4話シーン7「ロックと怪物」
「じねええええええええ!!」
怪物が怒りの形相で二歩三歩と駆け寄ると、ロックに向けて大きく
腕を振りかぶる。
「うわっ?あぶねっ!」
怪物の手の先から伸びた鋭く研いだ包丁のような爪がロックを襲う。
〈くそっ、鎧も盾もねえから受け止められねえ!〉
すんでの所でわずかな隙間を縫うように躱す。
この狭い牢獄で、広範囲に攻撃が及ぶ怪物の一振りはまさに驚異的だった。
このまま逃げ続けることは到底できるわけがない。
〈こうなったらお爺様直伝の奥の手!〉
ロックは自分の両手をゴツンとぶつけ合った。
「秘儀!身体強化術ハガネ!」
それはロックの家が先祖代々受け継いできた秘術の一つ。
魔力を体に纏わせ、一時的に体を鋼鉄のように硬化させる。
バングスター家が誇る門外不出の無属性魔法であった。
それに伴って体の色が金属を思わせる鈍色に変化した。
カンカンカン
ロックが手の汚れを払うよう手を叩きつけ合うと、そこからは小さな
鐘を鳴らすような金属音が響いた。
「きやがれ!バケモン!!」
ロックがそう叫んだ時、特に変化のない無表情だった怪物が
わずかに動きを止めた。
「・・・だれ゛が・・だれ゛が・・・だれ゛が、ばげぼん゛
だあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛゛あ゛あ゛!!!!!!」
その目に怒りの炎が燃え上がった。
怪物が大きく腕を振り上げる。
その長く伸びた鋭利な爪が五本の刃のごとくロックに切り付ける。
その斬撃をロックは腕をがっちりとクロスさせて防いだ。
〈ぐっ、重い〉
ガキンと鉄をぶつけあったような衝撃音。
「どらあ!」
すかさずロックが拳を振るった。
一合、二合と怪物とロックはその拳を打ち合った。
鋭利な怪物の爪と鋼鉄化したロックの拳がぶつかり合う度、
火花が散る。
激しい衝突音を音高く響かせるその様は、槌で剣を鍛える鉄火場を思わせた。
そうしてお互い一歩も退かず、その場で切りつけ殴り合い続ける。
すると、怪物は突如大きく弓を引き絞る様に両腕を伸ばす。
〈その動きは!?〉
あの動きは、かつて存在していた拳闘士、アントニーボアが得意としていた
『ナックルアロー』
その技を放とうとする動作が、ロックには不意に本物のユリと重なった。
彼女は闘技大会を観戦するのが好きで、アントニー選手の技が好きだった。
「ヴお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」
怪物の限界まで引き絞った拳がまさに弓を放つが如く解き放たれる。
バーン!
超加速して撃ちだされる怪物の鋭い五本爪がロックに迫る。
それを防ごうと必死で顔面をガード。
鋼鉄化された腕と爪が衝突する。
その刹那にロックに触れた怪物の爪が折れた。
「ぐぐぐ!?ぐぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」
強烈な痛みを味わい、怪物はたまらず床に座り込んだ。
その折れた爪の指先からは赤い血が流れ落ちている。
「ぐうううう!!ひどい゛!ひどい゛わ゛ろ゛っぐ!!
お前はげっぎょぐ、わ゛だじをぎずづげることし゛がじな゛い゛んだ!!」
「なっ、何言ってるんだよ・・・お前」
怪物がそう泣き叫び訴えてきた時、ロックの胸がチクリと痛んだ。
その怪物の姿が一瞬だけ、あの頃のユリの姿を思わせて再び重なった。
それは今から二年前のことだ。
勇者パーティーの一員として加わる一年以上前、それは起きた。
その当時のロックとユリは共に学院の高等部へ通い、二人で切磋琢磨していた。
それは世界各国の学院に与えられていた「勇者パーティーメンバーへの参加権」を
狙ってのものであり、ロックもユリも次代の勇者と共に戦うことを強く望み、
それを目指していた。
その時までの二人は未だ険悪な雰囲気はなく、むしろ関係は驚くほどに
良好だった。
苦しい訓練に一区切りをつけ、休憩に入る。
「はい、ロック。君の分だよ」
ユリがロックに向けて優しく水筒を手渡す。
「おうサンキュー・・・ングッングッ・・・・プハァ、いぎがえったぜ・・・」
「アハハ、ロックは本当に慌てんぼさんだねー?
