16話 激情
森の中を走る俺達は、ネルさんに言われた通りAランクBランクの冒険者を呼ぶ為森の奥地に向かう。
ネルさんは、時間を稼ぐと言っていたが、相手はSランク級の魔物だ。
一刻も早く応援を呼ぶ為に俺達は急ぐ。
速く、速く、もっと疾く!
3人の走る速度は、今までにないほど速かった。
《アーマ》を脚に纏う事で速度を上げている3人だが、体力と魔力は無限ではない。
疲れもすれば、疲労もする。
心肺が上がり、呼吸が荒れる中それでも3人は走り続ける。
ネルさんが、危なく急いでいるのも有るが、心を大きく締めているのはレンジの死だ。
レンジの死が、目の前で起きミア、ルフレは大きく悲しんだ。
勿論ラノスも悲しんでいた。
幼馴染なのだ。
子供の頃から一緒に暮らして来た大切な存在だ。
守ると誓ったのに失って心に大きく穴が感じた。
それでもあの時、ミア達が殺されそうな時動けたのは、これ以上失いたくない気持ちで一杯になったからだ。
本当は何も動かず立ち止まって泣き叫びたい、だがそれは許されない。
ネルさんは、俺達に託したのだ。
Sランク級の魔物と、1人で立ち向かっている人の頼み事を無視して悲しみに囚われる訳にはいかない。
ミア達もおんなじ考えなのか、ただただ前を見て走り続ける。
「ハァ、、ハァ」
どれくらい走っただろう。
近くには、森の奥地の目印になる高い樹木があり、『夜明けの星々』達はそこを中心として活動していたはずだ。
あと少しまで近づいた俺達は、体に鞭を打ち前に進もうとする俺達は、、ッ!?
「伏せろ!!」
俺は突然感じた嫌な予感を前に叫ぶ。
ミア達は俺の叫びに従い体を屈める。
突然の叫びにも咄嗟に体を動かせたのは、信頼の成せる技なのか、結果それは功をなした。
ヒュッン
風を切る音が頭上に響く。
俺は、前方に倒れる勢いを利用して、剣を前に向け抜く。
前から感じた気配は遠のき、手元からは何かを切った感触がはなかった。
「クソ!避けられたっ」
「おーおー危ねぇな」
歯を食いしばり憤る俺の前では、何もなかったところから人の顔が出てきた。
それは先程、レンジを殺し俺たちに襲いかかった人物だった。
「お前だけは絶対にぶっ殺す!」
俺は、心に感じる激情を吐き出す。
「ラノス、あの人は?」
俺の激情に驚くミア達は、前方にいる敵について聞いてくる。
「レンジを殺した奴だ」
「「ッ!!」」
俺の答えにミア達は眼光を鋭くして、前方を睨みつける。
「あいつが!」
「レンジ君を!」
怒りを露わにしている俺達を目の前に、奴もまた怒りを表す。
「怒ってんのは俺も同じなんだよぉ〜!テメェのお陰でこっちは笑いものだ!!」
奴は、俺に殴られた方をさすりながら叫ぶ。
俺に殴られた類は、青黒く変色していた。
おの時俺は、殺すきで殴りつけたつもりだが、大きなダメージにはならなかったようだ。
「テメェに殴られた時に、転移石で逃げたが顔を見られてあいつに笑われちまった」
どうやら奴は、俺が意識を失う前に転移石で逃げた様だ。
通りで意識が戻った時に奴がいなかったわけだ。
それに奴は、“あいつ“と言っていった。
つまり、
「おいおいこんなガキにやられたのかよ!」
「うるせぇーな文句あんのかよ」
この方をした方を見てみると、そこには巨体な体と背中に大きな剣を背負った大男がいた。
感じ取れる気配からも大男はかなりの強者だ。
相手は2人。
こちらは3人。
数ではこちらが有利だが、今はそれよりやる事がある。
