溢れ出して、好き
あなたの好きなところ。
普段はクールなのに私には見せてくれるやわらかい笑い方、猫を呼ぶみたいに優しくて甘い私を呼ぶ声、髪が乱れるくらいくしゃくしゃと私の頭をなでる少し骨ばった手、一緒に選んだシトラスの香水がふんわり香る首筋。
どれもこれも愛しくて好き好き
「好き」
「俺もだよ」
「え?」
ずっと隣で雑誌を読んでいた彼が急に顔をあげて微笑むものだから面をくらった。あ、私の好きな笑い方。
「好きって言ったろ?だから、俺もだよ。俺も好き。」
なんてことだ、声にでてたなんて。
無意識の内にもれていたと思うと恥ずかしい。
一気に熱をもった顔をどうにかかくすためクッションに顔をうずめた。
「どうしたの。」
彼がくすくすと笑う。
「なんでもない。」
言えるものか、あなたの好きなところを挙げていたら声にだしてましたなんて。
からかわれるネタを作るだけだと目に見えている。そんな恥ずかしいことはできない。
「そう?」
クッションでいっぱいの視界からは見えないけれど雑誌を机に置く音。どうやら本格的に私で遊ぶつもりのようだ。
「ね、教えて、どうしたの」
声がにやついている。感のいい彼だから私が恥ずかしくなっている理由にうすうす気づいているのだろう。わかっていて聞いてくるんだから意地が悪い。
「教えない。」
「ふうん。じゃあいいや。さっきのもう一回言って。」
「……なにを」
わかっているけれどあえて聞く。悪あがきが伝わるように小さな自己主張。
「好きって」
「さっき言った」
「うん。だから、もう一度言って。」
「……」
クッションを取り上げられた。
ああずるい、私の好きな笑顔で好きな声でそんなこと。
「好き」
「俺も、大好きだよ。」
ゆっくり覆いかぶさる彼の体。食べかけのままおいていたせいで溶けだした苺のヨーグルトアイスを視線の片隅に映しながら、ソファに横たわる。
いま視界は彼でいっぱい。
一回二回と軽やかに重なる唇。鼻をくすぐるシトラスの香り。好きがまた溢れ出す。
好き、好き
「好き。」