22話 空間の支配者
「おらぁ!」
男ラノスに向け剣を振り下ろす。
ラノスは、その攻撃に対して防ぐ様に剣を振るう。
後ろに。
しかし、後ろには何も存在しない。
視覚的には。
だが、どういう事だろうか。
何も存在しなかった場所からは、剣を振り下ろすかたきの姿が現れた。
ラノスが後ろに振るった剣は男の剣とぶつかり合う。
男は舌を打ち、後方に下がる。
ラノスは腕をクロスさせる。
瞬間腕に衝撃が訪れる。
ラノスはその衝撃を利用して宙に浮かび上がる。
そして、左足を何もない場所に向けて払う。
「ぐっ」
男の呻き声がこだまする。
ラノスは、足を地面に付けてその黒い目を前に向ける。
先程まで見えていた男は蜃気楼の様に消えていき、代わりにラノスが立っていたところにはかたきがいた。
「見えてんのか?」
男は魔道具を使っていた。
最初にラノスの前で剣を振るった時。
剣同士ぶつかりあった後に後方に下がった時。
幻影では、そう映っていたはずだ。
なのにどういう事だろう。
振るった剣も、その後に後ろに下がったと思わせての蹴りも全て防がれた。
それだけではなく、反撃までもされた。
一連の行動が見えていなければ対処出来ないものばかりだ。
「・・・」
「だんまりかよ」
男の問いにラノスは答えない。
男は、ラノスのその反応に眉をひそませる。
ラノスは黒い目をかたきに向ける。
真っ黒だ。
光を通さない黒。
今のラノスの気配と合わさり不気味だった。
(ん?)
男はラノスを良く観察して気づく。
一瞬だった。
それこそ瞬きをすれば見逃すであろう揺めき。
ラノスの体を中心に円状の薄い膜の様なものが現れる。
その膜は、もう見えない。
しかし広がった膜は大体15メートル程。
飛ぶ斬撃と同じ距離だ。
(なるほどなぁ。
原理は分からないが。
あの膜が俺の位置を教えているのか)
そう考え男は、ラノスの方とは違う方向に視線を移す。
移した視線の先には、倒れたエデンがいた。
(そういえば、奴が使っていた魔道具は透明になる物だったな)
恐らく奴と戦えていたのもその力を使っていたからだろう。
そしてその力は、透明や幻影などは効かない。
男にとっては相性最悪だ。
だが問題ない。
男には、とっておきがあったからだ。
♢
ラノスは不思議な感覚に包まれていた。
ミアが死んだ後からは、記憶が所々飛んでいた。
気付けば、ミアを殺したこのかたきと対峙していた。
ラノスの胸に宿っているのは深い怒りと絶望だ。
かたきに対する怒りはある。
しかしその怒りはどちらかというと自分に向けるものが強い。
弱い自分に、そしてレンジとルフレ、ミアを守れなかった自分に対してのどこまでも深い怒りだ。
それと同時にみんなを無くした絶望。
胸がぽっかりと空いた様だ。
何も考えず目を閉じればどれくらい楽だろうか?
嗚呼、でも何故だろう?
体が熱いんだ。
ードクンッ、ドクンッ
心臓が鳴り響く。
ともても早く鳴る心臓は、体全体の血液を加速させる。
それでいて頭は、冷たく冷静だ。
自分の体に何が起きているのかは、分からない。
それでも今は不思議とこの感覚が心地良い。
「空間把握」
その言葉と共に、ラノスの体から透明な球体状の膜が広がる。
広がるにつれラノスの感覚が研ぎ澄まされていく。
空気、温度、風の動き、草の揺れ、自分の細胞から相手の一挙手一投足に至るまで、膜状に入る全てを感じ取ることが出来る。
この感覚は、今まで何回か感じた事がある。
なるほど、今までやけに感じ取る感覚が多いと思った。
俺は、無意識にこれを使っていたのだろう。
遅い。
あまりにも遅い気付きだった。
これにもっと早く気づいていたら何かが変わっていたかもしれない。
しかし今のラノスは止まらない。
この体の熱さがが消えぬ限り。
だからこそこの男を打つ。
♢
「クソッ」
何回目の打ち込みだろう。
男は幾度となくラノスに剣を振るった。
その中で何度と幻影の魔道具を使った。
しかしことごとくと見破られる。
「ハァハァ」
男は疲弊していた。
それだけではない。
身体中は、血だらけであった。
ラノスの血ではない。
男の血だ。
