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限られた時間の中で、俺は一体。










 「何やってんだよ」






























 俺はペアに向かって、そう言った。



 そんな俺の名前は、井出内一樹(いでうちかずき)


 アンポンでどうしようもないのが、俺のペアだ。


 そんなアンポン彼女の名前は、井出内一穂(いでうちかずほ)



 親は、そんな俺等二人に、双子っぽく「一」の漢字を充てた。






 俺等二人は、現在高校三年生。


 だから、受験勉強で忙しく、思うように遊んだりする時間はあまりない。





 今日も、進路の関係で担任から呼び出された。


 俺等二人は同じクラスだから、二人同時に呼び出された。






 進路相談。 ただでさえ面倒なのに、席に座った途端 言われた言葉。


 「一穂さん、 どうにかならんかね」


 「一樹君は、はっきり言って申し分ない」


 「成績だって1位、 スポーツだってできる」


 「だから、推薦入試でも、一般入試でも、失敗することはないでしょう」


 「しかし、一穂さん」


 「あなたときたら、本当に自分の将来を考えていますか?」


 「勉強もスポーツも出来ない」


 「それでいて、本気で勉強している姿が見受けられない」


 「はっきり言ってですね」


 「このまま行ってしまうと、受験に失敗してしまいますよ?」


 「それでもいいんですか? 一穂さんは・・・」






 一穂は、目に涙を浮かべながら、


 今まで、言われた分の答えを一気に担任の先生にぶつけた。



 「一樹と比べないでください」


 「私は私、 一樹は一樹です」


 「いくら双子と言ったって、私達は別人です」


 「それに、私だって将来のことを考えています」


 「今は、女だって大学を卒業しなきゃ未来はない」


 「そんな時代だってことくらい、馬鹿な私にもわかります」


 「勉強してる姿が見受けられない?」


 「先生は、私が家で何をしているか知っているんですか?」


 「私の家まで来て、生で私の私生活を見たんですか?」


 「そういうことをしていないのに、姿がっておかしくないですか?」


 「私は家で勉強をしています」



 「確かに、学校では友達と話している機会が多いです」


 「けれど、友達と話をすることが、私にとっての息抜きなんです」


 「だから、私は家に帰って頑張れる」 「頑張る気持ちになれるんです」



 「もし、学校でも暇さえあれば勉強しろと仰るなら、私は過労死します」


 「ただでさえ、好きじゃない勉強を、頭がパンクしそうなくらいしてるのに、


  学力に直結しないからという理由で、ずっとしろってのは体力的に無理です」



 「私だって、そりゃあ、勉強をできるようになりたいですよ?」


 「できる事なら、一樹のようになりたい」 「なってみたいです」



 「ですが、神様がそれを許さなかったんです」



 「だから、私は私なりに頑張るしかないんですよ」



 「御願いですから、一樹とは比べないでください」




 一穂は、それを言い終えた時、若干だが小刻みに震えていた。









 その姿を見た担任の先生。


 先生は、一穂の目を見て言った。


 「確かに、一樹君と比べるのはよくないな」


 「一樹君と一穂さんが別人なのはごもっともだから」



 「しかし、一穂さんの成績があがらないこととは別件だ」


 「一穂さんにはやる気がある」


 「それは、今の話を聞いて理解した」


 「いいや、どちらかと言えば、理解しよう」


 「私が一穂さんの家に行って、勉強している姿を見ていない以上、


  一穂さんが家で勉強しているというのは信じることしかできないから」



 「だから、一穂さんが家出勉強しているということを信じて話しますが、


  成績が上がってない現状を考えると、勉強の仕方が間違っているのでは?」



 「もう、今は夏休みも終わってしまし、入試本番の直前だというのに、


  前回の模擬試験の結果では、志望大学のボーダーにかすってすらいません」



 「むしろ、志望大学どころか入れる大学がないくらいです」



 「一穂さん」 「勉強のやり方を変えましょうか?」


 「一穂さんにやる気があるのでしたら、大丈夫ですよ」









 一穂は、それを聞いて、堪えていた涙を一粒流した。




 「大丈夫って何よ」 「何をもって、大丈夫って言えるのよ」


 「私はね、 私だってね!」 「どうすればいいかわかんないのよ!」






 一穂はそう言い残し、教室から勢いよく出て行った。





















 * * * * * * * * * *




















 教室に取り残された俺と先生。


 先生は、ため息を吐きながら、


 「なんで、君達はこんなにも違うのかねぇ~」っと言った。




 俺は、「いやぁ、すみませんねぇ」っと笑いながら言った。



 だが、俺は正直、この先生が嫌いだ。 はっきり言って、ムカつくから。





 だって、別に、俺が勉強できれば一穂の馬鹿さなんて関係ないだろ?


