表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LIGHTNING EDGE-神々に挑む剣 -  作者: 金属パーツ
31/45

三話 シーン6「ブラックブラッド」

「ルビー色の輝き、ということは貴女はセシリアではないのですね?」

その問いに、セルシア・カッツと偽名を使っているセシリアはただ首をクネッと横に傾ける。

「??????」

続いてポケットから何かを取り出す。レルもイツカも酷く警戒したが、

それはなんてことのない手鏡だった。

それで自分の眼辺りをジーっと眺めていた。

「あらやだ!そういうことだったのね~!」

突然、慌てる素振りを見せて大きな声を上げる。

「ごめんなさいね~レルく・・先生?とイツカちゃん。

この目はごーかーいー!ごーかーいなーのーよー!」

パタパタと忙しなくイツカの腕を掴み、上下に揺らしてくるセシリア。

「ど、どういうことなんですか?セシリア?」

急な騒ぎにも、レルが展開させたシーキングベールは正しく作用していた。

周囲の作業員たちの視線は彼らを完全に無視している。

「あのね、この目なんだけど。

今のこの体はすごーく弱く作ってる代償に、ドラコーの精神は介入できないのね。

だけど緊張したり興奮すると、赤みが出ちゃうんだけど~」

「・・えっと?それって、つまり、目が赤くても緑でも、

今のお母さんはお母さん?」

「その通り!さすがはイツカちゅわんね~

呑み込みが早くてお母さん助かっちゃう~」

一転、歓喜してセシリアはイツカをハグした。

その上、その顔に頬ずりまで始めてしまう。

〈ウザい!!〉

無抵抗でありつつも、イツカは心の底からそう叫んだ。

「弱く作っているといいましたが!具体的には、どのくらい、です・・か?」

冷静を保とうとしつつ、レルは情報を集めることに専念する。

「んー、この前、貴方たちに倒されたのが一万分の一個体で、

その後に見せたのが、五千分の一個体だったでしょ?

今のこの体でいうと・・・・二十万分の一ってところかしら♪」

「にじゅ」

「うん、そう。だから手助けって言っても期待はしないで?

なんせこんな分身でも死ねばその魔力は失われるんですから。

無駄撃ちはできないのよ~」

〈ほお・・〉

さらりと良い情報が聞けた。

つまり、先日の戦いで一万分の一個体を倒したことで

その分弱体化させることには成功しているのだ。

その数値はたかだか十や一ポイント程度ではあるだろうが、

対策をする上では重要な方法であるとレルは受け止めた。

「因みに、私を繰り返し殺して一気に本体の弱体化を進めようって思っても

無駄よん?

