表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LIGHTNING EDGE-神々に挑む剣 -  作者: 金属パーツ
10/45

一話 シーン10『遭遇』

「・・・そんな」

気絶しているだけという可能性は十分にある。まだ全滅ときまったわけではないが、皆の心に、一抹の不安がよぎる。

その時である。


ガツン ガツン ガサ ガサ


周囲に土煙が立ち込めて視界が塞がれた中で、何か蠢く音が響いた。


____ギルギルギル ______


____ブルフォ ブルフォ_____


今まで聞いたこともない異音。

細い沢山の棒を一度にこすり合わせた音を増大させたような音がした。

壊れた鞴〈ふいご〉の割れた口から、空気を吐き出すような音がした。


ドン


地面に何か重く大きな物を叩き落としたような音がした。

直後、エッグのあった辺りから強風が吹き荒れる。

皆は目を塞いだ。

少しの間を空けて風が過ぎ去り、止む。

ゆっくりと目を開けると、驚くべきことに、先ほどまで漂っていた土煙が全て

吹き飛ばされ、視界が戻っている。

「「!?」」

皆は大きく目を見開いた。

視界が開けた先、さっきまでゴロリとエッグが転がっていた地点に、その殻の

残骸の上で立ち尽くす二体の神獣が、現界を果たしていたのだ。


____ギルギルギル _____


それは、逆三角形の頭部を持っていた。

その全体像はカマキリに似ている。

だが奇妙にも目がないようで、左右に開く顎をガチガチと開閉して奇怪な音を発している。

その腕の先にあるのは、鎌ではなくカニのようなハサミが付いていた。

その体を支える六本の足はグッと太く、バッタの後ろ足のようにがっちりとしていた。

カマキリと違って翅はないようで、そのお尻のように後ろに伸びた腹は丸々として、固い殻に包まれている。


____ブルフォッ ブルフォッ____


もう一体は岩石のような四角く角ばった頭部をしていた。

その頭の中央に八つ横列に並んだ丸は、きっと目だろう。

その全体は強いて言うなら、尻尾のないサソリか、固い殻を獲得した蜘蛛に似ている。

四角い頭に八角形の胴体、そして八本の足を地面に突き立て、開きかけの新芽のように、内側に閉じぎみの姿勢をしていた。

武器らしい部位は特に見当たらず、ハサミも無ければ棘もないと見えるが。

その重量感ある見た目は、うっかり線路に落ちてしまった人が正面から見る、

迫りくる電車のような迫力がある。


「レルさん!アイツらは何です?なんていう、神獣なんですか?」

敵から視線を外さないようにしながらカティルは訪ねる。

先ずは情報収集だ。

レルは賢者である。若い頃から蓄積した知識があり、今までもそれを頼りに敵の

弱点や特製を探り、カティル達は戦ってきた。だから今回も


「・・・わかりません」

「わからないって!?」

所が誰も予想もしなかった返事を返され、ますます動揺の波が広がっていた。


「ジジイ!!あんた、今まで各地で信仰されてきた土地神とか神獣を全て網羅してんじゃなかったのかよ!!」

ロックが叫ぶ。

「本当になの?近い姿の神がいたとかもないの?レルさん!!」

声を震わせてユリが尋ねた。

「・・・本当に、わからないのです」

レルはギッと奥歯を噛みしめる。


屈辱だ。ああ屈辱だ。


その百年を超える研鑽と研究の中で、このような事態が起こってしまったことが、腹ただしくて恥ずかしくて仕方がない。


本当に何もなかったか?弱すぎて眼中に入らなかった?

いや違う。

読み逃した文献がまだあったということなのか?