もっと落ち着いて飲みなよ」
ユリは俺の一挙手一投足を見ては笑っていた。
今からは想像がつかないほど新鮮な笑みをロックに向けていた。
「ロック・・・私達さ、絶対に叶えようね」
「おう、俺達の昔っからの夢なんだ。
俺達は勇者のパーティーに入って魔王と神を倒すんだ。
そして俺達の名前を世界中に永遠に刻み付けてやる。
絶対に叶えてやろうぜ、ユリ」
あえて言葉に出して気持ちが揃っていることを確認しあった。
次代の勇者パーティーの参加権、それを賭けた全世界中の学園の全生徒が参加する全国トーナメント戦。
二人一組で参加するこの大会の優勝コンビが翌年に結成される予定の
勇者パーティーへ加えてもらえる。
その日のために、その日に勝ち残ることだけを考えて、二人の心は強く
団結していた。
この頃まではロックもユリも明るい未来をただ見据えて励んでいたのだ。
ところが、神のイタズラがそんな二人を冷たく引き裂くことになる。
大会が開催され、学内戦、国内戦、世界予選、本戦、
一か月もの時をかけて二人のチームは順調に勝ち進み、
ついに決勝戦まで辿り着いた。
「それではこれより、第二十代勇者パーティーメンバー選抜杯
決勝戦を開始いたします。
はじめ!」
審判の号令を合図に開始された。
絶対必中、二の矢要らずの学内トップクラスの和弓の使い手ユリと
絶対防御単独要塞と畏れられ、重さ60kgを優に超える重装備を着込んで軽々と
走り回れる筋肉マスターのロック。
ロックが守り、ユリが射貫くスタイルで戦い続けていたこの二人の強さをして、
誰もが優勝は彼らであると信じて疑いもしなかった。
だがしかし、フタを開けてみるとそこは想像の真逆の結果に終わることになる。
「・・・ちくしょう」
「そんなのって・・・ないよぉ」
控え室に戻ると、ユリは涙を流すほどに悔やんで泣いた。
対戦相手の二人はというと、毒と状態異常を得意とする戦士と魔法使いの
ペアであった。
相手の刃にはマヒ性の毒が塗られ、相手の魔法使いは地面を操作してぬかるませ、
バインド等を駆使して徹底的にロックとユリを苦しめた。
事前に対戦相手の情報は得ていたのだが「自分達二人がいれば大丈夫」
この何の保証も確証もない空っぽの自信が相手に対しての対策を怠らせ、
一番の敗因となり、その結果の敗北であった。
「あんまり、落ち込みすぎるなよ、ユリ」
「触らないでよ!」
なだめようと手を伸ばすロック。その手をユリは強く払いのけた。
「あんた、なんでそんなに平気そうなのよ」
「いや、別に平気ってわけじゃ」
「うそ!何とも思ってないから今回の負けで何とも感じられないし平然と
してるんじゃない!」
言われて、ロックは返す言葉を失った。
そう、自分も間違いなく悔しかった。悲しい。
夢だった目標だった勇者パーティーへ参加する道が断たれ、
平気な筈がなかった。
それなのに、自分は泣きもせずユリのことを気に掛ける素振りを見せ、
周囲には余裕があるよう見える。
それをユリに指摘され、その時に産まれた罪悪感が、ロックからユリを遠ざけた。
そしてその日の晩、この二人に決定的な出来事が起こる。
その晩、ロックは一度もユリと顔を合わせることはなく過ごした。
ロック達に勝利した対戦相手達は本戦開催地の王宮で大々的な優勝を記念した
宴会を催されていたのだが、準優勝者であるはずのロックは参加を辞退すると
転送装置を使って故国へ直ぐに帰り、気心が知れた友人たちと、
行きつけの酒場にて心ばかりの残念会をひっそりと催していたのだった。
その晩、彼が学生寮の自室に帰ることはなかった。
「ヒック・・・うぃい・・・〈酔
ただいまー・・・つって、誰もいるわきゃねえ・・・ん?」
ロックはベッドの上に小さなメモが見えた。
「・・・なんだよ・・負け犬の俺様にまさかのラブレターですかぁ?