そんなことをしだしたら、私は貴方達への支援を一気に打ち切るからね?」

「しえんって・・・まさ、か」

何かに気づいたというようにイツカは言葉を詰まらせる。

「やはり・・・そういうことだったと考えていいのですか?セシリア・・」

尋ねられ、セシリアはニコニコしながら首を縦に振るのだった。

くそっ、当たってほしくない予想ばかりが的中する。

いや、レルは今まで予測した中で、判断材料はそれなりに集まっていた。

そこから考え出した上の予測だったのだから、外れるべくもない。

先日までの三日の休暇といい、レルはある存在が世界には居るのではないかと予想していた。

それらは人類の中に紛れている。数は不明であり、数人程度かもしれないし

数万人規模かも知れない。

神でもなく、人類のためでもなく、強大な存在である魔王に付き従う者達。

そして魔王の都合の良い方向へと働き、この人類社会を動かすほどの権力を有している集団。

「・・・魔王信望者」

レルは秘密裏にそう名付けていた。

「うん・・魔王信望者ねぇ。私は単に『ブラックブラッド』って呼んでるけど?」

レルは杖を握る力を更に強めた。

「赤き血でもなく青でもなく、黒き血ですか・・・・

いったい、なんのために?」

「ん?知りたいの~?でも秘密よ~」

「人数はどの程度集まっているんですか?」

「それも秘密ね~。

どこかの王族に紛れているかも知れないし、大きな商会を

営んでるかも知れないわね。

はたまた農民をしているだけかもぉ?」

言いながら、セシリアはレルに顔を近づけてくる。

ふいにレルは着ていたローブの袖で顔を隠してしまう。

「あらあら?レルちゃんかわいい♪」

更にセシリアはレルの耳元に唇を寄せるように顔を近づけた。

〈いかん・・・これは、本当に女の匂いなのか〉

レルの鼻孔が何かを感じ取る。それはけして悪臭ではなく、

かと言って香水のように濃い匂いでもなく薄い香り。

だというのに、レルの脳の裏っかわのあちこちを甘くトロトロにするような、

気を抜けば一瞬で蕩けて呆けさせるような危険な香りがする。

それから逃れようとレルは頭をブンブンと振った。

それが面白いのか、セシリアは今度は

悪ガキのように防御が出来ていないレルの腰辺りを指でつつくのだった。

先日の戦いでバーミリオンによって折られたアバラがズキリと痛んだ。

「お母さん!」

たまらずにイツカは剣を抜く。そしてその刃でセシリアの肩を突き刺した。

グサッ

「・・・・え?」

今までのように、イツカの剣筋は安々と止められるのだろうと想像していた

その刃は、セシリアの肩に深々と突き刺さってしまう。

間もなく肩口は赤くそまり、そこから溢れ出した血液は腕を通して指先から地面へと零れていく。

慌てて引き抜いてその刃を見ると、そこにはセシリアの血がはっきりと付着しているのが見えた。

「あっ・・あああ・・・」

あまりのショックでイツカは剣を落としてしまう。

「こらっ、だめでしょイツカちゃん!

貴女の剣は『人』を傷つけるためのものじゃないのよ?

メッ!よ?」

ところがセシリアにはその傷の痛みさえ無かったのか。

イツカの方を向くと、その呆然とするイツカのプニプニほっぺを

ギュイギュイとつねるのだった。

「あうあう!いひゃい、いひゃい、よ、おははーはん!」

「いけません!母さん相手だったから良いものの、

他の人だったらどうするつもりだったの?

