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夜間飛行  作者: 鈴木美月
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プロローグ

 世の中のゴミには種類がある。

 再利用できるもの、燃えるもの、燃えないもの。そして、粗大ゴミ。

 連絡しなければ回収さえしてもらえないそれ。捨てるのにも料金が発生するゴミ。

 それはまさしく自分のことだった。


ぼくはゴミから脱出しようとして、いまだにできていない。とくにこんな仕事をしていると強く感じる。

「夜間飛行」、それがぼくの仕事をあらわす言葉。

たったひとりで乗る宇宙飛行機。そう、宇宙船ではなく飛行機だ。

宇宙を飛べる飛行機が開発された。ひと昔前の宇宙船よりは機動力がある。人もいらない。操縦者以外は。そのため、つねにひとりでいなくてはならない仕事だが。

 孤独と戦い、闇の中に浮かぶ星を静かに見つめる。それがぼくらの仕事。

 夜間飛行のパイロット。夜のなかを進む飛行機。

 ぼくには着地点がわからない。

 夜間飛行の終わらせ方がわからない。いや、実際にはわかっている。星に帰還すれば終わることができる。夜間飛行という仕事の先に、なにがあるのかがわからないのだ。



 どれだけ行っても暗闇が広がっている。あまり変わらない景色に、実は進んでいないのではないかと何度も思う。実は進んでいると見せかけて、後退しているとか、これは夢だから進まないのではないかなど次々と疑問が浮かぶ。夢と現実の判断がつきにくい世界。だから、きっと捨てたい過去を思い出させるのだ。

 暗闇が広がっている。それはまるで自分の心のなかに広がる闇のようだ。

 どこまで行っても、荷物は荷物。どこにも捨てられない大きなゴミ。それが自分。

 頭の中から消しても浮かんでくる言葉。闇を見つめていると、あの暗かった学生時代を思い出す。

 なぜ、あのときの出来事だけでそう考えてしまうのだろう。

 自分の居場所は自分で決められるし、存在意義だって自分で見つけるものだ。

 わかっている。けれど、わかっているつもりなのかもしれない。

 どうして、生きていてはいけないという気持ちになるのだろう。

 ふと、視界の隅で白い点が流れた。流れ星だ。

 ああ。今日も星がまたたき、流れていく。

命の輝き。

 今日もどこかで命が消えていく。あるいは、ぼくの命かもしれない。気がつかないだけで、ぼくはもうとっくの昔に、この世の生き物ではなくなったのかもしれない。

 この世界に絶望して、自分から失踪したのかもしれない。だからいま見ている景色は、夢かもしれない。死ぬ前に見る最後の世界。

今日の景色はとくに美しかった。

 星のかけらが集まって、雲のようになっている。銀粉をふわりとまぶしたような景色。黒の画用紙の上に広がったそれらは、夜間飛行のなかでしか見られない。

 だから、こんなくだらない妄想にとらわれるのだろうか。

 ぼくの世界は果てがないように見えて、小さい。

果てがないのは事実だが、見える景色が違うだけだ。

 やることは毎日同じ。着地点がない飛行をすること。

 終わらない旅は、どこまで行けば終われるのだろうか。

あるいは、すでに終わっているのだろうか。

 ぼくにはわからない。

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