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苦手な方はご注意ください。

ケダモノたちよ

❝無月❞の女、御両名 ~赤い剣士と碧い忍~

作者: 船橋新太郎

今回の登場人物


■ ▢ ■ ▢

【W主演】

・神無月 紅 (かんなづきくれない)

美咲の目指す平和思想に共鳴し、護衛と助言を担当する。秘八上・顧問の三葉には無い、武勇面を主に担当するが、文武両道の才女。22歳という若さで側近。


・水無月 縹 (みなづきはなだ)

美咲のお抱え忍者。紅と同期の22歳で、密偵・諜報・陽動・暗殺をやってのける優秀なくのいち。紅と共に、素手で生き残るサバイバル訓練も受けてきた手練れ。


ーーーーー

・美咲 園 (みさきその)

若くして蓮次と藤香の側近となり、一揆でも大きな活躍と信頼を得たことで、置田村の乙名として村設立に関わった一人。非常に平和的で、革新的。男尊女卑と古い掟から真っ向から異を唱える。


・春浪 十茶 (はるなみじっさ)

   置田村東部・秘八上の沙汰人で副統括。元は黛村の沙汰人だが、平和思想を訴えていたため、追放・暗殺の危機に際し、一揆が始まり、置田蓮次に沙汰人の待遇で移り住んだ。両村に顔が利く面もある、貴重な存在で紳士的人物。


・瑠璃川 三葉 (るりかわみつば)

置田村東部・秘八上の沙汰人で顧問。ここ数年で名を馳せるまでになった、上流階級の娘で30歳。平和的思想が美咲に買われ、刀禰から沙汰人へと上がる。気品に満ちた出立と話し方が、更にその人間性を物語る。


■ ▢ ■ ▢

ー和都歴450年 11月8日 夜 秘八上・中心地


「火事だぁ~、皆また火事だぞ。」

秘八上では、九月下旬ごろから、頻繁に火事が起こるようになった。

「家に誰か残っているのか?」

駆け付けた神無月 紅は急ぎ情報を集める。

「え?た、多分、(しげ)さん()だから、爺さんと婆さん二人が居るはずなんだ。」

劫火と共に崩れ落ちる家屋に、恐らく居たとするなら最早焼け死んでいるだろう。

そんな炎を目の前に、火消隊が奮闘するも、村人たちは炎が静まるのをただ観ているしかなかった。


ー数時間後

炎が消えて、火消隊もある程度安全を確認した。

紅はすぐに生存確認を行う。

しばらくすると、現場に青い忍び装束の女性が現れた。

水無月 縹。同時に紅がこちらへ戻ってくる。

「し、繁さんは?」

発見者は待ちきれず、縹のいる場所まで入ってくる。

紅は首を横に振ると、発見者は膝を着いた。

「繁さん…繁さ~ん!」


ー11月9日 午前2時 美咲邸

紅と縹は今回の火事の顛末を、美咲に報告していた。

「そうか。また夜中の出火か。」

真夜中にもかかわらず、美咲邸には乙名の美咲は勿論、副統括の春浪 十茶と顧問・瑠璃川 三葉が駆けつけていた。

「これで5件目。毎週のように夜中に火事が起こるとは。」

「放火でしょう。」

春浪の言葉に応えるように、瑠璃川は一言だけ放つ。

「やはり、その線が濃厚だね。」

「置田村でもここ秘八上の治安は最良と有名なのに。実に嘆かわしい。」

春浪は珍しく愚痴をこぼす。

「分かりました。春浪さん、瑠璃川さん、ありがとうございます。春浪さんの言う通り、この秘八上の治安をこれ以上悪化させることは罷り通りません。紅、縹、特別任務を命じます。」

美咲が立ち上がって決断を声にする。

「これより、放火魔と思われる手がかりを見つけ、万が一、現行犯であれば、処刑の許可を出します。手荒な手段は避けたいですが、このままでは秘八上は危険な区域となってしまいます。」

