24話 誓いを胸に
ボルアーとヒーラーの女性は街中を歩いていた。
「彼は大丈夫でしょうか?」
彼、それは少年の事を言っているのだろう。
「今は信じるしかありません」
今の少年は、仲間を失い傷付いている。
私も今まで何人者の仲間を失ってきた。
胸が張り付ける様な痛み。
全てがどうでも良くなるような虚無感、絶望を感じてきた。
本来はそばに居てあげるべきなのだろう。
しかしそれは出来ない。
彼とのかかわりは薄い。
それに冷たいかも知れないが少年にばかり気にしているわけにもいかない。
少年。
頼む。
立ち直ってくれ。
前に進んでくれ。
今の私には信じることしかできない。
君があの時あの場所で見せた光景を私は忘れないだろう。
君はこれからも強くなるだろうから。
だから、どうか生きてくれ。
♢
あの日、ラノスの戦いが終わった後ラノスは倒れた。
『夜明けの星々』の団員は急いでラノスの治療にあたり、ボルアー含め何名かの団員はネルの救助に向かった。
時間がかなり経ち危険な状態ではあった。
ネルの元まで辿り着いた時、そこには魔物の死体が転がっていた。
相手は強敵の筈だったが、どうやら近くまで来ていた『蒼天の使者』の人達と協力して討伐したようだ。
無事を喜びたい所だったが、討伐された魔物には魔道具が付いていた。
その魔道具が突然起動され、ボルアー達辺り一体が光に包まれた。
目が覚めた先に待っていたのは、暗い空間に小さな明かり。
そして、祭壇と赤い紋様が地面に塗られていた。
「ようこそ冒険者の皆々様」
祭壇の上に一人の男が立っていた。
男は司祭服を黒く塗り潰した様な格好の老人だった。
「皆様には、魔神様召喚の贄になってもらいます」
そんな老人の言葉共に、影から続々と人達が現れボルアー達に襲いかかった。
ネルと『蒼天の使者』の団員達はモンスターの討伐した際の傷があり動けない。
ボルアー達はネル達を守りながらの戦闘を強いられた。
敵の拠点、数の差、守らねばならないものなど圧倒的に不利だ。
しかしそこは流石『猛虎』ボルアー、襲いくる者達を次々に撃退していき劣勢の状態を少しずつ優勢へと変えていった。
少しずつ押され始めてきたが、リーダーと思しき老人に焦りはない。
寧ろ顔には気味の悪い笑顔を浮かべていた。
(そろそろですね)
老人は心の中でほくそ笑むと同時に、拠点に大きな振動が起きる。
振動は徐々に大きくなりやがて“それ“は現る。
“それ“は大きな腕だった。
腕は、黒く異形な形をしていた。
「うっ」
「な、なんだあれは?」
敵の者達、ボルアーの団員達含め次々と膝を折倒れていく。
腕が放つ禍々しさと圧に耐えられなかったのだ。
「その腕は?」
膝を屈さず問い掛けたのはボルアーだった。
しかし、その顔には緊張を走らせ玉のように汗を滲ませていた。
これは決して戦闘での疲れが原因ではない。
(あの腕は不味いですね)
ボルアーの考えは正しかった。
何故ならその腕は、、
「邪神様の腕さ」
邪神
厄災とも言われる存在だ。
姿形に決まったものはない。
生物だったり又は概念だったりもする。
一体一体が強大な存在であり討伐にすら多大な被害を被ることがある。
今までも何体か存在を認識されたことがある。
確認されてきた魔神は、土地、生き物、建物などに多大な被害を起こしてきた。
魔神の腕、体の一部ではあるがそれでも厄災と言われるもの。
ボルアーも決して油断して良い存在ではない。
「腕と一部なのにこの存在感素晴らしい!」
老人の顔には恍惚とした表情を浮かべる。
「やがては完全なる召喚を。
その為にも街の皆様には、生贄になっていただかねば」
「そんな事をさせるとでも」
ボルアーは剣を老人に向け凄む。
しかし老人の恍惚とした表情を変えない。
「いいえ、なりますとも。
その為に貴方をこうして誘き寄せたわけですからね」
「どういう事です」
「あの街を攻め落とすのに貴方は邪魔なんですよ」
それから、興奮したように老人は語り出す。
魔道具を魔物に身に付けさせたのは森の異常が作為的感じさせるため。
森の異常に『夜明けの星々』などの高ランク冒険者が来るであろうと。
そして、森の異常の本体を叩く為に冒険者達が集まってきた。
「お陰様で街の戦力は手薄になりました」
「・・・」
「貴方もこうしてここに呼ぶことが出来た。
後は、貴方を殺すだけ」
「私を殺せるとでも」
「殺せるさ。
こちらには魔神様がおるからな。
ハッハッハッハ!」
事実、老人の言う事は正しい。
倒れる仲間達を庇いながら魔神の腕と戦うのは厳しい。
仮に仲間達がいなくても厳しいだろ。
それほどまでに魔神とは強大なのだ。
(覚悟を決めますか)
決意と共に足を一歩進もうとした。
「おっ見つけた見つけた」
この場所に似つかわしくない、可愛らしく明るい声が聞こえた。
「なんです貴方は?」
気分を害されたのか老人は不機嫌そうに声の先に視線を向ける。
向けた先にいたのは白い女性だった。
髪に瞳存在そのものが白く希薄の様に感じた。
しかし、顔はまるで神々に作られたかの様に美しく綺麗だった。
体全体も彫刻のように滑らかだった。
服装までも白いワンピースと、どこまでもこの場に似つかわしくない格好だった。
「邪神の召喚ね。
それやめてくれない」
白い女性は魔神の腕に近づく。
ボルアーは、その光景をただ見つめるだけだった。
正確に言うのであれば、ボルアーはその女性を視界にとらえた瞬間固まってしまったのだ。
「貴女は、いえ貴女様はまさか、、」
「不愉快です!!
