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七宝伝〜今起こったこと〜  作者: nyao
二章 ~仲間~
17/51

十二話「散策という名の冒険」


五人くらい?


鉄琴を鳴らしたような昔ながらの音が響く。

チャイムが鳴り本日の授業の終了を報せていた。


生徒達がせわしなく帰る、もしくは部活に行く用意をしながら次々と教室から出て行った。それは時間が経つにつれ静まり、教室から人が消えていく。

そんな様子を見るでなく、恭一はただ一景色として視界に収めていた。


「・・・・・・」


殆ど人がいなくなってきた頃、ようやく恭一は見ていた窓から視線を外すと動き始めた。のろのろと帰り支度をする。とはいっても机の横にかけてあるカバンを取るだけなのだが。

最後にもう一度窓の外に視線を移してから恭一は鞄を手に教室を後にした。


廊下に出て下駄箱に向かう間に幾つかの集団とすれ違う。靴を履き替えて出たグラウンドでも同じような集団が群れをなしていた。

どうやらあちこちで部活を見学しているらしい集団の中に自然と誰かの姿を探しつつも見つける事は叶わず校門を出る。



いつもどおりの帰り道を途中まで進み、不意に恭一はその過程から逸れた。

見えない何かに導かれるように真っ直ぐと、其処へと足を踏み入れていた。

終着点は周辺で唯一の公園の入り口。


しばらくその方角をどこに焦点を合わせるでもなく見ていたのだが、ふと在るものを見つけたように一点を睨みつけ、先へと進んで行った。


「・・・・・・・」


だが二・三歩程度で立ち止まる。

視線はずっと前方一点に定まっている。何もないはずのそこを、恭一は確かに視ていた。


先へと手を差し出す。


僅かな違和感に一瞬恭一は顔を(しか)め、それでも手を先に伸ばして、指先が何も無いはずの空間にのめり込んだ。

その光景を然して驚く事無く、最終的には手首までが消えた。更にもう片手を伸ばして、其処に存在する何かを抉じ開けるかのように両手を広げた。


何かが変わるというわけではない。


恭一は自分の両腕の間を何も映していない瞳で眺めると、歩を進めた。

その間に恭一の姿が足を踏み入れたとき、千里恭一の姿は公園から完全に消えていた。


静寂だけが戻る。




◆ ◇ ◇ ◇ ◇




目の前に広がる空間は決して公園などではなかった。


「・・・・・・」


恭一が無言で見つめる視線の先には在るのは何処とも知れぬ場所。砂地ばかりで所々には石岩地にあるような大岩が点在している、ただそれだけ。


一言で言うならば、砂漠、が最も的を得ているだろう。


更にそんな岩々の先、異物であるように一つの人影だけがぽつんと景色から浮かんでいた。


「おや?」


進んでいくとその人影も恭一の事に気付いたようで驚いたような声が届いた。声からして相手は男だということも窺えた。


「あらら?」


まるでおかしなものでも見るように、向こうからも近づいて来た男は心底不思議そうな表情を浮かべていた。


男は今では見なくなった流しの和服を着ていて、ぱっと見、何処となくのんびりとした印象が感じられる。だがその懐にある物を恭一は見逃さない。


間合いに入るなり恭一は問答無用で、しかも渾身の一撃を放ちかけ。


「おわっと・・と」


慌てたように腰を引いて下がった男に寸でのところで踏みとどまった。

偶然か、それとも必然か男は恭一の間合い一歩手前で距離を保っている。


「いきなり何するんですか、あなたは・・・・・・・・・というよりどうやってここに入ってきたんです? 見たところ普通の人のようで・・・・・そうでないような?」


怒って、訝しがって、首を傾げて不思議がる。

男の取った態度全ては気の抜けるようなものばかりだった。だと言うに男そのものの動作は流れるように美しく一分の隙もない。故に恭一は手が出せずにいた。


「あなた、誰です?」


「誰だ」


ぴたりと重なった声に男は声を押し殺しつつも可笑しそうに口元を隠した。だがその端からは抑えきれない笑いがこぼれている。

恭一は不思議とその様子に余り不快感を抱かなかった。あくまで余り、程度だが。


一歩、にじり寄るように恭一が男と間合いを詰めようとすると、男は笑い声を半ば無理矢理押し込みながら片手を上げた。

まるで制止するようなその仕草。


「済みません。でも別段悪気はなかったんですよ?」


どうやら本当に制止しているらしい。

恭一は今は男に素直に従うとし、足を止めた。そして改めて男を一瞥して、再度同じ言を口にする。


「誰だ」


「失礼しました。こちら、神谷洸(かみやあきら)と言います。あ、呼び方は好きに呼んでくださって結構ですよ。なんならあっちゃんなんてのも可愛らしいかもしれませんね、勿論謹んで遠慮しますが」


