表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LIGHTNING EDGE-神々に挑む剣 -  作者: 金属パーツ
9/42

一話 シーン9『罠』

このベッツという男のパーティー三人とも、カティル達と面識があった。


二つのチームが合流して合計九人、レルの飛行魔法「フライン」を使って森の

手前まで急行し、そこから徒歩で現地へと向かう。


「いやー驚いたもんだ。あれから半年だってのに、随分と活躍してるんじゃないか」

とロックがシミジミとそう口にする。


「ウっス!最初は心身ともに未熟でしたけど。勇者様やロックさん達の姿を見て、

勉強させてもらって、今まで地道にやってきたんス!!」

ベッツはレンジャーである。

昔は修繕を繰り返しながら着ていた古びた皮鎧とロングソードをデタラメに

振り回すような男だったが。今はこれが身の丈にあっているというようにダガーを腰に下げ、鎧は新調しているらしかった。


それはつまり、自分にあった戦闘スタイルが確立しつつあり、性格も改善されて

クエストを確実にクリアして業績をあげ、評価と収入も上げてきた証拠だ。


顔色も明るく、以前のような社会に対しての妬みや苛立ちが漂う憑き物が洗い流されて、さっぱりしている。


「ええ、そうだったわねぇ。昔は『けっ、なにが勇者だよー。

おだてられて調子づいてるだけじゃねえか』って絡んできてねー?」

「ちょっとーベル姐さーん。それは今言いっこなしですよー」

と返したのはベッツの仲間、ピール。魔法使い。

以前は自分に魔法の才能があると鼻にかけ、努力を嫌い、基本魔法と言われる

四つの魔法オーラ、ショット、リジェネレーション、エアスラッシュが短期習得できたことで天狗になり、孤立していた。


故に同じ鼻つまみものだったベッツとつるんでいたのだが、今の様子を見ると、

こちらも大分変ってきたようだ。


「ピール、最近の魔法トレーニングは進んでるの?」


「あ、あはは、やってはいるんですけどぉ・・・ベル姐さん達との出会いが

あって真面目に打ち込むようになれたんですけどぉ・・・

全然で、ですねぇ。やっぱ、自分て才能ないんだなぁ、って思い知らされるって言いますかね。

新しく覚えられたのもライト〈照明魔法〉ぐらいでぇ、リジェネレーションの効果時間が少し、伸びた程度でぇ」


「そうなんだ。うん!ピール、エライ!!」

ベロニカは激しく歓喜して、笑顔でピールの肩を叩いた。

「へ?」

「だってそうでしょ?自分に才能がないって思いながらも頑張れるって、それ凄いことなのよ?

それはもう、自分には才能があるって勘違いしながら突っ走ってる時よりも何倍も凄いことよ?

しかも、そうしてわずかでも伸びてる所を自覚できるなんて、毎日きちんと鍛錬に打ち込んでないと分からないわ」

「そ、そう・・ですかね?」

顔を伏せてはいるが、ピールは恥ずかしげに人差し指同士をツンツンと合わせる仕草を見せる。照れと喜びに震えていた。


「えーへへへぇ・・・ユリお姉さまぁ。リーリ、お姉さまと会えないあいだぁ、すっごく寂しかったですぅ」

ベロニカらの後ろでは、ユリがベッツの仲間、リーリという少女と親しげに腕を組んで歩いていた。

「うん、私もだよぉ。リーリちゃーん!リーリちゃんのお肌クンカクンカできてーすっごい嬉しいよぅおぅおぅおぅおぅ!!」

言いながら、ユリはリーリの髪やほっぺに鼻を押し付けて嗅ぎだす。


リーリは槍を得意とする戦士であるのだが、同時にセージ〈薬師〉としての知識もある。

味方の有事のために、様々な解毒薬や回復薬を調合して、背中に担いだバッグに

携帯しているのだが、調合の際に材料の臭いが肌につく。

毒薬と違って、それらの薬は比較的に良い香りのする草花が材料となる場合も多く、リーリからはそれらの甘い香りが漂っていた。


「いやん、お姉さまぁ。くすぐったいですぅ」

二人の間の空気には、急速に甘ったるいハートマークが浮かび上がっていた。



「お前も結構体が出来始めてきたじゃないか?」

「うん、男なら一に筋肉、二に筋肉、三四がなくて五に筋肉だ!」

「うっす!皆さんに負けないように俺達も頑張ります!」

かたや部活動で共に青春の汗を流した青年たちのような語らい。


「で?で?最近は彼とはどうなのよ~ピールゥ?」

「や、からかわないでくださいよぉ、姐さん!

