8話 森の奥
生い茂る草木を駆ける鹿に狙いを定め矢を射る。
放たれた矢は、鹿の頭を撃ち抜く。
「よし!!」
無事に矢を射ることができ、喜ぶ俺にミアが近づく。
「凄いよ!ラノス」
喜ぶミアの手には、絞め殺されたウサギが握られていた。
……うーんなんというか、シュールだな。
いや、怖いな。
美少女が死んだ動物を片手に握っているのは、うん、かなり怖い。
類にも血が付着していて、包丁を持ってたらヤンデレに見えなくも、ないよな?
そんなくだらない思考に陥ってた俺は、草原が踏まれる音が聞こえ、俺はその方向に顔を向けた。
「おーいラノス、ちゃんと狩れたか」
「おう、誘導ありがとうな」
そう、この鹿の狩りにはレンジにも協力してもらったていた。
レンジが鹿の逃げる先を誘導していき、俺がある地点を待ち構えて矢を放つ。
言ってることは簡単だがこれはとても難しいことだ。
まず、レンジが逃げる先を誘導すると言ってるが、鹿の動きは早く《アーマ》で身体能力が強化されてるからといって、今の練度だと素の身体能力の3〜4倍程の強化になり、俺達の速さは《アーマ》抜きだと20キロ前後であり、鹿の速さは100キロ程になる。
地球にいた頃だと確か鹿の速さは、60〜80キロ程だったはずなんだかここだと動物も色々強化されてるみたいで、狩りをするのも一苦労する。
といってもこの世界の人たちは、一般人はともかく訓練などされてる人達はアスリートの身体能力を超えていたり、魔法だって使えるわけだから一概に苦戦するかと言われると難しいところだ。
ともかく自分より早く動く物にどうやって追うか、それは動きを制限させることと動きを読むことが大切だと思う。
まず動きの制限は、例えば右か左に動こうとするのに対して片方を行けなくさせてもう片方に行かせるようにする。
そしてその動きを読むことで、相手より早く動くことができる。
勿論これは上手くいったらの話で相手が予想外の動きに出ることだってある。
結局の所、速さを上回られていたら補うのが技術や知恵などといった他の分野でやっていくことにはなるが、今回レンジがやった事としては、鹿の逃げる先を石などを投げて制限していき、俺のいる地点まで誘き寄せてきてくれた。
これは子供の頃から狩りをしてきた経験が生きてきた。
(レンジは、こうゆう狩り得意なんだ)
そうレンジは、俺達の中で狩りが一番得意だったりする。
こうなんというか、レンジは野生的なんだよな。
それは普段の生活でも出ている。
受付嬢に対するのがもっともなやつだ。
そう欲望に忠実なんだよな〜あいつ(笑)
狩りを終えた俺達は、ルフレが待つ場所に向かった。
ルフレは、俺達が狩りをしている間、山菜や枝木などを集めて焚き火をしつつ、料理を作っていた。
そう、料理だ。
こいつ料理ができるのだ!!
ふざけんなよお前ぇ!
顔が良くて、礼儀正しく、料理が出来る男子ってモテる要素いっぱいあるな!
ってこいつモテモテだった(涙)
「ラノスもしかして失礼なこと考えてない?」
「気のせいだよ気のせい」
っち、勘もいいのかよ。
俺は、誤魔化すために愛想笑いを浮かべる。
ルフレはそんな俺に疑いの目を向ける。
そんな気まずい雰囲気も長くは続かず、ルフレはため息をひとつ付いた後調理に戻った。
ごめんな、街に戻ったらなんか奢るから許してくれ。
それからしばらくして、調理を終えたルフレは完成した料理を俺達に配って行った。
先ほど狩った鹿とウサギの肉をルフレが採取してきた山菜と混ぜた串焼きとスープ、あれ?
