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LIGHTNING EDGE-神々に挑む剣 -  作者: 金属パーツ
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4話シーン4「なんでお前ここに?」

カッチコッチ カッチコッチ

ロックが与えられた部屋で休んでいた。

窓のない不思議な部屋。

大体の家具は揃っており、部屋の隅には不釣り合いな鎧立てが用意されていた。

だが、チンパンジー戦〈というか鬼化ユリ戦〉の影響で鎧も武器も破壊された

今のロックにはそれは無用の存在と成っている。

ベッドはたっぷりの綿が詰められた上質なもののようだ。

小さなテーブルの上に灯る明りは蝋燭一本。

それだけがこの部屋の唯一の光源である。

なのに不思議なほどその小さな明りは部屋中を端々まではっきりと照らしていた。

コンコン

誰かがドアをノックした。

「誰だ?」

言いながら、不用心にロックはドアを開いた。

「やあ」

「ゅ、ゆゆユリ!?」

「何だよ、ちょっと驚きすぎじゃない?」

そこに立っていたユリは、何とも目を細め、ジトーっとした目で

ロックのことを見ていた。

「な、なんでお前、ここに?」

カッチコッチ カッチコッチ

「・・・べつに?来ちゃ悪いの?」

「いや、良いとか悪いとかじゃ・・」

混乱し、ワタワタとして歯切れの悪いロックの横から、ユリは部屋に

入り込んでしまう。

「なんかさーヒマなの。意気揚々とこの屋敷のメイドをちょっと

ナンパしてみたんだけどさ。

全然捕まらなくってさ。

それでも奇跡的に、アフターヌさんが掴まりかけたんだけど、

さっき部屋に来たと思ったら用事ができたのでまだ次の機会に、だって。

がっかりだよね~」

カッチコッチ カッチコッチ

ユリはズカズカと入り込むとベッドの周辺の様子をジロジロと観察し始めた。

「そ、それは確かに残念なことだけど、よ。

だからって何で俺の部屋に?」

ロックの質問に耳を傾けてないかのように、ユリはベッドの上を撫でさすり、

次には部屋に備えられたクローゼットを開けたり、ベッドの下まで確認していた。

カチコチ カチコチ

「だからさーアンタの所はどうなんだろう?ってさ。

私が誰も誘えなくっても、アンタがこの屋敷の可愛い女の子を

誰かお持ち帰りできてる可能性も無きにしも非ずじゃない?

もしも連れ込んでたら、私がお助けしてお持ち帰りしなくちゃって、ね」

「なんだよそれ・・・」

〈要するに、俺の相手の女がいたら盗人したかったわけか〉

カチコチ カチコチ カチコチ

「それは残念だったな。見ての通り、俺は誰にも声をかけてないし、

今日はこのまま寝る予定だったんだよ」

「え?うっそ、脳みそ海綿体のナメクジロックが、

女の子連れ込まずに一人寝なんかできたの?意外~」

ブチッ

「それはお前も同じじゃねえか!」

「まあ、それなら仕方ないかーがっかりー」

「人がキレそうに成ってるのに軽く流してんじゃねえよ!」

「やーだー、もうキレてんじゃーん」

ユリはヤレヤレと落胆した表情を見せ、そのままベッドのふちに腰を下ろした。

「・・・っち、何なんだよ今日のお前は・・・」

それと同じように、ロックはわざとらしく深いため息をつく。

カチコチ カチコチ カチコチ

〈ケッ、お前の嫌がる位置だろ?

ざまあみろ、たっぷり居心地の悪さを楽しみやがれ〉

そう思いながらロックは、ユリの直ぐ隣りに座ってみせるのだった。

だが不思議なことに、ユリは特にロックに対して何の反応も拒否感も

示すことはなかった。

カッチコッチ カッチコッチ

静かな静寂のときが流れる。お互い何も語らず、ただ部屋に備えられた

時計の針の音だけがはっきりと響くのだった。

〈・・・な、何でだ?いつもなら目を血走らせて暴力に打って出てくるはずだろ?