 俺が一流大学に入って、一流企業に入って、 一穂と結婚をする。


 俺が養うんだ。 一穂は勉強ができなくたっていい。


 一穂はただ、俺の帰りを我が家で待ってくれさえすればそれでいい。



 そこに、何一つ問題なんてない。 俺と一穂の結婚は決まっているんだから。



 さっき、一穂が言った、


 「大学を卒業できなきゃ未来はない」っていうセリフ。





 あれは、どこぞの大学のキャッチコピーのようなものだ。


 それを、本気で受け止めてる一穂は、はっきり言って馬鹿だ。



 勉強がどうの以前に、考え方そのものが間違っている。


 もちろん、勉強を絶対とする先生も間違っている。




 だって、俺と一穂はペアだ。


 俺が将来、一穂を養っていく力があれば、一穂が馬鹿でも関係ない。


 むしろ、俺に養う力があって、俺と一穂が両想いだとしたら、


 一穂が仕事をする意味なんて全くない。 俺が支えるんだから。




 だが、 もちろん、一穂が何かやりたい仕事があるって言うなら別だ。



 けれど、この間聞いた時点では、一穂に将来やりたいことはないとのこと。



 だったら、別に、一穂が勉強をできなくたって問題なんかない。


 むしろ、受験なんかせずとも、遊べばいいとさえ思うくらいだ。



 だって、俺がその分、頑張って見せるから。


 一穂の分まで、俺は努力するから。






 だから、俺は担任に向かって、


 「一穂には、俺から厳しく言っておきますので」


 的なことを適当に言っておいた。


 まぁ、こんなアホな奴を相手にするだけ時間の無駄だから。







 それよりも、俺にはやることがある。


 一穂の後を追いかけなければ。




 最近の一穂は、何をしでかすかわからない。



 受験や勉強がうまくいかないこともあって、


 少しだけだが、精神が不安定になっている。





 この間なんて、「死んでやる!」なんて言っていた。


 今回のあの泣いた姿を見て、俺は思った。




 もう、これ以上の無理は一穂の身体によくない。




 だから、俺は一穂を止めなくちゃいけない。



 だが、親にも言われるが、俺は一穂を甘やかす。


 それは、他人から言えば、「君が出来過ぎるから」らしいが、


 俺からしてみれば、困っている人を見過ごすことは罪にも等しい。



 だから、俺は一穂に限った話じゃなく、


 相手がだれであれ、困っている人がいれば手を差し出す。




 それを、親だろうが誰だろうが、甘やかしと言うなら好きにすればいい。



 俺は一穂が好きだ。   だから、余計に助ける。




 今までは、「受験は彼女の為だから」と親に止められていたが、


 もう、俺は我慢ならない。  一穂が苦しむ姿は見たくないから。




 だけど、俺だって、勉強は少しでもできた方がいいとは思う。


 だから、今までは親に言われた通り、【あいつの為】だと我慢してきた。


 だけど、無理をしてでも、身体を壊してでも、努力すべきだとは思わない。



 むしろ、俺はそんな風には思えない。


 そんな風に勉強をするくらいなら、俺はあいつに少しでも健康でいてほしい。




 そりゃあ、ペアの両方が勉強をできないなら、努力するしかないけれど。





 だが、今回の場合。 俺等の場合は違う。 神は俺に与えた。



 一穂は努力せずとも生きていける。 俺となら幸せになれるはずだ。






 だから、俺は一穂が行きそうな場所を探した。




 あいつが教室を飛び出した後、どこ行ったかの想像がつかない。



 行方不明。


 あいつの携帯に電話をかけても、コールは鳴り続けたまま。


 家に電話をかけても、「帰ってないよ」のセリフ。




 俺はあいつが行きそうな場所を、必死に探した。



