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LIGHTNING EDGE-神々に挑む剣 -  作者: 金属パーツ
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一話 シーン11『オーバーブレイク!!』


激しい攻防は続いた。

散発的に土蜘蛛が空に飛翔して、ドッスンと落下攻撃を繰り返すようになった。


「魔滅の弓 一の矢 橘!!」

それを下から迎撃しようとするユリや、壁役を担うロックをキギクゴは優先して攻撃する。


キギクゴは攻撃と後退を実に素早く繰り返し、その逃げた先を追いかけようとする勇者達の行動を先読みするかのように、土蜘蛛が落下先を巧みに計算して落ちてくる。


「黙って突っ立って、イモるんじゃねえぞユリ!

そう何度もかばってやれねえぞ!!」

「わかってるわよ!お節介なのやめてよ、ウザいから!!」


ロックの防御力も過信はできない。彼のもつブラックバングスターの性能も、

相手を即死させるほどに強力なわけではない。

ユリの持つ矢も徐々に少なくなっていき、残りは二発。無駄撃ちはできない。


「ベアナックル!」

「てあっ!!」

一番動きやすいと思われたのはカティルとベロニカである。

ベロニカには秘策があったのだが、ただそれを試す時間が足りない。

カティルのライトニングエッジには、その激しい魔力消費により、一日一発までという制限があり、強く出られず、イツカと二人共闘して、細かな傷を与えていくだけで手いっぱいに成っていた。


「このまま、埒、明かない」

何かないかと考えるイツカ。その時にすっと一つのアイデアが頭をよぎる。

「レルおじいちゃん、あの片方、私と、一緒に、遠く、飛ばせる?」

「・・・もしや、アレを使うつもりですか?」

イツカは無言で一度だけ頭を縦に振った。

「できますよ・・・失敗は許されませんけど、良いんですね?」

「大丈夫、私、だけなら、失敗、ない、と思う」

言いつつ、イツカは自分の右手の甲をツンツンと二回つついて見せた。

「でしたら!」

レルは背筋を正すと杖を構え、キギクゴに狙いを定める。


「バインド!」

レルの手にもつ杖の先から光輝く鎖が伸び、キギクゴを捕らえた。

「バインド!」

更なる光の鎖のおかわり。

「バインド!!」

三度のバインドは全てキギクゴに絡みつき、その動きを封じる。


__ブルフォ?__


土蜘蛛は、その様子に遅れて反応する。

あいつか、あいつがキギクゴを捕らえようというのか。

土蜘蛛の心は怒りで燃え上がり、レルに向けて体当たりを仕掛けようと、

その巨体を弓なりに引き絞り始める。


__ブルブルブル・・・・ブルフォー!! __


そして大きく飛び上がることなく、土煙を沸き立たせてレル目掛けて弾丸のように、真っすぐに土蜘蛛が飛ぶ。


「何だか知らねえがそうはさせねえ!オーラ!!全力ガードだ!!」

「オーラ!」

「オーラァ!!」

「オーラッ!」


ロック達残りの四人が肩を並べ、レルに向かって飛んでくる土蜘蛛をガード。

激しい衝撃を放ってその巨体を押し通そうと土蜘蛛はあがいたのだが。

その障壁とロックの盾に阻まれ、飛ぶ勢いがどんどんと弱まっていき、

ついにはズシンと落着した。


「おいレル爺さん!どういう作戦か決まったのか!?」


「ええ、皆さん良く聞いてください!!

これから私とイツカの二人でこちらの一体は預かります。

我々はコイツを連れて、少し離れた地点で囮になりますので!