なわけねえよなぁ・・・なになに?」
『今夜、いつものとこで待ってるから』
名前はないがロックにはそれがユリからの置手紙であると直ぐわかった。
「・・・・・・・・」
血の気が引いた。
ロックは慌てて女子寮へと向かった。
「え?ユリですか?
いえ、知りませんけど・・・あ、さっき寮母さんからユリさんが
朝になっても帰ってきてないってボヤいていましたね」
同級生の言葉を聞いて慌てて踵を返し、ロックは学園の外に出た。
探した。いつもの場所?どこのことだ?
残念なことにロックには見当もつかなかった。
だが間に合わないと分かっていても、ロックは心の底から間に合えと思った。
酷く怒られても嫌われても良い。
ただロックにさえ、何だかここでユリを見つけられなかったら、きっと
一生ユリは自分から離れていくような感覚があって、焦った。
シラミ潰しに探した。
よく通ったレストランを、良く涼みにいった丘を、良く武具の手入れを頼んでいた武器屋を慣れ親しんだ友人宅を全て。
だが結局ロックはユリを見つけることはできず、大会後初めての登校日になる。
授業開始前、やっとユリの姿を目にしたロックは急いで駆け寄る。
「あ、ユリ、あの・・・」
「・・・・・」
完全に無視された。
無視され続けた。
もう既に準優勝まで勝ち進めた国内随一の黄金ペアの姿はそこにはなく、
ロックも次第にユリに話しかけることを止めてしまった。
それでも彼はユリを目で追っていた。
すると彼女の周囲に大きな変化が起きていたのがわかった。
「それでさ、リサったら買い物の時に水たまりで滑って~」
「あーユリ!それ言うのなしだよー」
「それでそれで?」
「ああ、メリッサ見つかって良かった。これ、この前私の部屋来た時の忘れ物」
「あっ〈赤面
えと・・・その・・す、すいませんでしたユリ先輩」
「良いのよ。私も昨日はメリッサが来てくれてすっごく楽しかったから」
何やらユリが初見の下級生の耳元に顔を近づけているのが見える。
『好きだよ〈小声で〉』
「あっ、その・・・わ、私もユリ先輩のこと・・が、その・・・」
『大好きです〈小声で〉』
「ちょっとーユリせんぱーい。何で私の誘い受けてくれないんですかー?」
「ああぁ・・」
〈やばっ、この子名前なんだっけ?〉
「ごめんね、可愛い子猫ちゃん?
昨日はクラスメイトの近しい子達と先約があって」
「そんなこと言ってー、昨日は上級生の先輩方が講師のイザベル先生と
夜遅くまでお茶会開いてたって~。私、もう二週間もご無沙汰なんですけどお?」
〈うーん・・・そんな前に可愛がった子かぁ・・・
そこまで覚えてられないんだけどなぁ〉
「う、うん。分かったわ・・・子猫ちゃん?
来週、期末テストの時期よね?
その時に最低一科目で90点取れたら、また二人っきりで『お茶会』しましょうね?」
「ムカッ〉・・・・またって、私の時はいつも下級生の子五六人集めてで、
二人っきりのことなんてありませんでしたよね?」
「あらら?」
このように、ロックには何故だか分からないのだが急速にユリの女性の友人が急速に増えだした。
今までも居ないことはなかったのだが、現在の交友関係は手広く増々大きくなっている。
下は中等部から上は院生や講師の方々までユリの友人が居るほどだ。
悪い事ではない。
だが、それだけユリの心がロックから離れ、大きな壁ができていることが
何とも歯がゆかった。
そしてある日のこと、ロックはついに知ることになる。
ロックはプリントをとある講師の個室へと届けるように頼まれた。
そして届けに向かった時、ドアがわずかに開き、中から何やら
声が漏れてきていた。
慎重にその隙間から中を覗く。
「んちゅ・・ちゅる・・・ずるる・・・・・ああ、美味しいわよユリ」
「ああん・・・んん、先生。もっと、もっと吸って、くださいぃ」
「!?」
この時初めて、ユリが女色に目覚めてしまっていたことを知った。
そして学内で確実にハーレムを広げつつあったのだ。
その放課後、無理にユリを呼び止める。
「ユリ!お前、先生とあんなことして良いと思ってんのかよ!?」
「・・・あらぁ?もしかして見てたの?デバガメとは感心しないわね」
「なんだよ、それ。学院であんなことして、お前、反省してねえのか!?」
「どの口が言ってくれてんのよ!迎えにこなかったくせに!!」
チクリ
「・・・なんで、なんであの日、迎えにきてくれなかったのよ!バカ!!」
チクリ
ロックの体が揺らいだ。
そう、もしかしなくても俺のせいなのか?