人を傷つけるなんて、貴女は勇者の血筋の者として、恥を知りなさい!」

なんか凄いお母さんっぽいことを言いながら、なおもセシリアは

イツカをつねった。

「ぶ~・・・・」

イツカの頬は赤みを帯びて腫れていた。

「んー、どうしようかしら、治癒魔法で怪我は簡単に直せるけど、

服に付いた血までは消せないのよねぇ。

とりあえず幻惑でもかけて・・・・これでどう思う?」

セシリアは二人に対してその切られた肩を向けて見せる。

確かに血の汚れは綺麗さっぱり見えなくなり、衣服の裂け目が

目立たなくなっている。

だが幻惑で隠しているだけなので、すぐにキズに触れられてしまう。

「・・・・」

イツカとレル苦い顔をしてだんまりしていた。

「・・・・」

セシリアも言葉を失ってしまう。

「!」

そんな時、ふっとセシリアは何やら思いついたというように、その瞳にポッと

光が灯る。

きっとロクでもないアイディアなのだろう。

セシリアは一度、自分の指を傷ついた肩に伸ばす。

指は衣服にかけた幻惑をすり抜け、その傷口に触れた。

その指を抜き出すと、しっかりと赤い血液で指先が汚されたのが見えた。

セシリアは唐突に指でそのままイツカの唇に触れ、まるで生娘に化粧の

仕方を教える母親のように、そこを赤く彩っていく。

「あっ」

瞬間、イツカの唇にいやにねっとりと生暖かい感触が広がる。そして鼻にまで届く血の臭い。

鉄のようで居てだが生臭く、無機質のようでいて生命を感じさせる独特な臭いだ。

魔王の血であると同時に人間臭い。

イツカの脳がとても自分と近しい、確かな『人間の血の臭い』と実感させる。

それが何やら、イツカにはとても不快で忌避すべきものに感じられて、

体がカチンコチンに強張ってしまうのだ。

「♪」

それを楽しげに、セシリアは塗り広げていく。

だが最後の一筆、唇の終わりの辺りに紅を塗り伸ばそうという時、イツカが

体を引きつらせて顔がわずかに揺れ、その紅が唇から大きく外れて頬にまで伸びてしまう。

「セシリア!」

「アンッ、急に声出さないでよぉレルくんー。折角、イツカちゃんを

キレイキレイにしてあげようとしただけなのにー」

「何がキレイキレイですか!普通、そんなもので、

じ、じじじ、実の娘にたいして・・・」

レルは自分の袖口でゴシゴシとイツカの唇を拭っていく。

「もー・・・私の死ぬまでにやりたい百の事リストの一つだったんですけどー?

『娘に紅の使い方を教えてあげる』って」

「それならば普通に口紅を買ってきて使ってくださいリア!

頭ボストロールになってませんか!?」

あまりの出来事に無言を貫いていたルビアカインまでもが声を上げた。

「えー、カインちゃんまでそっちの味方なのー?」

「当たり前です!」

「酷い!カインちゃん!私、魔王なのよ?貴女の元上司の魔王様なんですけどー!?」

「そんな昔のこと知りません!

それにもう、私はキッドとイツカの従者ですので!」

「そーんーなー」

「そんなーではありません!貴女は、自分が何をしたのか理解しているのですか?

