10話 忘れた頃にやってくる
「あの時は死ぬかと思った」
「ね〜私もだよ」
俺とミアは、宿に戻りながら先ほどのことを思いだしていた。
森の奥地で見かけた魔物フェンリルに殺されかけた俺たちだったが、そこに『夜明けの星々』のクランマスターのボルアーに助けられた。
あの時ボルアーさんに助けてもらわなかったら、目の前でミアが殺されていたと思うとゾッとした。
「もっと強くならないとな」
俺は、小声でボソッと呟きながら改めて決意を口にする。
「ラノス何か言った」
「いやなんでもないよ」
俺は苦笑しながら宿に向かう歩を早めた。
♢
「おーいラノスこっちこっち」
「先に注文の方はしときましたよ」
宿に着いた俺達を迎えたのはレンジとルフレだった。
俺とミアは、宿に帰る前に買い物などをしていた。
森の奥地に行くのに当たって色々な道具を消費していたからだ。
レンジとルフレは、武器の修繕などで武器屋に行っていたのだが、俺達より早く用事を終わらせたようだ。
席に着いた俺達は運ばれた料理を口にしていた。
暫く俺達は、目の前の料理を黙々と食べていたがやがて食事の手を止めたレンジが口を開く。
「俺たち生きてるんだよな」
その問いにルフレも食事の手を止め答える。
「生きてるよ。じゃなければこんなに美味しい料理を食べていないよ」
「そうだよ!私達生きてるんだよ」
ルフレとミアの答えたがレンジは
「そう、だよなぁー」
それでもレンジは顔を下に向けて沈んだような声で返す。
無理もない、あんなことがあったからな。
俺達は死にかけた。
それもついさっき。
強くなったと思って森の調査に挑んでみれば、強い魔物に合って殺されかけた。
少しの抵抗も許さず、逃げることさえできずに。
はっきり言って調子に乗ってたいたのだ俺達は。
新しい装備を身につけて、師匠に《アーマ》の教えを受けて強くなったと思っていた。
いや強くはなったが、上には上がいる。
それはそうだ。
俺達は、冒険者のランクで言うならDランクであり下から数えて2番目だ。
本当に調子に乗っていた。
今日何度目かの反省。
ーパンパン
「もお〜暗くなるのはやめようよ。私達は生きてる!今はそれが大切でしょ」
ミアは手を叩きながら怒ったように言う。
その言葉に俺も口を開く。
「ミアの言う通りだ。俺達は生きてる。それならばいくらでも反省してやり直さことができる」
俺達の言葉にレンジは下げていた顔を上げる。
その瞳にはギラギラとした輝きを灯していた。
「そうだよな!!死にそうになった?そしたら強くなればいいだけだもんな!今度はあのフェンリルに負けないぐらいに!」
そうしていつもの調子に戻ったレンジは、強くなることを宣言する。
その言葉に、俺もルフレもミアも頷く。
「そしたら今日は、早く寝て明日は特訓をしよう」
「「「おー!!」」」
俺達はこの日、自分達の行いを反省し強くなる決意をしていった。
♢
それから俺達は、強くなる為に師匠の下に向かったら、討伐の依頼を積極的に受けたり、ギルドの訓練所で特訓したりなど充実した日々を過ごしていった。
そんなある日ルフレはレンジを連れあるところに向かった。
「ここが良さそうだよ」
「そうだな、ここなら良さそうな物がありそうだ」
レンジ達は、店の中に入り商品を物色していった。
しかし商品の値段を見ていくうちに顔が凍りついていった。
「たっ、高い」
「わかっていたことですが想像以上ですね」
想像以上の値段に頭を抱えそうになるが、この時のためにレンジ達はお金を貯めていった。
それでも、買えそうな商品は多くなく悩み抜いた2人はある商品を見つける。
「これだ!!これが良い」
「レンジ君にしては良いセンスですね」
「俺にしてはってなんだよ!」
憤るレンジを宥めながらルフレはその商品を取り、会計場に向かった。
その商品も決して安いわけではないが、それでもこれを贈る相手を考えて買う決意をした。
「喜ぶかなあいつら」
「そもそもあの日を忘れてなければ良いんですけど」
「あ〜そうだよなここ最近忙しかったもんなぁ」
♢
あの日から強くなるために朝から晩まで特訓特訓の日々で、毎日疲れ切っては夜にすぐ寝る。
これを繰り返す毎日だが、ある日レンジは思い出す。
あっ、あの日じゃん
思い出したレンジはルフレに声を掛ける。
ルフレはどうやら覚えていたみたいで、お金を貯めていたようだった。
忘れていたレンジは、結果ルフレと一緒に買い物に行くことになった。(ちなみに商品の支払いはほとんどルフレだった)
♢
何か忘れてる。
俺はふとそう思った。
ここ最近毎日が忙しくて何か大事な事を忘れている気がする。
う〜ん、う〜〜んん?
