表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LIGHTNING EDGE-神々に挑む剣 -  作者: 金属パーツ
38/45

4話シーン2「メティース」

静かに扉を開き、中に順番に通される。

部屋は、執務室か応接室かと思っていたのだが、そこは

一つの大きなベッドがズシンと置かれているだけの寝室だった。

家具は他に何もなく、窓もない。

ベッドには天蓋が備わっており、そこにかかったカーテンがベッドを覆って、

中をスッポリと隠している。

だが燭台の明りにうっすらと照らされて人型の影が浮かび上がり、

そのベッドが無人ではないのが分かる。

「お初にお目にかかります、第20代の勇者パーティー、賢者を襲名しております、

レル・ムックワーと申します。

本日は多忙の中、一夜の宿をお貸しくださり、心より御礼申し上げます」

レルは一礼する。すると続けてカティルも一歩前に出て、頭を下げた。

「初めまして、今代の勇者、カティル、と申します。

本日は、お世話になります」

先にレルが格式ばった挨拶をしてくれたからか、

カティルの挨拶は簡略で手短だった。

「・・・ようこそおいで下さいました。

ワタクシが当館の主、メティース・オルヴェラートと申します」

それが礼を逸していないというように、メティースは聞き取り安く

ゆったりとした調子で、カティル達に返した。

一向にカーテンが開くことはなく、ただそこに写る影が動いたので、

彼女もまた頭を下げてくれたのが分かった。

「・・・・オルヴェラート・・ですか」

レルはその苗字にある種の違和感を覚えた。

「何か、御不満が?」

寝台の隣りで控えていたアフターヌがギリッとレルを睨んだ。

「いえいえ、そういうことではないのです。

少し興味が湧いたもので。不安にさせたのならお詫びいたします、メティース様」

「レル、さん?気になった、の、どのへん?」

イツカがレルの袖をクイクイと引っ張った。

「ええ、では失礼を承知であえてお聞きするのですが。

・・・私の知る限り、オルヴェラート家というと、今より昔、

現在のワイバーン王朝ができる以前、

サラマンドル王朝時代に実在した家名です。

ですが、このオルヴェラート家は次代の王位を巡って起きた兄弟戦争において、

結果的に王位を受け継いだ長兄のエリック王ではなく、敗北した次兄の

パトリック卿の側についたために終戦後、

王位の授与式を前に族滅の刑を受けている筈です」

「???レル、さん、ゾクメツって?」

レルの顔を見上げるイツカの横から、ロックが口を挟んだ。

「ようするに絶滅だよ。オルヴェラート家は敗北したパトリック卿の腹心中の

腹心と言われていてよ、家臣団の中で特にエリック王の恨みを買っていたのさ。

んで、大人も赤子も老人も全て、家系図に記されている者のみならず、

私生児の疑いがある一般民に至るまで、3000人以上の国民が殺されたのさ」

「・・・そんな」

ベロニカが思わず息を飲んだ。

このことは歴史書にも記され、このエリック王の行いは本当に正しかったのか、

疑われた市民の中には、本当にオルヴェラート家の私生児以外は冤罪で

処刑されていないのか?

どうして、民からの信頼を集めるべき王位継承の直前の機会に、

そのような暴挙を行う必要があったのか?

