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第十六話:芽生え/蛙の子は

「ふんふーん」

「……少し、機嫌、良くなった?」

「お蔭様で! ありがとね、さっちん!」

「……どーいたしまして」


 暗くなった道を、二人の少女が歩いていた。

 黒髪の少女、ユリは先ほどまでの落ち込み具合が嘘の様に、鼻歌交じりで足取りも軽い。

 隣を歩く茶髪の少女、サクラはそんな少女が元気でいる様子に、だけど不可解な顔を見せた。


「ねぇ、ホントに大丈夫なの?」


 と、サクラは不安げにユリに訊ねた。

 元々、サクラがユリとこうして夜の道を歩いているのは、変態に己の感覚を知られてしまう、とまるで地の底に居るがごとく落ち込んでしまったユリを、どう言うわけか不憫に思ってしまい、何か奢ってあげよう、と二人でファーストフード店に赴いたのだ。


 だが、ユリがこうして元気になったのは、先ほど奢ってあげたハンバーガーの所為では、ない。

 それに、サクラは関与していない。言ってしまえば、『ユリの気が済んだ』、と言うところだろうか。


「大丈夫、って。どっち? ……あの変態のこと? それとも、ニュクスが『ああなった』こと?」


 サクラの質問にそう返すユリ。

 未だ『変態』と言うときに僅かに棘が見えるが、それでも彼女は立ち直したようだ。元々尋常ではない精神的タフネスさを兼ね備えている、と言うのもあるし、元凶にたっぷり灸を添えてやった、と言うのもある。


 つまり。


「……ニュクス、って剣のこと。……粉々じゃん」


 ブチ切れたユリが、己の半身である夜剣『ニュクス』を完膚なきまでに破壊したのである。

 

 ホントに大丈夫なのか、と問いかけるサクラに、ユリは涼しげな顔をして。


「問題ないよ。私の中に居れば直るし。まぁ当分『許可』しないけど。それにニュクスの一部分さえあれば、力は使えるし、そもそもなくたって、私は大抵の奴には負けない」

「……ニュクスは今どうしているの?」

「私の中で『ごめんなさい』を連呼しながらべそかいているよ。ざまぁ」

「うわぁ……」


 ドSチックな黒い笑みを浮かべるユリに、サクラは思わずヒいてしまった。

 誰もいない公園で、少女がカタカタと揺れる剣をボッコボコにしたあの様子は、鬼神もかくや、と言ったもので、この子は本当は魔王なんじゃないか、とサクラは思ったものだ。姉と本人いわく、『勇者』らしいが。絶対嘘だ。


 さて置き、サクラは改めて、この少女の規格外さを知った。


 ユリは先ず腹部からニュクスを取り出し、間髪に入れずに真っ二つに折った。

 バキン、と言うどこか悲しげな音が響く中、一瞬で天鎧を展開するユリ。

 サクラに確証は持てなかったが、恐らく出力は100パーセントであろう、と当たりを付けた。それを見たサクラは多少慣れていた筈なのに腰を抜かしてしまったし、先ほどなんとなく鏡で己を『視た』ら、レベルが上がっていたし。

 つまり、ユリはそこまで本気だったのだ。

 その後、ユリはニュクスを四つ折にし、それでも怯えた様にカタカタと揺れるニュクスに顔を近づけ、


『ん? 『ゆる』『して』? じゃあ、あの変態とのリンクを切れ。『むり』? そうだよね、そう言う剣だよね、ニュクスはさぁ! オラァ!』


 サクラは剣の八つ折を始めて見た。


『この愉快犯がぁ! チョーシぶっこいてんじゃねーぇぞ! ……ふふふ、塵ぐらいは、残してあ・げ・る』


 そう言って、ユリは八つに分かれたニュクスを天高く放り上げ、手を翳した。

 彼女の小さな手に、天鎧ではない、おぞましい程に黒い光が収束した。


『砕け散れ! ブラックぅ、ナイトッ!』


 瞬間、闇の中でさえも煌く『黒』が、宙に狂い舞った。

 そしてマジでニュクスは砕け散った。悪は滅んだのだ。


 サクラが後にファーストフード店で聞いたのだが、あの黒い砲撃はファンタジーによくある魔法などではないらしい。

 本人曰く、魔法は使えない、あれは夜と言う概念を圧縮した物理砲撃である、とのこと。本来ならニュクスを介して撃つのが基本だが、別になくても撃てるらしい。手からビームまで出せる少女に、サクラはもう何度目か分からない戦慄を覚えた。

 そして、それが魔法とどう違うか聞きたかったが、やめた。もはやサクラの理解の範疇を超えていたから。あるいは、それは出会ってから、ずっと。


 そして、もう原型が無いほど粉々になったニュクスを嬉々とした顔で回収し、二人でハンバーガーを食べて、今に至る、と言う訳だ。


「……ごめんね」


 と、ユリの言葉が聞こえ、サクラはハッとしたが、刹那、脳がフリーズした。

 

 ――今こいつはなんと言った? ごめん? こいつが? こいつが、謝った? 私に?