あなた方四人でその硬い奴を倒してください!!」

「大丈夫なんですか?」

カティルが不安げにレルの顔を見る。

「安心して。時間稼ぎぐらい、余裕」

イツカは短くそう告げる。

「では行きますよ、イツカ」

「いつでも」

「フライン!!」

レルが呪文を唱えると、二人の体とキギクゴがふわりと浮き始める。


__ギ?ギ? ギルルルルル!ギルルル!!__


狼狽し始めるキギクゴ。

だがその何重にも貼られた拘束魔法は強固であり、キギクゴは足の一本も動かすことができない。


〈やはり予想通りです。この挟みカマキリ、あちらの土蜘蛛と比べて

遥かに耐性が低い。

油断さえしなければ、単独ではそれほど脅威にはならないでしょうね〉


__ブルフォオオオオ!!__


浮かび上がり、今にも連れ去られそうになるキギクゴを見上げて、

土蜘蛛はまたも発射の態勢へ入ろうとする。

だがそう上手くはいかない。


「させない!魔滅の弓 3の矢!梅!!」


ユリは残り二本のうち一本の矢を使ってしまう。

その矢は土蜘蛛の足元に突き刺さって埋め込まれ、地面の影をも縫い付ける。

数秒のことではあるが、その矢が砕けて消え去るまでの間、土蜘蛛の動きをみごと封じた。


「では、そちらは任せました!」

レルとイツカはキギクゴを束縛した鎖を維持したまま、

その場を離れて飛び去った。


「よし、絶対に倒すぞ!みんな!!」

「「応!!」」

四人は肩を並べて整列し、土蜘蛛に改めて対峙する。


__ブル、ブルゥ!ブルフォー!!__


土蜘蛛は体を震わせて怒らせていた。


「なあ、カティ。俺思ったんだけどよ。あいつって亀みたいに見えないか?」

「言われてみたらそうだな」

「だったら」

ベロニカが拳を打ち合わせる。

「やることは決まりだね。トドメは私に任せて。そっちは皆に任せて良い?」

ユリは最後の一本を取り出してそう尋ねる。

「ああ、任せてくれ」

「その期待に絶対こたえてやるよぉ!!」

「別にアンタなんかに期待なんてしてないわよ!!」

ユリは、いつもよりも気合を入れて叫ぶロックの背中に冷たい言葉を吐きかけて

二人を送り出した。


ロックとカティルは二人で土蜘蛛に向けて駆け出す。


〈なんだ、こいつら。考えもなしに我に勝てると思ってか!!〉


土蜘蛛は前足の一本を近づいて来たロックの頭上に、槌のように振り下ろす。


「なんとおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

ロックは盾を構えて真っ向からそれを受け止める。

衝撃で地面が割れる、足が沈む。

だがロックの頑強さがそれに打ち勝ち、耐えきる。

「カティイ!!やれえ!!」

ロックの合図に合わせ、カティルが高く飛び上がる。

そして頭上に高々と掲げた剣を振り下ろし、ロックを襲った前足の一本を狙い。

関節のわずかな隙間を狙って切り落とした。


__ブルフ!?__


土蜘蛛は二歩三歩と後ずさる。

すると勢いに任せ、今度はロックがハルバードを下段から振り上げて、カティルが切り落とした前足と反対側の前足を切り裂いた。

「良かった、普通の斬撃でも切り落とせる、ロック」

「だったら、これでイツカと合流する時まで、力は温存できるなぁ。

よし行けるぞ!」

ロックはそのまま、切り裂いた足の隣りから生えていた、次の足に狙いを定める。

ハルバードの先端の槍をその関節の隙間に突き刺し、そのまま切り下げた。

「これで三本目ぇ!!」


「あと五本!!」

続いてカティルが、後方から後ろ脚を狙う。

「落とす!!」

一度着地して離れる。剣を腰の横辺りに当てるような下段の構えを取り、

そして疾風のように駆け出す。

土蜘蛛に接近するのに合わせて跳躍し、剣を大きく振り上げた。

「これで四本目だぁ!!」

キギクゴが居なくなったことで連携が取れず、土蜘蛛はあたふたとするばかりと

なっていた。

そして体を支えていた足の半分を失い、ついに己の体を支える能力を失った。


ズズーン


土蜘蛛の胴体が大きな音と土煙を上げて地面に沈んだ。

「よし!」

ベロニカとユリが並んで立つ。

二人は淡々と準備を進めていた。


ベロニカは両手と胸当てにはめられている三つのオーブに魔力を流す。

そのオーブは三つとも、試行錯誤の末に完成しつつある試作品である。

目的は、魔法の多くが制限された現在の戦況を打破するために、

新たに活用できるスキルの発見。

そしてそれをオーブに付与する技術を確立することである。


そのスキルとは、『術』または『秘術』と呼ばれる。

それは西方諸国で伝わるスキルであり、我々が使う『魔法』のような神によって

授けられ、ゆえに神によって封じられることもある不自由なスキルとは違う。


それは自然界に存在する精霊、妖精、地霊といった目に見えず、言葉も交わすことが難しいとされる、我々と違う異層に存在するモノに呼び掛け、力を借りることで発動するスキル体系なのであった。


