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LIGHTNING EDGE-神々に挑む剣 -  作者: 金属パーツ
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一話 シーン12『戦神』

ユリは最後の工程を終わらせんとしていた。

その龍脈からかすめ取った莫大な力を形にする。


遠き地に暮らす愛する人〈の一人〉がこしらえた、神話級の素材を用いたこの弓には、間違いなく自分に力を貸してくれる精霊のような、超常的な何者かが、

『清姫』が宿っている。


それが自分に力を貸してくれる。


自分が龍脈から集めたこの力を有意義に、正確に、有効的に使ってくれると

ユリは奇妙な確信を持っていた。


それは水か、火か、土か、風か、光か


神によって魔法が封じられたこの世で。

火を生み、水を溢れさせ、風で浄化し、土を肥えさせる力を

神々によって奪われたこの世で。


その魔法に頼らずに魔力的なエネルギーを操り、形を与える「術」。

それらを操る術を身につけたユリならば、撃てるのだ。

術によって魔力を五大元素のいずれかに変換し、爆発力を与え、

目の前の邪悪を消し飛ばすことができるのだ。


彼女は心の中で乞い願う。

その自分が持つ「清姫」に。


それは、火だ。全てを消し飛ばす火が良い。

だがそれだけでは足りない。

爆ぜさせるだけでは足りないと感じていた。

必要なのはそれと合わせて、「貫き力」だ。

土蜘蛛の体を内側から爆ぜさせる。

絶対に、あの心身ともに凶悪な怪物を葬るために必要なのだと、ユリは感じた。


「曲がれ、曲がれ、曲がれ、

   貫け、穿て、打ち砕け、

     お前にはそれができるでしょ、清姫」


ユリの手の中で、清姫が段々と輝きを増していく。


「だったらその力、今こそ私に見せなさい!

この一撃は貴方の主、ユリ・レビアンが願いしこと!

貴女の母、立花白水の想いを込められしこの一射!

天界に座すクソったれな神々に見せてあげて!」


清姫を包む輝きが赤みを帯びる。その熱したように真っ赤になった矢に、

くるくると小さな空気の渦がまとわりつく。

打ち出される前だというのに、その空気の渦の回転は激しさを増していった。


「いけええええええええええええ!!

魔滅の弓 四の矢 橘〈たちばな〉 箒星〈ははきぼし〉 炎倶理〈えぐり〉!!」


ユリの手から、灼熱に輝く矢が放たれた。


__ ブ!! ___


土蜘蛛が短い鳴き声すら上げそこなった刹那の時間。

ユリの矢は土蜘蛛の胴体を貫通し、その体内で大きな爆発を起こした。

それは空高くに上へ上へと伸びる爆炎で、その再生しかけた足も体も頭部も全て巻き込んで燃やし尽くしていく。


「・・・・終わったわね」

ベロニカが短くそう呟く。

「ええ、さっすが私の清姫ちゃん。良いー仕事すーるーわー」

ユリは自分の弓を優しく数回も撫でさする。


緊張の糸が解ける。

戦いの雰囲気が一気に払拭されていくのを全員が味わっていた。

「私が最初に傷をつけてあげたからアンタのトドメに繋げられたこと、忘れないでよね?」

「うんうん、分かってるよ!