 困惑するサクラを他所に、ユリは上機嫌だった表情を少し曇らし、顔を俯かせる。


「ごめんね、さっちん。変なことに巻き込んじゃって。変態とか、ニュクスとか。そもそも、あの課題のプリントだって、さっちんが手伝う義務は……」


 そうどこか殊勝な顔で言うユリに、サクラは。


「てい」

「ふぇ!?」


 頬を掴んだ。相変わらず柔らかく、そしてひんやりとしている。

 驚くユリを軽く無視して、サクラはその至高の感触を堪能する。



 むにむに。


「ふへぇ!?」

「……今更よ。今更なのよ」

「………………ふぇ?」


 頬から手を離さず、サクラが言った。

 今更謝ったところで何だと言うのか、何もかも今更だ。

 謝ってほしくはなかった。ゲスで傲慢な彼女も嫌だったが、こうして落ち込んでいる少女を見るのも嫌だった。

 その己に芽生えた感情に、サクラは戸惑う。ともすれば、自分は狂ってしまったのではないか、とさえ思う。



 だが、そんなこと、どうでも良かった。


 認めるのは酷く癪だし、何故こうなったかは解からないが、サクラはこの少女と関わり合いを強く望んでしまっているのだから。


 頬から名残惜しそうに手を離し、サクラが言う。


「あんたはもっと、ゲスでいればいいのよ。有りのままのあんたでいればいい。あたしも、有りのままのあたしでいる」

「………………それは同意と言うことで」

「違うわよ、馬鹿」


 相変わらず都合良く解釈しようとするユリに、サクラが笑った。

 多分、その笑みは、彼女に出会ってからの、一番の改心の笑みだった。





 と、そこで。


「ぶひひひひ! め、メイドさんだお! ぼ、ぼぼぼぼ僕たちと、にゃんにゃんするお!」

『するお!』

「ひ、ひぃ、だ、誰か……!」


「あ、さっちん! あそこできょにゅーのメイドさんがシャツinした男の人たち30人前後に襲われているよ!」

「多すぎでしょ。どうなってんだこの街は。と言うかなんでメイドがここに」



「待て!」

「メイドさんに手を出すとは、この不届きものがっ!」

「貴様たちの様な不埒な輩!」

「排除してやるぞオラァ!」

「ファイブキラーズ、推参!」


「さっちん! 髪の色が目に悪い不良チックな人たち5人組が助けに入ったよ!」

「……普通逆じゃね? ってか、だからこの街はどうなって……」

「私たちも、行こ! そしてあのメイドさんとにゃんにゃんするのだ!」

「あんたは悪なのか正義なのか」



 と言いつつも、興奮した様子のユリと一緒に駆け出すサクラは、それでも笑っていた。

 狂っているだとか、おかしいだとか、そんなものは、どうでもいい。

 大切なのは、今ある刹那を楽しむこと。

 そうやって、一秒後の未来を、後悔しないように生きるのが、多分一番大事なのだ――――





―――――――――――――――



 学生・サクラ

 種族:人間

 性別:女

 年齢:14

 レベル:15→20

 通称:『さっちん』

 備考:レベル+5。超特殊先天技能『レヴォリューション・エゴイスト』が限定解除。



―――――――――――――――





 夜、11時。


「はぁー……」


 それなりに大きい庭付きの一軒家の前で、一人の男が溜息を吐いた。

 その男は30代前半だろうか。パリッとノリが利いたスーツを着こなし、手には旅行鞄を持ち、端正な顔付をしているが、その目は細く、有体に言えば目付きが悪かった。

 だが目付きが悪いと言っても、彼はこの家の財産を狙う盗人などではない。

 その目の細さは生まれつきのものだし、そもそもここは彼の自宅なのだ。


 しかし、男は自宅の前だというのに、溜息を吐いて玄関の前を行ったり来たりの不審者状態である。

 そんな煮え切らない自分の行動にイラついた様に、男は右手を頭の上に乗せ、綺麗に纏められた髪をぐしゃっ、とかき乱した。


「ちっ、なんて言えばいいんだよっ……!」


 舌打ちし、唇を噛む男。