「ルフレ、ミア俺があいつらと戦うから応援を呼んできてくれないか」
「そんな!ラノスを置いていけないよ!」
「そうですよ。ここは3人であの人達を倒しましょう」
俺の提案に2人は反対する。
それはそうだろう。
ラノスは、ミア達に応援を呼ばせるために1人で戦おうとしているからだ。
1人は姿を隠せるレンジを殺した男、1人は強者の風格を思わせる大男。
心配するミア達を前に、ラノスは自分の考えを伝える。
「ミア、ルフレ、俺達は一刻も早くネルさんの元に助けを呼ばなくちゃいけない。今この瞬間もネルさんは戦っている」
そうだ。
今の優先順位を間違えてはいけない。
この瞬間も戦っているネルさんの為に俺達は走って来たのだ。
それを分かっているミア達だが、それでもラノスをここに残すのに抵抗があった。
ラノスもその気持ちを理解していた。
「2人がかりで行けばすぐに他の冒険者達を呼べるはずだ。それまで俺が時間を稼ぐから」
「でも、でもっ!」
「大丈夫、無理はしないから。いざとなったら逃げるから」
俺は、ミアの肩を掴みその赤い目をじっと見つめる。
ミアも落ち着いたのか、それとも俺の気迫に押されたのか小さく頷いた。
「絶対無理はしないでね」
「約束する」
「話はまとまりましたね」
ルフレは俺達の話を側で聞いて待っていてくれた。
「それじゃあ頼む」
「ご武運を」
「すぐにっ、すぐに戻ってくるから!」
ルフレは真剣味を帯びた声で、ミアは悲痛な声をあげてこの場から走り出す。
「おいおい、逃す訳ねぇだろ!」
大男はミア達目掛け走ろうとした。
「させるかよ!」
俺は背中から矢を1本取り出し大男に投げつける。
大男は走り出すのをやめ、その太い腕で矢を弾く。
「あん?」
「お前らの相手は俺だって言ってんだよ。この筋肉だるま!」
「上等だオラァ!」
挑発が効いたのか、大男は頭に血管を浮かべ大剣を抜き俺の方に構える。
これでミア達の方に行かず俺に集中してくれる。
良かった。これで俺はーー
「ごめんミア、約束破るかもしれない」
俺は今どんな顔をしているかな。
ミアには見られたくない。
だって俺は、レンジの仇を前に、
ーこの気持ちを抑えられない。
♢
「オラァ!」
大男が繰り出す大剣をバックステップで避けるラノスは、剣を左首元に構える。
そこから突然手元に来る衝撃を前に逸らすラノス。
逸らした先には、ナイフのような刃物と人影が映る。
「クソッ!なんで見えてるんだよ!」
「首元しか狙えねぇのかよ」
ラノスは前方に映り込んだ人影を前に膝蹴りを打ち込む。
「グッ」
人影から映り込んだ顔からは、苦悶の表情を浮かべる奴が見えた。
そこから更に追い打ちをかけようと剣を振り下ろすが、横から気配を感じ飛び跳ねるラノス。
先程までラノスがいた地面には、抉れた様な跡を残した大剣があった。
「ハッハッ、本当にお前が見えてる様だぞエンデ」
「るせぇ」
(エンデ、あいつの名前か)
俺は、エンデを鋭く睨みつける。
視線に気づいたのか、エンデは警戒するようにこちらを見つめ返し、再びその姿を消す。
大男の方もこちらに向かい走り出す。
俺も前方に向かい走り出す。
大男は、迫って来る俺に嗜虐的な笑みを浮かべ、大剣を突き出す。
ラノスは眼前に迫る大剣を前に、左半身を逸らすことで避ける。
そのまま右に構えた剣を下から振り上げ大男の腕を切り付ける。
大男は痛みに一瞬怯む、その隙を付きラノスは剣を両手で持ち直し、大男の体に更なる斬撃を打ち込む。
打ち込む!打ち込む!
