2
「もしもさ、クラスの全員が自分に告白してきたら、光太ならどうする?」
オレの耳元でなぜか囁くように話しかけてきたのは友人であるヒロ。
「全員ってお前も入ってんじゃん。家に引きこもるね」
結局、遅刻して教室に入ったけど、体育館で行われる始業式には余裕で間に合った。そして今まさに、始業式の真っ最中で校長の無駄に長い話を聞き流しているところだ。どの校長もそうだけど、生徒が聞いていないって解ってないのだろうか? 話の要点だけをまとめて話せばいいのにと毎回思ってしまう。
「バカヤロー! 全員ってことは美咲ちゃんも入ってんだぞ?」
相も変わらず、オレの後ろからヒロは耳元で言ってくる。
「誰だよ、それ。今日クラス知ったんだぜ?」
「女子の情報くらい事前に調べとくもんだろ。これは女を落とすための基本中の基本だからな」
それを活かす機会は今後一切訪れないだろうなと思いつつ、今朝の女の子のことを思い浮かべていた。そういえば学年も名前も訊きそびれてしまったのだが、もしかしたら、ヒロならなにか知っているかもしれない。
「じゃあさ、この学校でとびっきり可愛い人って誰?」
「そりゃあお前……」少しも考える素振りを見せずにヒロは言った。「宮本さん一択だろ」
「宮本さん?」
「ああ、宮本ひとみ。聞いたことくらいあるだろ? きっとこの学校にいる男子は一度は耳にすると思うけどな」
宮本ひとみ。確かにオレはその名前を知っている。実際にヒロの口から聞いたこともあったし、誰かがその人の名前をあげて会話しているのを耳にした記憶もある。だが、名前を知っていても顔までは知らなかった。
今朝の彼女が宮本ひとみというのなら、オレはとんでもない人と知り合いになってしまった。