「もっと凝ったもの作ると思った」
「私も」
「俺も俺も」
ミアとレンジも同じことを考えていたようだった。
そんな俺たちをルフレは可哀想な目で見てきた。
なんか地味にイラッてくるな。
ルフレはため息を吐きながら説明していく。
だからイラッてくるな。
「いいかい今ここは原因不明ことが起きてるんだよ。そんな森の中で呑気に時間のかかる料理を作るわけないだろ」
む、まあぁ確かに言われてみればそうだよな。
今俺達が来てる場所は、東区の森の中で丁度中心地にあたる所だ。
なぜ分かるかと言うとこの森は、入り口と中心地、奥地にそれぞれデカい樹木があり、遠目からでも良く見える為目印として良くわかる。
俺達は、そんな中心地に着くまでに戦闘を4回ほど行おこない、他にも魔物とは出会ったりしているが 無駄な戦闘は避けようと言うことで戦ってなかったりしているが、元々ここに来て知りたかった武器の性能も存分に分かったことだし、後は森の奥地に向かい森の異常の解明だけだ。
そのためにも俺達は、腹ごしらえを済ませようとしていた。
ルフレは、森の危険を警戒して簡単な料理で済ます気持ちもわかる。
分かるが、
「え〜でも美味しいもの食べたいよー」
「そうだ!そうだ!」
「俺もミアに賛成だ」
「君ら食べてから言ってくれないかな(怒)」
ルフレは、怒りながら食事をすすめていくので俺達は、大人しく目の前の串焼きに齧り付く。
「「「美味しいー!!!」」」
噛んだ瞬間に口に溢れる肉汁!
肉は柔らかく噛みごたえがあり、それでいて香辛料がよく合わさってあり旨味が抜群。
控えめに言って美味い!
「ふふんどうだ?美味いだろ?美味いんだな!」
「ああ、マジで美味いよ」
「うん、とっても美味しいよルフレ君」
「認めるのは癪だが本当に美味いな」
俺達は改めてルフレの料理のうまさを感じるのだった。
食事を終えた俺達は、森の奥地まで向かった。
奥に行けば行くほど魔物の数と強さは上がっていった。
だが、今の俺達の強さなら問題なく、ここまで大きな怪我もなく森の奥地とわかる樹木の前まで進むことができた。
「ふぅ〜やっとついた」
レンジは、額の汗を拭いながら息を吐く。
確かに休憩を挟んだとはいえ、ここまで来るのにかなり時間がかかった。
体感で言うと大体7時間程かな?
俺達も軽い疲労を感じた為ここで休憩を取ろうとしたその時、
「ね、ねぇみんなあれ見て」
ミアは、驚いた顔をしながら樹木の方を指差す。
俺達は、ミアが刺す方に目を向ける。
「「「っっ!?」」」
樹木の幹には深い傷跡が残っていた。
だが俺達が驚いたのは傷跡というよりはその大きさだ。
樹木の爪痕は3つ付けられていたが一つ一つが人間一人を覆い尽くすほどの大きさになっており、それが爪の跡でわかるということはこの跡をつけた本体はどれくらいの大きさになるか?
「デカいな」
「あれを食らったらタダじゃすまないよな」
俺達は、この跡をつけた存在を想像し緊張を走らせた。
「とりあえず森の異常はこれと関係あるってことだよな」
レンジの言葉に俺達は頷いた。
「どうするラノス」
レンジは俺に意見を求めてきた
「正直俺達は、こんな大型な魔物と戦ったことはないから戦闘は避けよう」
俺は正直な意見を言う
「僕も賛成かな」
「私も」
ルフレとミアも賛成みたいだ。
「みんなが言うなら俺も」
レンジも特に反対はないみたいだ。
俺達は、魔物との戦闘は避ける方に話を進めた。
とはいえここまで来て帰ると言うわけにもいかず、その魔物の特徴をもう少し調べたら、ここの調査をしてるであろう《夜明けの星々》には報告しよと思う。
その為俺達は、休憩を挟み奥地の探索を開始した。
探索を始めて暫くして、俺達は森の木々が払われてる空間を見つけた。
その空間に、魔物はいた。
その魔物は白い毛並みに鋭い牙と爪を携えている。
尻尾と耳はオオカミに近い形をしているが、何よりも驚くべきは、体長
7〜8メートル程ある巨躯。
そして、その身から溢れる圧倒的なまでの魔力。
魔力が見えているわけではないがあいつの周りの空間は歪んでいるように見える。
これはあいつが可視化できるほどの魔力を漂わせている証拠だ。
正直この魔力に当てられてるだけでもきつい。
そして何よりも本能が叫んでる。
あいつと戦うなと。
それを感じた瞬間俺達は、この場から離れるべきだった。
魔物は俺達の存在に気づいたのかこちらの方に体を向け目を合わせる。
いや、合わせてしまった。
ーゾクリ
俺は背中に冷たいものを感じ、ありったけの声で叫ぶ。
「逃げろーーーっ!!」