転生者でヒロインって痛い目見ると違うの?うまくいってるんだけど?
私、転生者。ほんでヒロイン。
いや、痛々しいとか思わないで欲しい。ホントなんだってば。
ときめき文庫といういかにもな出版社から出ていた、「恋する乙女は煌めきの泉に溶けて」だったかな?なんかそんなタイトルの小説のヒロインなのだ。
身分は伯爵令嬢。別に庶子なのに引き取られてとかそういう話もなく、生まれた時から貴族の娘である。
ただし幼少時は病弱で、つい最近まで喘息に悩んでいた。それも薬があれば何とか……というところまで落ち着いたので学校に通えるようになったのだ。
そう、貴族は学校、正式には学園に通う義務がある。
跡取りやその嫁、あるいは婿になる者たちが共通のマナーや知識をたくわえるために存在する学園は、通常四年通う必要がある。
十四歳から通って、十八歳の頃には卒業する。
義務教育に当たる部分は各々家である程度やっておいてね、というヤツ。
文字の読み書きと四則計算くらいは……貴族としての礼儀も家の格にそぐう程度を……と、余裕のない男爵家にも優しい対応である。
もちろん上位貴族は学園に通う前にそれ以上の教育をしているのが当たり前なのだけど。
だから低位貴族、男爵家と子爵家はカリキュラムが違う学級に振り分けられるのよね。
さて、当家は伯爵家なので一応上位の方に振り分けられる。
なので学舎が違うということもなく、恋愛を楽しむ相手たちと同じ校舎だし交流もしやすいというわけ。
家の取り仕切りを学ぶべき令嬢と、領地の経営を重点的に学ぶ跡継ぎとでカリキュラムは少し違うけど、基本的には男女混合のクラスである。
それも大体家の格ごとに振り分けられるので、公爵家の跡継ぎが低レベルな授業を受けるみたいなことはない。
で、まあ、結婚相手は学園にいる間に自分で見繕ってきてね、というのが普通の国なので。
この人いいなとビビビと来た人を親に報告して、仲を深めて、そうして許可をもらったら婚約となるのだ。
なので交流は盛んである。
そういう感じなので、ヒロインは幾人かの煌びやかな令息と交流を深めて、最終的に王子と結ばれるという話なんだけど。
私は王子よりも侯爵家令息が好きだったので、出来ればその人と……なんて考えていた。
物語の強制力、みたいなものがないのなら、好ましい人がいいじゃん?
いや王子が悪いわけじゃないけど。なんかそういうシンデレラストーリーで、一番身分が高い人と……、みたいなのってどうなの?って感じよね。
しかも将来王族になるって。大変極まりないじゃん。
王太子じゃないけど王族になるのは間違いないわけで、じゃあ国の代表の一族ってことで色々大変じゃん。
それを愛だけで乗り越えるの?無理じゃね?しかも私王子に対してそこまで……だし。
そういうわけで、王子の一団とは遠巻きに、侯爵令息のレイ様目当てに程々の距離感で接近していたのだけど。
悪役令嬢のはずのリッタ・ウィルキンズに仲を取り持たれました。
あれぇー?
