夢 一日目
幼き頃の夢を見た。
無邪気に笑い合い、美しい花畑をもう一人の誰かと走り回っている…。
いや、「走り回っていた」と、いったほうが正しいのかもしれない。
しかし、その花畑を取り囲んでいた空の色がどす黒く変わってきてしまった。
それに気づいたもう一人の誰かがこう切り出す。
―モウ行カナイト―
いつも通りだ…そういつも通り。
悲しそうな顔をし…いや表情は見えていないが悲しそうにしていた。
その悲しそうにしているもう一人の誰かは僕に背を向け歩き出した。
ここまではいつも通りだった。
「待って!」
何故引き止めたりしたのかはその時はまだわからなかった。いや、何故この行為をしたのか、その意味を探すことすら忘れていたのかもしれない…
―ドウシタノ?―
言葉でなら返答してくれた、しかし僕から背を向けたままのもう一人の誰かは動こうとはしなかった…
「行かないで!」
やめろ…
「いっちゃやだ!!」
やめてくれ…
「待って!!」
駄目だ…
「ねぇ、今からそっちにいっちゃダメ…?」
返事のないあのどこか淋しそうな背中にこう続ける、
「お願い…ねぇ、ダメなの?」
聞くな、聞いたら駄目だ…
―ダメダヨ…理由モイエナイヨ…―
そっと言い放った言葉には、悲しさが感じられた…
「っ…なんでよ!!僕たち友達じゃん…」
こんな時に『友達』という言葉を使うことは卑怯だと思うが、そこまでして引き止めたかったのかもしれない…
しかし、必死に引き止めようとしている僕に冷たい言葉が降り注いだ…
―行カナキャ…―
「やだ!もっと…もっと一緒にいたいよ…」
背を向けたままのもう一人の誰か…。そして、その背中に向けて必死に言葉をかける自分。
僕が流した涙が花畑に吸い込まれていく…
しばらくして、
―…ジャアネ…―
と、言われうつむいていた顔をバッと上げ、
「まっ…また来るよね!?」
と、言い放った言葉に
―ウン―
「本当に?」
―ウン―
「ほんとだよ?」
―ウン―
「まっ…またね…」
泣き出したい気持ちを必死に抑えながら出した言葉にこう返ってきた…
―泣カナイデ、チャントマタ来ルカラ…ネ?―
そう言い放った言葉の後に、振り返ったもう一人の誰かの頬は涙で濡れていた、しかし、涙で濡れているもう一人の誰かの顔は笑顔で溢れていた…