それも違う。

レルは間違いなく来たるべき日に備えて、その生涯をかけて世界各国で人々に

信仰されてきた、数々の神性についての知識を蓄えてきた。

知識として情報が得られなかったのは、この世界を作った主神についての情報ぐらいである。


レルは知らなかったのだ。

この世の神々は己を信仰する信徒を集め、その代わりに信徒に対して、力を分け与え祝福する。

が、その信徒が必ずしも、人間とは限らなかったということだ。


その個体の片方、ハサミのついたカマキリのような神獣は、この地上において一切信仰されたことがない神であった。

それは、地底の奥深く、洞穴や地底湖に住む虫達の間で信仰されてきた神であり。

その繁殖を助け、虫達を狙う地底の害獣を捕食し、信徒を守ってきた守護神であったのだ。

故にそれについて語られる文献などある筈もなく、祀ってきた神殿もなく、司祭もなく、その名は人間達にはとても発音できるものではない。

それをあえて人間の声に置き換えるとしたら、「キギクゴ」と呼ぶのだろう。


そしてもう片方の固い殻もつ蜘蛛のような神獣であるが。


こちらは本当に諸君らにお見せできる情報が存在しない。

だから名も無く。呼び名をつけるとするならば「土蜘蛛」とする。


「くっ・・」

カティルはとにもかくにも、まずは体制を立て直すことを優先しようとした。

もう一度、ライトニングエッジの強化を授かろうと念じる。

すると、ロックは何も言われずともそれが自分の仕事だというように、

盾を構えてカティルを庇うように前へ出る。

三人の女性メンバーもまた武器や拳を構えなおし、レルも気分を切り替えて杖を構えた。


カラン


「・・・う・・うう・・イダ・・い」

背後から誰かのうめき声がした。

思わずカティルが振り返ってしまう。

先ほどの爆発で多くの兵士が死に、死屍累々としている中で、たった一人、

ベッツの片腕が動いたのだ。


「ベッツ!!」

「よせ!カティ!!無暗に動くな!!」

「私が行くから、カティは動かないで!!」

言いながら、ベロニカが最速で駆けだした。

しかし


__ギールギルギル!! __


必死で手を伸ばして、ベッツに駆け寄るベロニカよりも高速で駆ける巨大な影があった。

そいつは目が無く何も見えない分、視覚以外の感覚器官がはるかに発達しているのだった。

頭の中心には目の代わりに六つの窪みが並んでいる。

蛇などが持つというピット器官だ。

周囲の温度差を感じ取り、目で見るよりも立体的に物を視ることができる感覚器官である。

そいつはその自慢のハサミでベッツを掴んでしまう。


「くっそぉ!!」

そして、自分たちの方へ走って、止まらなくなっているベロニカを

その手にかけようと、キギクゴは空いている片方のハサミをその頭めがけて、垂直に振り下ろす。


間一髪のところで、ベロニカは後方に飛びのくことができた。

着地する。

顔を上げるが、キギクゴが追撃してくることはなかった。

奴は頭を数回横に振った。

ベロニカの動きが止まったことで、一瞬見失ってしまったらしい。

そのため、ピット器官を使って、周囲の熱や赤外線放射を読み取る立体視で

周囲を観察し、その姿を探し当てるのだ。


__ギッ ギッ ギッ ギッ __


キギクゴはベロニカに対して、ベッツを掴んでいる方の腕を横に数回振ってみせる。

まるで人形で遊んでいるかのように。

悪戯なガキが「ほらほら、お前のお人形はここにあるぞ、早く取りに来いよ」と言っているようで。

表情はさっぱり伝わらない虫の顔であるはずなのに、邪悪に微笑んでいるのが伝わってきた。


「・・・・返しなさいよ、それ」


__ギギ? ギーギギ~ギギ~__


今度はベッツの体を縦に振ってみせる。

「がっ、ぐぎっ・・ぐえっ」

ベッツが苦しげに声を漏らす。


「やめなさいよ・・・」

ベロニカは怒りを声に込めることなく、静かな声でキギクゴに要求した。


 ______ギー・・・ギ~ギギーギーギー______


あえて首を斜めにカクンと傾ける。

それが侮蔑的で、見下しからきている態度であることは直ぐに分かった。


「返せって・・・言ってんでしょ」

まだだ。まだ怒りを爆発させてはいけない。

今、離れた所で土蜘蛛をけん制しながら、カティルがまた強化を配ってくれるはずだから。

暴れるなら、それを授かってから。そう決めていた。


だがここでキギクゴは新しい反応を見せる。

そのベッツを掴んだハサミを上に掲げると、ハサミに力をこめ始めたのだ。


グギギギギギギ


「ちょっと!・・まさか、待ちなさいよ!」

「アガッ!・・・ぐっ、いてえ!」

そのジワジワくる痛みに、失神から目覚めたばかりのぼやけたベッツの精神が、

無理矢理に覚醒させられた。


ギギギギギギ


「あっ、うう!うううううううううううう、ね、姐さん・・」

ベッツはベロニカに必死で手を伸ばした。

どんどんその締め付けが強くなっているようで、ベッツの顔が赤くなっていく。

その表情も苦悶が広がり、ジワジワと歪み始める。


「待てって言ってんでしょ!!」

冷静さを捨て、ベロニカは駆け出してしまう。

まだカティルの強化を受けていない。

自分の拳に魔力を流す。


「粉微塵に消し飛べ! ボンバーナックル!!」

ベロニカは自慢の拳をキギクゴに叩き込もうと、その光輝く腕を突き出そうとした。

「危ない!下がれ、ベル!!」

その耳にカティルの声が響くと同時、ベロニカの体に、何か大きい物の影が重なった。

一瞬だけ上を見ると、何か大きな岩石のような物体が、ベロニカめがけて落下してきたのだ。


ズズン!!