 飛び降り自殺でもしたんじゃないのか?


 どこかで事故に遭ったんじゃないのか?




 そんな嫌な思いが頭を巡った。



 最近のあいつなら、何かそういうことが起きていても不思議ではない。



 あいつは、俺が救わなきゃいけないのに。





 その時、近くでしていた救急車のサイレンの音が止まった。





 「まさか・・・」





 俺の中に、さらに“嫌な予感”が広がる。



 「頼むよ」 「一穂じゃないよな・・・?」




 俺は、救急車が止まったところまで全力で走った。






 そこには、学生らしき人が倒れていた。



 救急隊が駆け寄る。


 担架に乗せられて救急車へと運ばれる学生。



 女子高生。 俺の高校の学生服だ。




 一穂・・・。   頼む、違うよな?





 俺は不安に駆られながらも、女子高生の顔を覗きこんだ。






 すると、そこには、、、






 「一穂・・・」




 「おい! 一穂!!!!!」




 「何やってんだよ!!」




 「なんで、飛び降りなんて・・・」




 「おい、 一穂!!」  「目を覚ませよ!」



 「何で・・・  なん・・・で・・・・」




 「何やってんだよ!!!!!!!!」






 俺は、堪え切れない想いを魂に乗せて叫んだ。





 くっそ、くっそ、 くっそ!!


 俺が、もう少し早くに一穂に声をかけてれば。



 「お前は無理する必要はないんだよ」って、


 親の反対や担任の意見なんか気にせずに言ってれば・・・。






 くっそ、くっそ、   くっそぉぉぉぉおおおおおお!!





 俺は、自分の未熟さに気付かされた。






 一穂の身体からにじみ出る血。



 俺には、この状態の一穂が助かるのかどうかがわからない。



 だから、救急隊に叫ぶようにして言った。




 「一穂を助けてやってください!」 「お願いします」と。




 すると、「もちろん、全力でそうするよ」と救急隊の人が。









 俺はそこで、一穂が携帯を手で握りしめていることに気付いた。




 その携帯の画面には、作成途中のメールがあった。











 「サヨナラ   馬鹿な私でごめんね?

  もっと、もっと、賢い人がペアの方が良かったよね?

  一樹は、何も悪くないから。  先に、あっちに行ってます」





 そんな遺書が書かれていた。




 俺はそれを見て、涙が止まらなくなった。




 一穂は、ずっと、俺のことを想っていたんだって。



 一穂はただ、自分のことが嫌でとかじゃなくって、


 ペアが俺であるという事や、俺がどう思ってるかってことも考えていたんだって。



 そんなこと、一度も考えたことがなかった。



 一穂はただ、余裕がなくって焦ってると思っていた。


 余裕がなくって、それで焦って、 気が滅入ってるものだと思っていた。


 だけど、実際は、俺に釣り合うのかということを考えて焦っていたって気付かされた。




 俺と釣り合う必要なんてないのに。 俺はありのままの一穂が好きなのに。






 なんで、もっと早くに一穂に言おうとしなかったんだろう。



 親や周りの反対を押し切ってでも、


 一穂に「勉強なんてどうでもいい」って言わなかったんだろう。






 俺は、一穂が病室で目を覚ますまで、何度も何度も後悔を重ねた。













 もう二度と、こんなことが起きぬようにと―――――
























































 やり直そう? やり直せるだろ? 俺等なら・・・






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