何でこんな静かなんだよ〉

ユリとロックの距離は、少し腕を揺らせば触れ合うかも知れないほどに

近い距離に在る。

「・・・・」

「・・・・・・」

お互い、何も口にしない。

カチコチ カチコチ カチコチ カチコチ

ユリは何も気にしていない風で、ただたまに天井を眺めたり、

足をバタつかせている。

それに対して、ロックの心臓はバクバクと高鳴っていた。

〈・・・な、なんなんだよ。コイツが何の理由もなく俺の傍にくること自体が

おかしいってのに。コイツは何を考えてんだよ

こんなに近くで座るなんて、あの頃以来、全然なかったくせに・・・〉

その瞬間、ロックの脳裏に過去の記憶がフラッシュバックする。

二人が軍学校でともに過ごしていた時間。それ以前。

ロックのバングスター家は男爵、ユリのレビアン家はそれに近い子爵である。

そして地理的にお互いの領地は近く、一時期のユリはロックの婚約者

候補だったことがある。

お互い幼い頃から交流があり、いわゆる幼馴染だったのだ。

故に学院へ入学し、そのまま軍学校へ進級してからもずっと、

人はコンビを組んでいた。

お互い連携がとり安く、ロックとしてもユリが自分の将来の嫁なら、

不服はないと思っていた。とある事件が起きる前までは。

『・・・なんで、なんであの日、迎えにきてくれなかったのよ!バカ!』

あの頃の最も辛い記憶。

ロックの頭のふちがズキリと痛む。

その時のことだ。

カチコチ カチコチ ボーン ボーン ボーン ボーン

分針が0分を刻み、時針が動く。

壁にかかっていた時計から鐘の音が繰り返し響いた。

「・・・・・・」

何も語らず無反応だったユリがソワソワとし始めた。

ふいに、ユリの手がベッドの上でロックの手と触れ合った。

「!?」

「・・・・あのさ、ロック。その・・・例えば、よ?

私が・・・まだ、あんたの事、嫌いきれてなかったって言ったら、どうする?」

ドクン

いっそう胸が高鳴るのを感じる。

「えっ、それって・・・・」

駄目だ、ロックの脳がその言葉に理解が追い付かない。

思考はどこまでも白く、まっさら。

そこへジワジワとピンク色のモヤモヤが沸き立ってくる。

まるでそれは女慣れしていなかった頃の幼い自分に戻ったようで、

動けない。

そんなピクリともしないロックに向けて、無表情なユリは更に

自分の指とロックの指を絡めていく。

そしてゆっくりと顔を近づけてくるのだった。

「_____!!!!!!

すまん、シャワーあびてくる!!」

やっと体が動かせたと思ったら、ロックは顔を真っ赤にして

立ち上がり、そのまま隣に用意されたシャワー室へと逃避してしまった。



シャーーーー

服を乱雑に脱ぎ去り、仕切りカーテンを閉めると、蛇口を全開に開ける。

だがそれは湯のではなく、真水のだった。

氷のように冷たい水がザアザアとロックに叩きつける。

だがそれが今の火照ったロックの体には丁度良く心地よかった。

ただひたすらに水を受け、頭を冷やす。

そうして先ほどまでの体験を反芻していた。

〈ど、どどどどど、どういうことだだだだだだだだ・・・・

落ち着け、ユリは俺のことを嫌ってたはずだろ?

俺のことを憎んで、結果的にアイツは女に走っちまったんだ。

それ以来、日常だと俺と顔を合わせる度に罵倒が飛んできて、

デッドボールを当て合っていた。そのユリが・・・〉

『まだ、あんたの事、嫌いきれてなかったって言ったら、どうする?』

本当にあんなことをいうのだろうか?

