二話 シーン9「フェニックス・パウダー」
その日、ある男は夢を見ていた。
それはとても懐かしく
それはとても気恥ずかしく
それは時に輝いていて
それは時に濁っている
それは確かに幸せな日々を描いているはずなのに、何故か目を反らしたくなる
それは確かに辛い日々を描いているはずなのに、何故か目を反らせない
それは一人の少年の夢。
ただし、それは本当にその少年が見てきたのか、体験してきたのか不確かな夢。
だってそうだろう。
その夢は、その少年が生まれるよりも前から始まっているのだから。
その少年が生まれた年、全ての国々で生まれた赤子が検査を受けた。
部族、人種、宗教を超えて行われたその検査によって、人々は今代の勇者を探していた。
その年その月に生まれた子の中には、今代の勇者となるべきと定められた
運命の子が生まれるはずだった。
やり方は簡単だ。
その産まれたばかりの赤子の片手を小さく傷をつけ、
聖水を溜めた湯船に浸すのだ。
やっと産み終えて幸せに浸っていた夫婦はいずれも、その行いに恐怖を抱いた。
耳に響く赤子の絶叫、羊水や粘膜が取れてやっと綺麗になったその肌が赤く染まる。
そんな夫婦が抵抗を見せようとすると、神官は一喝する。
「これは救世の勇者を探すための神聖なる儀式である!」
どの夫婦も引っ込まざるをえなくなる。
そうして何千、何万という赤子を血で汚した先に、一人の赤子に反応が見られた。
「おお・・これは・・・」
そのとある赤子が血塗れて、聖水につけられた途端に奇跡が起きた。
その赤子の傷が瞬間的に癒えて、その片手に光り輝くアザが浮かび上がったのだ。
「見つけたぞ!見つけたぞ、この赤子こそが忌まわしき神々が遣わした今代の勇者である!」
これが本当に彼が体験してきたことか不確かで、現実的でない話と感じる根拠である。
『忌まわしい』と『勇者』
なんだってこの二つの相反するワードが一緒に使われなくてはならないのか。
だが、彼は事実そうなってしまった。
この神と敵対する定めとなったこの世界で、『ライトニングエッジ』と
『紋章』の力をその敵対者たる神から授かっている、数奇な存在。
神々のゲームの駒。
それが少年『カティル』だった。
彼が農家をしていた親元で暮らすことが許されたのは、五歳の誕生日を迎えるまでであった。
キングスランドの騎士達が直々に迎えに来たのだが、その顔ぶれはカティルの
両親たちが一生縁のないと思われていた高位の貴族であったと、後に聞かされた。
「カティル・・・ここでお別れだ。向こうでは皆と仲良くするんだぞ」
「母さん達も、貴方が、立派な勇者になって世界を、救ってくれることを・・・・祈ってるわ」
夢の中だからか、両親の顔にはモヤがかかって見えづらい。
記憶だと、父は無理に笑顔を作っていた気がする。
母は悲しみを抑えきれずに泣いていた気がする。
『ここでお別れ』
父のこの言葉を理解することになるのは、もう数日が経過してからのことだ。
カティルはその後、直ぐに賢者レル・ムックワーの家へと送られた。
それから13年、彼は勇者としての技量を身につけるために過酷な訓練の日々を送ることになる。
「やあ、君がカティルくんだね?
よろしく、私が君の師となるレルだ」
レルはカティルを温かく迎え入れてくれた。
だが、カティルにとって、まだその己の運命に向き合うにはあまりに幼すぎた。
未だに忘れられない、レルのもとに来た最初の夜。
幼い彼はあまりの孤独に泣きじゃくってクズりだしてしまう。
なんで なんでかあさんが どこにもいないの
おかあさんのごはん たべたい
おかあさんに だっこしてほしい
なんでおとうさんも いないの
おとうさんに あたまをなでてほしいのに
ねるときも いっしょにいてほしいのに
さびしいよ さびしいよ さびしいよ
さびしいさびしいさびしいさびしいさびしいさびしいさびしいさびしいさびしい
つらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらいつらい
こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい
いやだ いやだよ!
「こんなとこいたくない!おうちかえる!かえしてよ!かえしてよ!
ぼくゆーしゃやだ! ぼくゆーしゃやだ!
