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これが私の精一杯

作者: 曹長

 彼女とは昔からの長い付き合いだった。幼稚園から始まり小学校に中学、驚くことに志望校が同じだったため高校までも同じだった。

 家が近所だったこともあるが何より両親が仲が良かったのでよく家族ぐるみでピクニックや旅行などに行ったものだ。当然僕と彼女も仲が良く昔はよく二人だけで遊びにもいった。だからどこかで彼女とはこれからも長い付き合いになるんだろうなと思っていたんだ。


 だけど残念なことに――


「私ね、引越しすることになったんだ」


 ――別れの時はあまりにも唐突にやってきたんだ。







 その日は一日中緊張していた。彼女から放課後に大事な話がしたいと屋上に呼び出されたのだ。屋上で大事な話となれば、僕に予測できる話の内容は告白以外に浮かんで来なかった。

 いままで告白なんて受けたことのない僕からしたらそれはいままでの人生で重大な出来事であることは間違いない。それに彼女とは前からそういう関係になりたいと思っていた。

 だから今日一日、頭の中はすでに彼女でいっぱいだった。友達のくだらない自慢話も、先生のどうでもいい豆知識も、昼飯の内容も、何もかも頭に入ってこなかった。


 放課後になると僕は急いで屋上に行った。その道中もドキドキはやむことはなく、むしろ鼓動は早くなり胸が少し苦しくなってくる。それは走ってるからか、これからに期待しているためか。

 屋上につけば彼女はすでに来ていて、外の景色を眺めていた。


「ああ、やっと来たね」


「ご、ごめん。待ったかな」


「少し待ったけど大丈夫、おかげで気持ちの整理もできたから」


 少し悲しげにそう言った事に少し気になりつつも僕は話を切り出す


「で、大事な話って何かな?」


「うん、実は前から言わなきゃとは思ってたことなんだけどね」


「う、うん」


「……出来れば怒らないでほしいんだけどさ」


「?うん」


 怒る?何か僕に悪いことでもしたのだろうか。てか、告白じゃないのね。なんか今日一日の僕がすごいバカみたいじゃないか。いや、実際バカなんだけども。


「焦らしてないで早く言ってよ。怒らないからさ」


 なにか話してないと今日の僕の恥ずかしい思考を思い出してしまうのではやくいってほしいんだけどな。ちょっと部屋に引きこもっていたいくらい、きついよ。


「実はね……私ね、引越しすることになったんだ」


「……へ?」


「明日で一週間くらい後かな……もう少し早く言えばよかったんだけどね、なんか言い出しづらくって」


 思考が止まった。なんだって?引越し?誰が?なんで?

 気が付けば家の前で立っていて、どうやって家に帰ってきたかきれいさっぱり忘れた。もちろん恥ずかしさも共に。





 その晩、僕は部屋にこもって思案に暮れていた。夕飯の時に母に引越しの件について知っているか聞いたら『ええ、知ってるわよ。まさか……今更聞かされたの?可哀そうにねぇ』とニヤニヤしながら言われたのがショックだったことも相まって暴れだしそうだ。

 あと一週間。そしたら彼女は遠くへ行ってしまう。せめて最後にこの彼女に対する恋心を伝えておきたい!!ちょうど明日からはゴールデンウィークだ。この機会を逃せば二度とチャンスは訪れないだろう。

 そうと決まれば即行動だ!!


「もしもし?」


『もしもし、どうしたの?こんな時間に。・・・もしかしてさっきのことについて?』


「それに関しては母さんからも聞いたし、驚きはしたけど別にいいんだ。しかないことだしね」


『ならいいんだけどさ。それで何の用?』


 そうでした。話が少し逸れたけど、ここからが重要なんだ、予定が空いてるか聞かなければ。


「このゴールデンウィーク、どこか遊べる?」


『あー、ごめんね。もう予定入れちゃってるんだよね』


 な、な、なんだってぇええええ!?この時点で計画台無しだよ!いや、普通に考えれば最後の一週間なんだから友達とかと遊びに行くにきまってるか…

 あれ?今日話を聞いた僕って圧倒的に不利なのでは?


『ふふっ、冗談だよ。一週間後、つまり出発の日だけは開けといてあるよ』


「え、でもそれだとあまり時間がないんじゃ……」


『大丈夫、出発は夜だから午前中は空いてるんだよ』


「あ、そうなんだ。」


『それでどこに行くの?』


「え?あー」


 そういえばどこに行くのか考えてなかった、遊びに誘うことと告白をすることしか考えてなかったな。計画が台無し以前にそんなものは最初からなかったようだ


「う~ん、水族館とかどうだろう?」


『水族館か~。いいね、もう何年も行ってないからね。久しぶりに二人で行こっか』


「うん、それじゃあまた一週間後に」


『またね~』


 ピッと電話を切り携帯を閉じる。さてと、なんとか約束はできたな。咄嗟に水族館と言ったものの何も考えてないんだよね。……ま、まあまだ時間はたっぷりあるんだ、いくらでもいい行程は思いつくさ。