「わかりました。」

紅と縹が声を揃えて返答する。


翌日、二人は秘八上で聞き込みをするも、目立った手がかりもなかった。当然と言えば当然だが。

休憩にと、紅は茶屋・やがみ姫に寄る。

「あら、紅?首尾はいかがかしら?」

瑠璃川が偶然、お茶をしていたらしい。向かいに連れもいた。

「初めまして。三ノ輪昭介です。」

「意外です。瑠璃川さんは生涯、男性に頼る生き方はしないと思っていました。」

「あら。勘違いよ?こちら、私の古い友人で。まぁ気は会うからこうしてたまにお茶をするの。」

紅はその二人の姿をみて、ただの友達よりも親しげに見えた。

「そうそう、紅、昭介さんが、貴重な情報を聞いたみたいよ?ね?」

「貴重なのかは分からないが。僕も沙汰人でね、色々情報が入ってくるんだが、どうやら街に年々貧民が増えているらしいんだ。たしかに秘八上は安全な区域だが、沙汰人や刀禰と言った身分の高いものが多い。半面、身分の低いものは、沙汰人にうまく取り立ててもらえないと、生活は豊かにならない。その繰り返しが、今や貧民を増やしたらしいんだ。」

この秘八上はいわばお金持ちの区画であり、そこで働くのもある程度身分の高い者に認知される必要があったのだ。

「貧民が増えることが、何故放火と関連が?」

紅が問う。

「いや、放火とは関係ないと思うんだが、どうやら生きていけないくらい落ちた貧民が、団結して、金持ち層や、巧く取り入っている家に恨みを持っているらしいんだ。」

「つまり、それが助長して、放火しているのかもって話。これは私の憶測だけどね。その線でその貧民を調査するのも有りかと思うの。」

「なるほど。わかりました。縹と協力して、そこから当たってみます。」

三ノ輪と瑠璃川の話を頼りに紅は動く。


ー11月11日 午前10時

縹はようやく貧民に会うことができた。

「すまない、少し話がしたいのだが。」

「…誰だ?」

「乙名直属の忍び、直ぐ済む。いいか?」

「…うちで話そうか。」

そういうと縹はその貧民の後に着く。


「あれは、縹か。」

紅も遅れて縹の後を追う。

紅は洞窟に着くと、奥の扉は閉まっており、鍵がかかった。

「縹?くそ、罠にはめられたか。」

紅は引き返し、洞窟を出る。

4人の怪しい男が立っている。

それぞれ槍と刀、弓、鞭を持っている。


縹と貧民が洞窟の奥まで来る。

「ここで暮らしているのか?」

縹の話を無視し、貧民は更に奥へ入っていく。

急いで薄暗い中を追いかけると、貧民が消えてしまった。

縹は大きめな空洞に出た。

小さな申し訳ない程度の明かりが2つしかなく辺りはかなり薄暗い。

「おい、話は?」

と、直後、縹は背後に殺気を感じる。


ー!?


(死ね!後ろから頭を潰してやる!)

金槌で縹を殴りかかる。

も、縹は寸前で躱す。と、同時に3人、4人見える…いや、まだ居るかもしれない。

来た出口が閉まり、一斉に掛かってくる。


とにかく見える通路に逃げる。1つ見つけた。そこへ強行する。


「逃がすな!殺せ!」

最後に見えたのは5人。空洞を突破し、通路に逃げる。もっと奥へ。

奴らも足の速い者が先へ来る。。


「どこだ?」

「先に行け!」

男が来る。縹は角を曲がった陰で二人を待ち伏せる。


ーブス!…ブス!


足を刺し、首を刺す。


「ん?おい、大丈・・・!」

ーブス!


もう一人が来た時点で直ぐに首を刺す。


「おい、あそこだ!」

「いけ!早く!!」

残った三人が死んだ二人の場所へ来る。縹はまた逃げていた。

「佐次郎!てめぇ変な女を寄こしてくれたな!」

「すまねぇ、でも印路さん、もうこの先は空洞で行き止まりだ。」

「よし、佐次郎、長吉、いくぞ。見つけたら殺せ。」

3人が縹を追い詰める。


(行き止まり…!か。)

縹は隠れるところのない空洞に出た。背後から走ってくる音が聞こえる。


3人が空洞に着いた。

ー!?

「オラ!どこいった!出てこいや!」

3人が背中を合わせながら空洞を見渡す。

「何処だ・・・」


ーコン・・

「ん?今音が?」

「どうした佐次郎?」

「今あの隅で音が。」

「音?・・・佐次郎もついてこい。長吉は出口を見張れ。」

ー・・・

「何もないぞ?」


印路と佐次郎が隅を模索していた瞬間ー


ーんぐ!

