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七宝伝〜今起こったこと〜  作者: nyao
一章 ~始まり~
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在りし日のいつか〜雨〜




ざあ、ざあ、ざあ、と雨が降っていた。


地面の土には既に十二分に水気が含まれており、水溜りも所々に見え始めている。


日は雲に隠れながらも既に空にはなく、今雲を取り去ったとしても空に見えるのは月か、地上の明かりに消されて見えない星星だけだろう。


太陽は当の昔に沈んでいた。


雨が降り、日も沈んだ時刻。まさに誰もが進んで外に出ようなどと思わない時間帯である。


静として雨音以外は車の音や足音さえも聞こえない中、そんな緩やかな雨音にかき消されるようにして音がひとつ、鳴っていた。


キィ、キィ、と錆び付いた金属が擦れ合って発せられる特有のその音が聞こえてくるのは公園の一角。


雨は降っているものの特に風は吹いていない。それでも止むことなくその音は定期的に鳴り続ける。


公園の、どこにでもあるような二つ仲良く並んだブランコの片方、幾年も雨風にさらされて大方錆び付いている二本の鎖につるされた一本の木の板、それが乗る重りに揺れて音を発していた。


木の板の上にあるのは一人の少年の影。一体いつから、どのくらいそこに座っているのかその少年の全身は既にびしょ濡れ状態だった。


彼の歳は見た目5・6歳。いって精々7歳が関の山、といった感じだった。


そんな少年と呼ぶのも幼い彼がどうしてこんなところに、それも雨の降っているこんな場所にいるのか、それは当然の疑問であろう。


だけれども、少年は俯き加減でただ定期的にブランコを揺らし続けているだけ。当然その表情に楽しさなど一遍たりとも見られるはずもない。


そもそもどこにも楽しさなどないのだから、それはその少年にとって当たり前のことだった。


両親のどちらか、もしくは片方が迎えに来る様子はまるでない。


だがそれも当然、家に帰ったとしてもどうせ両親は居やしないのだから。


まだ幼い兄妹を残して二人ともせくせくと仕事をしている。二人とも滅多に帰ってくることなどなく、在るのは定期に家事をしにくる年配の家政婦さんが一人だけ。


しかしそれも今の時間となっては既に夕食を作り終えて帰宅している事だろう。


だから今家に居るのは・・・・・・・


少年の濡れた身体を寒気が襲い、反射的に両腕で冷え切った身体を抱いていた。


今しがた行った行動に気がついて、まるでその行動が不服であったかのように彼は地面を一回蹴ると両手を再び左右の鎖へと戻した。そのとき寒さが身体を襲うがもう気にしないことにした。


(どうせもう寝てるさ)


勝手にそう決めたことにした。


しかし代わりに昼間の事が思い出された。


ムカムカムカ、とだんだん腹が立ってくる。


無意識のうちに少年の左手が鎖から離れ頬へともっていかれた。


「っ」


指先が触れた瞬間表情がゆがむ。それも当然、そこは周りと比べて赤く腫上がっていた。


妹を馬鹿にした事と、両親が帰ってこない事をいいことに「見捨てられた」だの「いらない子」だのといった奴等に相応の仕返しをしてやったのだ。


腕には少し自信があった。どーじょーという場所に通い、せんせいという人にやり方を習っていたのだ。一対一なら負ける気は全く無かった。


けれど今回は少し相手の人数が多かった。これは不本意にもその時に受けた傷だった。


当然、そんな事を言っていた奴等はもっと酷い傷を負わせて泣きながら逃げていった。


いい気味だ、と思いながらもどこかですっきりとしない自分が居た。だから気分を鎮めるためにそれからずっとこの公園に居た。


途中、雨が降り出したがそれも気にするようなことではなかった。どうせ心配など誰もしない。家に帰って、着替えてしまえばそれで終わり。後は元通りだ。


それこそ気分が静まらないうちに誰も居ない家に帰ったところでどうせ思い出されるのは逃げていった奴等の事やその言葉の、もしかしたら・・・ということ。


とてもじゃないが少年にとっては帰る気にはなれなかった。


だから少年はここに居た。


一向に静まる様子の見えない苛立ちを胸に抱えながら雨に降られてずっとブランコの上に座っていたのだ。


どうして気分が静まらないのか、苛立ちがなくならないのか、そんな理由はどうでもよかった。ただ、今胸にある気持ちは不快、なのだ。それだけで少年がとどまり続ける理由としては十分なものだった。


それでももう限界が近い。精神はいくら大丈夫だと意地を張っていても肉体の方はそうはいかない。雨に濡れた身体は確実に刻一刻と少年の体力を削ぎ取っていた。


だが、気の張った少年はそのことに気づいていなかった。


痛んだ頬から手を離しもう一度鎖に手をかけると、少しだけ俯き加減で再びゆっくりとブランコを揺らし始めた。


(頬が痛くなくなったらこのムカムカもきっと無くなってるさ)


確証どこにもないその考え、それが間違っているという事にまだ幼い少年は気づかない。


ただ、少年の体力はもう既にほとんど残っていない。それだけは確かなことだった。


「っ・・・?」


頭が揺らめき、視界がほんの少しだけ消えた。


それが最後の肉体からの警告。


しかし少年は頭を軽く振って、それを気のせいだということにしてしまった。


やはり気がつかず少年はその行為を続けるだけ。


倒れるのは、もはや時間の問題だった。


不意に少年は顔を上げた。音が聞こえたのだ、それもすぐ間近から。


雨を弾く音。ビニールの傘に雨の雫が落ちて、それを弾く音がすぐ間近から聞こえてきていたのだ。


それが近づいてくる事にはまったく気づかずに、今間近にある事だけ気がついた事に少年は内心動揺していた。


「君、何やってんの?」


澄んだ高い声と、ほのかに匂ってきた香ばしい香りが耳と鼻を掠めて、少年の上がっていった瞳はその上にあった二つの瞳と重なった。


そこには、片手で中華まんを食べつつもう片手で中華まんの覗く袋と傘を持っている女性の姿があった。





取り敢えず、一章分だけ乗せてみる。

後は読んだ人の感想なり反応なりを見てこれ以降の返信を感がて行きたいと思います。ので、よろしくお願いします。こちらは応援していただけるとその分だけ殺る気が出ますっ!


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