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LIGHTNING EDGE-神々に挑む剣 -  作者: 金属パーツ
20/45

二話 シーン5「昼食」

はい、目標としては一週間に一度投稿を夢見ていますが上手くいきません。

24/07/15

誤字修正 加筆

「・・・お、おわった・・・」

もう精も根も尽きた。

空は既に暗く、薄雲がかかっており、今晩は星も見えない。

そんな外の景色と同じようにどんよりとした暗い眼をして、

カティルは天井を眺めていた。

あれから、イツカの激しいシゴキは続いた。

少しでもマスクウォリアーを知ってほしいと、無理矢理に漫画版だけでもと

読破するように強要された。

食う間も惜しみ、日が暮れても漫画を読んだ。

一巻読むごとに意見交換会が催され感想を求められ、気に入った台詞を一つあげることを求められた。

〈もうあんな思い沢山だ・・・好きになりかけた漫画という娯楽がトラウマになりそう〉

ふいに視線を左右振ると、右側にいたベロニカは楽々と原版20巻を読み終え、

壮大な達成感と満足感を抱いて、カティルより数刻早く、スヤスヤと寝息を立てている。

対して左側にはイツカが座しているのだが、彼女はカフェインを過剰に摂取したかのように目をギラつかせ、カティルに貸していた漫画版を読み返している。

マジでタフだな、と感心させられる。きっと貫徹する勢いである。

だが自分の時間に集中するということは、周りから意識が離れているということ。

ああ、やっと自由睡眠の機会を許されたんだな、とカティルはホッとした。

そうして深い眠りにつくのであった。



そうして朝、というかたっぷり寝過ごして、目が覚めた時には昼。

お天道さんが空の丁度真ん中から最も明るい輝きをもって地を照らす頃合い。

「さて、そろそろ行きますか」

目を覚まして軽く伸びをし、その日をウンと満喫しようと心に誓って三人は

ノロノロと外出の支度を済ませ、いざ扉を開く。

まだ劇場の開演までは時間があった。

この世界での劇場といえば、朝の部と夕方の部、そして夜の部の三回に分かれており、イツカが入手したチケットは夕方からの部だった。

「お腹、空いた・・・」

「何食べよっかぁ?」

「ササッと食えるのがいいなぁ」

「イツカも、同意」

「じゃお店の中に入るよりも出店で片手で食べられるものが良いわねぇ。

それをその辺で・・・」

「わんっ!」

ふいに子犬の鳴き声のような何かが聞こえてくる。

丁度、カティルの部屋を出て、隣にあるロックの部屋の前を通りかかった瞬間だ。

「わんっわんっわんっわんっ!」

ドアの向こうから何やら良く響く声が聞こえてくるのだ。

たまらず足を止めるカティル達。

「わんわんわん!ロックしゃまぁ、ぺ、ペシェのワンワン尻尾、グリグリらめえ!

んんっ!シッポ、尻尾ジュボジュボしゅごいいい!!アソコもお尻も同時になんて

らめえ!!バカになりゅ!壊れまひゅ!も、戻らなくなっひゃいましゅ!!」

〈なにやってんだアイツら!?〉

ペシェって、ここで働いてるあの小柄なペシェだよなぁ。

ロックと付き合ってる様だったけど、この扉の向こうでどんな光景が広がってるというのか。

「ハヒィ、ハヒィ・・ヒグッ!ごめんなしゃい、ごめんなさいロックしゃまぁ!

でも、もうお腹にひから、入らな、れしゅ。もっと締めろって・・?

む、無理れ・・・んぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!」

パンパンパンパンパン!!!