歴史研究家の中で少なからず興味を集める研究題材となっている事件である。

「私の知る限り、オルヴェラートの名を名乗る貴族は、もうこの国には

存在しなかったと思っていたのですが。

・・・何故、そのような一族の苗字を名乗っているのかと、気に成りまして」

しばしの沈黙。ベッド向こうの影はピクリとも動かない。

だがその小さな間を置いて、影がわずかに揺れた。

「・・・・すべては、ワタクシの夫が原因なのでございます」

「・・・」

レルは何も反応を示すことはなかった。

「ワタクシと主人は元々、ただのしがない商人でございました。

主人は初め、この近くの村で育てられていた『リャーム』の毛皮を売り、

財を集め。

それを元手にして宝石類の売買を始め、この周辺の土地と

貴族籍を買えるだけの財を得ることができたのです」

「・・・・」

「その際、主人は一緒に家名に箔をつけたいと・・その・・・・

ワタクシとしては反対したのですが。

いっそ、お取り潰しとなったお家から、家名を頂戴しようと言われまして」

「・・・そうですか」

箔付け、その考え自体は商人の思考として間違えないのかもしれない。

国によっては、苗字家名というものは治めている土地に根差したモノが付けられ、

家名がある=広大な土地を持つと同異議な国もある一方、ここキングスランドで

家名というものは一定の納税を済ませると買うことができてしまう。

そうする時、そういった排された家の者がその先祖の家名を取り戻す半面、

こうして無関係の者が身に合わない家名を買い取る場合も確かに存在していた。

この奥方に対して、その主人は相当に強欲な存在だったようだ。

「その・・・ご主人は今どちらに?」

「・・・帝都で今も商いを続けている、と。

ワタクシは気を病んでしまい、都での生活に疲れ果てたもので、

一部の従者を連れてこちらに越してきましたの」

「以来、旦那様は奥様の元へお顔を見せて下さったことがございません」

「そうですか・・・申し訳ございません、込み入った事情を根掘り葉掘りと聞いてしまいました」

あまりに深刻な事情があると見え、レルはそこで質問を止めた。

「いいえ、お気になさいませぬよう。

当館では皆様を歓迎いたします。どうぞごゆるりとお過ごしくださいまし」

メティースの影が縦に縮む。レル達にはベッドの上とはいえ、

深く腰を折ってくれたことが明確に伝わってきた。

「・・・では、皆様。奥様はお休みの頃合いですので、どうぞこちらへ。

お湯とお食事の用意をさせて頂きました」

「お湯?お風呂!!」

ベロニカの声が跳ねた。

「では奥様、ここで失礼します。どうぞお体ご自愛ください」

「ムックワー様も」

メティースの影がゆっくりと手を振っているのが見えた。

パタン

扉が閉まる。この部屋にはもうメティースしか残っていない。

「・・・・・」

メティースの影が突如、グシャグシャに解れていく。

それはまるで木々の枝のようになり、ベッドの下に穴が開いているかのように、

ズルズルと降りて行った。



「うわー!広ーい♪すごーい♪」

先ず始めに食事よりも入浴することになった。

風呂場は大変に広く、モラ帝国で見た大衆浴場や日の寝国の温泉にも負けぬほど

大きい規模の風呂場だった。

「す、すご、い!テン、ション、爆、上がり♪」

イツカとベロニカは非常に高揚して風呂場の奥へ駆けるように進んでいく。

その後ろからユリとセシリアが落ち着いてノロノロと続いていく。

「うん、悪くないねえ」

「・・・へえ、広いわねぇ」

ユリはこのぐらいの大きさの風呂場は騎士学校時代に見慣れているようで

落ち着いていた。

セシリアは何故か、これほどの風呂場に興味を示している様子が一切なかった。

「きゃー!見てみてイツカ!これすごーい!このふわふわしたスポンジ

握ってみたらさ、中から泡がウニューって、ウニューって出てくるんだよ!」

「おおおおお・・・・・す、すごい」

「ああ、それは凄いね、シャボンボールだ。貴族の風呂場だとたまに見るよ。

中に魔法で数千倍に濃縮した石鹸成分が含まれていて、揉むとそれが染み出して

強烈に泡立つんだ」

「・・・へえ、今どきは凄いものがあるのね・・・・まさかそれで体を?」

後ろからブクブクと泡立つ様を、セシリアは奇異の目で見ていた。

「そりゃもちろんですよセルシアさん!

ホラホラ、体がアワアワでモフモフーですよ♪」

ベロニカは躊躇わず、その無限に噴き出す泡を体に纏わせる。

その姿はまるで毛を刈り取る前の羊のようにモコモコ丸々としていた。

「イ、イツカも、それしたい!」

「うんうん、じゃあ私も付き合うよー」

他二人もそれに続き、モコモコ丸々が三個横一列に並んで見せた。

「どやあ!」

「ど、やあ♪」

「どやあ〈キリッ」

何とも可愛らしい団子姉妹が完成し、その並ぶ様をセシリアに見せつける。

「あ、あらあら・・・みんな、可愛いわ、ね?

