21話 変化
「一体、何が」
ボルアーは、目の前の光景にただ一言呟いた。
ボルアーの目の前に広がるのは、ボロボロの姿の少年とその少年の元に胴が切り離された男の姿があった。
それだけではない。
少年の周りに広がる木々は幹の部分がどれも真っ二つ切られていた。
切られた木々は、どれもが切断面、高さ、どれもが均一だった。
まるで一度に全てを切られた様に。
(それだけではない)
ボロボロの少年は、それこそ指で小突いただけで倒れそうだ。
しかし今の少年には、なんぴとたりとも触れられない圧があった。
触れよう者なら少年の足下に居る男と木々の様に、切り伏せられる。
(これが本当に先程までの少年なのか?)
少年は、その歳にしては強い。
それこそ、今まで見てきた子達の中でもトップクラスに位置付く程だ。
ボルアーは少年を一目見ただけで、その強さを理解していた。
理解していたからこそ、少年が男に勝つ可能性は無いと思っていた。
それこそ、少年を男と戦わせるつもりなどなかった。
だが、ボルアーは少年を戦わせた。
止められなかったのだ。
少年の眼に。
何より身に纏う気配に、少年を止められなかったのだ。
何処までも暗く、悲しきその姿に、、
♢
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
森に響き渡る声に、目の前の男は笑う。
「ははは、死んだかあの女」
響き渡る声に全てを察し笑う。
笑い、笑い、何処までも笑う。
まるでそれが快楽の様に、悦楽の様に、悦びの様に。
「貴方達は一体何が目的でこの様な事を」
ボルアーは、目の前の男を油断なく見据え疑問を嘆きかける。
「目的だ〜?
んな事知るかよ。俺はただああ言う絶望した奴の声を聴くのが好きなんだよ」
悪どく笑う男に、不愉快だとばかりにボルアーは顔を歪める。
その顔に、気を良くしたのか男は口を開く。
「そうだな。
うちのボスの目的は至ってシンプルだ。
それはなーー」
ー邪神の召喚
その言葉を聞いた瞬間、ボルアーは一瞬で男の前に立ち一振り剣を振るう。
しかし、振るわれた一振りは空を切り男には届かなかった。
(まだですか)
男に放った攻撃はこれが初めてではない。
何度も剣を振いその剣は、確実に男を捉えていたはずだ。
それでも何故か男には、傷一つ付かなかった。
それだけではない。
当てた感触すらないのだ。
「幻影、ですか」
呟くボルアーの声が聞こえたのか、男は顔に笑みを浮かべ答える。
「正解だ」
男は胸元を緩め、その中から赤いペンダントを取り出す。
「これは魔道具。
相手に幻影を見せ、惑わせる効果がある。
こんなふうになる!」
男は掌を顔に覆う。
やがて掌を顔から離すと、そこには違う顔が映し出されていた。
「なるほど。
それで、うちの団員に成りすましたという事ですか」
ボルアーは、剣を構い直し思考を巡らす。
男を切ろうがそれは幻影。
そこに映し出されているだけであり、実体はそこにない。
剣を幾たび振おうと届かない。
だが、対処の仕様は有る。
ボルアーは、剣を握る力を強め一歩足を踏みしめ様とした瞬間、
ードクン
耳に聞こえた音は心音?
まるで、森全土にこだまする音にボルアーは振り返る。
音の発信元は、ボルアーの背後から聞こえたからだ。
振り返る先に居るのは、先程まで声を上げていた、少年だった。
♢
『夜明けの星々』の団員とヒーラーの女性は、先程まで声を上げ泣いてた少年を見つめる。
少年にとって大切な存在だったのだろう。
今は、死した女性を胸元に抱いて顔を伏せていた。
その姿にヒーラーは悲痛な顔を浮かべる。
自分がもっと凄腕のヒーラーだったら、女性を助けられたかもしれない。
少年にここまでの悲劇を与えなかった。
それは、傲慢なのだろう。
何もかもを救う事は叶わない。
全ての者を救う事はできない。
英雄であろうと、勇者であろうと。
それこそ神であろうとだ。
神なら全てを救う?