〈・・・こ、これは・・・ひどい〉

何の言いようもなくただ、三人はその場で立ち尽くし、その音に聞き耳を立てた。

いったいどれだけのハードプレイが展開されているのか想像もつかない。

それ以降聞こえてくるのは、わんわんわん、おんおんおん、

イグイグイググ!ダメ、死ぬ!壊れちゃう!など、普通の情事の時には聞かれない

ワードが続いていた。

カティルは〈ごくり〉と喉がなる。

ついつい、その部屋のドアノブに手が伸びてしまう。

そうして回しかけた瞬間、ガシッとその腕がベロニカに掴まれた。

「ほら、カティ、そろそろ離れる」

「邪魔、よくない」

反対側の腕はイツカによって囚われて。

カティは声を発することもできず、女二人がかりにズルズルと引きずられてその場を後にした。



そして外に連れ出される。

場所はここバリザドレ内にある、西側港区と南側商業区の丁度境目にある、

サウスウェスト通り。

港で降ろされた荷を素早く運ぶために、この街では

 /北工業区

港--中央ギルド館

\南側商業区

この様な形で大きい道路が伸びている。

その内、カティル達が向かったのは港と商業区を真っすぐ結んだ大通りであり、

ここは中央に馬車が二台行き交えるほどに大きな車道が通り、その両端に人が

十分歩けるだけの歩道が整備されている。

港から降ろされた積み荷は素早くこの道を通って運ばれるのである。

そしてもう一つ大きな特徴として、この通りそのものもまた、多くの飲食店や

雑貨を扱った小物屋が立ち並んでおり、誰もがこの通りにやってくるのだ。

カティル達三人もまた、そうして食事目的でこの通りの一件の店に立ち寄る。

そこは立ち食い席も用意されたバーガーショップであった。

三人はそれぞれ、自分の好きなメニューを注文して、客でごった返す店内席を

利用することを諦め、円形のテーブルのみが数本置かれた外に出ることに決めた。

「あー腹減った」

カティルは定番メニューの中で一番大きいサイズとされるスペシャルバーガー

〈バンズの間にパティ二枚、チーズ三枚、エッグとレタスとトマト、ソースは

ケチャップとマヨネーズ〉とポテト、そして黒色炭酸水「クーロ」という飲み物を注文。

「うん、バッガ、久ぶり、興奮、止まらない。早く食べたい」

イツカといえば、普通のバーガーをドドンと10個も注文していた。

それはバンズの下の段からパティ、チーズ、オニオン、ケチャップとマヨネーズをかけたシンプルなもので。

サイドメニューは甘え、バーガー屋に来たらバーガーを食え!という栄養バランスもクソもないカロリーの破壊神と呼ぶべきチョイスがそこにあった。

ドリンクはオレンジジュースを注文している。

「見て見て、カティ。これ、なんだか分かる?」

イツカはおもむろにバーガーの包みを一つ外すと、それを両手で持ってみせる。

所が不思議なことに、それを持つ右手の小指と薬指だけを離して持っている。

「ああ、それって昨日見たやつに在ったわね」

「確か、『バドラック伯爵邸の恐怖』に出てくるキャゼルヌ夫人を匿っていた時、夫人が庶民の食べ物に興味があるって言うから連れてって、その持ち方してたんだよな!」

その何気ない所作一つで三人は大変に盛り上がった。

「あら、わたくし、何か礼を失することでもしていましたか?」

とイツカが口にすると

「いえいえ、ミセスキャゼルヌ、お気になさらず。

ただ、貴女の立てたお指に皆が見とれているのです」

とカティルが返す。

「あらら?そうだったん、ですのね、お恥ずかしい、ですわ・・・キャッキャ」

そのキャッチボールが見事に完成したのを感じて、イツカはぴょんぴょんと

飛び跳ね、バーガーの一つにかぶりついた。

「ほらほら、がっつぎすぎよイツカぁ。そんな食べ方だと、隙間から零れた

ソースで服汚れるじゃない」

やれやれと、口元を汚して頬張るイツカの姿をベロニカは眺めていた。

「・・・なあ、ベル?お前本当にそれ食うつもりか?」

「ん?そうだけど?」

何を意味不明なことを聞いている?というように、ベロニカは聞き返してくる。

その体の半分を高く積み重なった何かの影が被さり、隠している。

「えっと・・・ベルの注文したソレってなんてメニューだったっけ?」

「え?ただの、レタススポムエッグスポムトマトスポムスポムスポムフィッシュ

フライスポムケチャ増しスポムエナジーチャージスポムヘルスポムダイナマイト

スポムさてここでスポム何回目?スポムセンチュリースポムヘブンタワー

スパムバーガーだけど?」

やべえ、覚える気にも成らないし覚えられねえ。

スポムというのは、ランチョンミートとかいうソーセージの仲間だったかな?

それをそんな合間合間に?