それは、土蜘蛛だった。

土蜘蛛は誰も想像しない程の跳躍力をみせて飛び上がり、目指した位置の上から、自由落下で降ってきたのだ。


「ベル!」

心配になってカティルが叫ぶ。

間一髪だった。

ベロニカは俊足の動きで駆けだしたイツカに抱えられ、土蜘蛛の影から脱していた。

「くっ、ごめんイツカ・・・迷惑かけちゃった」

「気にしないで、ベル。仲間、守るの、大事、仕事」


土蜘蛛は、ベロニカの道を阻むように、キギクゴとの間に立っていた。

どうやら再び飛び上がることはしないらしい。

だが、その背後ではまだキギクゴが、ベッツをいたぶる手を止めて居なかった。


「があッ!たすけ・・・たすけ!・・・ぐるじっ、・・・たすっ」

随分と圧迫され、息も吸えない。

いつ両断されてもおかしくないほどに、挟む力を強めては気まぐれに弱めることを

キギクゴは繰り返していた。


一歩も動けなくなった勇者たち。

ベロニカさえも頭が冷え切ったのか怯えてなのか、

猪のように駆け出すことがもうできなかった。


ところがその膠着した状態は長くは続かない。

その状態が飽きてきたというように、キギクゴはあっさりと、軽々とベッツの体を両断した。


「「!!!????・・・・・き、きさまあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」」


あらん限り声を張り上げてカティルが、ベロニカが叫んだ。


__ギッギッギッギッ、ギルルルルルルー!!__


その様子を見て、キギクゴは笑った。

表情は読めなくても、笑ったと確信が持てる程、奴の体は揺れて頭をカクカクと振っていた。


そしておもむろにその二つに分割されたベッツの上半身を拾うと、キギクゴは

その頭をボリリとかみ砕いて見せ。その食べかけの亡骸をポイと投げ捨てる。


「!!!!!・・・・・てめえ・・・」

カティルは拳をギュッ握りしめ、キギクゴを睨みつけた。


ユリやロック、他の皆も同じ気持ちであったろう。


表情が一気に暗くなって、武器を掴む手に力がこもる。


「・・・さすが、神獣。他人をバカにする、人の尊厳、踏みにじる、楽しむ、

頭良い証拠」


そんな仲間達の中で、イツカだけは冷静でいた。


「でも、イツカ、頭いい、よりも、性格、良いほうが、好き。アイツ嫌い」


イツカは俊足で素早くキギクゴに接近する。


それを妨害しようと土蜘蛛が、イツカ目掛けて真っすぐに跳躍し、迎え撃つ。


だが、イツカは高速で近づく土蜘蛛の、足の一本に軽々と着地。


それを足場に、反動をつけて天高く飛び上がった。


「・・いける」


土蜘蛛を飛び越えて真っすぐにキギクゴを見下ろすイツカ。

そのままキギクゴの正面に着地して、一撃を加える腹つもりであった。


__ブルゥッフォーーー!!__


だが土蜘蛛もそれを見逃さない。即座に足を畳んで縮こまる。


そしてグッと内側に力を溜め、引き絞った矢を打ち出すイメージで

それを解き放つ。

土蜘蛛はイツカを追い、空高くに飛び上がった。

巨岩の塊のような胴体がイツカを襲う。


「まずい!」

体勢を変えられない、避けることも打ち返すことも不可能に思われた。

そう思った瞬間のことである。

「バインド!!」

レルの魔法支援がギリギリで間に合った。

相手を魔力の鎖で拘束する無属性魔法である。

神の設けた制限を潜り抜ける程度の低級魔法であったのだが。

レルが使えば、神の獣といえど空中で足止めを食らい、イツカの位置まで届かずに自然落下を始める。

何の成果も得られずに地面に叩きつけられた土蜘蛛は、手足を大きく広げる。

