1話 目が覚めた先は
「・・・っ・・」
ああクソ店長。
「・・・・ノス」
死ぬかと思った。
トイレで下半身丸出しで死ぬとか洒落にならないだろ!
いくら負け組みたいな人生だからってこっちにもプライドくらいあるんだぞ!
「・きて・ノス!」
もううるさいなぁー、今日は休むんだよ。
こっちは昨日死にかけたんでぞ。
「いい加減に起きろーーーーーー!!!!」
「アゲフッ!」
お腹に強い衝撃が来て目を覚ます。
目を開けた先には、眩しい日差しとお腹に馬乗りに座る小さい女の子がいた。
いや幼女か?
それにここ俺の家じゃないぞ。
「もうラノスご飯できてるよ」
「ラノス?」
「ほら早くみんな待ってるよ」
「・・・君は誰?」
「えっ、何言ってるの私だよ、ミアだよ」
幼女は、そう言い困惑した顔を向ける。
「俺に貴方みたいな知り合いはいないんだけど」
そう言い放ち暫くすると、、、
「ウウゥ・・・・ウェ〜〜〜ン。ラノスがおかしくなったよー」
俺の上から飛び降り、走り去る幼女。
「なんなんだ?」
俺は困惑しながら周りを見渡す。
(やっぱり知らない部屋だ。ここは一体どこなんだ?)
「さっきの子、俺をラノスって・・・俺の名前は・・・ん?」
俺はそこで、自分の声に違和感を感じた。
なんか声が高いような?
それになんかお腹当たりが軽いような気がする。
俺は、近くにある鏡を見た。
そこにはあんなに膨らんだいたお腹がなく、むしろ少し細く感じるような体つきをした、黒髪の少年が立っていた。
黒髪の・・・少年?
「おーいラノスー、ミアからおかしくなったって聞いたんだけど」
「なんじゃこりゃあああああああああ!!!!!」
「うわああああぁ!?」
ちょうど近くまで来た子供を驚かしてしまったようだ。
だが今はそれどころじゃない!!
お、俺が子供になってる。
どう言うことなんだ?
いや待てよ・・・これは最近漫画に出てくる異世界転生では!?
俺は気になり、近くにいた子供にあることを聞いた。
「なぁ」
「なっなんだよ」
「この世界に“魔法”はあるのか?」
「えっ魔法?あるよ」
その言葉を聞いた瞬間、、、
「いよしゃああああああああ!!!」
俺は、拳を天にかかげて絶叫する。
だって魔法だぞ!魔法!!
火を出したり水を出したり空を飛んだり色々なことができる魔法!
そして転生!
これはとうとう俺の時代が来たぞ。
最強になって、可愛い女の子と結婚、ハーレムもいいな、秘密結社を作って悪の組織と戦うのもいい。
あ〜夢が広がる。
「ラノスお前本当にどうしたんだよ?」
そう言い俺を心配した顔で見つめる子供。
いや少年になりかけてる幼児かな?
年は多分5歳くらい。
俺の見た目も大体それくらいかな。
「ああ悪い少し興奮してた」
「そっそうか、それよりご飯だぞ。みんなラノスを待ってる」
そう言い部屋を出る少年に着いて行く。
暫く歩き食堂みたいな所に着いた。
そこでは、幼い子供達が椅子につき目の前の食事に目を光らせていた。
待たせてしまって罪悪感を感じながらも、目の前の少年に着いていき開いた椅子に俺もついた。
そして、シスターと思われる格好をした女性が手を合わせ言う。
「今日の恵みに感謝致します」
そう言うと他の子供達も目瞑り手を合わせる。
俺も慌てて皆を真似る。
暫くしてシスターが、
「それでは、皆さん朝食を頂きましょう」
その言葉を皮切りに子供達は、目の前のご飯に飛びついた。
ご飯は、パンにシチューと小さくカットされたリンゴ、量はそこまで多くないが、それはあくまで大人の時の目線ではだ。
今の俺は子供だ。
このぐらいの量でも、十分にお腹が一杯になった。
異世界では、ご飯はあまり美味しくないみたいな話があるが、少なくともここで食べたシチューは美味しいし、パンは硬くなくもちもちしていた。もちろんりんごも日本に居たとこの味と変わらず甘く瑞々しかった。
「あー美味しかった」
俺は満足げに目をつぶってると、
「ラノス」
ん?
声のした方を見ると、そこには先程俺を起こしにきた確か名前は、
「ミアだっけ」
「うんそうだよ」
良かったさっきの少年がミアという名前を使っていたからな。
当たっていたようで良かった。
「ラノス朝おかしかったけど大丈夫なの?」
「ああ大丈夫ちょと寝ぼけてただけだから」
「良かった〜」
ミアは、小さく微笑んで喜んだ。
か、可愛い〜これ大人になったら美人に育つんだろうな〜。
そう思えるほどミアは愛らしい姿だった。
ウェーブのかかった髪は赤く背中まで伸ばしていて、目はパッチリしていて薄い緑色、愛らしい顔だち、やばいロリコンに目覚めそう。
いや待てよ、年は俺とそんなに変わらなそうだから5歳と仮定すればそれは、ペドにならないか?