反撃を許さないラノスの連撃を前に、大男はいつしか大剣を手放し、後方に倒れ込む。
連撃を止め大男を見つめるラノスの瞳は冷たい。
大男からは息遣いを感じず、死んでいるのは誰の目からも明らかだ。
初めて人を殺したのに、ラノスは特別何かを感じる事はなかった。
せいぜいが敵が1人消えたと感じるだけ、だが敵はまだ、、ッ!
ーギィイィン!
咄嗟に剣を胸元に添えたラノスは、刃がぶつかり合う音を聴きながらも、衝撃を殺しきれずバランスを崩す。
だが、ラノスはその体制のまま素早く剣を上空に構える。
「ッ!!」
ガリッ!
歯を軋ませながも、上から来る重みを耐える。
「テメェ!なんで俺が見えてるんだよ!!」
エンデから発せられる怒気を含んだ声にラノスは答えない。
いや、正確には答えられないと言う方が正しい。
ラノス自身にもわからないからだ。
そもそもな話ラノスはエデンの姿が見えていない。
ただ“感じる“だけだ。
しかしこの“感覚“がラノスを救うことになった。
ラノスだけではない。
ミア、ルフレが襲われる際もこの奇妙な“感覚“に従って動く事で助ける事ができた。
今までの冒険でも、何度か味わったて来たこの“感覚“は、エデンに怒りを向けてから最高に冴え渡っていた。
結果今のラノスは、とてつもない高みに昇る事ができた。
そもそもが本来あの大男はラノスにとっては、強敵だったはずだ。
それを怪我なく、2対1の状況で殺し切るという事がそれを証明している。
「知るかよ」
暫くの剣での押し合いを前に、ラノスは低い声を出す。
今、ラノスの頭に浮かぶのは2つだけだった。
1つは、首が無くなり体だけになったレンジの姿。
そしてもう1つはーー
「言っただろ」
腕に更なる力を込め、剣を少しずつ押し返していくラノスは、やがて崩れた体を立ち上げていき、顔を見えないであろうエデンに近づけ、声を荒げる。
「お前だけは絶対にぶっ殺すって!!」
ーーとめどない殺意だった。
「ッッ」
ラノスの気迫に押されたのか、少し力が緩んだエデンを前に、ラノスは剣を振り上げた。
「がぁっ!」
押し合いに負けたエデンの胸元には、深々とした傷が残る。
ラノスはそのまま振り上げた剣を、最後のとどめだとばかりに渾身の力で振り下ろす。
ーポタ、ポタ
はずだった。
ラノスが振り下ろすはずだった剣は、狙い違わずエデンの横を通り過ぎる。
そしてそのまま、片膝を付いてしまうラノス。
「ふざけんなよ」
悪態をつくラノスは、自身のお腹を押さえつける。
そこからは、赤黒く滲む血が流れていた。
ミア達を庇い刺されてしまった傷が広がってしまったのだ。
実は先程治療した際、ラノスは完治とまでは行かなかったのだ。
では何故それに気付かず、ラノスがここまで戦えていたか。
それは、ネルから託された頼みと、圧倒的なまでの怒りだった。
しかし、いくら気持ちが強くても体が持たなかったのだ。
突然苦しみ出したラノスを前に、勝機を見い出したのか、エデンは痛む体を無視して攻撃を仕掛ける。
動けないラノスは、その攻撃を前になす術はなかった。
直撃を確信したエデンはその顔に喜色を浮かべた。
しかし、、、
「ファイアボール!」
声と共に飛んできた火の玉はエデンを飲み込む。
突然の奇襲を前にエデンは避ける事ができなかった。
「あぁぁぁーーー!」
エデンの叫びを前に、ラノスは魔法が放たれた先を掠れた瞳で見つめる。
そこには、赤い髪を靡かせた少女、、
「ラノス大丈夫っ!?」
ミアの姿があった。
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