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Merry-Go-Roundはゆっくりと

作者: kurorin

Merry-Go-Roundはゆっくりと


夕方の7時、日が落ちる頃、4大を出て書店に勤める健二は家電を取る。「はい」「あのう、山本未来と申しますが健二さんいらっしゃいますか?」健二は答える。「僕ですが」「あー、未来だけど。覚えてる?」「あー、未来か。」「そう」「久しぶりだな?」健二と健二の記憶は受け入れた。「仕事のほうは続いている?」「ん?ああ、大手だからね。楽なもんさ。学生時代のお気楽とまではいかないけどね」「未来は結婚してないでしょ?彼氏はいるの?」「え?ああ。あれからいない」「え?うそ。おまえはもてるだろ?」「うーん。そんなことはないさ」30分以上喋っただろうか。いつの間にか、休日の予定が立った。未来は前に・・・あれは大学2年の時か、付き合った彼女。健二は何故かクリスマスになると彼女がいることが多かった。そしてまた別れる。未来は4人付き合った中の一人だ。未来だけは別に行事前に出来たわけではなく、ノートの貸し借りをしていた仲。同じ学科だったからよく知っていた。二年次の体育の時、なんとなく距離が縮んだように思える。一度付き合った、お互いをすべてさらけ出してしまったような関係になると、山本というより、未来という感じが強い。それは年月を経ても同じである。

待ち合わせは健二のほうが早くに待ち合わせ場所に着いた。春、桜が開花する予報が流れる頃、健二は自宅近くの人通りの多い公園のベンチに腰掛けた。昼の明るい鮮やかな日差しが注ぐが、まだ肌寒い。健二はシンプルな服装でやってきた。シンプルなのは健二の好みによる。行きかう人々のどこかに視線を感じた。未来だ。少し黒でまとめて大人っぽくなったように見えるが、間違いなく未来だ。未来が近づいてきた。「あれ?」健二が言った。「ん?」すかさず返事が返ってきた。健二には潤んだ未来の目を、そう、未来の瞳が潤んだかのように見えたのだが気のせいだろうか。とても女っぽいがまだ色っぽいというには早いだろうか。「未来?」「ああ、健二。あいかわらずじゃん」とおどけてみせる。未来達は昼食をとりに行った。

店内では落ち着ける場所が一ヶ所だけあったのでそこに直行した。角である。

「健二、最近どう?」「いやどうもこうもないよ。本には詳しくなったさ。でも売れてる本だけね。中身は学生の時と違って読まないよ」「えー、あの読書家の健二が?」「うん、そういう年代を過ぎたって言うのかな。未来だってあったでしょ、そういう時期」「うん、健二ほどじゃないけどあった。でも今でも本読むしね」「ところで未来は何やってるのさ、現在。」「ん?派遣解雇だって。無職になってしまうよ」「そうか・・・」少しの間沈黙が訪れた。「ふふん」と未来が沈黙を破った。「もう、次の仕事が決まってるよ。」「何?」「レンタルショップの店員。」「社員になれるの?」「うん。多分。」「そうか」「アー、思い出した。健二私のことアジアで一番可愛いってほめてくれた事があったね」「ああ、最初の頃は緊張して震えていたよ。」「そうだったよね」手にしていたコーヒーカップを置いて健二は喋る。「おまえペンは握りつづけているのか?」「ああ、趣味?絵を描くことと、文を書くことでしょ。変わりないよ。今まで文の方であまり知られていないところの一次審査を通ったことがあるけど、それだけだね」「いいじゃないか。おれなんか文の審査通ったことがないぞ。バンドのほうが面白いや。まだ現役だよ。おやじ化してきたけどね」「おやじ化?」「歌詞書いてるでしょ。あたし健二の歌詞好きよ。」「いや、解散の話がでてるんだけどね」「え?健二は反対でしょ。歌詞書くの面白いっていってたよね?」「うん。まあな。」とりとめのない話がつづいた。

 それから三日後、遊園地に行きたいと未来からメールがあった。健二はいいよと打ってから、電話をかけた。「なんでまたあの遊園地なの?」「え?あそこは凄く面白いよ」

 青い空に恵まれた土曜日のこと、健二の車の助手席に未来は乗っている。「あは、晴れ女だよね、昔から。レッツゴー」未来はうかれている。未来とは一緒にそこの遊園地へいったことがなかった。あの時は車がなかったから市内が中心だった。高速を走る。かまわず喋り続ける未来。ただ、返事は求めない。どうのこうの言っていたが、運転に集中していた健二は覚えていない。

 遊園地に着いたのは昼過ぎだった。未来が乗りたがったのはジェットコースター。かなり待った後、順番が来た。さっきの高速より安全なのに未来は緊張気味だ。「うー」とか言っている。やがて頂点に達したジェットコースターは一気に駆け下りる。一気に左右へ重力がかかるのは気分がいい。とにかく全てが混雑していて並び、時間があっという間に経ち辺りが暗くなった。

 「最後にあれ乗ってみたい」と未来は言った。メリーゴーランドだった。日の落ちているその暗闇にはメリーゴーランドは美しい光を放っていた。其処だけ鮮やかに明るく。未来は上機嫌だ。「ねえ、はやくはやく」健二は最初未来の言っていることの意味が分からなかった。どうも飛び乗れと言っているらしい。「え?」「二人乗っても大丈夫だよ。」未来が遠ざかっていく。メリーゴーランドの回転は遅い。「健二。ねぇー」とまた呼ぶ声が聞こえた。未来の乗った馬に飛び乗るしかない。健二はフェンスを越え未来の乗った馬に飛び乗った。「オー」という観客の声と、パチパチとまばらな拍手が沸きあがった。係員はいたが苦笑しているようにみえた。特に注意するそぶりはない。「健二さすがだね。健二ならできると思った」未来は言っている。未来には健二が腕をまわしている。

 Merry-go-roundはゆっくりと回っている。

波打ってゆっくりと。

そして鮮やかな光を放ちながら・・・


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