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LIGHTNING EDGE-神々に挑む剣 -  作者: 金属パーツ
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4話シーン8「コール オブ デプス」

ガキン!

「はあ!」

「コケッ!」

ガキン!!

「てい!!」

「コッコ!!」

幾度となく、イツカとモニンの刃がお互いに切り結び合う。

「てあああ!!てい!!そいや!!」

「甘いね嬢ちゃん!!」

ドン!

余裕しゃくしゃくと、モニンはイツカの太刀筋を見切っていた。

その合間合間の小さな隙をつくように、イツカの腹に蹴りを見舞う。

「ぐっ・・・おえっ」

吹き飛ばされて地面に伏し、えづく。

〈なんでだろう・・・お腹、が〉

夕食にあれだけ食べたはずなのに、イツカの胃は空っぽだった。

当然だ。あれらはメティースが用意させた幻影の食事であり、

現実のものは一つもない。食べた直後に誤魔化されていた感覚は既になく、

イツカは大変な空腹感に苛まれていた。

「二ヤリ・・・この程度でへばられちゃ困るんだよ!!」

モニンも当然、それを見抜いていた。

一切の遠慮もなく、モニンの追撃は止まらない。

「コケ!」

「ぐうっ!!」

「コッコ!!」

イツカの持つ二剣がギリギリでモニンの二撃をかわす。

だがモニンの猛攻はそれで止まらず、蹴りによる三撃、四撃目が飛んでくる。

「クック!」

「うわっ」

「ドゥールドゥ!!」

「だああああああああああ!?」

イツカがまたも大きく蹴り飛ばされる。

モニンの持つ双包丁と二本の足、それらから飛ぶ連続攻撃はイツカを大きく凌駕していた。

〈あれはもう双剣の動きじゃない。まるで・・・四剣を相手にしているみたい〉

四本の凶器をもって襲い来る凶器の獣。神の従者を名乗ってはいるが、

モニンは明らかに神獣の域に達していた。

〈黒剣のままで向かったの、ミスった、かも・・・〉

〈仕方ありません。突然のことで、その余裕もなかったのですから。

どうするのです?このままでは聖剣の開放が・・・〉

〈分かってる。ごめん、ルビアカイン。どうしたら・・・〉

未だ全力を出し切れないでイツカは焦っていた。

「はぁ、まどろっこしいねぇ。

あんた、イツカっていったね?

確か聞いたところでは、あんたもすっごい聖剣を持ってるんだろ?

早く解放してもらえないかねぇ?

これ以上の手加減は、私にゃ難しいんだよねぇ」

モニンは不気味に笑った。

まるでイツカを挑発するように。

「・・チィッ!」

ザクッザクッ

イツカはすぐさま、その二本の黒剣を地面に突き刺す。

「我を証明せしはその血をもって我を解明せしはその力をもって我を認識せしは

その肉体をもってここに我の全てを開放せん!!」

キレていた。そのあまりにお粗末な挑発に完全に乗せられていた。

キギクゴ戦とは比べ物にならない怒気をもって一息に詠唱を奏でる。

「思いだせ汝が銘を取り戻せ汝が形を我は今こそ汝らに求める

昼に輝く太陽に誓い夜に浮かぶ月に願い我が生まれ出でたこの大地に寄り添い・・

ハァハァ・・今こそ顕現せよ我は今再び汝らに呼び掛ける!!

いでよアギナヴィー!ルナーエー!」

剣の外装がボロボロと剥がれ、その真の姿を現した。

その右手に掴むは激しく眩い輝き放つ父より授かりし無敵の剣アギナヴィー。

その左手に掴むは静かに怪しい輝き放つ母より授かりし対神武器ルナーエー。

「イツカ、絶対にお前・・・倒す!」

〈疲労が溜まっています。魔力制御や身体機能の制御は私が肩代わりしますので、

貴女は臆せず突撃してください、イツカ!〉

「はああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

先ほどの数倍の速さと巨大な輝きを纏って、イツカは突撃していった。




バアン!

「グア!」

イツカが全力を出し始めてからそう時間も経たない内、イツカは

繰り返し壁に叩きつけられた。

「・・ううぅ・・・イツ、カ・・・まだ、負けて、ない」

だが既に肉体も限界が来ている。膝が笑って上手く立ち上がれず、

崩れ落ちる。

「やれやれ。少しは楽しませてくれると思ったのに、戦い甲斐がない

お嬢ちゃんだねえ」

「ぜえ・・ぜえ・・そんな、こと、ない。イツ、カ・・・偉大なる、獅子の

勇、者の、娘。

一人でだって・・・負け、ない・・・んだ、から」

「???・・・・ああ、そういえばあんたはそういう血筋の産まれなんだっけ?