う、たっぷりと楽しませて貰ったから、遊んでないでそろそろ流しなさい♪」

「「・・はぁい」」

だが、セシリアの反応はあまり良くなかった。

三人は少し不満げに泡を洗い流す。

そうして次はお楽しみの入浴タイムだ。

「ヒャッホー!」

ベロニカが思いきって浴槽に飛び込む。

「プハァ!・・・・ああ、温かくて気持ち良い」

「うん、ヌル過ぎず暑すぎず、中々の温度ねぇ」

「ほあぁ・・・染みる・・・イツカ、溶けるぅ・・・」

以前、あれだけお風呂を苦手にしていたイツカは何処にもいなかった。

今はここぞとばかりに三人揃って、その湯に浸りきっている。

「・・・・そんなに温かいのイツカちゃん?」

「・・・んえ?・・・うん、すご、く。気持ちいい、よ?お母さん、入ら、ないの?」

ぼんやりしながら見ると、セシリアは湯船には浸からず、足先や指先などに

チョロチョロとかけ湯をするばかりでいた。

「良いのよ、お母さんは十分清潔にする浄化魔法を習得してるから。

本当に良いお湯が沸いてたら入るわ。

イツカちゃんも風邪をひく前に上がりなさいね?」

「???」

イツカにはセシリアの言葉が何となく引っ掛かった。

こんなに温かいお湯なのに、しっかりと浸かる方が体の免疫力も上がる筈では?

そう思って肩までしっかり浸かろうとした時である。

「ヘックション!」

突然、ベロニカがくしゃみをしたのだ。

「あれぇ?なんだろ・・・風邪?」

「変だねぇ、外のチンパンジーから移されたとか?」

「ちょっとユリぃ?聞こえが悪くなる言い方やめてくれない?

・・・ぷえっくしょん!」

二度目。

「どうする、ベル?そろそろ、上がる?」

「うん・・・まあ、セルシアさんに言われたことも気になるしね。

そろそろ上がろうか?」

「じゃ、あ、イツカも・・・」

ザパア

「僕はもう少し浸かってから行くよ。では後ほど~♪」

ユリが後ろ手に手を振るのに見送られ、セシリアに続いてベロニカとイツカも浴槽から出てきた。

「ほらほら、体が冷えるといけないし、しっかりと・・・・」

言いかけて、セシリアはある事に気づく。

「ん?お母さん、何?」

「・・・イツカ、ちゃん」

セシリアはジーーーーーーーーーっと、イツカの裸体を凝視していた。

何だろう?アソコだココだとはっきりと断言できないのだが、

セシリアの眼が、鼻が、体から沸き立つ魔力が、イツカの何かを嗅ぎ取ったのだ。

そう、それはあえていうなら、セシリアの知る今までのイツカと今のイツカの

何かが違っているのだ。

あえていうとするなら、それは清らかな少女からは放たれない筈の『スケベ臭』

もしくは『メスの香り』

〈これ・・・まさか・・・〉

ガシッ

セシリアは無言でイツカの肩を掴んだ。

「え?ええ?」

「イツカちゃん!」

おもむろにセシリアはイツカを反転させ、自分に背中を見せるように立たせた。

「動かないでね!これは検査!母親として当然のチェックをするだけだからね!!」

語気強くセシリアは言いつける。すると、おもむろにセシリアは

イツカの尻をグワシッとわし掴み、そのお尻をパカッと左右に開かせるのだった。

「・・・・・!!!!??!?!?!????」

混乱し、声に成らない悲鳴を上げるイツカ。

そのイツカの本来隠されてきた部位が今、母親の目にさらされた。

「ウホホホ、セルシアさん!そういう趣味だったんですか♪」

その様を見てユリが飛びつく。

ユリは素早く浴槽から飛び出ると、セシリアの隣りでマジマジと

イツカのその部位を目を皿のようにしてガン見していた。

構わず、セシリアは観察する。

「こ・・・これは・・・」

やはりそうだ。女の勘というべきか、イツカの裸体をフッとみた時に感じていた

違和感の正体がこれではっきりした。

そう、イツカのそこは

〈つ、使い込まれてるううううううううううううううううううううううう!!!?!????〉

セシリアの脳天に強力な雷撃を受けたような衝撃が走る。

そう、イツカのそこは既に未使用品ではなかった。

お尻の隙間からうっすらと覗くヒダもそうであるし、お尻の真ん中に見える

菊の花さえも既に使用された形跡が見受けられたのだ。

〈い、いったい誰が?イツカちゃんの初めてををををををををを〉

考える。まず対象者は二人。

このユリとかいう女はまずありえないだろうから除外。

あの二人、今代の勇者か、あの特に大した能力のない木偶の坊〈セシリア評〉

そのどちらかが大切なイツカの純潔を奪ったのだ。間違いない。

だが、どちらが?