帰ったら私の部屋にきてね。一晩中可愛がってあげるから〈キラッ」

ユリは高速でベロニカの背後を取ると、その両方の乳を鷲掴みにして揉みしだくのだった。

「もうっ、ん・・・ちょっと・・あんっ・・

あと十数える間に離れないとその弓へし折るわよ?」

「すいません調子に乗りましたもうしません」

ベロニカは握りこぶしをワナワナと震わせて背後のユリをきつく睨む。

ユリが怯えている。


「じゃ、じゃあそろそろイツカとレルさんが心配だし。

あちらの救援に向か・・・・」


言いかけたその時だ。


__ 想像してたよりやるじゃねえかテメエら__


爆発が収まって、爆煙が晴れ始めたその場所から何やら声が響く。

「「!!!???」」


再び武器を構えてそちらを睨む。

ゆらゆらと揺れる何者かが見える。

それは人と似たシルエットをしていた。


もくもくと煙をあげる土蜘蛛の残骸からその声はしたらしいが、その何者かの姿はまだはっきりと目視できない。

だが、その何者かはガラリガラリと土蜘蛛の残骸を崩しながら立ち上がり、

こちらへ向けて歩いてきていた。


パチパチパチパチ


「いやあ、見事みごと。人間風情もやるじゃねえか。」

ソイツはまるっきり人の姿なのだが、人間ではあり得ない特徴を備えていた。

その髪はわずかな光に当ててさえキラキラと輝くような金髪で、首筋にかかるほど伸ばしている。

その瞳孔は翡翠色を宿して、作り物のようでいて美しく、目じりがスッと切れ長で整っている。

そのベージュ色の肌はどことなく艶やかで、しっとりと潤いを感じさせる。

陽の光を受けて浮かび上がるその姿は、語彙力の足りない者たちにはただただ、

この世のものとは思えないほどの、としか例えようのない美貌を閉じ込めていた。


だがその口元は邪悪にニタリと不気味な笑みを浮かべており、猫のように背を曲げて立っている。

服装は古めかしい腰布を一枚巻いているだけで、他に身につける物は何もない。

足は素足であった。

ところが、ソイツは美しさと醜さが同居したような姿であるにも関わらず、

周囲の印象としては美しさに引っ張られてしまうのだ。

男は、そんな得体の知れない凄みを放っていた。


男は拍手をしながらゆっくりと歩み寄ってくる。

静かに一歩ずつ歩くごとに、その足は地面を割り、

足が埋まりそうになるのが見えた。


「主神様の命令とはいえ、魔法の大部分を封じられて力不足も深刻だったろうに、

よく俺のペットを殺せたもんだな。

いやいやいや、想像以上だわ。お前ら相当凄いと思うぜ?

人間にしては、な」


ブルっ


背筋が震える。寒気のような怖気が襲う。

「・・・お前は何者だ」

声を震わせながらカティルは尋ねた。

常人ではないのは分かる。

奴の体からじわじわと湧き出る魔力が、目を通して見て、ユラユラと揺れているのがわかる。


可視化できるほどの膨大な魔力を放つ、人でも魔でもない得体の知れない存在に、

彼らはただ、恐怖していたのだった。


「俺の名は、バルズタース。

てめえら弱っちい脳足りんの虫けらどもでも、それだけ聞けば分からねえか?」

「バルズタースって確か・・・・・」

「東方諸国で六つの神殿が建てられ、集いし英雄達が乗っていたっていう

『エルダーツリー号』のバルズタースか!?」


勇者の仲間達全員が大きく目を見開いた。

この世界では、その名を聞いて知らぬ者は居ないレベルの存在だ。

古来より勇気ある者を祝福し、導き、加護を与え。

荒れ狂う意思を持った嵐のような、手足の生えた火山のような、全ての物を食らう渦潮のような、数々の言葉を用いてもその力の一端すら表現しきれないと言わしめた、力を持つ怪物。


その名前は数々の神話群に登場していた。


中でも最も有名なのが、先述したエルダーツリー号という総勢108人の英雄を

載せた超巨大アウトリガー船を一人の勇者に与え、永い航海の中で世界中に

散らばった英雄たちと共に、世界に平和をもたらすまでを描いた冒険譚

『エルダーツリー号の冒険』という作品が存在するのだが。

その物語の中で、勇者にその船を与え、その旅の果てまで加護を与え続けてきた神として登場している。


その信者の数も馬鹿にはできないほど多く、主神や大神と呼ばれる超上位存在を

除けば、その神殿の数が6棟というのは、まさに破格であると言っていいだろう。


この世界の知名度としては最上級の『戦神』なのであった。


この時、勇者達は初めて、神獣とは比べ物にならない上位存在

『神』と対峙したのだった。


「クッ!」


カティルは駆け出した。

その心の内に生まれかけた恐怖心。

それが湧きたって自分の体を支配する前に、相手の戦意が希薄に見える内に、

一太刀で切捨てなければと駆け出した。


そしてその手に宿った紋章の力を出し惜しみする余裕はないと判断するや、

その持てる力を全て剣に注ぎ込んで、その神に向けて、業火の如く赤々とした強い光を放つ、輝く刃を振り下ろす。


「死ねぇ!ラアアアアイトニングエッジィィイイイイイイイイイイイイイイ!!」


例え戦神と言えど、その数々の神獣や魔族を消し飛ばして来たその一撃を受けて、ただで済むとは考えられない。


せめて手傷を負わせることができれば。


「!?」


「落ち着けボウズ。

そんなナマクラで、バースデーケーキでも切り分けるつもりか?」


彼はそう言って、感情の宿らない冷たい表情で、カティルを真っすぐに見つめた。

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