そんな事を考えてると後ろから声をかけられた。
「おーいラノス、ミア」
後ろを振り返るとそこには先程の少年がいた。
「あっ、レンジ君さっきはありがとうね」
そうかこの少年はレンジっていうのか。
「いいっていいって、そんなことより朝から心配させんなよ」
「いや〜心配かけちまって悪りぃ」
「本当だぜ、ミアなんか大泣きしながらながら『ラノスが私を忘れちゃたよ〜』なんていうから驚いたんだぜ」
レンジはそう言いケラケラと笑う。
「う〜だってラノスが〜」
「いや本当に悪かったって、もうミアのことは忘れないから」
「本当?」
ミアは上目遣いで俺を見る。
やばい本当に可愛い。
「本当本当」
俺は首を縦に振りながら言う。
「うん約束」
そう言い小指を差し出すミア。
指切りか?
俺もミアの小指に指を絡める。
「約束破ったら髪むしりとるから!」
満面の笑みを浮かべるミア。
いや怖っ、なんだよ髪をむしりとるって意外とやんちゃな子なのかな?
そう思いつつ絶対に忘れないと思う俺だった。
それから数日が経ち、俺はここの世界のことを知った。
というよりは思い出したという方が正しいかな。
最初にこの世界で目を覚ました俺はその晩にうなされていた。
頭の中に知らない記憶いや、これはラノスの記憶と思われる映像を走馬灯のように一瞬で頭に流れてきた感じだった。
そこでは、この世界の事や俺が住んでいる孤児院、ミア・レンジのことだったりしたが、俺が一番気になったのが俺自身がラノスなのかそれとも日本にいた時の人なのかだった。
体感では、ラノスの記憶が流れ込んだ際に自分がラノスだと自覚みたいなのが芽生えていたりしたからだ。
と言ってもこれに関しては、そこまで長い時間悩むものでもないようだった。
というのも記憶の中のラノスも日本に居た俺もあまり深く考え込まない子だったからだ。
まぁラノスに関しては、そもそも5歳の子供で深く考えるも何もないんだけどな。
そんなことを思いながら今俺は、、、
「はぁはぁ・・・もう魔力が持たない」
魔法の練習をしていた。
魔力を体内で循環して外に放出し体に纏わせる。
そうすることで身体能力が向上するらしい。
らしいというのは、孤児院に合った魔法の本にそう書かれていたからだ。
幸いラノスは、簡単な文字ぐらいは読めたし後は地球いた頃の漫画の知識をうまいこと合わせれば、これぐらいは出来る。
そしてこれを維持するのが大変だった。
魔力もそうだけど少しでも気を緩めるとあっという間に纏った魔力が分解される。
なので、今はひたすらに魔力と集中力の強化に励んでいた。
魔力が尽きて倒れる俺の頭にタオルが渡される。
「ラノスお疲れ様」
そう言って労いの言葉をかけるのは、ミアだった。
「ありがとうミア」
俺はタオルを受け取り汗を拭く。
「ラノスなんで急に魔法の練習をしてるの?」
魔法の練習をしてる理由は、純粋に魔法を使いたかったのが一つ、もう一つが強くなるためだ。
なぜならこの世界には、魔物がいるから。
魔物は、とても凶悪で、凶暴と言われる。
年に魔物に襲われて、命をなくす人がたくさんいる。
そんな魔物対策に国は頭を悩ませたりしているみたいで、騎士団や傭兵に冒険者なども派遣するが、魔物の中にも強さがあり、強い魔物にあたれば全滅したりする。
ただ、そんな魔物からは色々な素材が手に入る。
装飾品や武器の材料、食材にもなったりする。
そして魔物の素材で一番価値あるものとされるのが、魔物の体内にある魔石だ。
魔石には、色々な力の用途が存在する。
戦闘面や日常生活など、特に日常生活では地球にいた頃の電気やガソリンの代わりとなるものだったりする。
話が長くなったけど、要するに俺は死にたくないのだ。
そのためにも強くなりたいと思ってる。
「強くなるたりたいんだ」
「強く?」
「そう、みんなやミアを守れるぐらい」
「私も、、、」
ミアは顔を赤くし、下を向く。
ちょっとくさいセリフを吐いた自覚はあるがこれは俺の本心だ。
この孤児院のみんなは家族だと思ってるし、地球にいた時には親孝行の一つもできなかった。
代わりというわけでは、この世界では家族は大切にしたいと思っている。
その中には、ミアも含まれる。
暫く、下を向いていたミアが顔を上げる。
「うんわかった、そしたら私もラノスやみんなを守れるくらい強くなる」
「おう、一緒に頑張ろうぜ」
そう言って俺とミアは拳を突き合わせた。
だがこの先、あんな悲劇が待ち受けようとは、この時の俺は知るよしもなかった。