 無論、答えなんてないし、誰に言ったわけでもなかった。

 男にとって、自身が抱える問題は全部自分が引き起こしたものなのだから。


「……許してくれ、なんて言うのは、本当に糞ったれになっちまうよな」


 その整った顔に似合わない言葉遣いで吐き捨てた男の名は、湯久世海棠。

 彼は今、一ヶ月以上碌に連絡も取らなかった一人娘に何と言ったらいいのか必死で考えていた。



 男――、カイドウは商社マンだ。

 しかも、俗に言う企業戦士であり、つまりは多忙な人間だった。

 だから、一ヶ月以上の出張なんて当たり前だし、幸か不幸か彼は優秀な部類の人間だった。あるいは「天才」と呼んでもいいかもしれない。「商才」という点で言えば、であるが。


(俺は馬鹿だ)


 今更自嘲しても仕方ないと言うのに、それでも彼は己を罵倒せずにはいられなかった。


 なんせ、彼が生涯唯一愛した女性の忘れ形見である、己の娘をほったらかしにしてしまったのである。

 彼にとって、娘はもちろん大事だった。娘を産むと同時に死んでしまった妻には似ていない。むしろ、自分に似ていると彼は思う。主に目付きとか。あと胸部が妻とは段違いだった。


 それはともかく。

 カイドウは娘を大切に思っているし、愛している。

 だが、彼は多忙なサラリーマンで、娘は内気で臆病だった。

 そしてそれが、結果として、こうして彼を悩ませているのだ。


 ――娘が引篭もっている。

 娘が通っている中学校からそう連絡が来たのは、正に社運を賭けている、と言ってもいい程に大きい商談をしている最中だった。

 繰り返すようだが、彼は娘を愛している。

 それだけは真実であり、あるいはカイドウも否定されたくはなかった。


 だけど、否定されてもしょうがない、とカイドウは思う。


 結局、娘が引篭もっていると言うのに、カイドウが行った事と言えば、家に帰るでもなく、事情を聞くわけでもなく、ただ「大丈夫か?」と素っ気ないメールを送っただけだった。

 それについて娘が送った返事は「大丈夫。心配しないで」。これだけだった。これだけで、親子のやり取りは終焉を告げ、それからは何のアクションもリアクションもなかった。彼は忙しかったし、必死だった。


 商談が無事終わり、上司、同僚、後輩から賞賛の声を受け取った彼は、だけど喜ぶ気にもなれず、己のしでかしてしまった愚行をひたすら嘆ていた。

 だが嘆く資格すら彼にはない。


(馬鹿かっ! 俺は! なんの、なんの為に、今まで仕事して来たんだ!? あいつの為だろうが!)


 カイドウが仕事に打ち込んで来た理由は、娘に不自由の無い生活を送らせたかったからだ。

 歳若い大学生の身で結婚し、妻の出産、そして死。

 カイドウにも死んだ妻にも、身内らしい身内はいなかった。

 だから彼は己の全身全霊を掛けて仕事をする必要があった。

 金が必要だった。誰にも助けを求めれない環境において、何はともかく先立つ物が必要だった。


 だから、がむしゃらに働いた。

 だから、会社において最早右に出る者が居ないほど、彼は優秀な社員になった。

 だから、若くして大きい家も手に入れた。

 だから、給料も高いし、少なくとも金銭面で苦労はしていない。



 ――だから、カイドウは自分が何の為に働いているか忘れてしまった。



(心配しないで、だと? 心配して欲しいに決まっているだろうが馬鹿がっ!)


 内気で、だけど優しい娘の、隠れたSOSを額面通りに受けとめてしまったカイドウは、その時の自分を思い切り殴り飛ばしたかった。


 だが、時は既に遅し。

 そして、彼が己の間違いに気づいた後も、娘に対して何のアプローチも取れなかった。

 何故?

 決まっている。怖かったのだ。娘に否定されるのが。


 ――なんで帰って来てくれなかったの? 私のこと、嫌いなの? 仕事のほうが大事なの? 私を愛していないの?


(違う、違う違う違う違う違う! 違うのに! 愛しているのに!)