気配を殺して入り口にジッと待っていた縹はそこから隅に石を投げて二人を誘きだしたのだ。

1人になった長吉を最後の苦無で瞬殺。


「てめぇ!」

また縹は洞窟を戻る様に逃げる。

印路と佐次郎も後を追うと、最初の空洞の前に戻ってきた。

「てめぇが先に行け!逃がしたらてめぇも殺す!」

二人は空洞に出ると、また縹はいない。

薄明りの中、2人は嫌な汗が出る。


ーフッ・・・


2つの明かりの内、1つが消えた。

「なんだ?」

印路の視界が暗くなる。

「大丈夫ですか?印路さん。」

佐次郎の上から縹が襲う。

ー!?

縹は佐次郎をうつ伏せに倒し、片膝で顔を固め、自分の髪を瞬間で解くと、髪を佐次郎の首に巻き付ける。

「ん・・んぐ・・・」

ーゴキ!

瞬間、足で首を押し、髪で首を引き上げ、骨をへし折った。

印路が急いで佐次郎の元に来る。

「・・・くそ!鍵が取られてる。」

その時、出口の扉が開き、明かりと共に縹の影が出て行くのが見えた。


ー11月11日 午前10時

4人の男と対峙する紅。

「ここは立ち入り禁止だ。」

男が弓を引き、紅を狙う。

「乙名の指令で調査に来ててね。」

「悪いがどんな理由だろうが問答無用だ。」

弓を引く男の目が変わる。

「あ、そう。」

の瞬間、紅は帯刀を投げつけ、弓の男の頭を串刺しにした。

「この!」

槍の男が襲い掛かる。

紅は、最初の一撃を伏せて躱し、手に砂を握ると槍の男に振りまいた。

「うわ!」

紅は、男の槍を片手で引き寄せ、槍を持つ伸びた男の両手を上下から手刀を入れる。

槍を放し、よろめく男の頭を両手で掴み、膝蹴りを入れる。

槍の男は顔面が陥没し、倒れた。

紅は、そのまま刀を持つ男を視界に入れる。

「ひっ!」

俊足で近づき、刀を持つ手を蹴り払い、そのまま飛び上がり、踵を脳天に落とす。

刀の男は首の骨まで砕ける。

「くそ!」

鞭の男は攻撃の間もなく逃げていった。

「ふぅ。縹、無事かな?」

まもなく、縹が洞窟から出てきた。

「あら。3人倒したの?」

「一人逃がした。」

「こっちは4人。逃がしたやつを追跡すれば、放火犯か分かるね。」

「そこは縹の出番でしょ。私は沙汰人の多く住む区画に先回りしてるから、後で合流しましょ。」


ーその夜・旅館 泡沫

泡沫の一室で男女が重なり合っていた。

男が服を取り、着替えを始める。

「あら、もう帰るの?」

あわてて薄毛皮を裸体に纏うと、寝床から出て男を抱きしめる。

「そろそろ帰らないと。僕には三葉と違って家族がいるからね。」

「泊っていっても奥さんは昭介さんには頭上がらないじゃない。」

「おやおや、秘八上の顧問が言う事じゃないぞ?はは。また今度な。」

瑠璃川と三ノ輪は密会していた。

「わかったわ。約束よ?」

「ああ。」

そういって唇を重ねると、三ノ輪は部屋を出て行った。

三ノ輪は家に近づくと煙が見えた。

「・・・」

三ノ輪の足が止まった。


「よし、放火完了だ。」

印路は油壷で火をつけると颯爽に去る。

その前に紅と縹が駆けつける。

「てめ。朝の・・・」

背後で燃え始める家屋。

「縹はコイツを。私は家の人を助けてくるわ。」

「この!余計な事をするな!」

印路は紅に襲い掛かるも縹が体当たりで妨害する。

「ちくしょう。」

「朝の続きといきましょう。」

印路が短刀を出す。

「あら、料理の時間かしら?」

「キサマを料理してやるよ。」

印路はいきなり襲い掛かる。縹は大ぶりの一撃を躱すと一撃拳打をいれる。

また印路が大ぶりの一撃を繰り出すも、躱し、一撃与える。

繰り返し繰り返し、印路はよろよろになるも大ぶりになる。最後の一撃を入れる前に、短刀を持つ手を縹に掴まれ、何回も拳打を食らう。

「これで終幕よ!」

縹が思い切り蹴り飛ばすと、印路は燃える家屋に吹き飛ばされた。


同時に住人を助けた紅が出てくると、ふと紅の目に留まった人物がいた。