じわじわとセシリアの脳内に妄想が膨らんでくる。

『イツカ、好きだよ。あいしているよ』

『うん、イツカ、も』

『俺、魔王を倒すためには勇者が足りないと思うんだ』

『うん、イツカ、も同、感』

『だろう?だから二人で次代の勇者作らないか?沢山産んでくれ。

そして子供達を引き連れて、家族で魔王を倒そう!』

『うん、イツカ、産む。イツカ、のカッツ家、の血と、カティの血を、

合わせれば、最強、勇者、作れる』

『ああ、いっぱい作ろう』

パンパンパンパンパン

〈あああ!!ダメよ!そんな!一門衆で来られたら、お祖母ちゃん抵抗できずに

滅〈メッ〉されちゃうううう!!〉

もしくは、あの木偶の坊が?

バコバコバコバコ

『おらおら、イツカ!俺のチ〇チ〇の味はどうだ』

『あーイイーイツカこわされるーキモチよくてーこわされるー』

『ガハハハ!そうだろう!この〇カチン好きの変態剣士!

これからも俺の武器専用の鞘としてコキ使ってやるからな!』

『あーうれしいですーイツカ、鞘になりますーゴシゴシ〇んポごほうししますー』

〈・・・これはなんか違うわね〉

急に白けてきたのか、セシリアはイツカのお尻から手を離した。

「う、ううううぅぅぅぅ・・・お母さん、なんの、つつつつもり?」

見上げると、涙目になって震えてるイツカが自分を見下ろしているのが見えた。

「ウッフフ♪・・・・ごめんなさい♪」

セシリアは笑って誤魔化した。




色々とあったが、女性陣は無事に風呂場から出た。

そして迎えに来ていたグナイの案内の元で、食堂へと足を運ぶ。

「よっ、あんたらが今日のお客さんだね?

アタイの名はモニン!ここで調理係を任されてるんだ。

今晩はたっぷりと食べてくんな」

相変わらず他のフロアと同様、窓のない構造の大部屋が

食堂として開放されていた。

食堂ではアフターヌやグナイ、そしてモニンの三人が揃ってカティル達を出迎えてくれた。

テーブル上には格式ばった作法はなく、スープからパン、メインの肉系まで所狭しと並べられている。

「うっひょーうめー!!」

「あーん、もぐっ、もぐっ、もぐっ、んん!このお肉、何の肉だろ?