だが、その『術』に対して長きに渡って関心を示してこなかった東方諸国では、

その習得は困難を極めた。

今までは、精霊などよりもずっと頼りになる存在「神々」がいたからだ。


そして何より、その神々よりも格下とされた精霊達に対して「祈る」「乞い願う」といった行為が、

神々を信仰してきた者たちにとっては耐え難い屈辱とされ、百年ほど前までなら、差別の対象とさえなりえたスキルだった。


だが、そんな魔法の多くを封印されている現代。

ようやくその新たな選択肢として「術」を東方諸国でも活用できないかという動きが高まった。

ベロニカが身につけているオーブもまた、そういった努力と研究の賜物である。


その効果は、大きく分けて二つある。

一つは術の使用のために周囲の精霊や妖精、etc達に呼び掛けるための「交信機」としての役割。

そしてもう一つが、術の技術をもたない使用者の代わりに、そのオーブに込められた特定の術の発動を制御する「制御装置」としての役割を担っていた。


ベロニカのオーブの輝きが徐々に強まる。

それに合わせて、周囲の木々からポツポツと淡い明りが灯り始める。


〈お願い・・・この大地に暮らす皆。私に力を貸して〉


オーブが彼女の想いを届け、木々や土に宿るそれらが反応しているのだ。


〈お願い・・・同じこの大地に生を受けた者として、皆の力を私に。


目の前に立ちはだかる、あの大いなる災いを退け、この地から消し去るほどの浄化の力を〉


木々の光が更に強まってくる。

その光の内の一つが、ふわりふわりと揺れながらベロニカの傍に寄ってくる。

一つ寄れば後から後から、ぞろぞろと他の光球が、吸い寄せられるようにベロニカの周囲を取り巻く。

最初に寄ってきた精霊が、ふいにベロニカの肌に接触し、その体の頭部から足先を撫でるように動いた。


__同じだ・・・このお姉さんから、『あの方』と同じ匂いがするよ、みんな__


__だったら、僕らの力を貸さないと__


__だったら、僕らの命をあげないと__


__それがきっと、僕らの大切なお仕事だから__


その彼らの言葉が、ベロニカの耳に届くことはない。

オーブの交信能力はこちらの言葉を相手に伝えるが、まだ精霊の言葉を人に聞こえるよう変換する機能はないのだ。

だが、無数の光り輝く彼らの体が、次々と彼女の左手のオーブに吸い込まれるのを見て、彼らが自分達に協力的であったことが分かる。


左手のオーブに掛けられている術、それは「変換」。

精霊などの自然界のエネルギーを取り込み、一時的に使用者の魔力に変換する。

つまりそのオーブに飲み込まれるということは、生物的には死を意味しているのであるが。

何の理由があってか彼ら精霊たちは、喜んでその身を捧げていた。


きっと彼らと人間達とでは、その生の価値観が違うのだ。

彼らは願う。

誰とも知れない『あの方』や、その縁者に対してその命を用いて仕えることを。

そしてそうとは知らずとも、その献身的な行いをベロニカは静かに受け止めて感謝していた。

それと並行して、ユリが最大火力の一撃を打ち出すための用意を始める。


ユリはベロニカと違って、術の才能が有った。

故に外界に満ちたマナのエネルギーを己の術によって取り込むこともできる。

だがそれには時間がかかるのだ。

時間にして数十秒ばかりだが、戦闘中でそれは大きな痛手であり、決め手の一撃を放つ時にしか利用できない。


彼女が取り込むのは精霊ではなく、地を流れる龍脈に蓄えられたエネルギーだ。

それは地の奥深くからマグマのように吹き上がり、川の水のように流れ、世界を

潤していき、活きとし生ける者たちに自然と注がれていく力である。

その超自然のエネルギーを体全体を通して吸い上げる術をユリは、祖母を通して学んできた。