そしてその天を見上げる程の高さまで積み上げられたベロニカのバーガーは既に、

食べ物と呼ぶにはあまりに誇らしげで雄々しさすら感じられる見た目で。

まるで大神殿の柱を思わせ、ずっしりとして堂々としていた。

注文する時も淀みなくその呪文を唱え切った時のベロニカを相手した店員の目が

点になっていたのを見て、カティルはこのメニューがこれまで他に誰一人注文したことがない不人気メニューであったと直ぐに察した。

「そ、それをどうやって食べるんだよ?崩れるよな・・・絶対」

「??崩さないわよ、散らかっちゃうじゃい」

「いやでもそれ・・・」

「見てなさいよ」

カティルが見てる前で、ベロニカはトンでもない技を見せる。

まず跳躍し、自分の頭よりもずっと高い地点にそびえ立つそのスポム以下略

バーガーのテッペンに手をついた。そして

「せいや!」

ベロニカはフンとそのテッペンのバンズを手で押さえつけると、それは一気に圧縮されて縮んだ。

「ほらね」

ベロニカは自分の手の上にそのス略バーガーを手に乗せて持ち上げてみせる。

そこには先ほどまであった太い柱のような何かの姿はなく、ベロニカの親指と人差し指で楽々と掴めるほどの厚さのバーガーがあった。

「・・ば」

言いかけて自分の口を手で塞ぐカティル。

〈やべっ、バケモノっていったらきっと殺される〉

「カティ・・今、すっごく失礼なこと言いかけなかったか・し・らぁ?」

まるで猛獣か竜種を思わせる圧を放ってベロニカが睨みつけてくる。

今まで数々の神獣や魔族を葬ってきたカティルであるが、彼女の今の姿は

彼を大いに圧倒し、震え上がらせる。

「い、いやいやいやいやいやいやいや!!

そんなこといってないいってないいってないぞ!!

俺が言ったのは、あれだ!

ば、ば、ば・・・・・・万能の女神様みたいで可憐で美しいなっていったんだ!!」

〈うわぁ・・・だめだ、こんな安直で面白味もない言葉で誤魔化されるアホがいるわけない・・・〉

「もう〈ポッ」

瞬間的にベロニカは赤面する。

「カティったら、他の人も沢山いるこんな公共の場で、そんなほんとおのこと

いわなくてもぉ」

〈あ、居たわここに〉

「モグモグモグ・・・ベル、イツカもそう思う。

ベルの、その、万力みたいな力、どんな敵も一撃、ふんさい。

よっ、煩悩の女神さま~」

「ボンノーじゃなくてバンノーっていった筈ですけど!?」

「そう・・・そうなんだぁ・・・カティ、私の頭の中、煩悩でいっぱいって思ってるんだぁ」

一転してベロニカの表情が曇る。

一気に表情に暗い影がかかり、ベロニカは俯いてその超圧縮バーガーをモソモソと食べ始める。

その際、嚙み切る度に「バリバリ、ボリボリ」と音がする。

一つ一つの食材が超圧縮しているので、既に鋼鉄のような硬度に達しているのだ。

〈まずい!?せっかく盛り返したのに、また空気が変な方へ!

何か・・・何か良い話題はないかぁ!?

もうこうなったらネガティブだったり暗い話題でも良い!

今の空気感がかわるなら何でもいい!!

何か・・・何か・・・!?これだ!!〉

「その、ところで、アイツは今、どこで何をしてるんだろうなぁ、バルズタースのやつ」

カティルの言葉を受けて、二人の動きがピタリと止まった。

「・・・そうね」

「私、その場にいなかった、けど。ロックとユリからも、凄く強かったって、

イツカ聞いた。今度イツカ、会ったら、絶対にぶちのめす、

ぶちのめして、見せる」

それからの三人は静かに、モクモクとそれらを平らげていく。

〈ふぅ、話題反らしできてよかったぁ〉

とカティルだけは安堵していた。

果たして彼は、バルズタースは今、どこに


実はバルズタース、カティル達と同じくこのバリザドレに居たりする。

しかも今、カティル達のいる場所にメッチャ近い所から彼らを眺めていた。

場所は件のバーガーショップのお向かい、馬車行きかう道路を挟んだ反対側。

そこには少し裕福な客の間で評判なカフェが存在する。

開店してから300年の伝統を持ち、三階建てで、上の階へ行けば行くほど高貴な

お客様をお迎えするように出来ている、その店の二階客室。

その窓際の席にて、彼はカティル達を見張っていたのだった。

「ケッヘッヘッヘッ、やっぱ楽しいなぁアイツら。見てるだけで飽きねえわ」

そのテーブルにはその店自慢のコーヒーとクロワッサンが置かれている。

だがそれらには未だ手を付ける様子はなく、バルズタースは熱心に窓の外を見つめていた。

窓越しから見える光景は、神の目によってどこまでも鮮明に映り、

窓越しからでも彼らの声や街の喧騒が神の耳によってくっきりと聞き取れる。


久々に地上に降り立った時は布も纏わぬ原始人のようなスタイルだった

バルズタースであるが、今は当世で集めた皺ひとつないきっちりと折り目のついたスーツを身にまとい、髪も櫛ですいて、横髪を椿油で塗り固めたようにびっしりとしたリーゼントヘヤーに整えられていた。