ぜったい、ゆーしゃになんてなりたくない!おうちかえりたい!!」
そう叫び散らして、カティルは泣いて暴れた。
するとそこへ、一人の少女が歩み寄る。
「まったく、うるさいわね
そんなにビャービャー泣くんじゃないわよ!みっともない!!」
優しく慰めようという周囲の大人たちに対し、あえてというか
子供特有の単純さと幼稚さからというか。
その少女はひどく声を荒げ、カティルを睨みつけて叱責したのだ。
少女とは、同じ村出身で勇者の仲間候補として選ばれたベロニカだった。
「あんた、おじさんとおばさんのところから出るまで
『ぼく、ぜったいに勇者になるからね。とうさんかあさんまっててね』って言ってたくせに。
ひとばんでそんなになるなんてイクジないわよ、カティ!!」
「・・・ぐすん、ぐすん、ベル・・・だけどぉ」
べチン!
幼きベロニカは無言で、唐突にカティルの顔面にビンタを叩きつけた。
「泣き言いうな!バカティル!」
そして更に唐突に、ベロニカは座り込んでいるカティルをギュッと
抱きしめたのだ。
「辛いのは、寂しいのはアンタだけじゃないわよ。
でもアンタ、一度はおじさん達に、勇者になってガンバるって、
約束したでしょ?」
「・・・・うん」
「だったら、負けないで。いっしょにガンバるわよ。そして一緒に勇者になるの。
わかった?」
「・・・うん」
「わかったんならいいわよ・・・」
それからベロニカは黙って、カティルをしばらく抱きしめ続けた。
彼が落ち着いたと感じるまで、お互い抱き合って固く離れなかった。
カティルは周囲の大人たちとは違う、両親たちとも違う、
ただ自分のためにその身全てで温めてくれるそれが、なんとも心地よかった。
忘れようとしても忘れられない、きっと彼にとって一番の幸せのひと時だったかも知れない。
そうしてカティルは次第に緊張が解れたからなのか、次第にまどろみの中へ落ちていく。
「・・・・ん・・・んん・・・」
そして夢の中で眠りに落ちたと同時に、現実世界へと彼は帰ってきた。
彼の精神はゆっくりと覚醒し始めて、瞼を開く。
「・・・・・」
起き上がり、周囲を見回す。
ベロニカの姿はない。自室にいるのは自分一人だけで、部屋は実に整っている。
そうしてゆっくりと昨夜のことを思い返す。
夢のような体験になるはず、だったんだけどなぁ。
飲酒した翌朝みたいに、昨夜のことが上手く思いだせない、
などということはなく。
実に正確に、はっきりと、思いだしてしまえるんだから残念過ぎる。
「・・・・はああああああああああああああああああああああああああああ」
長く深いため息。
〈なんだよアレ。イツカは嗅いでも舐めても平気だったのに、
なんでベルだけ・・・
いや、もしかしてイツカがレアなだけで、世間一般の普通の女性はベルぐらいのが当たり前なのか?〉
カティルの経験人数は実質、ベロニカ含めても二人である。
ゆえにあらゆる比較対象はイツカしかない。
〈ベルのアレが普通の女性の平均だったりするのか?・・・え?まじなのか?〉
リピート回想
〈閲覧注意のため省略〉
回想終了
「・・・・・どうしよう、俺は乗り越えることができるんだろうか」
〈いかん、変な妄想がグルグルと頭の中に渦巻いて溢れ出してくる〉
『やだ、カティなんか嫌いよ』
『そんな・・・』
『この間、新しい運命の人に出会ったの。この人ったらカティと違って優しいし、
イケメンだし、私を嗅いでも平気だったのよ』