防がれるだけではなく、反撃までされ男に傷を負わせていたのだ。
死にかけだ。
事実ラノスはその場からあまり動かず、最初の攻撃以外自分から攻めて来なかった。
格下だ。
スピードもパワーも技量も何もかもこちらが上だ。
それなのに何故倒せない、押されている。
男は歯軋りする気持ちを抑え機会を待つ。
分かっているのだ。
目の前の少年が自分を押しているのは、一瞬だけ目に見えた膜が原因だと。
それが展開されてから、少年の動きのキレが上がった。
何よりこちらの動きを読んでいるかの様に動く。
視覚からの攻撃も、フェイントも、何もかも見破られる。
(だが、それもそろそろ)
少年が使っているのは、何かしらの魔法だろう。
それなら、魔力切れになるまで消耗させればいい。
男は残りのラノスの魔力残量を理解いていた。
男の目に宿っている魔道具が、ラノスの魔力量を数字として見えていた。
突如ラノスはその体をふらつかせる。
それと同時に減り続けていたラノスの魔力が止まる。
魔法が切れた。
それを理解した瞬間、男は真っ直ぐにラノスの方に向かって走り出す。
ふらつきから戻ったラノスは。再び『空間把握』を使用するが間に合わない。
展開してから動くのでは、男の攻撃を防げない。
そもそも、目の前の男が幻影の可能性もあり得る。
それならと、ラノスは目を瞑り集中する、
男に繰り出した、最初の攻撃をイメージする。
最初は、偶然使えた。
その後も何度と使おうとしたが、上手く出来なかった。
しかし今なら、、
(使うんだろう)
男は、ラノスの次の動きを把握していた。
前方に飛ぶ斬撃。
問題ない。
自分なら、その攻撃を防げる。
男は確信を持ち奥の手を打った。
ラノスの周囲に、幾つもの丸い異空間が現れる。
空間からは、ナイフ、斧、槍と様々な武器が出てきて、ラノスを襲う。
男の奥の手はこれだった。
一度きりの四方八方の大量武器の放出。
これに、幻影と合わせれば不可避の攻撃になる。
幻影、魔力を数値化する目、武器の放出、男はこの魔道具等を使い様々な人達を殺してきた。
(終わりだ!)
瞬間
ラノスの体から膜が広がる。
男、数々の武器、木々に至るまで膜が覆い尽くす。
ラノスは、全身の力を込め剣を振るう。
「空間斬撃」
「え?」
男は、理解ができなかった。
男が今見ている光景は、粉々に粉砕された武器、切り倒された木々ではなかった。
男が見たものは、上半身の消えた己の下半身だった。
(あ、のこうげ、きは、ぜんほ・・・)
男の生命は、そこで途切れた。
男が最後まで考えていたのは、殺してきた人たちの懺悔でもなければ、後悔でもない。
ラノスが最後に放った一撃だった。
男が最後に導き出した答えは、当たっていた。
前方に飛ぶ斬撃
前方ではなく、膜状に入る全てが対象だ。
飛ぶ訳では無く、一刀で振るった攻撃は少しの時間差もなく、威力の軽減もなく対象を切る。
まさに、“必中の攻撃“。
♢
「・・・」
戦いは終わった。
結果だけを見るなら、ラノスの圧倒だった。
男と戦い始め、ラノスは明確の攻撃を受けていなかった。
ボロボロの状態でだ。
しかしボルアーは、この結果に驚きを隠せなかった。
ラノスと男には明確な実力差があり、そしていくつかの魔道具を使用していた。
ボルアーは、ラノスが勝つ事を信じた。
信じてはいたが、ここまで圧倒するとは思いもしなかった。
今のラノスの力がどれほどか、ボルアーには分からない。
しかし間違いなく、この少年は遥か高みに立った。
仲間達の死と引き換えに。
♢
男を倒した今、ラノスは何を感じているだろうか?
消えぬ怒りか。
はたまた絶望か。
ラノスは、2つになった男を見据える。
「終わっ、た」
その言葉に達成感も高揚も悲痛さも感じない。
ただ、淡々と目の前の光景を口にしただけだった。
そして、それを認識した瞬間、ラノスの黒く光を通さない瞳が閉じる。
体は地面に沈み、意識が消える。
こうして、ラノスの長い1日は幕を閉じる。
数々の悲劇に見舞われたラノスが次に目を覚ました時、彼は一体どうなる事だろうか。
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