貴女は今、人間から逸脱した行動をとって悦に浸っていたのですよ!?」

「・・・いつだつぅ?私がぁ?」

ルビアカインに言われたことが納得いかない理解できていないとばかりに、

セシリアは首をかしげた。

〈・・・やはり、もう貴女は人間ではなくなっているのですね、リア〉

ルビアカインの中で、セシリアへの警戒レベルが一つ上げられることになった。



結局、聞きたいことも聞き出せず、何やら色々と有耶無耶のままにイツカ達は

カティル達と合流することになった。

「よお、イツカにレルさん。セルシアさんもちょっと遅かったですね。

何かあったんですか?」

「あらあらうふふ♪ごねんなさいねぇ、娘とつい話し込んでしまいまして♪」

「・・・お待たせしたようで申し訳ありませんね、カティ」

明るい調子で微笑むセシリアに対して、レルとイツカの表情はわずかに重く暗い。

「いえ、平気ですよ。俺達も、やっと装備が揃った所です」

どうやら、今回の間に合わせ装備を用意するのにも手間取っていたと見える。

ロックやベロニカは既にそれぞれの防具を身につけ、武器の確認を進めていた。

・・・・のだが

「この程度の装備しかご用意できず、誠に申し訳ございませんでした」

キムキーが実に神妙な面持ちで深々と頭を下げる。

今回、開発中の新装備が完成するまでの代用装備であるが、それらは実に

奇妙な物が揃えられていた。

「これは・・・アックスだよな?」

ところがそれは真っ黒く短く、それはそれは薄い刃を鉄板で挟んで固定されている代物に持ち手をつけただけで、何とも頼りない。

「俺の剣?もそんな感じだな。

細かい破片を並べて鉄板で挟んで固定されてるようだけど、

なんというか・・・ノコギリ?」

「南国の獣人族達が好んで使う『マクアウィトル』という武器を参考にしております、勇者さま」

カティルもロックも二人してお互いの装備を見比べてみる。

なんというか、キムキーの工房で作ったにしては、いささか

「ああ・・その・・今までと比べて、ささやかな作りですね、キムキーさん」

逆に防具はどれもしっかりして作られている。

上物であるようだし、オーブもはめられていてステータスの上昇やサポートも申し分ない気がする。

「・・・重ね重ね、返す言葉もございません」

再度、キムキーは深々と頭を下げる。

「何かあったのですか?」

あまりに不憫でいたたまれなくなって、レルが横から入ってくる。

「じ、実はでございますね・・・・

今回は、前回の戦いを参考にしてお二人の装備共に暗黒鉄を使用しようと成ったのですが。

その・・・ご準備を進めている新装備に在庫の殆どを使用してしまったため、

こちらの代用装備に回す余裕がなくなってしまいまして・・・

わずかな廃材や端材も全て使用することに・・・」

「・・・そこまで逼迫してるんですかぁ」

「皆様のご活躍により、神獣達に対抗する手段として暗黒鉄製の武器は大いに

注目され始めております。

すでに今までどこの工房でも研究所でも腐らせていた

在庫が世界中の軍部で買占めや奪いあいが始まっているようです。

我々も・・・純度が高い高性能の暗黒鉄の刃を付けられるよう努力はしていたのですが」

それだけ言って、キムキーは申し訳なさげに顔を伏せてしまう。

「と、いうことはカティルやロックの武器の進捗は?」

レルは不安げに尋ねた。間に合わせの代用品でこの品質だとするともしや?

「・・・ハイ、未だ満足のいく純度の暗黒鉄が必要分手に入らず、停滞しております」

一番痛いところをつつかれたとばかりに、キムキーは顔を伏せてしまい、上げられなくなっていた。

「・・・・そんな状況でこれだけの武器を揃えて頂いて、ありがとうございます

キムキーさん」

その姿に心を痛め、カティルは頭を下げた。

「痛み入ります・・・勇者様」

皆が黙り込んだ。しばし静かに沈み込んだ空気が漂っている。

「あの」

と手を上げて声を上げる一人の女性が割って入る。セシリアだ。

「なんですか、セルシアさん?」

「はい、セルシアです。

あの、その暗黒鉄とはそれほどまでに貴重な鉱物なのでしょうか?」

「え、ええ、そうですなぁ。

世界中で特定の限られた鉱床でしか取れないものでして。

その殆どの採掘場所は枯れておりますので、絶対数が増やせません。

現在、暗黒鉄鉱石ですら世界中から集めても、恐らくは

一億tも残っているかどうかですかなぁ」

「一億?それって凄く多くない?」

「そうでもないですよ、ユリ。

今のは製鉄されていない鉱石の話。

そこから製鉄されると不純物が取り除かれてさらに量が減ります。

そして武具だけでなく大砲の球など消耗品にも暗黒鉄を使用する

国が現れるようになれば、瞬く間に消費されるでしょう。

それに減りはすれど増えはしない資源というだけで

秘匿しようとする者が現れます。

私としても十分な量とは感じられませんね」

「そ、そんなものなの?」

横で聞いていたベロニカとしても、その一億というとんでもない数字と

暗黒鉄の重要性と需要の問題が今一つ掴めていないようだ。

「ええ・・事実、我々としても皆さんの武具の調整のために代用品の方にも

暗黒鉄の刃を十分に付けたかったのですが。

入荷が追い付きませんでした・・・」

そういってキムキーはまた暗い顔をするのであった。

それに釣られて、カティル達もまた神妙な面持ちになり、空気がグッと重く。

「・・・私、心当たりがあります」

「!?それは本当ですか、セルシア様!!」

キムキーは驚愕した。

「え、ええ・・・私の友人に錬金術師が何人かいるのですが。

その方たちが置き場に困っておりまして。

頼めばタダで譲ってくれるかと・・・」

「た、タダですと!?」

キムキーの目がこれでもかと真っ赤に血走る。

「よろしければ、私から今日中に一筆したためて連絡を取りますわ。

早ければ明日にでも、こちらに届けさせます。

何キロ御入り用ですの?」

「だったら、ひゃ・・いえ、あるだけ全て!

国家存亡の危機、人類滅亡の真っただ中の今、出し惜しみしておられませぬ!

報酬は私から十分な額をお約束いたしますので、

なにとぞ!なにとぞよろしくお願いいたします!」

キムキーは大いに歓喜して、セシリアの両手を握ってブンブンと振るう。

その場の皆、天から降ってきた天恵と信じて疑いもせず喜んでいた。

だがその様子をイツカとレルだけはとても怪しんで眺めている。

それはもしかしたら、地獄の底から這い出てきた悪魔の罠ではないかと

疑いの目を向けていたのだった。

遅ればせながら、皆さんあけおめです。

相変わらずの超低速更新でございますが、これからも読んで頂けたら幸いです。

ではまたノシ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