『やあ、君が勇者くんですね?こんなにステキな香りのする女性を辱めるなんて、
君は男として本当に最低ですね。これからはベロニカさんはボクのものです』
『なんだって!?』
『これからは彼女は僕とコンビを組んで戦うんです。そして彼女の口も胸もワキもお尻も僕のモノです』
『じゃあね、バイバイ。勇者さまー』
『そんなこといわないでくれー捨てないでくれー〈泣』
すかさず別の妄想も湧いてくる。
『べ、ベル。最近は部屋にいないみたいだけど、どこに行ってるんだよ?』
『はあ?そんなのアンタに関係ないでしょ』
『アンタって・・・』
『どうでもいいでしょ!私は私で楽しめるところ見つけたの。だからほっといて!』
『おやおや、騒がしいね。いったいどうしたの?』
『ユリ?』
『お姉さま・・』
『えっ、お姉さまってそれ・・・どういう』
『言葉通りの意味よカティ。私とベルはね、今はそ・う・い・う関係な・の』
ユリはそっとベロニカを抱き寄せる。ベロニカは特に抵抗する様子もなく、
安々とユリに肌を寄せた。
『ごめんね。どうもアンタといるより、ユリお姉さまといる方が、なんていうか。
幸せをいっぱいくれるから・・・』
『そんな・・・』
『ほら、悪いけどそろそろ退散してくれない?これから私とベルは、
ゆっくりと愛し合いたいの。
男なんかに見られたら迷惑なんだけど?』
『ま、待ってくれよ!そんな俺・・・嫌だ。
いいいいいいいいやああああああああああだあああああああああああああ!!』
そのまま為す術もなく、妄想の中のカティルは絶望の渦の中に飲み込まれ、
精神を底の底まで吸い込まれていくのだった。
「イヤだ・・・嫌すぎる」
そうして更に時間を消費して、彼は現実へと戻ってくる。
カティルはその良くない妄想の波の中で、一つの答えへとたどり着いたのだった。
カチャン
カティルは自ら部屋を出る。
もう大分高い所までお日様が昇っているが、朝食用で何か貰えたら有難いのだが。
そう思ってカティルは下の階へ降りようとしていた。
すると、逆に階段の方からこちらへ近づいてくる一団がある。
「おお、カティじゃねえか。やっと起きたのか」
「ロック・・・」
その中心にはロックがおり、その周囲には三人の女性達を侍らせていた。
「何があったんだ?イツカ達からは理由は聞かないでって言われたけどよ、
喧嘩か?」
「いやぁ、そういうんじゃなくて・・・さ。その、
そのまま聞かないでくれたら嬉しいっていうか・・・」
「何だよ水くせぇな!俺達チームだろ?女関係の話なら、俺だって相談に乗れるぜ?」
僅かに目を吊り上げて、ぐいっと一歩踏み出してくるロック。
するとその両サイドから二人の女性がそれを制止する。
「まあまあ、お待ちくださいませ、ロックさま。勇者様にも事情がおありだと、
ペシェは思います」
「そうだよロック。何とかは犬も食わないっていうし、自然と解決するか
相手から相談を持ち掛けられるの待とうよ」
「お、おう・・・そういうもんなのか?」
やけにあっさりと身を引いてくれたロックに、いたたまれなくなったカティルが先手を打つ。
「そんなことよりロック。誰なんだよそのお嬢さん達は?」
「ん、こいつらか?なんていうかコイツらは・・・あれだ。
今の俺の嫁?」
言われて、連れの三人がほんのりと赤面した。
〈今こいつ・・・今のとか言ったか?〉
瞬間、カティルの心に嫉妬の炎が燃え盛る。
「じゃあ簡単に紹介させてくれ。ます、コイツ、ペシェは知ってるよな?