あの日の晩、俺が自室に戻らず、ユリの手紙を受け取らなかったから?
ユリのいう『いつものトコ』が分からなかったから?
この時、途端に湧き上がる罪悪感にロックは押しつぶされた。
叫ぶと同時にユリはロックの脇をすり抜けるようにしてその場を去り、
ロックは膝をついた。
それからは完全に二人の関係は破綻し、二人は永遠に別たれた。
もう接点など持てないように思えた。
文字通り天から降った恵が二人に降り注ぐまでは。
「どういうことですか?俺達が・・・」
「勇者パーティーのメンバーとして、再選?」
学院長からの呼び出しを受けた二人の間にはは少し隙間がある。
「ああ、お前たちを破ったモラ帝国騎士養成所代表のカイ・ニースとエイ・ボンの
コンビなんだが。あの優勝以降、あちらの国の意向でパーティー参加前から
現場で経験を積ませようと戦場に送り出されたのだ。
ところが・・・運悪く」
「つまり、二人とも戦死した、ということですか?」
「その通りだ、ユリ・レビアン君。
よって、君たちは補欠要員から新たに勇者パーティーの正式な
メンバーとして繰り上がり当選と相成ったわけだ。
名誉なことだぞ、ロック・バングスターくん。ユリ・レビアンくん。
二人には来年の頭には本校卒業と同時に、賢者殿の元で育成を完了させた
第20代勇者殿と合流してもらう予定になっている。
それを頭に入れ、過ごしてもらいたい。以上だ」
「「・・・・・・」」
お互い言葉もなかった。
もしも二人の関係がここまで壊れて居なければ、飛び上がって喜んでいた筈だ。
本当に、この世界の神様という奴はどこまでも人を苦しめて弄ぶ。
ロックの心からまだあの頃の心の傷が癒えずに残っていた。
その傷が今、目の前で傷つき血を流す怪物の一部がユリを模倣していることで、
またズキズキと痛んで苦しめ、この場から意識を遠ざけさせる。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
そのスキを突くように、怪物の傷ついていない側の爪がロックに襲いかかる。
〈あ・・・これ・・まずい・・・避けられねえ〉
既にその爪がロックの眉間のすぐそこまで迫っている。
ボーっとしている間に身体強化術が剥がれ、鋼鉄の肌が人肌に戻っていた。
ロックの脳内に走馬灯を浮かび上がらせ、今までの数百倍の思考を働かせる。
〈ああ、不味いなぁ・・・・・ここまでかよ
せっかく、ここまで来たのに。
せっかく、アイツと一緒に戦えて夢を叶えられると思ったのに・・
どうせ死ぬなら、俺はアイツの、ユリの、皆の盾となって死にたかった。
このまま死んだら、ご先祖様達にも怒られちまうかなぁ・・・すんません〉
__ごめんな、ユリ__
〈本当ならお前に謝りたかった。許しを求めたかった。
お前のこと、愛したかったって思う。これは今気づいた、
これは絶対、本当の気持ちだ〉
だが脳裏に浮かぶのは、ロックの入り込む隙間がないほどに女を侍らせて笑う
憎らしい方のユリの姿ばかりだ。
〈それでも俺が死んだと聞いたら、少しぐらい泣いてくれるか?
少しぐらい、悲しんでくれないか?