自分で言っておきながら男、洸の表情が微妙にいやなものになる。・・・・・そんな呼び方こっちから願い下げだった。


今までのほほんとしたものだった洸の瞳に微かに鋭いものが雑じる。


「で、君は一体どちら様なんでしょうね?」


「恭一だ」


昔教わった『相手が名乗ったらこちらも名乗りましょう』に基づいて恭一も素直に名乗る。



「恭一君、ですか」


何とはないはずの洸の様子に、恭一は微かに違和感を覚えた。だがそれが何かは分からない。


「何だ」


「いえ、いい名前だな、と思いまして」


特徴のない、実にありふれた名前だ。特にいい名前と言えるわけでもない。が、どうあれ恭一が気にするような事ではなく、恭一は素直にその言葉を聞き入れていた。


「ここで何をしていた」


「それは・・・・・勿論内緒、ですよ」


一見ふざけた物言い。だがその内に在るのは確実な拒絶だった。

だがそれも、相手が何をしていようと関係はないだろう。一番重要な事は。


「ミズキを知っているか」


沈黙。

洸は一瞬真剣な表情を浮かべた後、満面の笑みを浮かべた。


「いいえ、そんな女性(ひと)は知りませんね」


その言葉は何故だか酷く恭一の(しゃく)に障る。考えるよりも先に言葉が出ていた。


「ミズキは今何処にいる」


(すが)る気持ちではない。あえて言うならばそれは直感だった。


笑みを湛えたまま首が横に振られる。


「ですから、そんな人僕は知りませんって。ですから無理です」


「言え」


「お断りします」


「言え」


「言えません」


「言え」


「駄目です」


「そうか・・・」


「そうで、っ!?」


恭一の放った拳は寸でのところで空を切っていた。


「問答無用でうわっ」


二撃目も空を切った。


三劇目、を放とうとする間際、洸が懐のモノに手を伸ばしたのを見て恭一は僅かに身を引いた。

だが予期していたものはなく、その隙にとばかりに後ろに下がった洸に二人の距離が開く。


「どうやって入ってきたかは知りませんが、元の場所に戻ってくれる気は・・・・ありませんよね」


「邪魔、するか・・・」


洸の身体が感じた何かにピクリと震える。


「邪魔するなら・・・潰す」


瞬間、恭一の身体から殺気が吹き上がる。

防衛本能か洸は懐から取り出したモノをしっかりと握り締め、恭一は踏み出そうと僅かに腰を沈めた所で、ほぼ同時に二人は同じ方角、恭一から見て右やや後方を向いた。


「こんな所に面白いものが有って、覘いてみたら・・・」


つい先ほどまでは確かに誰もいなかった空間、其処に男は一人、在った。

もし街中で見かければ普通の営業者ぐらいにしか感じないであろう、だがこの場にいる限りではそれが異様以外の何物でもないと、その存在全てが語っていた。


「興味深い逸材が、二人も」


口元に僅かな冷笑を浮かべた男が近づいてくるのを見て、恭一は半ば反射的に構えを取っていた。今この瞬間、洸の存在に価値はなく、目の前に迫る敵だけを睨みつける。


「さて、では一体どちらが私を此処に招いてくれたんですかね。それと、もう一人の招かざる愉快な乱入者はどちらかな?」


洸と恭一を交互に見て、愉しそうに目を細める。


「私としてはどちらでも有りですが・・・・少年、君の方が随分と生きが良さそうですね。先ずは君からいってみましょうか」


煌々とした男の瞳の奥に、今にも光を発しそうに妖しい輝きが灯る。そしてそれは同時に恭一の発火点でもあった。

向けられる敵意に応える様に、恭一は地面を蹴って男へと駆けていこうとして、そこで信じられないものを見た。


「全く、もう少し他人の都合ってものを考えてくれませんか、ねえ?」


呆れた、そしてどこか諦めたような物言いで洸が男の真後ろに立っていた《、、、、、、、、、、、、、》。


どうやって、と言うよりもいつの間にと言う方が分かりやすい。たった先ほどまで洸は恭一の傍とは言わないが近くにいたのだから。例えば瞬間移動でもすれば可能だろうか、と思われる。


「なっ!?」


驚いたのはどうやら男も同様だったようで後ろを振り向きかけて、自らの首筋に当てられているものに気が付いて動きを止めた。


「せめてどちらか一方だけで来て下さいよ。ただでさえ僕一人の手に余るのに・・・・もう僕にどうしろって言うんですか」


と、喋りつつ洸は躊躇(ためら)いもなく手にしていた小刀を引いた。同時にその場から大きく離脱する。

切られた傷から明らかに致死量と思われる勢いの血流が吹き上がって、それはどんどん男のスーツを染め上げていく。


血を垂れ流しながら男は切れ掛けの歯車のように首を回転させて洸を見た。


此度(こたび)主催者(えもの)はあなた、の方・・か」


まだ血があふれ出てくる首筋を男の手の平が押さえ込む。それだけで止まるはずもないのだが。


「と、すると昨夜のアレについて少なからず知っている、と言う事ですね」


首筋に当てていた手が外れる。

其処に、男は何事もなかったかのように立っていた。

あれだけあふれ出ていた血はもう一滴も流れていない。それどころか男の首元にあったはずの傷口さえきれいになくなっていた。起こった事が幻でない証拠として血塗られた男の服が上げられるだろうが、まるでその血は自分のものでないと言わんばかりに男の血色は良好だった。


