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LIGHTNING EDGE-神々に挑む剣 -  作者: 金属パーツ
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三話 シーン1「キギクゴ戦 開幕」

「「ええええええええええええええええええええええええええ!?」」

イツカやレル、当の客人を除いた全員で声を上げた。

「こ、この人が、イツカのお母さん!?」

「すごーい若ーい!」

「イツカを見て、ご家族の人も美人だろうなぁとは思ってたけど、

まさかこれほどだなんて」

「これはびっくりしたなんてもんじゃねえぜ、びっくりしたぜ」

〈語彙力が足りない上にそれほど面白くないなそれ〉

声に出して教えてやりたかったが、そこはカティルもぐっとこらえた。

「肌お綺麗ですね!いったいお幾つなんですか!?」

「女の子に興味はありませんか!?」

「旦那さんとの馴れ初めはどんなでしたか!?てかどんな方ですか!?」

一気に部屋が騒々しくなる。

だがイツカの母親はそれに物怖じもせず、ニコニコと微笑みを絶やさずに

押し寄せる皆に向き合っている。

「はじめまして。わたくしがイツカ・カッツの母親のセ・・・

セルシア・カッツと申します」

セルシアは深々と一礼する。

「へえ、イツカの苗字ってカッツだったのぉ」

「今でも苗字を付ける風習のない国はあるから気にしなかったけど。

苗字があるなら教えてくれたら・・・あれ?カッツって・・・」

カティルはその独特な苗字に覚えがあった。

だが思いだそうとしてもしきれず、頭の端の方に引っ掛かる何かがあった。

「はい。賢者レル・ムックワーの友人でもあった先代勇者キッド・カッツと・・・

『元』聖女のセシリア・ウェルカーの子孫でございます」

「「えええええええええええええええええええええええええええええ!!!!????」」

またも全員で絶叫。

「知らなかったわぁ、キッド・カッツに子孫なんていたんだぁ。ユリ知ってた?」

ブンブンブンブンとユリは頭を高速で横ふりする。

「いえ聞いたこともなかったよ。うちもそれなりの家柄だから国中の公家や

旧家なんかの貴族の情報は叩き込まされるけど、カッツの家が残ってたなんて!

