54話 その手は冷たくされど温かい
「お待ちしておりました。エルラ様」
館の応接室にて、俺達は宰相のクラウド・アルマと向かい合っていた。
宰相の地位に立っているだけあって、見た目はいかにも優等生と言う言葉を体現した様な人だった。
「突然の訪問申し訳ないのじゃ。クラウド卿」
「いえいえ、この国の至宝と言われるエルラ様にお越し頂き恐悦至極です。ますますお綺麗になり私、胸が張り裂けそうでございます」
「お主は、相変わらず口が上手いのう」
エルラは、苦笑いを浮かべる。
「それでエルラ様、隣にいらっしゃるのはもしかして?」
「うん?ああそうじゃの」
エルラは隣にいる俺達もといアランを見つめる。
「ご紹介が遅れました。私アランと申します」
「おおー!貴方様がアラン商会の!」
クラウドは、目を輝かせながらアランさんに手を差し出す。
アランさんは、差し出された手に微笑みかけながら握手をする。
(本当にアラン商会のファンなんだな)
アラン商会で扱う商品は数多く存在する。
日常品、冒険者用の装備、貴族の商品などと多種多様だ。
クラウドもまた、アラン商会にて買い物を多くしてきた。
その商会長が目の前にいるという事もあり興奮を隠せない。
それこそラノス、リリスの存在に気付かないほどだ。
「クラウド卿」
「おっと、これは失礼しました。はしたない姿をお見せしましたね」
オホン、と区切りを入れたクラウドはエルラを見据える。
「それで、本日は何用でこちらにいらしたのでしょうか?」
きた。
この質問の答えによっては、このクラウドが敵になる可能性も十分にありえる。
素直に門のことについて聞くか、目的を伝えずにはぐらかすか?
「うむ。クラウド卿、我は扉について聞きに来たのじゃ」
どうやらエルラ様は前者を選んだようだ。
「扉とは、王城のでしょうか?」
「そうじゃ。妾はあの扉について深く知らんのじゃ」
エルラ自身、あの扉について深くは知らない。
父上に聞いた話では、あの扉にはある存在が隠されているとされている。
扉が開いたあの日、エルラはその存在の片鱗を見た。
不気味で気味の悪いモヤ。
それに引き摺り込まれる、かつての下僕3人と育ての親にも等しきエルラの専属メイドであるルーラ。
引き摺られた先は、暗く何も見えなかった。
しかし覚えている。
扉の中で聞こえる、ルーラと下僕3人の悲鳴と苦痛の叫び声。
やがて扉から現れる4人、不思議な事に外見に変わりはなかった。
服装に乱れはなく、体に傷はなかった。
「ル、ルーラ・・・?」
「お嬢、様・・お逃げ、くだ、さい」
「な、何を言ってるのじゃ」
瞬間、エルラの頬に血が付着する。
「えっ?」
エルラは今、自分の目の前で起きている光景に固まる。
自分に血が付いている理由、それは目の前で起きている。
ールーラの胸から銀の刃が生える
「ゴフッ」
ルーラの口の中から吐き出される血が、エルラの顔を汚す。
口から吐き出される大量の血とは違い、胸からは血が滴り落ちない。
だがそれも、刃が抜かれる事により堰き止められていたのかのように、噴水の如く放出される。
ルーラに刃を突き立てた元凶は、ルーラの下僕の3人だった。
エルラの方に視線を集中させていたルーラは気づかない。
3人の瞳は黒く塗り潰されていることに。
その後3人は、ルーラには何もせずに消えていった。
横たわるルーラ。
エルラは、震える足でルーラに近づく。
何が起きているかは、分からない。
それでも早くエルラの元に向かわねばとその一心で近寄る。
「ルーラ?」
ルーラは返事をしない。
ただ浅い呼吸を繰り返しているだけだ。
エルラはそんなルーラを見て、胸が締め付けられ目に涙が溜まる。
「のうルー、、ラ」
エルラは、ルーラの手に触れる。
その手は冷たく、今この瞬間にもどんどん体温が減っていくようだ。
体温を少しでも逃さぬように両手で包み込むが、それに一体なんの意味があるのだろう。
だが、その行動に意味があったのだろう。
エルラの両手から少しだが、ルーラの手が動き出したのを感じる。
「っ!誰か誰か居らぬのか!!!」
エルラはありったけの声で叫ぶが、その声に答える人は誰もいない。
「誰か!!ルーラが、ルーラがああ!!」
それでも叫ぶ。
喉が枯れるまで。
「頼む誰か・・・」
やがて顔を下に向けるエルラだが、その頭に手が添えられる。
「えっ」
顔を上げるルーラ。
ルーラは顔を上げる。
ルーラの頭に手を添えたのはエルラだった。
瞳に光は無く、浅い呼吸が繰り返されるだけ。
「ルーラ大丈夫じゃ。大丈夫なのじゃ、今助けがくるのじゃ!」
その声は虚しく響くが、それでも少しでも安心させようと。
ルーラは、何も答えない。
ただただ、エルラの頭を撫で続ける。
目に光はないが、顔に慈愛の笑みを浮かべながら。
力尽きるその時まで。
「教えて欲しいのじゃクラウド卿。あの扉に何が眠っているのじゃ」
真っ直ぐとクラウドの瞳を見るルーラ。
「そうですね・・・」
暫く悩み続けるクラウドだが、葛藤のすえに話し始める。
「あの扉にはまおうが封印されているのです」
城の扉に眠る秘密について