 今更。今更である。

 後悔することなら、愚者でも出来る。

 想うだけなら、馬鹿でも想える。

 大事なのは、言動だ。

 そしてそれをカイドウは怠った。自業自得だった。


(ははは。ゲスだ、俺は……)


 自嘲するなら、ゲスでも出来る。

 娘は今何をしているのだろうか、とカイドウは思う。

 リビングの電気が付いている。

 ならば、テレビでも見ているのだろうか。

 どんな表情で? どんな体勢で?

 寂しげな顔をして、膝を抱えているのだろうか?


 それはカイドウには知りえなかったし、出来れば知りたくはなかった。

 だけど彼は知らなければならなかった。己の罪を清算するために。


 カイドウは僅かに震える手で、玄関のドアを開け、中に入っていく。

 その様は、あたかも死刑執行台に赴く罪人の様だった。




 だけど、事態はカイドウが思っているよりも、あるいはずっと深刻で、残念なものだった。





「ふおおおおおお! やっべ、これやっべぇ。このページやばいなぁ。ああ、揉みたいなぁ、埋めたいなぁ……」



 ――なんだ、これ。


 意を決して家に入り、リビングに辿り着いたカイドウは絶句した。

 口を馬鹿みたいにポカンと開けて、手にした旅行鞄を放してしまった。

 がたん、と大きな音を立てたが、そんなこと、カイドウにはどうでも良かった。


 ――あれは、誰だ?

 ――決まっている。俺の娘だ。湯久世由里だ。

 ――じゃあ、その娘の読んでいる本は?

 ――どう見ても俺の秘蔵本、『おっぱい大全~嗚呼、素晴らしきエデン~』です。本当にありがとうございました。



「は?」


 と、カイドウはやっと声を出せた。

 意味が解からなかった。

 引篭もっている、と言う前情報の割にはやたら覇気があって、それでいてリビングで全力で寛いでいる理由も。

 大切な娘が(『娘』がだぞ?)、18禁一歩手前の準エロ本を鼻息荒くして呼んでいる理由も。

 そして死んだ妻に不敬だとは思ったが、どうしても我慢出来ずに購入し、隠し持っていたその本を見つけ出せた理由も。


 何もかも解からなかった。

 

 そして。


「あ、お父さん? 久しぶり! うわー、懐かしいなぁ……」


 と、娘の言葉に疑問系が付いている理由も、一ヶ月ぶりの再会を、まるで『一年以上会ってない』がごとくに懐古している理由も解からなかった。


 解からない。解からない解からない解からない。


 ――娘に何があった? いや、あれは娘か? 娘に決まっている。顔を忘れるほど、俺は落ちぶれてはいない。じゃあなんであの本をあんな楽しそうに読んでいる? それも、思春期の女の子が。そう言う本じゃねぇからあれ。


 ぐるぐる、と浮かんでは消えていく疑問。

 解からない解からない解からない。


(これはあれだろうか)


 娘をほったらかしにして、仕事を優先した罰だろうか。

 罰だとしたら、それは甘んじて受け入れるつもりだったが、これはあんまりだろう。

 そう頭を抱えたくなったカイドウだったが、娘――ユリは無邪気に笑い、


「と言うか、流石は私のお父さんだね! こんな良い本持ってるなんて! ねぇお父さん! おっぱいについてどう思う?」


 と言った。


 もう、意味が解からなかった。


 ――なんで娘はこんな楽しそうなんだ?

 ――おっぱいについてどう思う、だと?


「そんなの……」


 どうもこうもない、と言いたかった。

 それよりも、カイドウは先ず謝りたかった。

 構ってやれなくてごめん、と。帰らなくてごめん、と。

 そして、愛していると言いたかった。こんな自分でも、大事に思っていると伝えたかった。

 それから、その上で事情を聞きたかった。変貌した理由を聞きたかった。


 だが。


 ――『きょうき』


 ドクン、と何か出してはいけない鼓動音を、カイドウは聞いた。

 