んで、コイツらは初対面だろ。こっちがヒルダ」
ロックはペシェと反対側に立つ女性を指さした。
「どもどもー。私がヒルダでーす。年齢はーナイショー。
今、フェアリーキッスってお店でマッサージやってまーす。
好きな食べ物はチョコレートでー好きな男性のタイプはーロックみたいな逞しい系のデカ●ン系でー寂しがり屋な人でーす」
先ほどロックを抑えていた片割れだ。妙にクドクドとハイペースで喋るが、
不思議と耳を疲れさせない。その砕けた口調は、親しみさえ感じさせる。
夜の接客業をしている嬢としては、非常に熟練のそれを感じさせる。
ロック流でいう所の「良い女臭の強い女」という感じがした。
「んでこっちが最近仲良くなった、ベルガ」
いいながら、ロックは自分のやや後ろに立っていた女性を指さした。
だがその扱われ方が気に食わなかったのか、やや眉を引きつらせたのが見えた。
「初めまして、勇者様。拝謁の機会を頂いて恐悦至極でございます。
ワタクシ、バルデス男爵家の次女、ベルガモッテ・バルデスと申します。
以後、お見知りおきのほどを」
「ぶううううううううううううううううううううううううううううう!!!?????」
間を置かずに、カティルの口から大量の唾液がジェットのように噴出した。
「おいロック!この人ってまさか・・・」
「うん。お前の想像通りだ。三年前に良縁あって結婚したけど、その性格難と
潔癖が災いして去年、石女と揶揄された末に離縁を言い渡されバツイチが付いて、
現在絶賛部屋住み扱いになっている『氷結の貴婦人』の、ベルガモッテだ」
「やっぱりか!?長々とした解説ありがとう!てかそこまで堂々と明かすの、
俺もどうかと思うぞー!」
つまる所、『子孫繁栄』目的で嫁に出たはずなのに、旦那に対して
「私に触れないで!」したために離婚させられ、実家で半ば軟禁生活を
言い渡されたはずのご婦人がここにいるという訳だ。
そこまで大っぴらに言っていいの?という点も含めて二度ビックリなわけだが。
個人情報保護法など、この世界には存在しない。
いうかどうかは当人のモラル次第である。ロックにモラルを問うのは愚問だ。
魚にお箸の使い方を教えられるか?と同じぐらい愚問だ。
「ちょっと愚民!勇者様のたかが従者風情が、どこまで私を辱めるのですか!?」
一瞬間が開いてしまったが、ベルガもまたロックの言い草に思う所があったのか、
怒涛のバッシングが始まった。
「あまり人目に触れずに部屋に入れると聞いていたのに、よりにもよって
かの勇者様に見つかるだなんて!
ワタクシ、これでも実家から死ぬような思いをして抜け出してきたのですよ!
それをさも得意げに人の憚られる所を言いふらすようなことをして!
分かってますの愚民!?」
〈愚民愚民というが・・・家の格としてはバルデス家よりもバングスター家の方が上の筈なんだけどなぁ。
もしかしてそういうプレイなんだろうか?〉
「おいおい落ち着けベルガ。機嫌直せよ」
「はうっ」
ロックは片手で強引にグッとベルガを抱き寄せた。そしてその手をそっと下へと伸ばす。
カティルの方からは分かりづらいのだが、ベルガの背中の方に回っているロックの片手は、確実に腰よりも下の部位に触れ、強引に握るように揉んでいた。
「急かさなくっても、そろそろ行くさ。だから落ち着けって」
ロックは空いた手でベルガの顎を掴むと、自分に視線を向けさせた。
そしてひとしきり見つめ合ったかと思うと、ベルガはほんのりと頬を染めて、
静かにコクンと頷いた。
どう見ても調教の進んだド●ゾと言った雰囲気で、ロックに良いようにあしらわれる姿に、カティルはまた妬ましくなっていた。
「じゃあな、俺らそろそろ行くわ」
ロックは自分の部屋の扉を指さした。
「お、おう。女遊びもほどほどにな・・・」
そう言って見送ろうとしたカティルの両方の肩に、ロックは手を置いた。
「お前がいうな」
グッと顔を近づけてきた。その時のロックの顔は何故か温かく優しかった。
〈ん?今の・・・どういう?〉
カティルには自覚がなかったのだ。
ロックと違い、二股をかけてその両方に手を出しているカティルもまた、
周囲からはロックと大差ない遊び人〈クズ〉に写っていることに。
そうしてロックと別れ、カティルは一階のフロントロビーへと移る。
ここにエレニーでもいてくれたら、食事のお願いでもしようかとおもったのだが、居たのは一般スタッフが店番をしているだけだった。
仕方ない。この時間の食堂は一般にも開放されていて慌ただしいのだが、そちらで頂くか。
「あら~、カティル様。どうしましたかぁ?」
「ああ、エレニーさん!丁度良かった」
「今日ものんびりさんですね。何か御用ですか?」