いやいうはずがない。きっと何か裏があるのだ。

〈きっとほら、あれだろ?俺をからかって遊んでるとか、

俺のことを誘ってるフリして、なんかでっち上げて俺を

フルボッコにするつもりなんだろう。そう、間違いない。

ふう・・・やれやれ、俺も危うく罠にかかる所だったぜ。危ないあぶな〉

カチャ

静かに、シャワー室の扉が開く。

「だれだ!?」

あえて大声で尋ねた。

「・・・・」

その誰かは無言でゆっくりと近づいてくる。

カーテンの傍に何やら人影が写る。それは明らかに女性の影であった。

その人影が静かに、カーテンを開けて入ってくる。

「ど、どうして・・・」

その侵入者はユリだった。

「どうしてって、私が話しかけてるってのに、途中で逃げ出すのが悪いんじゃん。

だからこうやって追ってきてあげたんだよ♪」

「お、おおおお、追いかけって・・・し、しかもユリ、おま、は、はだ・・・・」

「肌?」

「そうだけど!そうじゃなくてよ、その、なんで服きてないんだよ!!」

「ああ、私もなんかシャワーの気分だったから。

服は全部、あっちのベッドで脱いできたんだ」

のそのそとユリがロックの立つ壁際にまで入り込んでくる。

それどころか、ロックの腰に手を回してしがみ付いてくる。

その時、初めてロックはユリの乳房の色とその柔らかさを確かめることになった。

「な、なんで・・・おま、俺のこと、嫌い、のはずじゃ・・・」

あまりのことでタジタジになるロック。それに対してユリは多少、

頬を赤らめてはいるが。

ロックと比べて非常に冷静さが感じられた。

「うん、確かにそのはずなんだけどね・・・・なんでかな?

このお屋敷に来てから私、ちょっと変なのよ」

唐突にユリはロックのシックスパックに割れた腹筋に顔を寄せ、彼を掴んだ手で

その大きくゴツゴツとした背中を撫でまわし始めた。

「ゴクリ」

思わず喉が鳴る。

どんどんと押してくるユリに対して、暴れ馬で通ってきたはずのロックが

まるで純朴な青年の如く何もできないでいた。

そうしている内に、ユリが下からロックの顔を見つめてくる。

しっとりとした笑みを浮かべると、その手を片方、ロックの前へと移動し、

そっと下の方へ伸ばしていく。

「ちょ、ユリ!そこは・・・・」

ますます顔を赤らめるロック。

そこには今まで何人もの女性を泣かせて来たベッドの帝王の姿はない。

いつもは触れさせ慣れている邪神像にユリの手が伸びた。

「・・うっ」

ロックは小さな声を漏らす。

わずかに少し、ユリの手がそこに触れただけで、ロックの体は反応してしまった。

〈こ、これはやはり夢なんじゃねえか?

あのユリが、喜んで俺に触れてくるなんてもう、そう思うしかねえ

きっと俺は今、疲れ果ててベッドで寝てるんだ。

そして今頃、ユリに顔面に油性ペンでイタズラ書きをされて、

目が覚めたら俺はからかわれて困惑させられるんだろう〉

そうだ、これは夢だ。その言葉がロックの脳で繰り返し復唱される。

「ユリ!」

瞬時に、ロックの体が動いた。

「ンっ」

ロックはユリの体を抱き上げると、その唇を自分の口で塞ぐ。

だがそれも未だ緊張が解けてきれていないのか、舌を絡めることもなく、

ただ唇を合わせるだけのなんてことのないキスだった。

〈やわらけえ・・・〉

夢の中の筈なのに、ロックはやけに現実味のあるユリの温かさ、柔らかさを

感じ取って浸っていた。

そうしてゆっくりと唇を離すと、ロックはユリを下ろすのだった。

「ふふ、何よ。やっとやる気になってきた?」

小悪魔っぽくユリは笑っていた。

その姿さえもロックには愛らしくて堪えられない。

「ユリ!」

ロックはたまらず、ユリに襲い掛かりそうになる。

が、ユリの人差し指がロックの口に触れ、それをそっと静止させた。

「だ~め♪

まずは私からさせて」

いうと、ユリはその場でしゃがみ込むと、ロックの腹部の下にそそり立つ

邪神像を見つめていた。

そしてこともあろうに、ユリは邪神像を静かに指で撫でた。

「・・・すっごい♪意外と美味しそう♪」

〈うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!〉

あまりの光景にロックは心の中で大歓声を上げる。

さすが夢、ビバ夢!

自分にとってこれほど自由に都合よく展開していくなんて、

この夢はなんと素晴らしいことか。ロックにすれば永久保存版である。

「お、おおおお、恐れもせずに触れるとは大したもんじゃねえか。

だが、男慣れしていないレ〇女に、俺の大邪神は倒せないぜ?」

〈うわっ、さむっ!自分で言ってて上手い言い方が思いつかなかったぜ

チクショー!!〉

だが顔を真っ赤にして悶えるロックを他所にユリは、より情熱的に

ロックのそこを凝視していた。

さっすが夢だぜ!

