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夜間飛行  作者: 鈴木美月
13/13

目指す先

 母星に戻ると、コウがすでに待ち構えていた。

 戻ってきたことが奇跡だと言わんばかりの顔でこちらを見ている。戻ってこないほうがよかったとでも言いそうな顔でもある。

「おめでとうございます」、「お疲れさまです」とあちこちで声をかけられ、うなずく。「お疲れ」と短く返すいつもの儀式。

「コウさん」

「お疲れ。戻ってくるとは思わなかったけどな」

「無線でかえると言いました」

 実際に確かめるまで信じられなかったのだろう。コウは複雑な表情をしている。

ふたりで歩くと、周りの人に敬礼される回数が増える。

 エース。出口のない地位。それを敬うパイロットたち。

 無邪気なやつらほどなにも知らない。戦争のなかに放りだされていることも、自分が進むだろう道もなにも知らない。

「おれは、エースになりますよ。コウさんの期待外れかもしれないですが」

 前を見ながら言う。隣で歩くコウが動揺したのが見なくてもわかった。

「ハヤト?」

 その問いかけは、どういう意味なのだろうか。続く言葉は何通りにも考えられた。実際、聞きたいことがいくつもあったのだろう。しかし、まとまらないというように頭をふった。

「おれはのぼりつめます。あなたよりも」

 コウは探るように何度もおれの顔を見つめる。おれ、と言ったことに驚いているようだ。

「いったい、どうした? なにを考えている?」

「ただ、夜間飛行を終わらせたいだけです」

 第二惑星で会ったあの男。自殺したのは彼だろうか。

 白銀の機体は粉々になって、シリアルナンバーも読めなかった。身元不明だ。

それとも、帰還してこれからの身のふり方を考えているだろうか。従うだけか、先を見て行動するのか。

 真実を知ったとき、天国から地獄に落とされた気分だっただろうか。生きていたとしたら、いずれどこかでまたすれ違うかもしれない。もっとも、そのときはもう覚えていない可能性が高いが。

「エース候補の隼人です。改めてよろしく、(コウ)さん」

 隼人は手を差し出した。晃はなにがなんだかわからない、という顔で隼人と差し出された手を交互に見ている。

 やがて、観念したように握手した。隼人はさっと手を離して、晃を見上げる。

 彼がいなかったら、いまの自分はないだろう。

 同期が死んだときから、なにかと気にかけてくれていた先輩。飛行を見守ってくれた人物。管制室につめていたのも、会話を報告しなかったのも、おれが心配だったからだろう。自分の地位も危なくなるかもしれないのに。

「……ありがとうございます、晃さん」

 さらに不可解そうな顔になる彼を見て、思わず笑った。巨大な疑問符が頭の上に浮かんでいるのがわかる。

「自分で道を決めることができました」

 流されるだけだった。流されて、感情を失くしたふりをして、過ごしていた。

しかし、もう流されない。自分の意思を持って歩くのだ。

「とりあえず、肉食いませんか。チキンとか」

 飛行帰りだったので、またも肉が欲しくなった。隣を歩く晃を見ると、「こいつ頭いかれているのか」とでも言いたげな顔をしていた。

 肉と脂っこいものばかり食べる食生活も見直さなくては。これから、長生きをしなくてはいけない。

 いつか、来る日にそなえて。

 チキンを食べたこの手は、いつか赤く染まるだろう。

 けれど、だれかがやらなければならないのなら、自分がやる。いまの場所にしがみついて、のぼっていけば新たな可能性が開ける日がいつか来る。

 その日まで、この手はずっと赤いままだろう。いつか見たあの星雲のまがまがしい赤よりも、忌わしい色。

 いや、その日が来ても手は赤いままだ。犯した罪は消せない。しかし、終わらせる方法がそれしかないのだとしたら。

 覚悟を決めて歩くしかない。どんなにこの手が多くの命を奪ったとしても。途中でどんな犠牲をはらっても。

 必ず終わらせる。ばかばかしい繰返しを。

 おれが終わらせる。

 やっと、終着点に向けて歩き出す。

 夜間飛行の終わりは、まだ先だ。

お付き合い頂きありがとうございました。

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