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第十三話: 超肉体派自称草食系男子の憂鬱

「……一つ、気になったんだけどさ。ってか胸から手を離せこのチビ」

「いや」

「……おしりぺ」

「何でしょうか!」

「……ちょいちょい話に出てくる、ダイキって人……もしかして、姉さんの恋人?」

「うーん、惜しいね。モエさんの片思い、かな。今のところは」

「今のところ?」

「……モエさんがダイキさんに告白した瞬間、私たちはここに戻されたんだよ……あのおっぱい姫巫女め。いつか鳴かす」

「……それは、またなんとも」

「と言うか、さっちん、なんでモエさんとダイキさんが恋人同士だと思ったの?」

「いや、姉さんがその人の事を話すとき、目がキラキラしてたから……」


『でね、ダイキはね、口が悪いけど、それでも優しくてね、頼りになってね、強くてね、それでね、それでね……』


「……普段はクールなのに、あんな姉さん、初めて見たよ。正直、別人に見えた」

「しかしダイキさんはそんなモエさんを『お前、何の萌えもないよな』と言った猛者である」

「うっわーないわー。殴りたいー」

「……それはやめておいた方がいいよ」

「なんで?」

「ダイキさんは『世界で一番硬い金属』を素手でぶち抜くからね。だから、『世界で一番硬い』のは暫定的にダイキさん、ってことになってる。……殴ったら、手が粉々になるかもね」

「……マジ?」

「マジ。ま、あくまで天鎧を纏った状態で、だけど。あ、本人曰く草食系男子らしいよ」

「どんな草食だよ……」






 こんな草食である。




(最低最悪だ。僕は。しにたい)


 とある高校。

 そこで一人の少年が机に突っ伏しながら全力で頭を抱えていた。

 黒髪に、普段からやる気が感じられない瞳。

 そんな彼は、どこにでもいる極普通の少年、では勿論ない。


 レベル280。

 世界最硬。

 神器、破槌『グロングメッサー』を身に宿す、自称草食系男子、犬上大樹である。


 草食どころか数多の魔物、魔獣を食ったことでここまで上り詰めた少年は、しかしその実力に似つかわしくない弱気な顔で、只管に唸っていた。


(いや、落ち着いて考えよう。改めて考えよう。全ては僕の勘違いの可能性もある)


 ダイキのその思考は、可能性、と言うかもはや願望に近いものがあった。

 なんせ、『地球』に戻って来て、ずっと考えてきた結果、毎回同じ結論になってしまうのだから。

 だから、彼がこうして唸っていても、それは自分の首を絞めることにしかならないのだ。


 それはダイキも解っていた。

 しかし、どうしても『目を逸らさなければいけないこと』が、この世にはあるのだ。少なくとも、ダイキにとっては。


 それは、『何故、今更地球に還れたのか』、ではない。


 思う。ダイキは思う。一人の少女を。


 気だるげな口調。

 最初にあった時は、金髪で、如何にも『今風』で。とても自分と気が合うとは思えなかった。

 だけど、二人協力して、一人の少女を守り。

 やがては三人で泥沼の様に沈み行く日常を、ただ必死で抗って。

 そして、もう一人の少女と同じく、掛け替えのない大事な仲間、いや、『家族』になった。


 気だるげにしているが、面倒見が良く、料理も上手く、速くて強い。

 剣士・モエ。

 

 だが、そんな少女の一言が、ダイキを悩みに悩ませていた。



『ダイキの事が、好き!』




(いやいやいやいやいや!)


 そこまで思い出し、頭を振りまくるダイキ。


(スキ? 好き? ……いや、これはあれだ。あの後に、『有り!』と繋がるんだ。……つまり、『隙』有りっ!)


 そうに違いない。

 むしろそうあって欲しい、とダイキはシュミレートしてみた。


 きっと彼女は、刀を自分の方に向けて。


『隙! ……有りっ!』

『おおおっ!?』

『ふふふ! 油断したね! 魔王を倒して、気が緩んだんじゃない? アタシ達の旅は、まだ終わりじゃないんだよ?』

『一瞬の隙が死を招く。ふぅーはははははぁー! ホント『キロウ』は地獄ですね!』

『ははは。こいつは一本取られたな』


(そうだ。これが正解だ)


 なんかユリの発言がおかしい気もしなくはないが、あの少女は大概おかしいので、まぁ概ねこんな感じだろう、とうんうんと頷くダイキ。



(……つーか)



 まぁ勿論。



(そんな訳、ねーだろおおおおおお!)



