第5話:落ちぶれた神童
◇
三次試験の合格者は十五名。
この十五名が五名ずつに分けられ、最終試験に臨む。
最終試験の内容は、町の外で実際の依頼をグループで達成すること。最終試験は危険を伴うため、Cランク以上の冒険者が一人加わることとなっている。
担当してくれる冒険者が到着するまで、ギルドに裏庭で待っているという状況だ。
「にしても、ユートだっけ? お前すごかったな!」
「同じグループになれてよかったよな、ほんと」
「ね~! 同じ世代にこんな人がいるなんてびっくりだよ」
「私、ドキドキしっぱなしですわ♡」
俺の他には男女二人ずつ。
なぜか、一緒に試験を受けるグループメンバーから俺は大歓迎されていたのだった。
さっきの三次試験でほとんど合格が決まっており、最終試験は依頼を達成できれば落ちることはないと言われており気が楽なのが大きいのかもしれない。
これまでの試験のようにピリピリとした感じではなかった。
「褒めてくれるのはありがたいけど、そんな大したことはしてないんだけどな……ハハ」
もともと俺はイキリ散らすような性格ではないため、こういうときどんな反応をしていいかよくわからない。
とりあえず愛想笑いを浮かべておいた。
自己紹介などをしつつ時間を潰していると、試験を監督してくれる冒険者が到着した。
「皆さん、初めまして。試験を担当するリーファ・リブチェスターです。今日はよろしくお願いしますね!」
リーファは、俺たちと年齢が同じくらいの18歳くらいに見える美少女だった。
艶やかな長い金髪。透き通るような蒼い瞳。可愛らしく美しい顔の造形に目を奪われてしまう。身長はさほど高くないが、胸が大きく抜群にスタイルが良い。
「ま、まさかリーファ様が担当してくれるとは思わなかったぜ……!」
「ああ、夢みたいだ」
「本物のリーファ様お美しい……!」
「これには私の美貌も適いませんわっ!」
リーファという冒険者のことを皆知っているようだが、有名なのだろうか?
村の外の目的地への移動中、グループメンバーに聞いてみることにした。
「ルーク、リーファって人は有名なのか?」
さっき話していた中で、話しかけやすそうだと感じた『剣士』の少年に尋ねた。
「え……知らないのか?」
「うん、まあ……そうなんだ」
DWPではどんな些細な設定でも知っていた俺だが、リーファに関しては聞いたことがなかった。
「リーファ様は天才なんだ」
「天才?」
「ああ。普通は18歳になってから儀式をして、神から職を授かるだろ?」
この世界の常識については知らないのだが、話を遮っても仕方がないので頷いておく。
「でも、リーファ様は10歳の時に職を授かったらしい。しかも、その職業は『剣聖』。神話を遡っても歴史上何人もいない特別な職なんだ」
確かに、『剣聖』はDWPでも強力な職業だった。
『剣士』から『剣豪』への転職が一次転職。
『剣豪』から『剣聖』への転職が二次転職。
『剣聖』に限らず、一次職と二次職の違いはめちゃくちゃ大きかった。
一次職である『剣豪』のガリウスがエリートとされている現状を考えれば、10歳で『剣聖』を授かったリーファはとんでもない神童として扱われてきたのだろう。
「リーファ様は様々な強力な魔法と剣技を使える本物の天才なんだ! だからこそ、15歳で勇者軍にも加入されたんだ」
勇者軍というのは、確か人類と敵対するこの世界の魔族たちを支配する魔王を倒すことを目的とした精鋭部隊だったかな。
各国ごとに勇者軍はあり、冒険者ギルドとも独立した組織になっていたと記憶している。
「そりゃすごいな……。でも、そんなに強い冒険者がどうしてこの試験を担当してくれたんだ?」
普通に考えれば、新人冒険者の育成というのはトップオブトップの冒険者がすることはないはずだ。引退した一流の冒険者ならまだしも、リーファは若すぎる。
「それは……だな」
言葉を詰まらせるルーク。
「あまり大きな声では言えないんだが……あくまで、噂だぞ?」
「……ああ」
ルークは小さな声で説明を始めた。
「順調に成長されていたリーファ様だったんだが……Cランク冒険者相当で成長が止まってしまわれたんだ。勇者軍も今は除隊されている。世間は早熟だとかなんとか、ボロクソ言ってる」
「本当か……?」
「あくまで噂だ。だけど……状況的には、な」
冒険者はF級から始まり、E→D→C→B→A→Sという序列になっている。
もしリーファが本当に『剣聖』なら、Cランクで成長が止まるなんてありえない。絶対にSランクの素質がある。
自称している『剣聖』が嘘なのか、あるいは何かほかに原因があるのか……?
「ても……リーファ様は俺たちの世代のヒーローなんだ。今は調子が悪いかもしれないけど、また俺たちに夢を与えてくれるはずさ」
女性なんだからヒーローではなくヒロインではないのか? というしょうもないツッコミはさておき、俺が思っていたよりリーファは有名人だったらしい。
「さて、つきましたよ」
俺たちを導いてくれていたリーファの知らせ。
どうやら、ルークから話を聞いている間に結構歩いていたらしく、目的地に到着したようだ。
ようやくヒロインのリーファちゃん出せました!!