「フンっ、行ってなさいよロック?

今からこのユリさんがこの程度のボスモンスターなんて

一舐めで討伐してあげるんだから!」

ユリはちろりと見せた舌で、ロックに自分の唇を小さく舐める様を見せた。

「ひっ、一舐め?舐め舐めって、お?どど、どうや・・・」

ロックが言い終わるより先にユリは大きく伸ばした舌先をゆっくりと彼の邪神像に

近づけていった。

〈なにこれやべえ!う、嬉しいけど、嬉しいのに?

いやいや嬉しいからこそ、ガン見できねえ!

なんだこの恥ずかしさは!

恥ずかしさ過ぎて顔から火吹きそうじゃねえか!!

やだ、見てられない!だ、だけど、ちょっとだけ見ちゃう〉

ロックは自分の顔を覆っていた手の指の隙間から、

ユリの舌が触れる様をジッと見つめていた。

「あー♪

あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」

「!?」

その時、ロックは見てしまった。

ユリの口が大きく筒状に開き、その口内にサメのようなギザギザとした歯が

らせん状に並んでいるのを。

「ぐっ!!」

思わず、ロックはユリのような何かの顔面を力いっぱいに殴ってしまった。

その何かは吹っ飛ばされた後、弱弱しく倒れ伏す。

「・・・てめえ、ユリじゃねえな!?

ユリをどうした!!」

問われて、その何かはヨロヨロと立ち上がった。

「ひ~ろ〈ど〉~いひゃなーい?

わ~ひゃ~ひ~ゆ~り~ひょ?」

いいながら、その何かは振り返った。

「!?」

ロックはそれを見ると、顔をしかめた。

そこには確かにユリの顔のようなものがあった。

ただし、それは柔らかい粘土で作った胸像が固まる前に潰れてしまったように

醜く歪んでいた。その頬にははっきりとロックの拳の跡が残っている。

「てめえ、正体を現しやがれ!本物のユリをどこにやった!?」

手ぶらで丸腰なロックは、拳を構える。

それに対してその何かは立ち尽くすだけで、無反応だった。

しかし、

「お゛お゛お゛お゛゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!

ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ!!」

突然、奇妙な奇声を発したかと思うなり、その体が急速に変化した。

それも陰湿で汚らわしく、不浄な姿へと変貌を続けている。

頭部は髪や目元はそのままユリの姿なのだが、歪んだ口元だけが

グイグイと伸び始め、ワニのアゴのような形状をとる。

その口の中には舌の居場所を奪う程に何列にも及ぶ鋭い牙が

所狭しと並んでいる。

胴体は胸部や腹部はユリの女性らしさを残す形をそのままに、手足が急速に

変化した。

その腕はグイグイと伸び、手はまるで枯れ枝のように指が伸びて、

その爪は一本一本が地面に付きかかる程に長く伸び、

鋭く研いだ包丁のように薄く鋭利になった。

その足はスラッとした長い脚から急速に縮まってゴブリンのような醜く歪んだ足に変わっている。

そのユリの部分とバケモノの部分のコントラストが独特なおぞましさを表現し、

女性的な香りがしていたその肌からはゴミ溜めのような吐き気を催す悪臭が

放たれ始めていた。

まずい、ロックの立ち位置からは出口はバケモノの向こう側だ。

「ぼぼぉ!!」

奇声を上げて、バケモノが腕を振り上げる。

「くっそ!」

すんでの所でそれを交わす。

幸いにもバケモノの片腕は爪が壁に刺さり、抜けなくなっていた。

「ぼお!ぼお!」

目の前のロックよりも、その爪を引き抜くことに集中してしまっているらしく、

バケモノはロックそっちのけで壁と奮戦していた。

〈今の内に!〉

そのわずかなスキをついて、ロックはバケモノの脇を潜り抜け、シャワー室から

逃げ出した。

〈くそっ!なんでだよなんでだよ!