この人そんなキャラだっけ?と思って調べたんだけど、この人性格が違う。
原作では、いかにもお局という感じの、令嬢がはしたなくも男性に絡むな、伯爵家程度の家の娘が上位の家に言い寄るな、と、ねちっこく絡んできては、私をいじめるような感じだった。
だけど今の彼女は、男女の交流もニコニコ眺めていて、一歩踏み出せない二人をそっとサポートする……みたいな。
彼女の違いはな~にっかな、とこっそり調べてみたところ。
彼女には、幼馴染兼婚約者が既にいると分かった。原作ではフリーだったのに。
そこで更に更に調べてみたら、婚約者が十歳くらいの時にプロポーズして、そこからずっとアッツアツのラブラブらしい。
つまり、愛し愛されて余裕たっぷりなので、イライラしないし、他のカップル候補のことも穏やかに見られるようになったってこと。
じゃあ幼馴染兼婚約者はもしかして転生者なのかな?と思った。
思ったけど確認するチャンスみたいなものもなければ、何を言えば察してもらえるかも思いつかなかった。
日本らしい何かを創造して流行らせる、とかも考えたんだけど、私の手先は器用じゃないし、今から味噌だの醤油だの作ってたら卒業してしまうし。
だから、もういいかなって諦めというか、納得することにした。
僕はリッタが好きだった。
初めて会った時、目の煌めきが好きになって。
おっとりとしていて、優しい彼女がどんどん好きになっていって。
でも、僕なんかが好きでいいのかなって気持ちがあった。
だけど、ある晩、夢を見た。
リッタのお母上が亡くなって、その後に来た後妻にリッタはきつく当たられるようになる。
そうして余裕がなくなっていって、いつもピリピリして、余裕がなくなっていく夢。
結婚も出来ずに修道院に押し込まれて、そこでも馴染めずにずっと不遇を嘆く夢。
翌朝になって、じゃあ僕が幸せに出来るならそうしたらいいじゃん!と、覚悟を決めた。
で、次に会った時に庭から摘んできた一輪の薔薇を差し出してプロポーズをした。
見る見るうちに真っ赤になるほっぺが可愛くて。
意識してくれてたかな、それとも怒ってるかな、と不安になったけど、薔薇を受け取って「……わたくしでいいのなら」と答えてくれた。
それから僕は、リッタのお母上が掛かるらしい病気について調べた。
夢は鮮明に覚えていたから。
主治医にあれこれ聞いてみて、それは軽いうちに治療を始めればすぐに治るけれど重くなってからは命に係わる、通称「茨の病」だと分かった。
だから、リッタのお母上にそっと、こういう症状覚えがないですか、と聞いてみたら、そういえば……と思い当たってくれた。
その後、茨の病の初期だったと分かったらしくて、その治療のために保養地に行くとなって、婚約して早々にリッタと離れ離れになることになってしまったけれど。
でも、リッタが辛い思いをしなくてよくなったから。
だから、毎週手紙を書いておくることで、寂しさを紛らわせた。
面と向かって話が出来ない分、たくさんのことを書いた。
返ってくる返事の手紙は何度も読み込んで、話題を続けることもした。
お母上が心配だと思うリッタの傍にいてあげたい、とも。
快癒したお母上と、リッタが帰ってきたのは半年も過ぎてから。
顔色のいい二人を見て、ほっとしながら花束を贈ったのを覚えている。
同時に。
久々に会うリッタに興奮して、ぎゅっと抱きしめてしまって叱られたことも。
毎週のようにお互いの家で会って、話をたくさんして、たくさん愛情を伝えた。
はにかむ顔があんまりに可愛くて、恥ずかしいと思ってても僕の話をきちんと聞いてくれる優しさが愛しくて。
政略でもある婚約だし、僕が一方的に申し込んだのもあるから、想いが返ってこないこともあるかもしれないと覚悟していたのに、リッタは十四歳の冬に、
「わたくしも、あなたがすき」
と、小さな小さな声で初めて言ってくれて、その時は嬉しくてしょうがなくて卒倒するかと思った。
それからはそれまでよりももっと言葉にして大好きだと伝え続けている。
僕の百に対して一しか言葉で返ってこないとしても、リッタは言葉にしない「好き」が九十九あると思っているので。
あの悪夢を見たのと同じくらいの年頃になっても、リッタはおっとりとして穏やかで、可愛いリッタのままだ。
だから嬉しいんだ。
リッタは僕の手で幸せにすることが出来た。
これからもリッタの幸せは僕が守る。
そのためにも、家を潰したりしないように勉学に励んでいかなきゃね。
当主の仕事は大変なものだけど大事なもの。
リッタに衣食住で不自由な思いはさせたくないし。
その、リッタと僕に子供がいっぱい出来たとしてもさ、全員満足に生活させてあげたいし。
大好きな人との間にできた子供が苦労するなんて考えたくないよ。
勉強の苦労は貴族なら皆がすることだから我慢してもらうけど、生活の苦労なんてとんでもない。
領地もあって、特産品の売れ行きもいいのに、ひもじい思いをしたりさせるなんて言語道断。
そのためにも僕が頑張らなくちゃ。
大好きなリッタとの生活が約束されてるだけでも十分に幸せなんだからさ。