「あ!」

三ノ輪と鞭の男だ。

「くそ、失敗か。おい、殺せ。」

三ノ輪がそういって逃げる。

「縹、ここは任せた。」

紅は、三ノ輪の後を追う。

鞭の男は、その瞬間に縹の腕に鞭を巻き付け一瞬で引き寄せる。

「油断したなお嬢さん。」

縹は男に首を掴まれ持ち上げられていき、締め付けられていく。

「く、くそ・・・」

縹は何とか片手を出し、髪を留めてる金具を取ると仕込んだ毒針で男を刺した。

「痛っ・・・お、く、苦しぃ・・・」

そのまま絶命する。

「はぁ、はぁ、今のはマジで死ぬかと思った…」


三ノ輪は紅に追い付かれるも、油壷を出す。

「待て、お前も俺と組まないか?」

「どういう意味?」

紅が問う。

「俺は三葉の男でもあり、次期乙名候補にもなれるんだ。そうすれば、自由だ。お前を側近にして、いずれは乙名候補の名に連ねてやるよ。そうやって命懸けて齷齪働くなんてバカみたいだろうが。」

「まぁな。」

「前金で金1000枚やるよ。ほぼ遊んで暮らせるぞ?三葉も、お前のボスの美咲も、皆、もっと金を貰ってるんだ。アホらしくなる位にな。」

「今直ぐ金1000枚も用意できるのか?」

「信じろよ。」

「・・・」

紅は歩いて近づく。

「・・・? おい、来るな!」

三ノ輪は紅に手刀を入れる。

紅は片手でそれを捌くと反対の手で掌底を繰り出す。

三ノ輪は吹き飛ぶと油壷がわれ、全身油まみれになった。

「キ、キサマあ!」

「何が組まないか?だ。やっぱ嘘じゃないか。ん?」

紅はそういって近づき、よろめく三ノ輪に拳打、蹴りを食らわすと三ノ輪の落とした火種に火をつけた。

紅が三ノ輪の首根っこを掴む。

「沙汰人が、金欲しさに家族を殺し、乗り換えるつもりだったのか?他の人たちは何で殺した?」

「うるせぇ、頼まれたからだよ。世の中、理由はどうあれ殺して欲しいと思う奴は大勢いるってことだ。金はその人間を表す点数みたいなものだ。低ければ価値はないし、高ければ価値がある。金になるなら俺は喜んで殺すまでだよ。」

「そうか。じゃあ、私はお前みたいのを喜んで殺すまでだ!」

紅は三ノ輪を背中から蹴り飛ばし、火種を投げつけた。

「うごばfkろwjmb;え・・・・・」

三ノ輪の身体に火が付くと倒れこんだ。


「紅、大丈夫か?」

「ああ、縹は?」

「まぁ、平気だ。」

紅と縹は燃える三ノ輪を見ている。

「三ノ輪?こいつが放火の指示を?」

「みたいだ。」

「これじゃ、紅が放火犯みたいだな。」

「じゃ消すか?」

「いや、ゴミなんだ、盛大に焼いてやろう。」

「あっはは、やっぱ縹は性格悪いわ。」

「いや、焼いたのは紅だから。」


二人の特別任務は無事終了した。

この後の事後処理では、相当、瑠璃川は哀しみ、また、美咲からは殺し過ぎだと厳重注意された。

貧富の差、それが犯罪の種になることは、この時代から分かっていた。

しかし、同時に人間に貧富の差は埋められないことも分かっていた。

それは、人間が、欲望と共存する、❝ケダモノ❞であるからだ。


❝無月❞の女、御両名 ~赤い剣士と碧い忍~

ー終ー

次回・スピンオフ作品


「でも、僕は強くなりたいけど、まだまだ剣の道は遠くてさ…」

ー虎太郎ー

「カッコイイ!将来は剣士になるの?え?官人?凄いね。」

ー誉ー

「俺だって誉と同じだ。」

ー辰教ー


三人の幼馴染。


「助けて、虎太郎…」

訪れる悲恋。


「俺の誉だった。それを虎太郎、お前が奪ったんだ。」

友情から憎悪へ


❝虎太郎は泣いた。思いっきり。声を殺しながら。❞

虎太郎が、漢として❝初めて❞泣いた日


■ ▢ ■ ▢


2025/1/17(金) 18:00~ 漢/OTOKO ~剣士・虎太郎 を配信予定です。

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