私とベッツは、別にそんなんじゃ・・・」

「ああ!私、別にベッツのことだなんて言ってないんだけどぉ?」

かたや時に励まし合う女子高生のような語らい。


「xxxxxxxxxxxxxxx 閲覧注意」

「yyyyyyyyyyyyyyyy年齢制限」

かたや子供の教育によろしく無さそうな猥談に発展しつつあるガチ●ズ娘達の語らい。



三者三様といおうか、様々な空気を纏って親睦を深める二大パーティー。


それを少し離れた最後列から、レルとイツカは無言で眺めていた。

レルは、戦いの前だとしても陽気に振舞える若者たちの姿を大変好ましいと思っていた。

だがイツカは

「・・・・ジー・・・」

見つめていた眺めていた睨んでいた妬んでいた羨ましがっていた。

だが、生粋の人見知りなイツカには、そのどこのグループにも混ざりにいけなかった。

ただ血走らせたジト目で、ジーっと眺めているだけ。


一応、ベルから誘いをかけられはした。

だがイツカは「いや、いい。大丈夫」と短く断った。


結局、イツカはそのユラユラと陰気なオーラを立ち上らせた根暗なジト目で、彼らの姿を離れた所から眺めることになったのだった。




エッグの落着ポイントまでは、森の入り口から徒歩で一時間ほどでたどり着くことができた。


森の中、街道から大分離れ、獣道さえ途切れた奥深くに、何か巨大な物が

大きく地面を抉りながら転がり回ったことで、天然の道路のような場所が出来ていた。

「あ、もしかして勇者様御一行でいらっしゃいますか?」

エッグの周辺には、既に十人ほどの全身鎧を身にまとった兵士が集合していた。

恐らくは探索のために、人防軍から派遣されたという兵士で間違いないだろう。


「ご苦労様です。エッグの状態は?」

「ハッ!まだ孵化の兆候はありません。そちらに」

兵士が自分の背後を指さした。

天然の道路の突き当りに、エッグは着地していた。


落着から大分時間が経過しているため、冷え切っている。

が、その周辺からはメラメラとした、陽炎のような熱のない明りが立ち上っているのが見える。

その色は間違いなく青かった。


良かった。孵化の前に間に合った。


が、一行はそのエッグのあまりに異質な大きさに驚嘆する。

今回のエッグ、今までにないほどに大きい。

今までの倍か、もしかしたらそれ以上に大きいかも知れない。


「レルさん、これって」

「ええ、こんな大きな物は例がありません。

何があるか分かりません。

破壊が完了するまで気を抜いてはいけませんよ。兵士の皆さんも一旦下がらせて」

目についた兵士の一人に命じる。

兵士達は半ば、野次馬のようにエッグの周りをウロチョロと見回っていたのだが、

その一人の兵士からの伝令を耳にし、駆け足で遠ざかる。


「カティルさん!俺達も・・・」

「お前たちも危険だ!俺達の後ろで控えててくれ!」

少し強い口調でカティルはベッツ達も下がらせた。


そして勇者パーティーのみで巨大なエッグに立ち向かう。

ロックが無言でヘルムのフェイスガードを下ろす。

盾とブラックバングスターをギュッと握りしめる。

ベロニカは拳を構える。

ユリは清姫に矢をつがえる。

イツカは鞘から双剣を抜き出した。

最後にカティルはレルの顔色を窺うと、彼がコクンと頭を小さく縦に振るのを見た。


カティルは右手に意識を集中させる。

ほんのりと温もりを感じ始め、それに合わせて手の甲が光を放つ。

その光はうっすらと、一対の羽を描いた紋章を浮かび上がらせた。

その紋章から立体的な光の両翼が飛び出し、鷹を形作る。

そうしてその勇ましい光の鷹が完全に具現化した時、バサバサと羽ばたきだした。

羽の先から伸びた光の帯が、自身と五人の仲間達の体を包む。

これが勇者の持つスキル「ライトニングエッジ」の発現であった。


その効果は、選ばれしパーティーの全員のステータスを大きく上昇させる。

そして勇者だけが使える神殺しの奥義「ライトニングエッジ」の発動を促す。

それは技であり、支援魔法の両方を担う勇者だけが持つチートスキルであり。

この時勢になってもなお、このスキルが奪われていないということは、

人類は神々にとって、まだ『見応えのある玩具』として見捨てられてはいない証明であった。


その力によってパーティー全員のステータスは、瞬間的に十倍以上に上昇する。

これに乗じて、全員の攻撃でエッグが孵化する前に破壊する手筈だった。

だが


____もっと、楽しませろ____


瞬間、勇者達の体を謎のプレッシャーが襲う。

空気を通して彼らの体を震わせるような何か。

エッグの表面から放つ光の色が変化する。


青から赤へ


そして、黒へ


エッグにパキリパキリとヒビが入る。何重もの線が縦に横に斜めに走る。

そのヒビの中から強烈な明るい光が漏れだす。

「いけません!皆さん固まって!オーラを!!」

異変に気付き、いち早く体が動いたレルは声を張り上げる。

それに従って勇者パーティーはレルの元に駆けつけ、ひび割れるエッグに向けて六人での

完全軽減オーラを展開。


だが、離れるように指示していた兵士たちやベッツ達はただ立ち尽くすのみで反応がない。

「貴方たちも急いで早く!時間がないのでせめて我々の後ろに・・・・!!」

エッグが内側から放つ強烈な光が更に強まる。

そして、それが極限まで輝きを増した時、強大な爆発を起こした。

全周囲に向けての無差別な爆風と殻の破片が嵐のように弾け飛んだ。


「・・・・っ!?」


皆、ぐっと歯を食いしばってその衝撃を受け止める。

オーラの力で、殻の弾丸や爆風の熱は防げる。だが、その風圧は防ぎきることができなかった。


押し切られまいと必死で抵抗しつつ、オーラの発動も切らさない。

その爆発風とのせめぎ合いはたかだか十秒たらずといった所であったが、

本人たちにはもっと何倍もの時間に感じられた。

周囲が土埃で視界が塞がれた。

今の衝撃で、ライトニングエッジの強化や恩恵も消失した。

各々、不安げに周囲を見渡して現状を把握することに努める。


「ベル!無事か!?」

「・・え、ええ、カティ。私は平気」

「ロック!」

「ああ、俺も問題ない」

「ユリ!」

「はあ・・・ちょ~っと危なかったかな?でもダイジョブ、私も清姫もへーきー」

「イツカ!レルさん!」

「問題、ない」

「いやあ、間一髪でしたね」

前の三人に対して、後のレルとイツカはピンピンとしているらしかった。


「じゃ、兵士の皆は・・・」

カティルはエッグのあった方に背を向ける。

「ベッツ!ピール!リーリ!無事かー!?声を聞かせてくれ!!」

まだ視界が晴れない。カティルは声を張り上げて叫んだ。

だが、帰ってくる声は一つもなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