第4話:手のひら返し
「勝者、ユート!」
勝敗がギルド職員により告げられると、会場は大盛り上がりだった。
「うおおおおおおおおおおっ!!」
「まさか『剣豪』のガリウスが負けただと!?」
「あのユートってやつ、何者なんだ!?」
そんな中、リカルドは見学席から試験会場に突入してきた。
俺がガリウスを完膚なきに倒したことで何か言いたいことでもあるのか?
「皆、よく聞け!」
サンプドワール家の家長であるリカルドの顔はよく知られているのか、はたまた変な奴が現れたからなのか、シンと静まり返った。
「実はガリウスは私の息子ではないのだ!」
まさかの告白に、ざわざわとし始める。
「サンプドワール家にこれほど弱い人間がいるわけがないだろう? ふっ、だが安心しろ。実はこのユートこそが我が息子! 私の後継者なのだ!」
え……?
確か、昨日の時点では『恥さらし』とかなんとかめちゃくちゃ言われたような気がしていたのだが……?
「な? そうだな?」
『そう言え』とばかりに圧をかけてくるリカルド。
柔軟に考えを変えられる――と言えば聞こえはいいが、これはただの優柔不断だ。
自分にとって都合が悪いときには貶め、都合が良い時には利用する。……むちゃくちゃだな。
「ち、父上……それはひどいぜ……」
倒れたままのガリウスもリカルドの話を聞いていたらしい。
「あ? 黙れ。『遊び人』程度に負けるカスが後継者になれると思ったか! 我が家も舐められたものだな! お前なんか出ていけ!」
「……っ! べつに俺は最初から後継者になんて……」
「あ? なんか言ったか?」
昨日俺が詰められた構図を繰り返す形だが、さすがにガリウスが気の毒になるな。
それにしても、『遊び人程度』か。言葉では俺を褒めたたえても、本心ではやはり見下していそうだ。
「ところでユートよ。そんなに強いなら隠さず話してくれれば良かったんだぞ? まあ、今回のことはお互い水に流そう。な?」
『遊び人』が強い理由は懇切丁寧に説明したはずだが?
まあ、いいか。リカルドは記憶力が悪いのだろう。
「水に流すってなんのことだ? 俺はサンプドワール家とは何も関係ない。二度と家名を名乗るなと誰かに言われたんでな」
「なに!?」
「家督を継ぐ気はない。他に当たってくれ」
俺は、あえて周りに聞こえるように大きな声を意識してリカルドに告げたのだった。
「え? なに? 嘘ってこと?」
「酷くね?」
「雰囲気悪いな?」
周りからは動揺の声がチラホラ。
「お、お前……俺に恥かかせやがって……! 覚えておけよ! 私の顔に泥を塗るカスは絶対に許さんっ!」
許さんと言うのは勝手だが、お前に何ができるんだ?
わざと怒らせる趣味はないのであえて口には出さないが、脅し文句もまったく脅威には感じなかった。
「おい、ガリウス。しばらくはお前で妥協してやる。ついてこい」
満身創痍のガリウスを引っ張り、会場を後にしようとするリカルド。
しかし、息子とはいえ聞き分けの良い子供ばかりではない。少なくとも、ガリウスは違ったようだ。
「は? ふざけんな!」
ガリウスは、リカルドの睨み怒鳴りつけた。
「ど、どうしたというのだ……? 私に向かってその口の利き方はなんだ!」
「俺バカだからよくわかんねーけど、さすがにそりゃないだろ! いくら父上でもここまでコケにされて、出ていけって言われて、今だけは命令を聞け? ムシが良すぎんだよ! もう俺は家を出る! アニキを連れ戻すでも諦めるでも好きにしろよ!」
そう捲し立てた後、リカルドのもとを去ろうとするガリウス。
しかし――
「お前ら勘違いするな。私は『聖騎士』なのだ。昔は冒険者として第一線で戦っていた実力者だ! 命令を聞かないなら、無理やりでも聞かせてやるまでだ!」
そう言って、剣を抜いたリカルドは、俺とガリウスに威嚇してきた。
剣が地面に当たった瞬間に衝撃により地割れが発生。
足元が不安定になってしまうので、一旦交代することに。
おいおい……俺まで巻き込むのかよ。
仮に、こんな形で服従させたとしても意味を成さない気がするが……まあ、血が上ってそこまで頭が回っていないのだろうな。
やれやれ、仕方ない。
俺は、地割れにより状態が悪くなった地面を転ばないよう慎重に進み、リカルドと対峙する。
迷わず俺目掛けて剣を振るうリカルドだったが、ステータスの差があろうとも俺に当たりことはない。
全体の動きの連動性から次の動きを予測し、先回りすることで『速度』に関してはある程度対応できるのだ。これは、ガリウスとの戦いでも同様だった。
そして、理由はもう一つある。
「あんたはもう劣化してんだよ」
言いながら、俺はリカルドの裏を取った。
「な、なにっ!?」
ここはゲームと似ていてもゲームの世界ではないのだから、どれだけの実力者でも毎日身体を動かさなければ動きが鈍る。
それに、老化からは逃れられない。
俺は、リカルドの背後に回り込んで『風火球』を叩き込んだ。
ドゴオオオオオオオオンンンッッ!!
轟音を立て、リカルドに直撃する。
そして、衝撃を吸収しきれなかったリカルドの身体は吹っ飛んでいき、裏庭を囲む塀に激突したのだった。
「や、やっぱアニキはすげえや……」
ガリウスはキラキラした瞳で俺を見ていた。
しかし、そう言われるとなんとなく罪悪感があるな。
「悪いが、俺はガリウスの兄じゃない。似ているだけの別人だと思ってくれ」
「ん? どういうことだ……?」
「俺は、この身体に転生した別人なんだ」
ショックは大きいだろうが、ずっと隠しておくのも気が引ける。ここで言うしかなかった。
「へ? 転生?」
「ああ」
「なんだそれ?」
……。
そうか、わからないのか。
「まあ、別人だということだけわかってくれればいい」
「全然違いわかんねえ……。いつもと同じようにしか見えないぜ?」
「まあ、そりゃ見た目は変わらないだろうからな……」
「っていうか、俺バカだからよくわかんねーけど、別人がどうやってアニキになるんだ? 無理じゃね? 着ぐるみ着てないじゃん?」
まあ、よく考えれば普通に考えて転生したと言って信じてもらう方が難しいか。
俺の母親が急に転生者だと言い始めたら、納得するより先に心療内科を受診させるだろう。きっとそういうことなのだ。
「まあ、その……色々あるんだ。一応言っておきたかっただけだ」
「そうなのか。じゃあアニキは最終試験、俺の分まで頑張ってくれ!」
親指を立てて激励してくれるガリウス。
多分、こいつ素でいい奴っぽいな。
「ああ。サンキューな」
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