すっごいジューシィ♪」

「はぐっ、ばくっ、モムモムモム・・・ズルっズルっズルっ」

各々、我先にと争ってバクバクと食らいつき、テーブルマナーもなく豪快に次々と皿を空にしていく。

「好きなだけ食べてくださいっス!まだまだ持ってきますからねっス!」

グナイは喋りながらもテキパキとテーブルに料理を運ぶ。

「あ、このパン旨い。スープと良く合う!」

「コクっ・・・うん、このワイン、産地はどこかな?おいしいね」

「そちらはですね・・・」

アフターヌがユリに耳打ちする。

「えっ・・そんなにする品なの?まいったな・・・」

〈銘柄が知れたら、レインさんと飲みたいって思ってたのに。

ちょっと手が出ないなぁ・・〉

「・・・・」

荒々しく盛り上がりながら食べる一方、落ち着いて静かに食べ進める者もいる。

だが、特にレルは無言に近く、ゆっくりとゆっくりと、繰り返しスープをすくっていた。

「・・・・・・」

そして何故か、一つも食事に手をつけない人物が一人。

セシリアであった。

「ん?お母さん、なんで、食べない、の?これ、すごくおいしい、のに?」

動きのない母親を気にして、イツカが食事の手を止めてその顔を見つめた。

どうやら食べている内に、浴場での一見は忘れ去ってしまったようだ。

「・・・あ、ああ、そうね・・・ええと・・・」

だが、セシリアは何かソワソワとしていた。

理由は分からないのだが、周囲を見渡し、傍で控える館の従者たちのことを気にしている様子。

「・・・どうかなさいましたか、セルシア様?」

「あたいの作った料理に苦手なモンでも入ってたかい?」

途端に、周囲の視線がセシリアに集中する。

すると、何かを観念したかのように、彼女は手元のスプーンを手に取る。

「ずるっ、ずるっ、ずるる・・・・・

あら本当!美味しいわねえ、この『スープ』♪」

セシリアはニッコリとした笑顔をイツカに向けた。

だがイツカから見ると、確かにスープを口に運んでいるのだが、

その母の姿は何処か、子供のおままごとに付き合って空の器で食事の

真似事をしているようにも見えてしまう。

イツカはそんな違和感を感じつつも、視線を戻してまた食事に集中し始めた。



「ふう・・・食った食ったぜ!」

「イツカ、も・・・沢山食べちゃった。すこ、し・・・食べ過ぎた、かも?」

「そう?私は何だか食べ足りなかったかなぁ」

「なんだ?ベル、健啖なのはいいけど食いしん坊すぎないか?」

「そ、そそそ、そんなことないわよ!ただ、ほんとに皆美味しすぎて、

なんていうのー?どれだけー食べても、食べ足りなかったなーっていうかー!」

グー

大量に食べているはずなのに、ベロニカの腹から虫の音が響いた。

「プッ・・ハハ、うんうん、分かった分かった。

ベルは昔っから食いしん坊なのは変わらないなー」

「だからカティ!そういうのじゃなくてー!」

顔を真っ赤にしてベロニカはカティルの腕を掴み、ブンブンと振り回した。

「や、やめろベル!腕が、腕が曲がっちゃいけない角度に曲がるから!」

「うるさい!バカティル!か弱い女の子を食いしん坊扱いした罪は重いのよぉ!!」

やんややんやと騒々しくなっていく。

その時である。その場から二人、離れていこうと動いた。

「あれ?レルさん、セルシアさん?もうお休みですか?」

「・・・・ええ、年には勝てませんね。少々疲れすぎました。

先に休ませて頂きます」

それだけいうと、レルは名も知らぬメイドに連れられ、テクテクと廊下の奥へと消えていった。

「ごめんなさい、イツカちゃん♪私もちょっと先に休ませてもらうわね。

また明日♪」

そうしてセシリアもまた、案内のメイドの後を追うようにしてその場を後にした。

「・・・お母さん?」

どうにも変だ。怪しい。母のそんな仕草に疑問を持ちつつも、イツカはセシリアを

呼び止めることができなかった。



セシリアは一つの客間へと通される。

部屋に入ると同時に、ドアが閉まる。

セシリアは何も言わずに室内を見渡した。

ベッドが一つ、小さな椅子とテーブルが一つ。

テーブルにはこの風呂に入る前に館の使用人に一時預けた

セシリアの私物や旅用のローブが置いてある。

そしてなんとも驚いたことに、この部屋には窓が一つ存在していた。

この館に来てから、見て居なかった窓の外の光景。

セシリアはそっと窓に近づくと、空を見上げた。

「あらやだわぁ・・・不吉」

空には月が昇っていた。それも禍々しく血のように真っ赤な満月・・・・

ということはなく、まるで純金で出来ているのかと思わせるほど、

格別に今日の月は輝いていた。

常人の感性で言えば、そんな月ならばむしろ縁起が良いと思えるはずの月である。

「・・・本当に嫌ねぇ。あれじゃまるで、この館周辺に神の恩恵が

降り注いでるみたいじゃない・・・そうは思わないかしら?」

セシリアは窓から振り返り、室内に視線を戻した。

するとそこには、あのグナイが手に一本の抜き身の剣を手にして立っていた。

「アハハハ、やっぱり気付かれたっスか?音を消すのは得意なんスけど・・・

なんでバレたんスか?」

グナイはゆっくりと剣の切っ先をセシリアの喉元に向けた。

「舐めないでもらえるかしらぁ?あんたらの体から漂う、

くっさい神々の臭いはね、

隠そうとして隠せるもんじゃないのよ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