それは空中からの落下攻撃から、堅実な地上戦へと頭を切り替えたようであった。


その間にも、イツカは落下しつつ、キギクゴに挨拶代わりの一太刀を浴びせようと剣を構えた。

だが、キギクゴはピクリとも動かずに、そんなイツカを見ていた。

イツカには、またその顔が笑ったように見えた。


感づいてイツカは剣を振る。


カキン


自分に向かって何か攻撃を仕掛けられた。

何か細い、鞭のような何か。

その一撃を弾くと、イツカは地面に着地する。そしてキギクゴを見上げた。

奴の尻から、細長い紐のような尻尾が伸びていた。

どうも今まで体内に隠していたものらしく、その尻尾の先には勾玉を尖らせたような針が付いていた。

恐らくは毒があり、その切れ味そのものも非常に鋭い。

先ほどの一振りを見た限りでは、コントロールも抜群に良いらしい。

立ち上がり、剣を構えなおすイツカ。


__ブルフォ ブルフォ __


だが不味い。土蜘蛛に背後を取られた。

どうも正面のキギクゴも、イツカを逃す気はないらしい。

「ダメ!完全に孤立してるじゃない!清姫、お願い!!」

ユリが叫ぶ。清姫に矢をつがいて引き絞る。

「魔滅の弓 二の矢 鈴蘭!!」

ユリの矢が魔力を纏って、空に向けて放たれる。

そして弧を描いて落下するまでに、一本だった矢が10本へと分かれて、

土蜘蛛の上に落着する。

その矢が触れた瞬間、込めた魔力の作用によって、連鎖的な爆発が起こった。


ドーン! ドンドンドドン! ドンドドン!!


「・・・すっご」

初めての使用に、驚かされるユリ。

ユリの持つ一族伝来の固有スキル「魔滅の弓」は本人の魔力と、使用した弓と矢の材質によって威力が変化する。

今の一撃、今までのそれとは比べ物にならないほどに、

火力が圧倒的に勝っていた。


__ブルフォー!!__


それほどのダメージは与えられなかったらしい。

だが、少しばかり驚かせる効果はあったのか、体をぶるぶると震わせている。

その隙に、イツカはキギクゴを睨みつけたままで、大きく後ろに跳ねて退く。

その際に土蜘蛛を踏み越えることで、二体の神獣と大きく距離を離すことができた。


「よし!次は俺の番だぜ!頼んだぞブラックバングスター!!」

ロックが盾を前面に向けて構え、体の上半身を防ぎながら走り出す。

右手には相棒をギュッと力強く握りしめて、土蜘蛛に向けて大きく振り上げた姿勢から、振り下ろす。

「スラッシュ!!」


__??・・・・!!__


土蜘蛛の動きが一瞬止まる。

どうするか、避けるか防ぐか?

どうせ無意味に終わるだろうと思いかけたのだが、土蜘蛛は馬鹿でない上に察しも良かったらしい。


その男の手に持つハルバードから漂う、良くない気配〈闇属性=神族特攻〉を感じ取る。


__ブルゥ!! __


土蜘蛛は背後に立つキギクゴに対して何かを伝えると、カニのように横に大きくステップを刻んで駆け抜ける。

そして振り下ろされたハルバードは空を切り、地面に叩きつけられた。

その隙をついて、キギクゴの尻尾がしなり、釣り糸を飛ばす竿のように、ロックを襲う。


「くっ!」

すんでの所で盾でそれを防ぐ。

「・・・へへ、おい!カティル間違いないぜ!!」

ロックはその場で姿勢を整えて立ち上がる。そして大きく笑ってみせたのだ。

「こいつら、怖がりやがったぜ!!俺のブラックバングスターに付与された闇属性を恐れやがった!!」


__グゥ・・・ブルフォ__


__ギル・・・ギギギ__


まるで歯ぎしりを響かせて悔しがっているように、二体は体を震わせていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