なあ、ユリ・・・〉
その時、一瞬だけ脳裏に浮かんだ。
幼い頃、初めて顔を合わせたユリとロックの最初の思い出の中の姿。
まだ弓も引けず、走ろうとすれば転ぶこともあってよく泣いていた、
泣き虫だったアイツ。
〈ユリ!〉
ガン!
パキン
怪物の爪がロックの肌に届く。
だが、その時の音は肉を引き裂く音とは大きく違っていた。
先ほどよりも更に硬い物質に触れた音、強度で負け、容易く砕けた爪の音。
「あ゛?あ゛あ゛・・・・あ゛あ゛!!!」
「最終秘奥義、身体強化術コンゴウ!!」
命の危機に瀕したことで目覚めたのか、彼の想いに体が応えたのか、
今まで辿り着けなかった領域に今、ロックは至った。
その体はハガネよりも固く冷たく、しかして強烈な輝きを放っていた。
重戦士ロックの防御力が超アップした
重戦士ロックの素早さが超アップした
重戦士ロックの筋力が超アップした
怪物の必殺の一撃が砕かれ、もう怪物の両手には武器となる正常な爪が残っては
いなかった。
そのあまりの激痛に目元を歪ませ、天を向いて叫ぶ怪物。
戦意を喪失している様子なのをロックは見逃さなかった。
「チャンスは逃さん!!」
ロックは素早く怪物の背後を取り、後ろから両腕を回して腰をしっかり掴み、
そのまま敵を後方へと反り投げる。
「くらえ!ヒューマンスープレックスホールド!!」
ズシン!
しっかりとブリッジした状態を維持し、ロックは怪物の頭部や頸椎を
硬い地面に叩きつける。
ゴキッ
鈍い音がロックの耳にも響く。
「あ゛・・・あ゛が・・・ぐぅ・・」
しばしの痙攣を繰り返した後、怪物の体から力が抜け落ち、ダランとした。
完全に生気が失われてたのを確認して、ロックは用心を重ねながらゆっくりと
ブリッジを解いて怪物から離れた。
「・・・・倒せた、のか?」
ゆっくりと振り返り、その怪物の亡骸を見つめた。
「!?」
その時である。ロックの視界にあるモノが写り込んだ。
今怪物は天地を逆にし、下半身を上にして大きく足を広げた状態で固まっていた。
下着などは身につけておらず、その禍々しい形の中心にひっそりと咲き誇る
人間の女性のような花びらが目に映ったのだった。
〈こ・・・これはまさか、ユリの姿を模倣していたということは、この・・
アソコの形もまさか、ユリを完全再現して・・・
イカン、マズい!考えただけで下半身にパァワーが集中してしま・・・〉
ブンブンブン!
〈ダメだダメだ!これは所詮まがい物!
本物のユリの、アレに敵うわけ・・・いや・・・ぐぅ、目が外せない〉
どんどんと鼻息を荒くし、ジーっと怪物の花園をロックはガチでガン見していた。
その時、わずかに怪物の体が揺れた。
「ぐっ・・ロック・・・あんたって、本当に、最低・・・だわ」
最後の一言はやけに本物のユリに近い声色でそれだけ言い終わると、
怪物の体が一瞬で灰色へと変わり、灰となってサラサラと崩れ消え去った。
「・・・やっべ・・・最後は焦ったぁ・・・」
一気に緊張感が抜けて肩を落とす。
気付くと周囲の景色が溶けていく。
冷たい地下牢のようだった壁も地面も消え去り、
鎖に繋がれた骸骨も居なくなった。
その代わりにまた屋敷の廊下が現れ、次のステージへの道が現れた。
「うし・・・行くか」
「・・・ん・・んんん?ここは?」
ユリが深い眠りから目覚めた。
「ここは?え?なんで私・・鎖に繋がれて・・・ここはどこなわけ!?」
ユリが目覚めたそこは何やら大樹の中をくり抜いたような粗雑な空間だった。
ドアは見当たらず、ただ太い枝を幾重にも重ねたような外壁が一種の檻を思わせた。
「ツッ・・・いったぁ・・・」
〈なんでか分からないけど、首が痛い。寝違えたかしら?
なんだかすっごい嫌な奴に大事なモノを奪われたみたいな・・・
とにかくすっごく嫌な夢を見た気がするぅ〉