「そ、ん、なの……」


 出張先から『この街に着いた時から』、漂う異様な雰囲気を感じていた。

 だけど、その時は娘のことで頭が一杯で、他の何の衝動も、入る余地はなかった。


 しかし。

 最早『狂気』はどこにでもあるのだ。この街にいる限り、それは逃れられない。

 だから、仮にその元凶が粉々になってベソをかいていたとしても。



 ――『きょうき』『はどう』



 狂気はそこにあるのだ。

 そして、カイドウはそれを強く『受け入れる』素質があった。それだけの話だ。


「そんなの、決まっている」


 と、カイドウが言った。


「おっぱいを哲学的に見ると、赤ん坊にとっては栄養を摂取する為の存在そのものであり、 乳ばなれした子供にとっては懐かしき故郷であり、少なからず成長した者にとっては、それは男女によって大きく異なる観念を持つものだろうさ。では俺にとってのおっぱいとは? 決まっている。――――真理だ。おっぱいはこの世の全てだ。何故ならそれがおっぱいだからだ。特に大きいおっぱい、つまりデカパイは、真理を通り越して最早『世界』だ。なぜならそれがおっぱいだからだ。しかしただ大きいだけではいけない。大きさはとても大事なことだが、しかしそれだけでは真理足り得ないのだ。大きさ、形、弾力、そして体型のバランス。これら全てを兼ねそなえた存在が、真のおっぱいだと言う事さ。小さくては駄目、形が悪くても駄目、硬くても駄目、バランスが取れてなくても駄目。出来る事なら感度が良ければなおいい。つまるところ、おっぱいは素晴らしいという事さ。俺のおっぱいへの愛で宇宙がやばい。うううううう、ユニブァーーーーーーーーース!」


 どう見てもやばいのはお前だ、と言う突っ込みは誰も発せなかった。

 何故ならここに居るのは、二人のオッパニストなのだから。


 ヒュー、と口笛を吹いて、ユリが親指を立てた。


「さっすが私のお父さん! さり気に私もディスられてるし! ゲスの極みだね! 正にキング・オブ・ゲス!」

「ははは、お前にそう言われて光栄だ」


 一体何が流石で、何が光栄なのか。

 実の娘が笑顔で罵倒し、実の父親が照れたように笑う。

 まとも? なにそれおいしいの? 

 ちなみに、ユリは自分に性的な目線を向けられなければ、むしろ積極的にゲスになるのである。



―――――――――――――――



 会社員・カイドウ

 種族:人間

 性別:男

 年齢:33

 レベル:6→9

 通称:『キング・オブ・ゲス』

 備考:先天技能『マッドネスレセプション』が限定解除。レベル+3。





―――――――――――――――




「ってアホかぁああああああああああ!」

「わわ、お父さん!?」


 己の仕出かした愚行その2に、カイドウは思わず壁に向かいヘッドバンキング。

 中学三年生の娘にセクハラ発言である。正にゲスの極み。彼はこう言うゲスにはなりたくなかった。

 壁にガンガンと頭を打ち付けるカイドウ。不思議と痛みはあまりなかったが、その衝撃が、彼を正気に戻させた。


(俺は! 誓った! だろうが! 俺が! 愛したのは! 愛するのは! アオイと! ユリだけ! 若い時の衝動は! 捨てたんだ!)


 では隠し持っていたあの本は何だ、とは突っ込んではいけない。

 カイドウは高度のオッパニストであったが、亡くなった妻に貞操を掲げ、風俗の類には一切手を出していないのだから。その辺のストイックさを娘さんにも見習ってほしいものである。ちょっぴりエッチな本ぐらい、どうか見逃して欲しい。


(アオイ! 俺に! 力を! 衝動を! 打ち消す! 力を!)


 一通りヘッドバンキングで壁を打ち据えた後、カイドウはユリを見た。

 ユリは謎の奇行をした父親にキョトンとした顔をしていた。

 そこでカイドウはピタッ、と動きを止め、おでこを少し赤くしながら、唇をひくひくと震わせて(彼としては笑ったつもりだった)、ユリに言う。


「……そうだ、ユリ、学校は?」

「え? 行ってるけど」

「だろうね」


 ここまでアクティブだったらそりゃそうだろうな、とカイドウは胡乱気に思った。

 学校に来ない、とは一体何情報だったのか。もうカイドウには何も解からなかった。





―――――――――――――――




 会社員・カイドウ

 種族:人間

 性別:男

 年齢:33

 レベル:9

 通称:『キング・オブ・ゲス』

 備考:先天技能『マッドネスレセプション』が封印。亡き妻への愛を頼りに、狂気耐性レベル5(最高値)が発動。





―――――――――――――――






 順調にアレになっていくさっちんと、アップを始めたキング。

 でもキングの本気はもう少し先です。

 どうあがいてもシリアス()になるのは全部ニュクスの所為。




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