確か先代勇者キッドなんたらが父親で、母親が現代魔王なんだよね。

それで亡きお父ちゃんに憧れて誇りに思ってるって??

変な話だねぇ」

「そんなこと、ない!わた・・しは・・」

「今戦ってみても、アンタは父親よりも母親譲りの部分が多い気がするね?

いっそのこと、新世代の魔王を目指す方が強く成れると思うけどぉ?」

「!?・・そんな!!」

〈そんなことありません!取り消しなさい!〉

あまりの言葉に二人の目が一瞬曇り、激しい怒りがこみ上げた。

「別に変なこといってるつもりはないよ。

そっちのお嬢ちゃんの衣服に紛れてる従者さん?は気づいてるんじゃない?

そのお嬢ちゃんの内に流れる血は本当に勇者としての才覚が大きいのかねぇ?

一度だって疑ったことないのかい?

その娘が父親よりもずーっと、母親の『魔王セシリアの血』を

色濃く受け継いでるってこと」

〈!?それは〉

考えたこともない、というより考えないようにしてきたことだった。

ルビアカインにとって、それを考えることは『良くない』何かを

引き寄せるようで、自分で自分にそれを禁じていたことだった。

「くっ」

イツカもそうだ。ショックだった。

まるで胸を鷲掴みにされるような悔しさ、苦しさを味わい、

そっとその胸を撫でた。

コロ

その時、イツカの胸の横辺りに硬い何かが触れた。

それは着ている服の胸ポケットに雑に入れられていた物で、

風呂の後、セシリアから渡された宝石だった。


「ごめんね、イツカちゃん。お母さんちょーっとだけ調子に乗りすぎちゃった。

・・・反省してるのよ?」

イラッ

ギロリ

〈うわあ・・・こんなに機嫌を損ねたイツカちゃん、初めてみたかも〉

散々人の肌を撫でまわし、あまつさえあんな部位まで晒した魔王が何を言うか!

「ほ、ほんとーにごめんね、イツカちゃん!おわびに、こ~れ~」

セシリアが差し出して来たのは、指先ほどの大きさをした

小さな三つの宝石だった。

「これは?」

「いつかイツカちゃんのためになるかと思って、お母さんが

ずーっと研究してたの。

その中には、太古の昔に失われた禁断の魔法が閉じ込めてあるの」

「????・・・き、禁断!?しかも、失われて・・・あれれ?

失われてるのに、ここにあって・・・でも失われててててて?」

「あああ!!頭から変な煙出して混乱しないで!

お母さんがその魔法を得意としていた魔王達と交渉して、譲ってもらったのよ!!

