第7話:英才教育の失敗
ぺこりと頭を下げてくるリーファ。
「そんなことはない。念のため助けたけど、リーファだけで十分だった」
俺は咄嗟に『風地斬』でジークの危機を救ったが、後に詰めていたリーファだけでもあの場面は十分どうにかできた。
俺たちの安全を確保するため派遣されている冒険者なのでしっかり注意して見てくれていたということだろう。
「ユートくんは謙虚ですね。確かに、結果はそうかもしれませんが、仲間を助けようとする姿勢は素晴らしいと思いますよ」
「めちゃくちゃ褒めてくれるんだな」
「ええ。教育者として当然です! 褒めて伸ばした方が良いに決まってます!」
ふふんと胸を張るリーファ。
まあ、実際悪い気はしないし褒めて伸ばした方が良いには同感だな。
「私、冒険者学校の教官に転職しようと思っているんです」
「え、教官?」
「はい。きっとユートくんもご存じだと思いますが……私、冒険者の才能はなかったみたいで。十分わかったので、せめてこれから羽ばたく冒険者たちの力になれればって」
そういえば、ルークがそんなことを聞いたな。
あくまで噂だと言っていたが、本当だったらしい。
「そうなのか? 才能がないとは思えなかったけどな。さっきのウルフ戦で身体の動かし方とか、剣の扱いとか……かなりの手練れだと感じたが」
お世辞で言っているのではなく、実際に感じたことをありのまま言葉にするとこうなった。
リーファは少し嬉しそうに微笑みながら、言葉を続ける。
「ありがとうございます。ここまでしっかり『視られる』冒険者にお会いしたのは初めてです。でも、逆に言えば私ってそれだけなんです。小さいときからずっと修業を頑張ってきて、様々な剣技を身に着けましたが、色々とできるだけで特別なことは何もできません。器用貧乏なのです。ユートくんは褒めてくれましたが、これって『剣聖』じゃなくてもできることなんですよ」
確かに、俺が褒めたのは判断力や落ち着きの部分で、ゲームでいうプレイヤースキルの部分だ。実際どの職業でもやろうと思えばできることだ。
ゲームでは最後はプレイヤースキルの差で競うことになるのでこの部分でしか他人を評価しなくなっていたが、情報が少ない異世界では事情が違うのかもしれない。
それよりも、気になることがあった。
「『剣聖』なのに特化した能力がないってどういうことだ?」
『剣聖』は、『剣士』や『剣豪』が使えるスキルはすべて使用可能であり、さらに『剣聖』独自のスキルも使えるはずだ。
正統進化である二次転職により得られる職業なのだからそれが当然だと認識していたのだが……ゲームとは違うということなのか?
「それは……私も知りたいです。周りの大人の人からは才能を褒められ、幼い時から英才教育を受けさせてもらいました。でも……いつからかどれだけ修業して魔物を倒しても強くなれなくなってしまったんです」
魔物を倒しても強くなれなくなった……?
あっ、そういうことか。
「スキル振りの失敗……か?」
DWPでは、『最大レベル』は存在しないが、他のゲームと同様にレベルが上がるごとに必要経験値量は膨大になっていく。
ゆえに同じ魔物から得られる経験値は一定のため、だんだんとレベルが上がりづらくなるのだ。
リーファは、おそらく血の滲むような努力を重ねた結果、この歳にして実質的なレベル上限に到達してしまったのだろう。
これが強くなれなくなったことの一因だろう。
そして、これにより経験値が上がることによられるスキルポイントが得られなくなったのが成長が止まったと感じる最大の原因で間違いない。
レベルアップごとに10ポイントもらえるスキルポイントは100ポイントまで貯めることが可能だが、それ以上貯めることはできない。
溢れたスキルポイントは消滅することなく、自動的に『よく使っているスキル』から順番に割り振られることになる。
リーファは幼少の頃から英才教育を受け、その結果幅広いスキルを満遍なく強化してしまったのだろう。
すべてのスキルをカンストすることはできないため、プレイヤー個人のスキル振りによりキャラクターの強さは大きく影響してしまう。
これがDWPの醍醐味でもあったが、狙いがないスキル振りはポテンシャルを殺してしまうのだ。
つまるところ、リーファの成長は限りなく限界に近づいてしまい、これ以上強くなれなくなったということだ。
「スキル振りってなんですか?」
そうだ、この世界ではスキルという概念がないのだ。
当然、スキルツリーも知らないのだろう。
事実を伝えることは簡単だが、リーファは受け入れられるのか?
というか、話してどうなる?
せっかく受け入れて別の人生を歩もうと決意を固めた人に、これまでの人生を否定するようなことを言ってどうする?
「……なんでもない。気にしないでくれ」
「そう……ですか?」
これでいいんだ。
俺だけが知っていれば、それでいい。
「では、休憩時間を終わりにしますね。先に進みましょう!」
俺たちは安全に気を付けつつ着々と洞窟を進み、ついに洞窟の最奥に辿り着いた。
ここまで到達すれば、後は無事に戻れば試験は終了。晴れて『認定冒険者』になれると聞かされていたのだが――
「な、なんだあれ!?」
「なんでこんなデカい魔物がここにいんだよ!?」
「実は弱いとかってことはないんだよね!?」
「そんな都合の良い話あるわけないですわ!」
洞窟の最奥には、巨大なオーガが立ち塞がっていたのだった。
エリアボス。
一定のエリアを支配する強力な魔物であり、ソロでの討伐はよほどの高レベル冒険者でなければできないと言われている。
出現場所はランダムなため、初心者冒険者が遭遇すれば複数人で戦ったとしても勝ち目はない。
ゲームでは死んでもデスペナルティによる経験値減少のみで済んだが、ここは現実。
「皆さん。ボスと遭遇した時の対処法は知っていますね?」
リーファは、混乱したグループを落ち着かせようと考えているのか、質問を投げた。
俺はリーファの気持ちを汲み取り、代表して答える。
「倒すか、逃げるか――だ」
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