 ……たぶん






 そしてなんだかんだで一週間が立った。僕は今彼女と水族館へ来ている。結局ずっと考えていたけど大した結果は残せず。しかも今にも寝てしまいそうな程の寝不足でコンディションとしては最も悪い方と思われる。


「……ねえ……お~い、聞いてますか~」


「え?ああ、うん。ごめん、なんだっけ?」


「……顔色悪いけど大丈夫?目の下にも隈ができてるし」


「だ、大丈夫だよ。さあ次いこ、次」


「う、うん」


 ふ~あぶないあぶない。下手に心配させてもう帰ろうなんて言われたら大変だ。計画なんてなんにもないけど、とにかく今は楽しまなきゃ。





 実は迷ってたんだ。告白するかしないかを。フラれることが怖いのもあるけど、したところで彼女は明日にはもういなくなってる。それなら思いを伝えて変な空気で終わるよりただの幼馴染として別れを告げたほうがお互いにいいと思ったから。でも……


「うわっ!凄くきれいだね!」


「そうだね~これはすごい」


 全方位ガラス張りの水槽が光を受けてキラキラと光るのに感動を受けた彼女をみた時


「わ、私!?やった!ちょっと行ってくるね」


「うん、気を付けてね」


 イルカの背中に乗ってはしゃいでいる彼女をみた時


「食べた、食べたよ!うわ~」


「わかったわかった、わかったから少し落ちつこ?」


 アザラシに餌を与えて、騒いでしまい係りの人に怒られてしょぼくれてる彼女をみた時


 楽しそうな彼女を見ていると僕まで楽しくなってくる。そして思うんだ。ああ、僕は彼女のことが大好きなんだなぁと。そしてこの溢れんばかりの気持ちを伝えたいと。もう後のことなんかどうでもいいんだ。






 水族館を一通りまわり終わると昼ご飯を食べるのにちょうどいい時間になっていた。水族館のフードコーナーで昼食をとりながら僕たちは話していた


「この後はどうするの?」


「う~ん、お土産も買ったし特には何も決めてないかな」


「そっか、じゃあ海行って行っていい?海」


「海?そういえばもう何年も行ってないね」


「うん。だからさ、寄って行こうよ」


「そうだね、久々に見に行こっか」


 そんなこんなで次の目的地が決定。二人とも食べ終わり、さあ行こうかと立ち上がった瞬間……


 ガタンッ!!


 僕の意識は唐突に落ちて行った




 



「知らない天井だ……」


 重い体を起こしつつあたりを見渡す。一見保健室にも見えたここはどうやら救護室のようだ。


「そっか。僕、倒れたのか」


 そりゃそうだ。この一週間、まともに寝てなかったからなあ……。むしろよくここまで活動できたもんだと思うよ。


 ガラッ


「あ、やっと起きたんだ」


「うん、なんか迷惑かけちゃったみたいだね」


「大丈夫よ。それにしてもあなた昨日は何してたの?寝不足だって聞いたんだけど」


「え?あ、いや別になにも……」


「……なんか怪しい。別にいいけどさ」


 ふと時計を見るとすでに六時を回っていて窓から見える外の景色は真っ暗だ。どうやら僕はかなり長い間眠っていたみたいだ。


「どうする?これから海に行く?」


「もういいわ。もう暗くて何も見えないだろうし、そろそろ帰らないといけないから」


「あーなんかごめん」


「ううん、別にいいよ。そんなに行きたいわけじゃなかったし、それよりも早く帰ろ?」


「ちょっと待って!!」


「え?」


 そのまま出て行こうとする彼女をつい止めてしまった。……ええい、こうなったら仕方ないか。


「えっと、あの、そのですね……」


「どうしたの?突然テンパったりして。なんかあったの?」


「いや、その……コホン。実は僕、君に伝えたいことがあるんだ」


「伝えたいこと?それは歩きながらじゃだめなの?」


「だめです。とっても大事な話なので」


「大事な話ですか、うんいいよ。今日が最後だし」


 ついにこの時が来た。覚悟を持てよ僕。大きく深呼吸をして激しい鼓動を落ち着かせる。この機会を逃せばもう二度とチャンスはない!


「僕は、君のことが大好きです。君とは離れてしまうけど、できれば付き合って欲しいんだ」



 長い沈黙が訪れる。いや、もしかしたら一分も経ってないかもしれないけど、僕にそう感じさせるほどのひどく重い沈黙だった


「……ごめんなさい」


 返事は期待とかけ離れた言葉で、しかし予測通りの言葉だった。


「……うん、まあわかってたけどね。一応理由も聞いていいかな?」


「別にあなたの事が嫌いとかじゃないんだ。むしろ好きだよ……でもそれは」


「友達として、でしょ?」


「うん。あなたのことを恋愛対象として見たことはないし、私にはできない。だって私たち……」


 彼女はひどく申し訳なさそうに、決して変えられない現実を口にする





「私たち女の子同士でしょ?」


とゆう訳でまさかの主人公が女の子とゆう訳で。感想などお待ちしております。

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