しかも今、更になんて!?」

「先代勇者キッド・カッツと現まお・・・」

言いかけて、ロックは口を塞いだ。

その言いかけたのを見て、セルシアは微笑みを必死に顔に残しつつ、

少し顔を曇らせる。

「一応、私どもの先祖を産んだのは魔王となる前のセシリアでして、

魔王の血筋というわけではないのですけど・・・」

それを見て、カティル達はグッと申し訳ない気持ちが湧いてくる。

そうだよな、今もセルシアの言葉を信じるとするなら、間違いなく今までも周囲の人々から、魔王の血筋と蔑まれ、もしかしたら迫害されてきたのかも知れない。

彼女の様子を見るに、勇者の血筋であるのにそうは扱われず、辛い日々を送って

きたのは明白だと思った。

セシリアの血のために、今のカッツ家は貴族たちにもその名が伏せられた禁断の

一族扱いになっている。

それならイツカが苗字を隠していた理由も全て説明がついた。

「・・・あの、レルさんはこの事を?」

おずおずとベロニカはレルに尋ねた。

レルはポリポリと頭を掻く。

「ええ・・・えと・・その・・・確かに、イツカがキッドの子孫かもと感じたことはありました」

「以前の大戦の時、レルさんはイツカの先祖が産まれたことを知らなかったんですか?」

「ええ、知りませんでした。確かにあの二人は恋仲でしたが、前の最終決戦の時には未だセシリアのお腹も目立っていませんでしたし。

私達と離れていた一年足らずの間に産んでいたんでしょう。

だから五年前にとある筋からイツカを任された時、

『貴方のよく知る方の血を引く子です』と言われたから何となく引き取ったのですが、あまりに面影があったので驚きましたねぇ」

「へえ・・・」

カティルはしみじみとそう呟いた。

今の短い話だけを聞いても、カティルには関心が向く話ばかりだった。

イツカとレルの関係が五年続いていることもそうだし、誰がイツカをレルの元へ預けたのか、

気になった。

「その節は、ムックワー『先生』には大変ご迷惑をおかけしました」

セルシアは、レルに向けて頭を下げた。

「えっ、先生?」

それに対してレルが一瞬、素っ頓狂な声を上げる。

「はい、もう私が先生の『弟子』として学ばせて頂いてから、20年という月日が流れましたが。

将来的に勇者パーティーの一員として運命に抗い戦うための力を得るためには、

先生の元へお預けするのが最適と思いまして。

ですが、先生もご存知の通り、今のカッツ家は現魔王の血筋でもあると迫害され、

カッツ家の現当主だった主人の元へ嫁入りしてからはレル先生に会いに行くのも

憚られるほど。

それでもなんとか手を尽くして先生にお預かり頂いて、娘をここまで鍛えて頂けたこと、このセルシア・カッツ・・・嬉しく思いますわ」

セルシアは、じゅんと瞼に涙をあふれさせてそう訴える。

次々と怒涛のように明かされる話に、周囲は固まってしまう。

(・・・・なるほど。そういう『設定』で行こうという話なんですか貴女は)

レルは誰よりも早くその身を動かすと、セルシアへと歩み寄る。

そして少し躊躇いもしたが、そのセルシアの両肩に手を添えた。

「ええ、ええ・・・辛かったね、セ、セルシア。

君が私も元を離れてからまさかキッドの子孫へと嫁ぎ、こうしてイツカくんが産まれたという奇縁には驚かされましたが、あの子と出会えて、私も嬉しく思います」

「・・・せんせぇ」

目を潤ませて、セルシアは顔を上げてレルを見る。

少し気を持ち直したように見えると、レルは足早にセルシアから離れる。

「それで、君は今回、どういった事情でこちらに来たのですか?」

多少強引な切り口で、レルは尋ねる。

「はい・・・これも魔王の子孫と揶揄されてきた主人と先祖のキッド・カッツの

汚名返上のためにも、私も勇者パーティーの皆さんに協力ができるのではないかと

思い、参上いたしましたの」

「!?・・それは!」

「わたくしも、勇者様たちのサポーターとして、しばらく同行させて頂きたいのです」

「そんなの!ダ・・」

「良いじゃないですか!」

何か否定的なことを口にしようとするイツカを遮って、カティルが身を乗り出した。

「カティ!?」

「良いじゃないですかイツカ!レルさんも・・・キッド・カッツはそれ以前の

勇者達にも負けない立派な勇者だった!!レルさんもそう言ってたじゃないですか!」

「それは、そうですが・・」

「そんな勇者の子孫が、現魔王の元となった女性の血を引いているというだけで

迫害されて苦しんでいる。

しかもそんな苦しい日々の中でも、善意で俺達に力を貸してくれようとしているのを黙って見捨てるなんて、俺にはできません!

だから、良いでしょうルーさん?」

勢いに任せてカティルがギルド長のテーブルに手を付き、グッと身を乗り出して

ルーにその顔を近づけた。

「はい、構いません。セルシア・カッツさんに至ってはとうギルドにも調査報告書が提出されていますし。

その思想、人格、実力に至るまで文句なしとあります。

中心的な戦力とはいきませんが、勇者様方のサポーターとしてなら、問題ないかと」

「ヤッター!」

隣りでベロニカが飛び跳ねた。

皆にも徐々にその喜びは伝搬し、笑顔が浮かび始める。

ただ、レルとイツカの二人を除いて。

「・・・思想と人格も問題なし?」

静かにイツカは母親の顔をジーっと見つめていた。

「ウフフフ」

〈仕込みは万全よ、イツカちゃん)

