二人の指きり
「ホント、あなたって思いついたら我慢できないタイプよね」
彼女のからかうような言葉に、私は肩をすくめる。
「会社のみんなも残念がっていたわ。
なにもそんなに急にやめなくてもいいのにってね」
「あら、あなたが今言ったでしょ?
私は思いついたら我慢できないってさ」
私の横にある大きなスーツケースを見て、彼女は呟く。
「本当に、行ってしまうのね」
「ここではできないことだから」
私は頷いた。
「そういえば、やっと彼にプロポーズ、されたんだって?」
「ええ。
籍は早めに入れたいけれど、結婚式は当分先になりそうね。
あの人も私も、今はお互いには忙しいから」
「だったら、好都合かな。
あなたの結婚式までには錦を羽織って帰ってくるわ」
私の言葉に彼女は首を振る。
「あなたって大雑把でいい加減だもの。
そんな言葉、とても信用できないわよ」
呆れたような彼女の言葉に、私は笑う。
「なら指きりしようよ」
私はそう言って、
まるで指相撲でもするように握りこぶしと立てた親指を出す。
彼女は不思議そうに首をかしげ、
「どうして、親指?
指きりって小指でするものでしょう?」
「指きりってさ、指によって意味が違うって知ってる?」
私はまず人差し指を立てる。
「人差し指は秘密を守る」
次は中指。
「中指は絶対に裏切らない」
薬指。
「薬指は永遠の近い」
小指。
「小さな約束」
そして最後に、親指を立てる。
「親指は、男の約束」
彼女は嫌そうな顔をする。
「なにそれ。
私たち、女じゃない」
私は楽しそうに笑い、
「男の約束は固い絆って言うでしょう?
でも悔しいじゃない。
女の約束だって、とっても強くて、凄く大事なモノなんだから」
そう言って私は「はい」と指を出す。
「もう、本当にあなたっていつも突拍子もないことばかり」
彼女の親指とが、重なり合う。
「「ゆびきりげんまい、うそついたらはりせんぼんのます」」
一度見詰め合ってから、指が離れる。
「約束、したからね」
「ええ……約束、だから。
……ふふっ私は大丈夫だから、そんな泣きそうな顔しないで」
私は彼女に背を向けて歩き出す。
私の泣きそうな顔を、彼女には見られたくなかったから。
「またね」
「またね」
そして私と彼女は、離れていく。
けれどきっと、心はいつでも一緒だから。