あいつらにしたらそんな大した魔法じゃないから、気にしないでねぇ?」

〈今、このバカ母なにかとんでもないこと言わなかった!?〉

「まお・・たちって・・・え?え?そんな凄いのを、簡単に?」

「流石に、そこまで便利じゃないわよ。

使えるのは、それぞれ一回だけね。

だけどその三つ、それぞれ違う特製の魔法が込められてるから、ここぞ!って

時に使うのよ?」

セシリアはそっとイツカの手を取ると、その三つの宝石をギュッと握らせた。

「必ず、生き延びなさい」

その一言には妙に芯があり、久方ぶりにちゃんとしたお母さんを

イツカは感じた。


〈これ・・さえ・・うまく決まれば、もしかして・・・〉

イツカはその宝石のうち一つを取り出すと残りを戻し

、それを力強く握りしめて拳の中に隠す。

「まあどっちだって良いさ。

私らにはもうあんたらの抹殺命令が来てるんだ。

あんたが自分を勇者と思おうが魔王の後継者となろうが、私らには

関係ないよ。

そろそろお遊びは終わり。死にな!!」

モニンが翼を広げるように両腕を広げ、その二本の包丁をギラつかせて

襲い掛かる。

「コケエエエエエエエエ・・・コッコ!!」

モニンは包丁を大きく振り下ろした。

狙うはイツカの背中の奥、心臓。

〈ここだ!!〉

イツカはそれに合わせ、拳の中に隠していた宝石をモニンに向けて投げつけた。

「なんだい!?」

瞬間、宝石が輝く。

その宝石は水色に輝く表面の中心に、黒と見紛うような濃い青の点を宿していた。

その輝きの瞬間、その濃い青の点が巨大化し、その宝石の中から大量の液体を

吐き出してモニンを包んだ。

「・・・・!!!」

そして一息の声を漏らすヒマも与えずに、その液体に包んだモニンを宝石の中に

飲み込んだ。

カラン パキン

わずかな水滴に湿った地面に軽い音を立てて宝石が落ち、そのまま砕ける。

「・・・・・今の・・で、おわり?」

早すぎて、あまりにも呆気なさすぎる。

イツカには何が起きたのか見当もつかず、モニンがどうなったのか

分かりもしない。

それは強力すぎるが故に一切の観測もできず、憶測もできない。

まさに古の魔王が操りし『禁断の失われた秘術』に相応しい現象だった。

その魔法の名は『コール オブ デプス』

前人未踏、けして陸上の生命が生きて到達しえない深海の底へと対象を瞬間的に

誘う古代式転移魔法の応用術である。

モニンはこの時、深海一万メートル以下の深海域へと飛ばされていた。




「がば?がぼぼぼぼぼ・・・・」

ミシミシミシミシミシミシ

〈な、なんだいここは!〉

理解できない、思考できない、認識が追い付かない。

直前までは空気もあり暖かで抵抗感も感じない空間にいた。

それが瞬時に冷たく、抵抗感が強く、奇妙な浮遊感。

そして何より、この謎の痛み。

ミシミシミシミシミシミシ

「!?!??!?!?!??!?」

なんだ、この突然の痛みは。何にも触れていないのに、

何かに押しつぶされるような痛みと苦しみ。

ここは何だ?もしかして水の中か?だけどなぜこんな冷たい。

暗い。海面はどこだ!?

上下の感覚もわからない。今の自分が天を向いているのかわからない。

これらは深海域であるが故に。

例え沸点を超える高温の熱湯が噴き出したとしても瞬時に冷やされ、

例え世界最硬の板があってもへし折られて潰される。

例え太陽の光の如き明りを持ってきても一寸先までも届かない。

冷たく苦しく暗黒の深いみな底にモニンは居るのだ。

〈苦しい!痛い!と、とにかく僅かでも上へ!海面まで行かないと!!〉

モニンは急いで両手に握っていた包丁を投げ捨て、必死でもがいた。

その間にも水圧が彼女の内臓を破裂させ、全身の骨を容易くへし折り、

その口からは絶えず血液を吐き出していた。

だが、彼女の主から賜わっていた不死性はまだ残っているようで、

彼女は死と蘇生を幾度となく繰り返しながら、

少しずつ上へ上へと泳ぐのだった。

しゅるっ

「!?」

その時、彼女の足に何かが絡みついた。

その触手状の何かは一本二本と視覚外の暗黒から伸びてきて、

モニンの両腕両足首と五体を絡みとって、その動きを封じた。

〈な、なんだよこれ。放せ!放せ放せ!

私は死なねえんだ!私は生きるんだ!!私は!私は〉

もがき苦しむモニンの視界に、数m先も見通せない暗闇の向こうから、

何か巨大なものが近づいてくる。

それがモニンの視界にはっきり映るほど近づいた時、初めてその触手が

その巨大な何かの一部だということが知れた。

その巨大な何かは目がなかった。

その何かはタコかイカのような軟体生物に似ているのだが、

体全体から数えきれないほどの長い触手を生やしている。

その触手は敏感に感じ取る器官を持つため、自分の周囲を

探るのに役立つのだ。

その何かはこの周辺海域において、当たり前に存在する生命体だった。

強くもなく、だか弱くもない。

だからこそ他の脅威になる上位個体に見つかる前にモニンが食えるものかどうか

確かめる必要があった。

何かは触手を使って、モニンを撫でさすり、モニンが吐き出す赤い汁に触れる。

その触手は味覚と嗅覚さえ備えていた。

そうして得た判断は『コイツは相当なご馳走だ』

〈ぐあ!?ヤメロ、離せ!痛い!ち、力が入ら・・・

いたいいたい!そっちには曲がらないよ!そんなに曲げられたらららららら!!〉

バキッ

〈あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!〉

その何かは安々とモニンの四肢を折り砕き、ゴリゴリと丸めると、

ゆっくりと胴体の下部にある口元へと運ぶのだった。

_旨い旨い、思った通り、コイツは旨い_

バリバリと嘴状のカラストンビでモニンを咀嚼していく。

そうしてすっかり食べつくした時、何かにとって予想外の恩恵が発覚した。

かみ砕かれても尚、モニンの不死性は生きていた。

そしてその胃に収まった時、復元されて蘇生された。

強烈の胃酸で隙間なく満たされたプールの中で、

蘇生したモニンは胃壁を殴りつけた。

しかし、ビクともしない。

水圧と冷たさの苦しみはないものの、繰り返し溶かされ生き返るループの中で、

モニンは絶望の表情で蠢く。

_ああ、コイツは良い_

モニンによって、その生命にある種の永久機関が完成したのだ。

もうこの何かは永遠に空腹に苦しむことはないのだ。

その満たされた心を抱いて、その何かはゆっくりと海底に向けて泳いでいく。

その背後に、本来ならば警戒すべき上位個体に、己も餌として目を付けられて

接近されていることに気づきもしなかった。

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