それなら何故、こんな悲劇が起きる?
何故、悲しみが生まれる?
何故、少年は泣いている。
口を噛み締め女性は、少年に声を掛けようとした。
何を話せばいいだろうか?
答えは出ない。
だが、このままにしてはいけない。
少年に何かを。
しかし、声を掛けようとする前に目の前の少年が立ち上がる。
胸元に抱いていた少女を静かに地面に付け。
「あ、あの、、、ッ」
女性は、立ち上がる少年に声を掛けようとするが、見てしまった。
少年の眼を。
暗く、どこまでも暗い。
一切の光すら通さない闇。
「ミアをお願いします」
低い声だった。
先程まで聞いていた声とは、まるで別人のようだった。
声だけではない。
眼は勿論のこと。
少年の身に纏う気配すら。
何者にも触れ難く、それでいて悲しい。
少年に何があったのだろう。
それは、分からない。
それでも、少年に託された少女を団員達は女性は聞き受けた。
少年は歩く。
男とボルアーの元に一歩、一歩と。
♢
「おいおい、何戻ってきてんだ〜?」
男はヘラヘラした態度とは別に、その顔を真剣なものとした。
彼自身も気付いたのだろう。
目の前の少年の違いに。
何より身に纏う気配に。
それは、ボルアーも感じていた。
それでも、ボルアーは少年の前に立ち止まる。
「少年止まりなさい。あの男は私に任ーー」
「ボルアーさん」
ボルアーの言葉を遮る様にラノスは話しかける。
「そこをどいてください」
「出来ません。今の君は体も心もボロボロです。そんな状態で戦ってはいけません」
「お願いします」
「少年!!」
「大丈夫ですよ」
ボルアーの言葉に延々と答えるラノスは、その眼を敵の男に移す。
「死ぬつもりも負けるつもりもありません」
「・・・」
ラノスの言葉にボルアーは口を紡いだ。
何を言っても、この少年は止まらない。
それを理解したのだ。
ボルアーはラノスに道を譲る。
本来なら止めるべきなのだろう。
ボルアーが言った様に、ラノスはもう十分に傷付いた。
身も心までも。
戦わせるべきではない。
分かっている。
だが、、
「今は、見届けるしかありませんか」
(さっきまでのガキじゃねえ)
男は目の前の少年に対して警戒の眼差しを向ける。
先程までは、少女と2人がかりで戦っていても問題なかった。
それこそ、魔道具すら使わずにだ。
それほどの実力差はあった。
少年の体を見るに、立っているのもやっとのはずだ。
それなのに、自分は警戒している。
意味がわからない。
「ッ」
少し思考に耽っていた男を前に、ラノスは駆ける。
動きは特別に速いわけではない。
男は、待ち構えラノスを向かいうつ。
しかし、ラノスは突如止まりその場で横なぎに剣を振る。
遠い。
あまりにも遠い。
そこからでは明らかに剣の射程外だ。
しかしその瞬間男は、危機感を感じ後ろに下がる。
するとどういうことだろうか?
胸元の服に一筋の切り込みが入る。
後ろに下がっていなければ切られていた。
男は冷や汗を掻きながら、しかしその顔をニヤつかせた。
(なるほどな。
射程距離の決まった飛ぶ斬撃って所か。)
男は、ラノスの攻撃に対してそう推測した。
その推測は、当たっている。
射程が決まっていなければ、男に斬撃は届いていた筈だ。
胸元の服を見る。
切れ込みを見るに、ラノスの放った斬撃は威力が軽減などされずに男に届いていた。
あの時、男が下がっていなければ致命傷あるいは死んでいた。
(飛んで来る斬撃の射程は、大体15メートルってところか)
カラクリが分かれば、恐れる必要はない。
男は、開かれた胸元から幻影を見せるペンダントを触る。
問題ない。
これが有ればな。
男の推測は、おおかた間違っていなかった。
だが、全てではない。
この判断が男に待ち受ける運命を決定づける事になった。
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