なんであんな良い所で悪夢に切り替わってるんだ!!〉

ロックは必死になって扉を閉めると、部屋のあらゆる家具を動かしてシャワー室を塞いだ。

ガシッガシッ

シャワー室の向こうから繰り返し打撃音が響く。

あのバケモノが扉のすぐ向こうにいて、扉を壊そうとしているのだ。

「りょーおっくー!りょっくー!ふぁーけーでー!

ごご、ふぁーげーなーざーいーよー!!」

ついには声がした。どうやらあのバケモノはまだ最低限の人間の声真似は

できるらしい。

だがあんなにも醜く狂気を孕んだ声に耳を傾けるわけにはいかない。

そう思って、ロックは衣服も整えずにその部屋から脱出を決断した。



ダッダッダッダッダッ

全裸の大男が廊下を駆け回る。

目指すは仲間のもと、とりあえず一人でも多くの仲間と合流したい。

その思い一心で、ロックは全力疾走していた。

「あった、確かこの部屋!」

ロックがドアノブを掴むと、勢いよくそれを開け放った。

「おいカティ!起きてるか!大変なんだ、今そこでユリ・・・・が」

部屋に入ると、中の三人と目が合った。

汗とか何かの汁でグチョグチョになった室内で、三人は非常に

複雑な体位で絡み合っていた。

「おい・・・ロック?何でお前・・服・・・」

現状を全く掴めていないカティルが指をフルフルと震わせてロックを指さした。

イツカとベロニカは完全に凍り付いて固まっている。

「・・・・・カティ・・・おま・・・・人が大変な目にあってたっていうのに・・・」

自分と180度違う環境にいたカティルに対し、ロックの内側から沸々と怒りがこみ上げてくる。

「ロック?話聞いてるか?なんでお前、全裸で・・・」

瞬間、ロックの瞳が激しく輝いた。

「てめえばっかり良い思いしてんじゃねえぞ!!」

「へぷしっ!?」

一方的な暴力がカティルを襲った。


「いってえな!何するんだよロック!」

カティルは少し赤く腫れた頬を撫で、ゆっくり立ち上がる。

「うるへえ!おはえはっかり〈お前ばっかり〉、ひいほもひはへへはまうか

〈良い思いさせてたまるか〉!!」

気付けば、ロックの両方の頬にデカデカと手形が張り付き、真っ赤に腫れていた。

いったい誰が?二人の内どちらがこんなことを?

カティルはあわてて彼女達を見た。

プイッ

ベロニカとイツカは同時に顔を背けた。

「ほひょ〈この〉ふほあふあ〈くそあくま〉!!」

「そ、そんなことより、折角のいい機会だったのに、何しに来たのよロック!」

顔を真っ赤にさせてベロニカの必死の話題反らし発動。

「あ、そうだった!お前ら、早く服を着てくれ!ずらかるぞ!!」

唐突な物言いに女性陣の目尻が歪む。

「はぁ?何言ってんのよ、折角の奥様が気遣ってくれたってのに」

「イツカこのデカブツが部屋から出るだけで済むと思う」

「お前!いつものたどたどしさはどうした!?

て、今は本当にそんなこと言ってる場合じゃねえんだよ!!

良いから服を着てくれ!」

「・・・いったい、どうしたんだ?

普段のロックなら、眼福だぜーって大喜びしてそうなのに。

服を脱げじゃなくて着ろなのか?」

「当たり前だろ!俺を何だと思ってる!?」

「変態」

カティルがそう言い放つと続けて。

「女の敵で変態」

「暑苦しくてゴリラみたいですっぱい臭いがしてしかも女の敵で変態」

と続くのだった。

「ぐっ・・・今日のイツカはやけに饒舌じゃねえか」

さて、どちらがイツカの台詞だったでしょう?

「そん、なの、イツカ知ら、ない」

そう言ってイツカがまたも顔を背けた。

ミシッ ミシッ ミシッ

その時、木が軋むような酷く鈍い音が聞こえてきた。

「ん?なんなのこの音?」

「だれ・・か、近づいてる?」

「だあ!?まずい、もう来やがったのか!」

「来やがったって、誰が?」

「鈍いぞカティ!敵だよ!

