよりもやや早足で歩き出した。


後ろから聞こえる小走りでついてくる足音。

小さく響く足音を聞いて、何となく、本当に何となく、安心した。どうしようもなく納得していた自分がいる事に恭一は気付かなかった。


足取りが合わせるように緩やかに変わる。





七宝殿〜居間で興っている事?〜


十姉妹「番と磨ぎ石」


萌 はい、今回は名前の初出祝いに『少女』こと佐久弥さんにお客に来てもらいました


佐久弥 こ、こんにちは


萌 本当はここって本編の出番が少ない(?)人たちが来るところなんだけど…


佐久弥 そ、それじゃ…もしかしてわたしの出番ってこれから減っていくんですか?


萌 ううん、そんな事無いと思うよ


佐久弥 そうですか(ほっ)


萌 でもわたしの出番はこれから逆鰻登りに…


佐久弥 ……あの、少し


萌 ブツブツ………はい?


佐久弥 最近その話題ばかりでは?


萌 ………


佐久弥 ………


萌 さて、今回の説明に入りたいと思います


佐久弥 そうですね


萌 今回はお兄ちゃんと佐久弥さんの三度目の邂逅でやっと互いに自己紹介する場面です


佐久弥 はい、今回でやっとわたし、恭一さんに名乗る事ができました


萌 と、言いますか…初めて名前が出たんですよね


佐久弥 ……はい、実はそうみたいです


萌 お兄ちゃんなんか一話で名乗っていたのにね


佐久弥 申し訳が無い限りです


萌 ま、まあそれほど気にしてないと思うよ


佐久弥 そうですか?(涙)


萌 う、ん……むしろお兄ちゃんの方から名前を聞いたなんて驚きだよ


佐久弥 そうなのですか?


萌 それはもう……わたし、悔しいくらい…だよ


佐久弥 そ、そうですか(喜)


萌 そういえば佐久弥さんってどうしてお兄ちゃんには普通に話せちゃってるんだろ?


佐久弥 ………分かりません


萌 設定ではわたしと同じくらいの人見知りの筈なのに


佐久弥 萌さんと同じくらい?


萌 ……


佐久弥 ……


萌 さて、今回はこれ以上突っ込まれないうちにお開きということで


佐久弥 あ、もうですか、はい、分かりました


萌 はい、では次回十五話で会いましょう、次はお客様に誰を呼ぼうかな?



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