「・・・・やっぱり首を刈るくらいじゃ意味がありませんか」


「しかも先ほどからの物言い・・・ただの(いたずら)でもないようですね」


男は洸に向き直り、つまり恭一に完全に背中を向けた。


「・・・・・いいでしょう、しばしの間遊んであげま、?」


男が振り向くが、遅い。

恭一が振り下ろした拳は男の頬を捕らえ、たはずがまるで見えない壁に遮られるように直前で止まっていた。


「そういえば、あなたは何ですか?」


振り向いた男の瞳が恭一を捉えた瞬間言いようのない寒気が全身に奔る。だがそれは恐怖などではない。むしろ狂喜に近い。

続けて放った蹴りはやはり同様に男に当たる直前で止まった。


「愉快な乱入者にしては実に陳腐な攻撃で・・」


言葉を止めて上げた男の手を恭一の拳が捉える。

初めて触れた恭一の体に男はほんの少し関心を抱いたような表情を浮かべかけ、次の瞬間頬を捉えた拳に僅かに地面を転がっていた。


恭一は男を追いかけて、止めた。その時には地面を転がっていたはずの男は不敵な笑みを浮かべつつ既に身を起こしていた。


「なるほど、中々興味深い」


言いつつ男は手を上げる。丁度そこに収まるように飛び込んできていた洸の小刀が振り下ろされた。


「あなたもあなたで、意外と抜け目ないですね」


掴まれた小刀を洸は未練なく手放すと再び離脱していく。男の手の中で小刀が砕かれ、欠片が砂地に落ちた。


「さてさて、一体どちらから相手をすればいいのやら」


肩を竦めつつも男の様子は明らかに嬉しそうである。


「さっきから・・・・」


ほぼ同時に、男と洸が振り向いた。


「何を知っている・・・」


「何、とは?」


からかうような男の口調。

相手の言う気のない言葉に恭一は一度瞳を閉じて、開くなり地面を蹴った。


「いいでしょう、あなたから・・・・いいえ、二人同時。それもまた一興」


歓喜するように男が大きく両手を広げる向こう側、洸も同様に男に向かって踏み出していた。


恭一が拳を振り下ろし、


「先刻の勢いはどうしました?」


またもや直前で止まった拳を男は煽るように振り払う。


払われた腕にそのまま身体を回転させて回し蹴りを打つ。

一体どういう仕組みなのか、今度は男は腕を上げてその打撃をしっかりと受け止めた。


「そうそう、そうでないと」


男が屈みこみ、その向こうで恭一の視界に手を振り上げた洸の姿が急に現れる。


「愉しめません、よっ!!」


昇ってきた衝手を後ろに一歩下がって避けて、恭一はその腕を取るなりそのまま捻りを加えて関節を極めに入る。が、両手を組むより先に凄い力に引っ張られるように身体が中に浮いた。身体を投げられてから、恭一は男が信じられないほどの腕力で振り上げた事を悟った。


反射的に着地の衝撃に身体が受身に動いて、それが視界に映った。


「うん、ぴたりですね」


相変わらず手を振り上げて突進し続けている洸の姿。相変わらずの笑顔で振り上げた手は鈍い(きらめ)きを放ち素手ではない事を物語っている。

