第8話 ふたつのわっか、みっつのたたかい
「っていやっ」
飛来したふたつのチャクラムを居合いで弾くと、あたしはその場を「ダンッ」と蹴っ飛ばして、ルクエに肉薄した。
空間を切り裂くあたしの身体は瞬く間にルクエとの距離をつめ、瞬き一回の後には、あたしは刀――月閃を叩きつけていた。
が。
キィィン
「!」
「残念でしたね」
ニヤリと笑むルクエの手元には、いつの間にか取り戻したのかチャクラムが握られている。
先ほどの甲高い音の正体は、そのチャクラムと月閃がぶつかりあった音だった。
何故か何故かと考えていたために、あたしとしたことが腹へのキックを喰らい派手に吹っ飛ばされてしまった。
「くはっ」
かろうじて受身を取ったが、なかなかの威力だった。呼吸が乱れる。
「・・・・・・はあっ。いやー、強いね、うん。流石っつーべきかなー。ナメてたよー」
よっこらせ、と立ち上がるあたしの足は、けれどもふらついてなどいなかった。
これくらいのダメージ、何回も喰らったことがある。しかも、その大半は身内によって。
「僕はこの三人の中で一番弱いですが、それでも並みの天使よりは実力は上だと自負しています。ナメてると、更にヒドいことになりますよ」
憮然と答えチャクラムを構えるルクエ。あたしの口元には、ニヤリという笑みが浮かぶ。
「・・・・・・いいね。やっぱし、あたしの相手はそれくらい骨がないと・・・・・・ね?」
ね、と言いつつもあたしは素早くその場から直上へ5メートル飛び、後ろへ一回転した後壁を蹴る。
弾丸の如き疾さで空を切る。あっというまにルクエの直上へとたどり着くと、あたしは思い切り振りかぶった。
地対空で幾度も刃を合わせる。刃が触れ合うたびに、甲高い音が耳朶に響いた。
「・・・・・・というか、なんで貴女はそんなに長い間宙に浮いていられるんです? しかも、足元で何か唸っているようですけど」
「え? これ? えーっとねー、チカラを足元に滞空させて、それに自分の身体のせてバランス取ってるだけよー」
取ってるだけ、とはいっても、これはなかなかに高度な技だったりする。
並みの戦士では身に着けることすらできないだろう。ヘタすれば、滞空させたチカラが暴発して、使用者に威力が跳ね返ってきかねない。
原理としてはジェット機かなんかと同じだ。ジェット機の場合、エンジンからエネルギーを噴射して進むのを、足裏からエネルギーとなるチカラを出して進むのだ。このチカラは、元は高速で移動するためのチカラなのだが、あたしはそれを自分でアレンジして、"滞空するエネルギー"に変えたんだよね。
「てりゃー」
かなり気の抜けた声と共に、意識を少し足へ向けてエネルギーモードを滞空から噴射へ切り替えると、あたしの月閃へと加わる力が更に強くなった。
「ッく・・・・・・ッ!」
「ま、コレやると刃に胴体ぶっ刺さる可能性もあるから実は危ないんだけどねー。・・・・・・まぁそんなとこだから、次でキメさせてもらうよーん?」
笑みを一層深くすると、あたしは一瞬だけ噴射を滞空へと変えて刀を振上げ、今一度噴射に変えて――打ち下ろす!
「月森流刀術・真月光、月閃奔流ッッ!!」
刃が再び触れ合った途端、目を覆いたくなるような眩い光が月閃からあふれ出した。
ルクエがチャクラムを振り回して、光を振り払うのはもちろん、計算済み。
噴射のチカラを直上へと切り替え、ルクエの上でくるりと一回転。着地して、振り向きざまに、ルクエの首へ刀を突きつける。
「・・・・・・あたしの勝ち」
ルクエはそれでもしばらくは硬直していたが、いずれ観念したか、口を開いた。
「・・・・・・僕の負けです、琉藍さん」
ルクエ戦、勝利。
琉藍ちゃん、流石というべきか、強いですねぇ。
近づいてきたヘンタイなんてものともしないでしょうよ((