ハートマークでも浮かび上がらせるようにして、セルシアは満足げに笑っていた。


「でへへへ、すいませんねセルシアさん。狭くて肘がぶつかってしまってげへへ」

みんなで長いソファーへと場所を移し、エルザが地図を広げる。

今回はカティル達男性陣3人とルー、エルザでソファー一つ。

残りの女性陣4人で反対側のソファーに着いている。

所がユリの奴、そこそこに隙間があるのに狭いふりをしてセルシアに肌を寄せ、

その肘や腕でセルシアのたわわをつついていた。

「いえいえ、多人数ですもの。お気になさらず」

だがセルシアは笑顔でそれを許していた。

話は本題に移る。今回のエッグの落着地点についてだ。

「今回のエッグ出現ポイントですが、このキングスランドです」

故に今回用意された地図はこの国を描いた地図のみであり、世界地図は省略されている。

「場所は?」

「ウェスト・クシャーユ州の都市エプンホルの近くです。そこにある農村の周囲にある林に落下が確認されました」

「エッグの炎は?」

「目撃者の証言によると、黄色だったと・・・」

「大変だ、急がないと!」

素早く顔を上げたカティルは、踵を返して地下の武器庫へと先走る。

他の仲間達も後に続いた。



コツコツコツコツ

タッタッタッタッ

相変わらず何人もの職人がこの地下武器庫を行き交う。

それを壁際から、イツカは無言でジーっと眺めている。

そのすぐ隣りの近しい所に、レルが立っている。

二人とも武具の損傷が殆どなく、他の仲間達の武器の受け渡しや解説を

受けているのを待っていた。

レルの反対の横には、母のセルシアが立っている。

だがレルと違い、セルシアは三人分も四人分もイツカと距離を離れている。

というか、イツカがセルシアと距離を取っているのだ。

それだけこの二人には何か確執が、心の壁があったのだ。

「ニコニコ」

だがセルシアはそれでも今までと比べ物にならない程にイツカの近くが居られるのが嬉しいというように、気にせず笑顔を浮かべていた。

そのある意味、異様な並び方の三人を通り過ぎる従業員達は興味深げに

チラリチラリと横目で見ると、気づかれまいと足早にスタスタと

通り過ぎていく。

「・・・レルさん」

イツカは僅かにレルの顔を見上げると、また視線を正面に戻す。

その小さな呼びかけが何かを感じ取ったレルは小さくコクンを頷いた。

「きたれ静寂 遠ざけよ魔を 闇の帳よ我らを包み 一時の安らぎを与え

たまえ・・・シーキングベール」

レルの発動させた魔法が三人を包む。

認識が阻害され、外に音も漏らさず、魔力の低い物には接触することもできない

空間を作り出す。

「あらら?」

何が起こったのか分からない、というようにセルシアが首を傾げる。

イツカは初めて向きを変え、母を真っ向から見据える。

「・・・さあ、全て答えてもらおうかしら?

何のためにここに来たの?教えてもらうわよ母さん・・・・いえ

魔王、セシリア・ドラコー」

今までと口調が違う、たどたどしくもなく噛みもせず、流暢な喋りでイツカは

母に問いかけた。

それを受けて母は、魔王は微笑むのをいったん止める。

そうしてうっすらと目を細めるようなうすら笑いが消え、その両方の眼を見開いた。

独特で美しかった翡翠色の瞳、それが色が変わり、鮮血のように真っ赤な

ルビーのように輝く瞳がイツカとレルを睨んでいた。




ここで一旦、話は遡る。

それは四日前のこと。

カティル達が大神バルズタースと対峙していた時、イツカとレルは

たった二人で神獣キギクゴの討伐を為さんと動いていた。

「ふん!」

キギクゴを捕らえていたバインドの鎖を大きく振り回し、レルはキギクゴを

ここを決戦の地とした空白地帯に向けて叩きつけた。

「ぎっ!・・・ギルル!ギッ、ギッギイイイイイイイイイイ!!」

鎖に絡められ、手足も動かせないキギクゴが地面を転がる。

その間に鎖が解ける。キギクゴは己のハサミを地面に突き立てて回転を止める。

だがその衝撃が応えているのか、足を滑らせるようにして体勢を崩した。

「ぎ・・ぎ・・ギルギルギル、ギギギィ・・・」

それを見て、イツカとレルも着地する。

「逃がさない・・・ここで決着をつけるよ、レルさん」

どういう理屈か、イツカの口調が途端に流暢になっていた。

イツカは二振りの剣を抜き、構える。

「サポートは任せなさい、イツカ。存分に『力』を使ってください」

レルもまた杖を両手でしっかりと握り、次の魔法発動に備える。

「・・・任せて、レルさん」


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