だから早く服を着てくれ!臨戦態勢!!」

言われて、三人に緊張感が走る。

「「それを先に言え!!」」

慌ただしくカティル達三人は服を着始める。

「ほら、急げ!もう時間がないぞ!」

全裸のゴリラに急かされ、カティル達は非常に不条理感を感じていた。

服を整え、各々の専用武具を手に取る。

「go!go!go!go!gogogogogo!」

するとロックに促されて慌ただしく部屋を出る。

その際、なんでお前に命令されなくちゃならないの?と

二人の女性の尋常ならざる殺意の視線がロックに向いたことを

きっとロック本人は気づいていなかった。

ミシッ ミシッ ミシッ

暗く、明りも消えた廊下の向こうから、確かに木の軋む音が響いて来る。

それは少しずつ近づいていて、闇の中に更に暗い影が微かに見えてきた。

ロックは部屋の中から燭台を一つ持ち出すと、それで闇を照らしてみる。

ミシッ ミシッ ミシッ

「ユリッ!?」

照らされて、暗い影の中からユリの頭のてっぺんから目元までが見えた。

「いや違うぜベル!よく見てみろ!!」

ロックが燭台の位置を下げた。

すると、先ほどまでよりずっとその怪物の全体像がはっきりと映る。

頭部の上半分と胸や腹部はそのままに、それ以外が醜く変形した異形。

顔面の片側には、ロックが殴りつけて出来た手形痕がくっきりと残っていた。

「ヒッ!?」

背筋が凍るような感覚を覚え、少しだけ息を漏らすベロニカ。

「るおおおおおお、くうぅぅぅううううう

るおおおおおお、くううううううううううううう

ぬんで、ぬいげるどおおおおおおおおおおおおおおおおおお??」

怪物は腕を上げ、その剣の刃のように鋭利に伸びた爪をロックの

胸元に向ける。

「あのバケモノ、もしかして言葉が!?」

「いや、違うぞカティ!アイツはただ、ユリの外見を真似て、人間の言葉みたいな

鳴き声を上げてるだけだ!!知性なんてあるわけがない!!」

言われて、怪物の体がビクンと震えた。

「ぬぁぁ・・・に?」

怪物が理解ができないというように、首を傾げた。

ロックの言葉に反して、カティル達には怪物に確かな知性があるように

感じた。

「わだじをこんだでぃじだぐぜに・・・・・

びどい゛ば!るおおおおおおっくううううううううううううううううううう!!!!」

「やばい!早く逃げるぞ!」

ロックの指示を聞き、カティル達は怪物に背を向けて駆け出した。

「まっでええええええええええええええええええええええええええ!!!」

怪物も走り始める。

だがその短くゴブリンの足のように変形した下半身のせいか、そのスピードは

鈍足であり、カティル達にとてもではないが追いつけるとは思えなかった。

カティル達はただひたすらに廊下を走り続ける。

既に迷宮と化し、どう行けば出られるのか一切不明なその館の内部を走る。

頼りはロックが手にした燭台のわずかな明りのみ。

「なになになになに何よ、何なのよあれは!?

本物のユリはどうなったの!?」

「わからん!アイツは最初、ユリの姿そっくりに化けて俺を誘惑してきたんだ!

そしたら正体を現して、俺、食われかけたんだぜ!?」

「嘘でしょ?アンタみたいに筋張って硬くて食べづらそうな奴より、

普通は私を狙ってくるもんでしょ?」

バルン バルン

「ああ、ベルはフワフワで、抱きしめてるとホッと落ち着くぐらいだからなぁ。

俺だったらベルを食べると思う!」

「ありがとカティ!」

なんとも猟奇的なカティルの言葉に、ベロニカは頬を赤らめて喜んだ。

〈でも・・・下半身は残すんだろうなぁ・・〉

と心の中で付け足していたことはカティルにとって絶対の秘密である。

その時、嫉妬心が芽生えたイツカが駆けながらカティルの袖の端を掴んだ。

「カティ、ベル、ばっかり、ズル、い。私は?

私はどうなの?」

「あ、あああ、イツカはそうだなぁ・・・・イツカも可愛いし、美味しそうだぞ?

何時間だって舐められるぐらいにな!」

「舐め〈キュン〉・・・え、えへへ、そうなん、だ。えへへへへ」

ちょっとしたことの筈が、信じられないほどにイツカの心が嬉しくなった。

顔面を赤らめ、それを隠すように少し頭を伏せる。

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