衣服は全て盗品であるが、髪は自分自身で整え、金は過去に自身の神殿に奉納されていた分を持ち出している。

その資産は一小国の国庫に匹敵するほどもあり、向こう数年は人間達に紛れて

豪遊しながら暮らして行けるだろう。

「ほんとアイツ、ガキッぽいっつうか未熟者って感じで、戦士としても

男としても青臭くて、ほ~んと嫌になるぜ」

と言いながらも、その口の端を歪に押し上げて笑っていた。

心の底から笑っているように見えて、周囲の上客達の視線を集めている。

だが下品な笑いを浮かべているように見えて、けして周囲の客たちから、

彼が格の低い成金や低俗な庶民に見られていたかといえばそうではなく、

一門の豪族か上級将校かに見られ、一目置かれていた。

「楽しみにしてんだぜぇカティル?

もう少し時間をくれてやるからよ、せいぜい俺様を楽しませられるぐらいの力を

手に入れてくれよ・・・ズズッ」

初めて、バルズタースはコーヒーのカップを掴み、一口すすった。

ところが、そのコーヒーを僅かに口に含んだ時、彼の表情は激変した。

「!?・・・おい、そこの給仕!このコーヒーを入れた奴を呼べ!!」

「えっ、は、はははい!!」

そのあまりに怒りに燃え上がり、鬼のような形相をしたバルズタースの顔を見るなり、そのウェイターは己の命を掴まれたような錯覚を覚えるほどに震え上がった。

そして大いに焦り、他の上客達にぶつかり粗相を繰り返しながら、

担当の者を呼びに行くのだった。

「ど、どうなさいましたかお客様。わたくしが当店のオーナー兼店長を任されて

おりますモリプッチと申しますが・・」

キッチリと皺のないバーテンダーのような服装の初老の男が駆けつけてくる。

「おう!このコーヒーを入れたのは貴様か?」

「は、はい、左様で」

バルズタースは遠慮も加減もせずにそのコーヒーが入ったままのカップを

地面に叩きつけた。

中の黒い汁が跳ねて純白のテーブルクロスを汚し、地面に広がっていく。

「てめえか!俺はよぉ、以前からここのコーヒーを贔屓にしていた者だが、

この店では何時からこんな泥水を提供するようになった!?」

「ど、泥水とは、なんと・・・何か至らぬ所がございましたでしょうか!?」

モリプッチはバルズタースから漂うオーラなどを肌で感じ取り、この二階席でも

待遇が不足しているような超高位な特上客だったと思い込み、詳しい事情も聞かない内から平身低頭で何度も詫びを繰り返す。

「わからねえのかてめえは!?

この店じゃ、たしか昔っからコーヒーといえばモラババル国の豆を使ってたはずだろうが!これのどこがあの国の豆だってんだ!!」

「えっ、モラババルですか?えっ・・・どこ?」

「そんなこともしらねえでこの店を営業してやがったのかてめえ!!」

まるで人を人とも思わず、高等な生命と認めていないかのようにバルズタースは

冷徹に激しくオーナーを叱責した。

その言葉を最初の内はできるだけ受け止めようとモリプッチは努めていたのだが、

残念なことに理解が追い付かない。

それはそうだろう。このバルズタースが言っている伝統のコーヒー豆を

生産していたモラババルという国は既に200年近く前に滅んでおり、その上その

跡地にできた国では工業を優先しており、作物は殆ど生産されなくなったのだ。

当然そのモラババルコーヒー豆もまた、絶えているというわけだ。

そんな人類史に神が興味なんてある筈もなく、彼の飲みたかったコーヒーを

味わえなかったという怒りはその後も激しく燃え上がった。

結論からいう。

この日、バリザドレが誇る古くからの名店が一つ、閉店へと追いやられ、300年の歴史に終止符を打つことになるのだった。






暑いですね。夏って感じがしてやばいです。

毎日、塩飴舐めて頑張ってます

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