 それが間違っていることは、当然の様にダイキは解っていた。




「…………んぁ?」

「急になによ」

「…………いや、今、特に意味もなくディスられた気が……」






(好き……、好き、なのか。モエは、僕の事、を……)



 好き、と言えば、ダイキだってそうだ。

 ダイキはモエのことも、ユリのことも好いている。

 しかしそれは、当たり前の様に、『LOVE』の感情ではない。

 だけど、あの少女は、ダイキを好きで、そして改まって言った事から、恐らくその感情は。



(はは……あいつが、僕を……)



 嬉しいし、光栄にだって思う。

 モエは美人で、おっぱいだって大きい。

 ユリほどではないが、モエが高速移動するたびにぷるんぷるん揺れるそれを、ダイキはマジマジと見てしまったものだ。

 その際、ダイキ以上に、マジマジマジマジマジマジとガン見している少女のお陰で、ダイキのその視線は見破られなかったが。


 ともかく、そんな彼女が、さえない容姿の自分を好きだという。


 ダイキは確かに彼女のことを仲間、家族の様に思っていた。

 しかし、だからと言って、モエのことをそうとしか思えない、とまではいかない。

 彼だって男だ。恋愛には疎くて、人の感情の機微にも鈍いほうだが、想いを伝えられて、何も応えられない訳ではない。



 だから、モエの告白は成功して、二人はめでたく恋人同士。



 と、なっていただろう。あのまま『キロウ』に居たのなら。




「犬上『兄』」


 その声に、ダイキは現実に引き戻された。

 思考の海から自身を引き上げ、顔を上げると、そこにはどこかうんざりした顔の男が居た。

 お前は誰だ、とは言わず(おそらくクラスメートだから)、多少不機嫌にダイキが言う。


「なに?」

「なに、じゃない。犬上『妹』が乱心なんだ。お前が何とかしろ」


 疲れきった顔で、男が言った。

 ダイキは同じく疲れきった顔になり、男が指差した方向を見た。


「なんでなんでなんでなんでなんでなんで? なんで私とお兄ちゃんが一緒に帰れないの? なんでなんでなんでなんでっ!?」

「いや、だって、お前今日掃除当番で、犬上兄は違う班だから……」

「なんで?」

「は?」

「なんで私とお兄ちゃんが違う班なの? むしろなんで私とお兄ちゃんが別の班なの? いや、それよりもなんで私とお兄ちゃんが同じ班じゃないの?」

「言ってること全部同じだからな、それ」

「なんでなんで意味解らない。私とお兄ちゃんはエターナル一緒な筈なのに。ああああああああっ!」

「おい、机が割れたぞ」

「割れるんだな、机って」

「こりゃ駄目だ。もうファイブキラーズ呼んで来い」

「あいつらは学校サボって老人ホームにボランティアに行ってる」

「不良の鑑だな、あいつら」



(あいつ、運動神経いいのは知ってたけど、机も割れるのか……)

 

 長い黒髪を振り回して、周囲を振り回す少女は、犬上梓。

 ダイキの双子の妹である。


(ま、それくらい出来てもおかしくないか……ないよな?)