「あの、その、お腹が空いたので、遅れたけど朝食の用意をお願いできないかな・・・と」
言われて、エレニーは自分の手をぱちんと叩く。
「ああ、それなら!厨房の係の人に『カティル様の分は夕方まで残してあげて』と伝えてあるわぁ。
行ってごらんなさぁい?」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「いえいえ。ああ、ついでに今日、ギルドからの通達も来ていたので、
それも受け取ってねぇ」
〈えっ、休みは今日までって話では?〉
そうして人で賑わう当ホテルの食堂で食事をとり、その通達を受け取り、さらっと目を通した。
それは別に休日の終わりを告げるものとかいうのではなく、短い一行。
『直接会ってお伝えしたいことがあります。今日中に中央ギルド館地下倉庫までおいで下さい』
バリザドレ刀工群 代表 キムキー・ニークより
カティルはすぐさま、中央ギルド館へと向かった。そうしてすぐに地下倉庫へと急いだ。
「おお、勇者さま。お早いお着きで」
直ぐにこの倉庫の管理者兼装備設計主任のキムキーが出迎えてくる。
「どうも、キムキーさん。緊急の要件かと思って自分だけでも先に来たんだけど、何があったんですか?」
「さようでしたか。いえいえ、まあ、確かに素晴らしい情報が入りましたので、
早くきてもらう分には悪いことはありませんが。
急かしたようで申し訳ありません」
「いえいえ、そんな・・・で、何がわかったんですか?」
キムキーは少し勿体ぶるかのようにフフフっと笑ってみせる。
「実はですな、分かったのですよ!例の粉がいかなる物か!」
〈例の粉・・・というと・・・〉
「あの俺達が敗れた後、ロックが持たされていたっていう袋の中身?」
「そうです!それですよ!!さあこちらへ!」
カティルがキムキーに案内された先にあった作業机の上には、例の粉が移された
瓶がポツンと置かれていた。
キムキーはそれをおもむろに掴むと、カティルに向けて見せてくる。
「この粉の名は、ずばり!フェニックスパウダーということが分かっのです!!」
フェニックスパウダー。それははるか昔に存在していたとされるが、有史以来、
誰も見たこともなかった幻の物質。
その粉には不死鳥の如き成分が含まれ、この素材を混ぜて作った装備は
どれだけ折れ、欠け、錆びようとも、一握りの灰を振りかけて炙るだけで全て
元通りに修復されると言い伝えられている。
「これさえあれば、今後の勇者様達の戦いがどれだけ過酷になっていったとしても
軽々と修繕することができるということなのですよ!」
そう力説するキムキーの瞳はまるで少年のように輝いていた。
「へえ、だったら、明日からの戦いはこれでばっちりてことですね?」
しかし、同様に目を輝かせるカティルを前にして、キムキーの顔が曇った。
「いや、それはさすがに・・・。
このパウダーを使った新装備が完成するまでもう幾日か猶予を頂きたく思いますので、また一月ほどは、うちからのレンタル品を使って頂きたいと・・・
その・・・」
「ああ、そうですか」
ところかわって、ここはベロニカの部屋。
部屋は白を基調とした飾り付けが成され、机や引き出しの上には小売店を回って
収集した小さく可愛らしい動物の置物や小物が並び、ベッドの上の枕元には、
手製のカティルくんぬいぐるみが配置されている。
そのベッドの上で、一日中ベロニカは寝そべっていた。
「かてぃ・・・かてぃ・・・かてぃ・・・わたしのって・・・そんなに・・なの?
わたし・・・勇気を出して・・・ようと・・・した、のに・・・なんで・・・」
ベロニカもまた、朝のカティルのように昨夜のことを引きずっていた。
だが、こちらの場合はカティルと比べて非常に深刻であった。
その眼は暗闇に染まり、穴が空いたようで、口は縦に開いて閉まらない。
それはまるで土偶やハニワのようであり、その精神もまた暗闇の底でたゆたっているのだ。
「・・・かてぃ・・・かてぃ・・・わたし・・・どうしたら・・・」
もう涙も枯れ、その声には悲しみを含めたあらゆる感情が抜け落ちている。
と、そんな時。
勢いよく扉を開けて入ってくる者が在った。それはイツカだ。
「ベル!生きてる!?起きて!」
彼女は無言で部屋に乗り込んでくるなり、ベッドの上でベロニカを起き上がらせると、その肩を揺らす。
バシーン!
それでもダメだと思ったら、イツカは容赦なくその顔面にビンタをお見舞いした。
「・・・あれ?イツカ・・・?」
「ベル!気が付いた、ら、私のはな、し、聞いて!!」
「はなし?」
「そう!これから作戦会議!カティにたっぷりとフクシュー!!思い知らせてやる、の!!」