まるで初めからそうするつもりだったと言わん呼吸で洸が手を恭一に向かって振り下ろす。


回避は不可能。


「くっ・・」


完全に避けられるものではないと分かりつつも、恭一は咄嗟(とっさ)に身を捻り上げていた。


「へ?」


致命的に斬られた、と言う恭一の思いと、洸のものだろう間の抜けた声が重なる。だろう、と言うのはそう思った瞬間に恭一の視界が暗転したためだ。


「なるほど、そう言う事か」


男のどこか感心したような声を最後に恭一は視界と同じように意識の方も遠のいていった。






七宝殿〜居間で興っている事?〜


ジュニア「ささっと行く菜の花」




萌 久しぶりにお兄ちゃんの一人舞台!!


和佐 久しぶり、というよりも十二話にして恭一の一人舞台は初めてだけどな


萌 うぅ、本当にお兄ちゃんが主人公って解っているのかな、作者さんって…


和佐 いくらなんでも忘れてはいないだろ………多分、な


鼎 お前ら、姉さんがぴんちだって時に心配は無いのか、心配は!


萌 あ、鼎君、また来たんだね


和佐 お、また場所取りに来たのか


鼎 場所取りって何だ、じゃ無くて心配しろ、探せ! 探しに行け!!


萌 そんな事言われても…本編じゃわたしは『少女』さんの事知らないよ?


和佐 俺も…似た様なものだしな


鼎 くぅ〜、まったく役に立たない、もういい!!



………


萌 結局何しに出て来たのかな?


和佐 やっぱ、場所潰し、だろ


萌 かなぁ………と、それはさておき説明しなくっちゃ


和佐 ふむ、今度こそ新キャラ登場、だな


萌 うん、洸さん、だね……なんとなく裏の有りそうな人みたい…


和佐 ようやく少しだけ物語が動き出してきたって感じかな


萌 それじゃ、わたしこれからどんどんと出番、無くなっていくんだね


和佐 …萌ちゃん


萌 でもお兄ちゃんの出番が増えるのなら言うことは何も無いよ♪


和佐 あ、さいですか


萌 でもさっき鼎君にはあんな事言っちゃったけど、ほんと『少女』さん大丈夫かな?


和佐 大丈夫でしょ、次回は俺も出るみたいだし、いざとなったら俺が助けに行くさ


萌 え、本当なの?


和佐 ああ、こんな時こその便利キャラ…って誰だ、俺にこんなこと言わせたのは


萌 ? どうしたの、和ちゃん?


和佐 ……、ごめん萌ちゃん、しばらくここに来られそうも無い


萌 それってどういう…あ、もう行っちゃった


萌 ………考えたら和ちゃんもお客さんだったから別にいなくても大丈夫なんだよね


萌 次回から誰を呼ぼうかな?


舞 次回からは…


萌 あ、今日はもうお仕舞いの時間なんだ


舞 わた…


萌 それじゃ、次回十三話『情景と後ろめたさで(嘘)』(?)でね〜



萌 (…最後、誰かいたような?)


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