その試練、試練で済むの!?
木々に付く葉が見事に紅葉し、春の花々とはまた違う雅さを競う庭園。
その中に佇む大きな館の一画に佇む老人と、その前に畏まり頭を垂れる娘。
「温嬌。今度の春でお前も18になるか」
「はい、お爺様」
「婿を迎え、この家の安寧を守っていくに相応しい年になった」
「……お爺様。いいえ御当主さま」
それまで静かに頭を下げていた娘は、18というには大人びた眼差しの美しい娘だった。
「私はこの家の、御当主様の後継として立ちたいのです。恥じぬよう、腕も磨いてまいりました。跡継ぎを残さねばならぬのは承知しています、しかし」
「温嬌、ワシの可愛い孫よ。お前の強さはよおく知っているとも。文武に長け努力も惜しまぬお前をどれほど誇りに思っているか……しかし、この家は代々国の守護を仰せつかっている。女の当主も実例がない上風当たりも強い」
「女の身で当主など、と言われるのは承知の上です」
ぐっと握られた孫娘の両手を見やり、老人――学孔はため息と共に言う。
「お前の志もまた、よおくわかっている。そこで、だ温嬌よ。一つ試練を乗り越えて、さらにその力を上げてはどうじゃ」
「試練でございますか?」
「うむ」
そう言って学孔は大きく開かれた窓から見事に色づいた庭園を見やった。
「辛く苦しく、大の大人でも逃げ出すような試練じゃ。それをお前が見事成し遂げれば、誰も女の身で、などとは言うまい」
「幼くして両親を無くし、お爺様に育てられたのも定め。その試練こそ、この温嬌が超えるべき道なのでしょう。必ず遂げてみせましょう、お爺様」
「良いのか? 後には引けぬぞ」
「お爺様、温嬌を見くびっておいでですか。二言はございません」
「うむ、よう言った!!」
ばっ、と振り向いた学孔の顔が輝いている。
とても輝いている。
あ、これ何だかダメな奴じゃないかしら。
無意識に温嬌の直感が告げた、その瞬間。
「温嬌、可愛いお前に課された試練は――西のとある寺院におわす、釈迦を倒してくることじゃ!!」
温嬌は、生まれて初めて「何言ってんだこのおやじ」という境地に立った。