『オリハルコン』に比べれば、机ごとき、と現実逃避気味に思うダイキは、明らかに感覚が狂っていた。



 そして、この少女がダイキの悩みの種だった。

 とりあえず、このままにしてはおけないと、ダイキが声を掛ける。


「おい、アズサ」

「あ、お兄ちゃん!」

「あんまり迷惑をかけんなよ。つーか、机を割る必要あったか?」

「ないよ!」

「……そうか」


 ――なんだろうか、この己の大切な何かがガリガリと削られる感じ。


 ダイキはため息を吐いた。

 『かつて』はここまでじゃなかった筈だ。

 確かに、アズサはダイキを『溺愛』していたが、これほどの『狂気』はなかったような気がした。



 だが、そんなことはどうでもいい。

 問題は、『どうしてこうなった』かではなく、『これからどうするか』なのだ。


 ダイキはアズサと向き合った。


「……つーか、掃除ぐらいなら、僕も手伝う。……それで一緒に帰れるだろ?」

「あああああああああああああああん! 流石お兄ちゃん! 銀河一優しいね! お兄ちゃんお兄ちゃんオニイチャン!」

「……引っ付くな」


 これである。

 ダイキは自分に腕に抱きつくアズサを見て、心中でため息を吐いた。



 依存。

 有体に言えば、それがダイキとアズサの関係を物語っていた。

 アズサはダイキの言うことしか聞かず、ダイキを盲目的に信頼していた。


 キロウから帰還して、背格好が変貌したダイキを見たときも。


『あれ? お兄ちゃん、……背、伸びた?」

『……成長期だからな』

『お兄ちゃん凄い!』


 これだけで説明が終わったものだ。

 ちなみにこの説明はクラスメートにも有効だった。

 馬鹿……いや、人を信じれる良いやつらで良かった、とダイキは思った。




 話は変わるが、ダイキはモエやユリには自分を見つけることは難しいと思っている。


 確かに彼らは同じ街に住んでいて、同じ街の高校に通っている。

 だけど、ダイキとアズサは元々この街の住人ではないのだ。


 地球の時間では凡そ一年前、ダイキとアズサはとある問題を起こし、内定を受けていた高校から取り消しを受けた。

 中学から高校に上がるまでの僅かな期間で二人を受け入れてくれる高校は、この街の『不良学校』と呼び声が高いここだけだった。


 こんな学校に自分が通ってるとは、彼女達は思わないだろう。

 そして、他所の高校では自分達を知っている人はそうはいないだろう。元は違う街から来たのだから。

 だから、ダイキが積極的に接触しようとしない限り、再会は困難なものになる。



 だが、それはダイキにとって好都合なものだった。



 彼女達に逢いたい、と言う気持ちは勿論ある。

 モエの気持ちに応えたい、と言う想いだってきちんとある。

 その想いは嘘ではない。

 だが。

 自分に引っ付く少女を見る。

 この少女は、裏切れない。馬鹿な自分にこんなところまで着いて来た、来てくれた、この少女は。




 もし、キロウから還って来れなかったら。

 この少女はどうしたのだろうか。

 他に依存する対象を見つけるのだろうか。

 それとも、今は離れ離れで居る家族の元にあっさりと帰ったのだろうか。



 もしかしたら。

 最愛の兄を失った悲しみで、その生を断ち切っていた可能性も……


(……ッ!)


 そこまで思考して、ダイキは頭を振った。

 その可能性は、ずっと、ダイキを悩ませていた。

 だけれども、あの世界において、そんな悩みは致命傷なのだ。

 一瞬の油断、数刻の逡巡、戦場に関係ないことを考えてしまったら、何もかも命取りになる。

 だから、ダイキは考えないようにしていた。

 冷酷と言われようが、人でなしと言われようが、自分と、その仲間の命を守る為、『地球』の事は全て意識の埒外に置いたのだ。――どうせ戻ることが出来ないのだから。


 遠くの妹よりも、近くの仲間。それが、ダイキが出した結論。


 しかし、時間を越えてこの世界に戻ってきて。

 その結論は、脆くも崩れてしまった。 

 虫の良い話ではあるが、それでもダイキはアズサを『大切な妹』だと再認識してしまったのだ。


 遠くの妹よりも、近くの仲間。

 では、近くの妹と近くの仲間では、どちらを優先すればいい?

 誰の想いを受け止めればいい?

 そして、誰の想いを蹴り落とせばいい?


 こんな自分に着いて来てくれて、そして自分に依存しているアズサか?

 一緒に地獄を這いずり回って、そして自分を好いてくれているモエか?


 モエはともかくとして、アズサはきっと、モエの存在を、己を好いている女性の存在を認めないであろう。

 それには、まだ早い。

 もう少し、時間が必要だった。

 アズサが自分から離れる時間が。


 そんな中、どちらかを選べと言われたら。


(……クソッ!)


 選べない。

 選べる筈もなかった。


(ユリがゲスなら、僕はクズだ)


 どちらかを選ばなければいけないのに、どちらも選べない。

 人の好意を貪る屑。

 ダイキはそう己を断じた。





「…………ぬぇ?」

「今度はなに」

「…………いや、また、ディスられた気が……」

「ディスられてばっかね、あんた」







(まだ、まだ早い……)


 少しづつ、少しづつ進めよう。

 そう急ぐ旅でもない。

 今回は、命の危険も何もない平和な旅なのだ。

 だから、ゆっくりとことを進めよう。



 妹に自分が必要でなくなる迄。

 その時迄は。



(あいつらには、モエには……会わない。…………会えないっ!)



 様々な人々を気遣って得たその答えは。


 確かに優しくて、あるいはベターなものかもしれない。


 だけど。


 それはやっぱり、卑怯で、慎重で、臆病なものだった。 

 どこまでも自分勝手で、どうしようもなく利己的なものだった。

 そんなこと、知っていた。

 では、どうすればいいのか。

 教えて欲しかった。答えが欲しかった。



「ほら、早く早く! お兄ちゃん!」

「……ああ、今行く。つーか、袖をひっぱんな」



 無論、答えなんて、自分が出すしかないことを、ダイキは知っていた。



 知っている、だけだった。




―――――――――――――――







 学生・アズサ

 性別:女

 年齢:16

 レベル:6→18

 通称:『犬上妹』

 備考:お兄ちゃんが大好きで大好きでお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん狂気耐性なんて勿論ないよむしろ正気なんて邪魔なだけだよお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん先天技能『マッドネスレセプション』が限定解除したよ狂気を受けた分だけレベルアップするよ限界は突破するものだよお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんオニイチャン。

 





 書いている自分でもこの作品のジャンルが良くわからない。


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