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前篇

このお話は、最終場面のみです。

もしかしたら、ここにたどり着くまでの二人を書く日がくるかもしれません。

少々説明不足な点もありますが、ご了承ください。

 「きれい・・・」

 隣にいたサティのつぶやきが、僕の耳にまで届いた。僕らはついに、たどり着いたのだ。何度も夢見た世界の果て、水晶の森へ。

 後ろを振り返る。二人で抜けてきた氷穴は、外から見ると中は真っ暗闇だ。それに比べ、ここは明るい。今は夜のはずなのに。

 「この水晶、うっすら光ってるんだよ」

 サティは好奇心旺盛だ。近くにあった身の丈以上の水晶をつついている。

 「ほんとだ。サティの顔、ぼんやり光ってるよ」

 そう声をかけると彼女は、僕のほうを見て、薄い青に照らされた笑顔を向けた。

 「ここに、星の核があるんだね。本当に、あったんだね」

 近づいてきたサティはそう言って、僕の手を握った。僕は優しく握り返す。

 「うん。最後の冒険だ。行こう」

 僕らはゆっくりと歩きだした。

 「ねえアイン、ここは歩くとパキパキ音がするね」

 「足、一応気を付けなよ」

 地面も小さな水晶でできているのだろう。歩くたびに折れる音がする。

 あたりからは何も聞こえない。きっと、今ここで生きているものは、僕とサティだけなのだ。巨大な水晶が乱立する中を、僕らはゆっくりと進んだ。青い光が僕らを迎えるように、優しく包み込む。

 

 水晶の森と言い伝えられているだけあって、見渡す限り、薄く光る水晶ばかりである。巨大な水晶は木のように枝分かれし、まさに森のようであった。道なんてあるのだろうかと不安だったが、数多の水晶の隙間に、小さな通り道があった。僕らはそこを歩く。人二人が並んで通れるほど広くはないので、僕が先を歩いていた。

 「背中、かっこ良くなったね」

 「服がぼろぼろになっただけでしょ」

 あわててそう答えると、そうかなー、とだけ彼女は呟いた。僕は手を握る力を少しだけ込めて、返事にした。僕は彼女の手が好きだ。

 「ねぇアイン、変な顔」

 「え?」

 「ほら横、横」

 大きな水晶に、僕の顔が歪んで映っていた。サティの顔だって歪んでるぞ、と言おうかと思ったが、怒られるのは嫌なのでやめておく。元が変だからな、とだけ言って流しておいた。彼女はなにか呟いたが、聞き取れなかった。

 僕らはただ、歩いて行く。

 「静かだね」

 「うん」

 僕は彼女となにか話そうかと思ったけれど、やめることにした。ここにたどり着くまでの冒険で、思い出はたくさんできた。それらを話せば、楽しく先へ進めるだろう。だけど今は、ゆっくりとこの光景を目に焼き付けたかった。彼女もそれきり、静かに進んでいく。握った手が温かい。それだけで十分だった。

 

 ずいぶん歩いた気がする。時間感覚はすでに鈍っていた。少しサティの足取りも遅くなり、休憩をとろうかと考えていたとき、突然目の前が開けた。

 水晶もまばらに立っている程度で、前方を見渡すことができる。

 「サティ、ここがもしかして」

 「うん。核があるのも」

 僕らはこの広場をぐるっと回ってみることにした。そうは広くない。向こう側にはまた森のように水晶が乱立していた。おおよそ直径数十メートルのゆがんだ円形の範囲だけ、開けているようだ。

 二人してゆっくり歩く。相変わらずパキパキという足音しか聞こえない。

 「ねぇ、アイン見て!なんだろう、これ」

 サティがそう言って、前方を指差した。

 「建物かな。傾いてるけど。あそこは窓みたいだ」

 広場の隅に、家のような建造物が、水晶に絡まって建っていた。僕らの馴染んだ形ではない。どういうことだ。

 「ここに昔、人が住んでいたってこと?」

 「けれど、なにかがあって、水晶に呑まれたんだ」

 そうしてこの場所は、言い伝えにしか残らなかった。ただ綺麗な場所だけではないとは思っていたが、ここに人が住んでいたかもしれないなんて。

 「ねぇ、あっちにもある」

 サティは広場を駆けた。ジャキジャキと足音が広場に響く。

 僕は考えていた。なぜこの町は水晶の森になってしまったのか。人々はどこへ行ってしまったのか。これが選択の先に待つ、結末なのか。

 サティは、巨大な水晶に、完全に呑まれた家を見ていた。水晶に包まれているせいか、全体が綺麗な状態で保存されていた。こう見ると、僕らの家とは全く違う。僕らの家は、木で作るのが一般的だが、この建造物は、石をくりぬいて作ったような見た目をしていた。

 「もしかして、核を壊すと、こうなっちゃうのかな」

 サティは震える声でそういった。

 「でももし核がなければ、僕らももういないはずなんだよ。たぶんこれは別の理由があるはずだ」

 星の核を壊せば、世界中から生物が死滅する。僕らはそれを知っている。

 「こうやって生き物だけがいなくなって、誰かが生きていた跡だけが残るのかな」

 「わからないよ、そんなこと。わからないけど、やるって決めたろ」

 サティは顔を伏せている。

 「そうだけど。やっぱり、間違ってるんじゃないかな」

 彼女の小さい手が、僕の手を握ってきた。冷たい。

 「わからない。でも、間違っていてもいい。初めからそう思ってここまで来たんだ」

 この広場には核はなかったようだ。

 先へ進もう、と言って彼女の手を引く。これ以上ここにいたら、決意は鈍りそうだった。


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