「どうしたのラノス?」
隣で《アーマ》維持の持続を続けてるミアは、首をコテンと曲げて俺に聞いてきた。
「いや、何か大事なことを忘れている気がして」
「やっと思い出したのラノス」
「ん、何か知ってるのかミア」
どうやらミアは、俺が忘れている何かを知っているみたいだ。
俺は期待した目でミアを見る。
「ラノスが忘れているのはね」
「うんうん」
「私が貸したお金のことだよ」
「なるほど確かに忘れていたよ・・・ってな訳ないだろ!」
ベシッ
「あいたっ」
俺はミアの頭を軽く叩く。
叩いた場所を手で摩りながら舌を出すミア。
あざとかわいいなぁ!
「でもそうなんだよね。私も何か忘れている気がして」
「ミアもか」
俺達は頭を悩ませながら、必死に忘れている何かを思い出そうとする。
しかし、暫く経っても俺達は何も思い出すことができず、途中からは諦めて特訓の続きを行った。
♢
「ふふっふ〜ん♪」
白い空間で“彼女“は歌う。
“彼女“はこの白い空間で封印されていた。
しかし、突然白い空間が割れだし割れた空間から光の玉が現れた。
「あら、貴方が出て来るなんてめずらいわね。ここには何しに?」
「意外だな」
光の玉は“彼女“の問いに答えず疑問を投げかける。
“彼女"はそのことに対し特に不満に感じず疑問に答える。
「貴様ならあの者にすぐにでも会いに行くと思っていたのだがな」
「私もすぐに会いに行きたかったわでも・・・」
「でも?」
「恥ずかしいじゃない。だって久しぶりなんだもん」
「っ!?」
光の玉は彼女のその反応に心底驚いていた。
光の玉なので表情は伺えないが、それでも驚いてると感じることができる。
それもそうだろう。
“彼女“のこのような表情は初めて見た。
光の玉が見てきた“彼女"は常に無表情であり、声も淡々としていてまるで全てに興味を抱かない存在だった。
それがどうだ、今目の前で見るその姿は。
まるで、恋焦がれている存在に緊張するなど。
いや、それほどまでにあの者に想いを抱いているのだろう。
(それもそうか。何せあの者は〇〇○なのだからな。そして“彼女"にとってもあの者は・・・)
「どうしたの黙るなんて」
「いやなんでもない」
“彼女“の意外な一面を見て思考に耽る光の玉だったが、声に反応することで思考をやめた光の玉は、当初ここにきた目的を語り出す。
「近々あやつら動いているぞ」
「?」
「邪神」
瞬間
ーギギギ、バリ!!!
“彼女“の周りの空間が軋む。
“彼女“は特別何かをしている訳ではない。
ただその名を聞いて不快感と圧倒的なまでの『増悪』を感じただけだ。
「落ち着け!!」
「・・・コロス」
「?!」
「コロスユルサナイコロスユルサナイコロスユルサナイコロスユルサナイコロスユルサナイコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス・・・」
まるで壊れた機械のように延々と言い続ける“彼女“を前に、光の玉は後悔をした。
しかし自分がきた目的としては、先ほどの名を言わないわけにもいかず結局の所この姿を見るのは仕方がないことだった。
「それで、あいつらを教えるために来たの?」
暫くして落ち着いたのか、彼女は目的がそれだけなのかと聞いてくる。
「依頼をする為に来た」
「嫌だ」
「まだ何も言ってないだろ」
「どうせ殺せとかそう言うやつでしょ」
「いつもなら喜んで行くだろ」
"彼女"にこの依頼をするのはこれが初めてではない。
“彼女“が封印される前はよく依頼をしていた。
邪神の動きがあった際には、阻止または殺害などと言った事を頼んできた。
神とついた者達に戦いを仕掛けるなど、普通の者達なら自殺行為意外の何者でもないが、“彼女“は普通というにはあまりにも強く、邪神に対して増悪が尋常ではなかった。
「あの人に会いに行くから」
「行こうとして行ってないくせにか」
「何?」
「なんでもありません」
余計な事を言ったと後悔する光の玉だが“彼女“から先程とは違う答えが出た。
「依頼受けるよ」
「本当か!」
「貴方の言う通り暫くは行けそうにないからね。それにあいつらは殺したいからね」
「助かる」
了承を受けてもらい安堵する光の玉は、その姿が霞んでいく。
「どうやらこの空間にいるのも限界のようだ」
「あら、ここをまた壊しましょうか」
「どうせ壊した後、ここは復元されるのだろう?伝える事は伝えた、集合場所はいつものところだ。待ってるぞ」
そう言い残しその姿は完全に消えた。
“彼女“を残した空間に静寂が訪れるがそれも長くは続かず、やがて"彼女"の周りを軸に空間の崩壊が始まる。
“彼女“は顔を上に向け呟く。
「まだ会えそうにないけど、いつか必ず会おうね。私の・・・」