邪神様あの者を亡き者に!!」
「あーうるさい。
こっちは今とってもいい気分なの」
白い女性は、魔神の近くまで近づき手を掲げた。
「『消滅』」
一言女性は呟いた。
するとどう言う事だろう。
魔神の腕の指先が少しずつ砂の様に崩れていきやがて手、腕に広がり魔神の腕は消えていった。
「な、なっ、なな」
老人は目の前で起きた事に、理解が追いついていないようだ。
白い女性はそんな老人の反応を気にせずにボルアーの方に振り返る。
「後のことは貴女に任せていいかかしら」
「ええ」
白い女性の頼みにボルアーは頷いた。
その返答に満足したのか、白い女性はまるでそこに元々いなかったのかの様に消えていた。
こうして、東区での森の異常は呆気ない終わりを迎えるのだった。
♢
「ここね」
白い女性は、とある場所まで来ていた。
そこは、辺り一体に切り倒されたであろう森だった。
ラノスが先程まで戦っていた場所だった。
白い女性は、一通り戦闘跡を見渡した後やがて止まる。
「ふふ、あはっ。
あははははははははははははははははははははははは」
笑う。
顔に喜色を浮かべながらどこまでも、どこまでも笑う。
嬉しそうに、興奮を抑えきれないように。
笑い笑いひたすらに笑う。
やがて落ち着いたのか白い女性は顔を上に向ける。
「懐かしいなこの技。
でもまだだよ。もっともっと強くなってね〇〇」
白い女性は綺麗な顔の頬を赤らめる。
その顔は、まるで愛する者に向けている様な顔だった。
♢
「遅くなってごめんな。
レンジ、ルフレ、ミア」
俺は、墓の前に手を合わせる。
墓の墓標には、ミア達の名前が彫られていた。
墓の下にはミア達の骨が埋められている。
俺は、今日ミア達の墓参りに来ていた。
「あれから一年経ったよ」
ミア達が死んでから一年。
「あの時の事はまだ夢に見るよ」
ミア達が死んだ事については、立ち直ってるつもりだがまだ悪夢の様に夢に出る。
それでも引きずるつもりはない。
「あれから俺も強くなったんだぞ。
ほら、これ見てくれよ」
そうして見せるのは、冒険者カードだった。
ラノス
17歳
所属 なし
ランク Cランク
称号 一人前 空間使い
「Cランク冒険者になったんだぜ」
あれからもクエストを受け続け、俺は今日Cランクになった。
ミア達の墓参りに遅れたのは、冒険者カードの更新に時間が掛かったせいでもある。
それでも、今日こうして土産話を持ってこれた。
それからも俺は、ミア達の墓の前で色々な話をした。
俺の周りで起きた出来事や、最近やってきた事、今日の朝ご飯など世間話を交えて話していった。
それからも暫く話を続けていき気が付けば日が沈んでいた。
「どうやら時間だな。
また来るよ」
俺は、その場から立ち上がりミア達に別れを伝えた。
沈みゆく夕陽を背景に俺は街を歩く。
「レンジ、ルフレ、ミア、俺はもっと強くなるよ」
その気持ちを胸に秘めこの先も生きていくつもりだ。
だから見ていてくれ。
お前等の所に伝わるまで俺は強くなる。
こうして彼、ラノスの冒険は続いていく。
その先に何があるのかは、まだ誰にも分からない。
それでもラノスは進み続けるのだろう。
この先に彼が待ち受けているのは、破滅か、幸せか、それとも、、、
第一章(完)
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