母方の先祖代々から受け継いでいたその術は、和弓の射法に合わせながら同時に行われていく。


足踏み 地下に流れる龍脈を探り、ここから最も近い、毛細血管のように分かれた極細の一筋の流れを探り当て、接続。


胴作り 弓構え 打起し 龍脈に流れる魔力的なエネルギーを汲み上げるイメージを脳内で練る。


引き分け 会 精神を集中させ、自分でできる範囲で効率よく、じわじわと龍脈を流れる力のエネルギーを受け取る。


そのエネルギーは足を通り、たんでんを通過して、胸から肩へ腕へ、そして指先から弓と矢へ少しずつ貯めていくのだ。

 


ベロニカの側では、周囲の精霊達を飲み込んだオーブに十分なエネルギーが蓄えられたことを受け、次の工程に移る。

その両方の拳を胸部のオーブに合わせる。

両手と胸部の三つのオーブが綺麗に横一列に並び、それぞれが反応するように輝き共鳴し始める。


これが胸部の大オーブに備わっている術『流転』

移り変わってやむことがない。

六道・四生の迷いの生死を繰り返すが如く。

そのエネルギーとして変換された者たちを何度も何度も、一秒で何千回何万回と

その三つのオーブの中を循環するように流し続け、そのエネルギーに変化を与える。


ベロニカの上半身をパチリパチリと熱量のない電光が駆け巡る。

彼女の腕が、拳が強烈に光り輝き、高速回転する光輪を浮かび上がらせた。


流転は力の性質を変え、性格を変え、ついにはその大きささえも変えていく。

それは超常的な属性変換であり、法則から逸脱したような異常な力の増大を産み、瞬間的な爆発力を持たせるのである。


そしてその膨大に膨れ上がった力を右手にはめられた三つ目のオーブの力で

コントロールしていく。


その術は「収束」

今までの変換、流転を経て何十倍にも高めたエネルギーを体の各所に振り分けることができる。

そして今回の彼女が選んだ力の流す先は二か所。左手の拳に9割

そして下半身に一割といった具合だ。

ベロニカは大きな光を放ち、熱のない火花を拭き散らすその拳を掲げつつ、

隣のユリの顔を見た。


「ユリ!とりあえず私が先にアイツをぶん殴るから、あんたはその後ってことでいいわよね?」

「うん、私もそれで構わないよ。トドメは任せて」

ユリも弓に最後の一矢をつがえながらその全力の魔力注入し、最大火力での一撃を放つ準備が整っていた。


__ブ・・・ブ、ブブブ、ブルフ__


土蜘蛛は身を震わせていた。

見ると、二人に切断されたはずの足の切り口から、新しい突起物が伸び始めているのが見える。凄まじい再生能力だ。もう何十秒もしない内に、

その体が完全回復してしまうのではないか、と思われた。

「ベル!ユリ!急いでくれ!」


「任せて!!」

ベロニカが駆け出す。それは稲妻のように、地面に電光を走らせ、

その駆け抜けた後に黒焦げた焦土を残しながら、光速で疾走する。

そして土蜘蛛の正面で、そのエネルギーを収束させた右手を大きく後ろに振り上げ、八つの目が並ぶ顔の中心へと叩きつけた。


「ボンバァァァァァァァァァナックル!!・オーバーブレイクゥ!!」


吹きすさぶ爆風と眩い閃光。


バキバキバキバキバキバキバキバキ!!!


分厚い岩盤が砕け割れる異音。

顔面は大きく凹み、目の大半が砕けて潰れる。

その激しい衝撃によって、土蜘蛛の顔から順に入る亀裂は足先まで伸びる。


しかし、それだけの負傷を負ってもまだ土蜘蛛のわずかに残った目には生気の籠った光は失われておらず、その口をフルフルと震わせて生きていた。


「今よ!!」

これでトドメとばかりにベロニカがユリに呼び掛けた。

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