因縁に決着?アカフェス最終日、闘技大会は激闘必至
そして、アカフェス最終日。
その目玉はなんといっても、アカデミー外の人間も参加できる闘技大会だろう。
毎年100人単位が参加する一大イベントだった。
今年は160人が参加申請を行っており、予選では20人8ブロック構成になっており、各ブロック2名ずつの合計16人が決勝トーナメントへ進出できる。
「よく考えたら、参加しなくても良かったのかもしれない。」
「どうしたのよ急に。」
予選直前でアルトがそんなことを言い出した。
「だってさ、今の状況ってあいつの口車に乗せられてるようなものだろ。」
「でも出なかったら出なかったで、逃げたって言われて付きまとわれるだけよ。」
リースも半ば呆れたように言う。
「アルトがやれることは1つ! このまま闘技大会に出て、またワンブルを打ちのめすだけよ。」
「そうだな・・・それしかないか。 分かった、行ってくるよ。」
「行ってらっしゃい、良い訓練と思って頑張ってね。」
リースに見送られ、予選会場へと向かうアルト。
その道中、見たくはないが見慣れてしまった顔があった。
「どうやら逃げずに来たようだな。」
「俺は出るつもりなかったんだがな、目の前のしつこい奴が絡んできて仕方なくな。 相変わらず取り巻きがいないと何もできないようだな、闘技大会にまで連れてくるとはね。」
そう、ワンブル達だった。
例によって3人の取り巻きがおり、それぞれが武装していることから大会に出場するようだった。
「すまないが、道を開けてもらってもいいかな。」
後ろから声を掛けられる。
振り向くと、長い金髪を後ろで束ね、仮面を付けた男が立っていた。
恰好からすると競技大会に出る一般参加者のようだった。
「(あれ、この人・・・)」
強いな、とアルトは思った。
服の上からでも分かるくらい鍛えられた体躯と立ち姿からは騎士を連想させた。
「すいません、どうぞ。」
アルトは道を譲ったが、ワンブルは
「何だ貴様は、我々に道を譲れと言うのか。」
「立ち話で通路を塞いでいるんだ、後から来た者に譲るのが筋ではないかね。 そも道を塞いでいたのは譲ってくれた彼ではなく、君たちだ、少しは考えたまえ。」
至極当然の事を言われているのだが、ワンブルからすれば愚弄されたと考えてもおかしくない。
先のアルトの言葉もあり、怒り心頭といった感じだった。
捨て台詞も無しに会場へ歩いていくワンブル。
「話を邪魔したかね?」
「いえいえ、絡まれていただけですのでお気になさらず。 貴方のような人が参加するのでは自分も苦しい戦いになりそうです。」
「ふ、君も中々に鍛えられていると思うが。 お互いに決勝まで残れるといいな。」
そう言うと、仮面の男も会場へと向かっていった。
それに続くようにアルトも歩き出した。
この大会も中々楽しくなりそうだと、先ほどとは変わって闘志が湧き出ているようだった。
会場には既に参加者が集まっていた。
そこへルーゼンが現れた、
「参加者諸君、今日という日のために集まってくれたことを心から感謝する。」
ルーゼンの挨拶が終わると、箱を持った担当者が、
「それではこれより、予選ブロックの抽選を行います。 ここの5つの箱にはAからHまで書かれた紙が入っていますので、引いた方はそのグループの舞台に上がってください。」
説明を聞いた参加者たちが次々と箱から引き始める。
アルトは"H"と書かれた紙を引いた、最後のブロックだった。
全員が引き終えたのを確認し、
「では30分後に予選を開始する。 何か質問の有る者はおるかな?」
と、ルーゼンが問いかける。
何人かが質問を行い、
Q:試合形式はどうなるのか。 A:予選では20人同時のバトルロイヤルとします。
Q:スキル、魔法の使用に制限はないか。 A:状態異常を除いて回復系のスキル、魔法は禁止とします。それ以外の制限はありません。
Q:勝敗はどうつくのか。 A:気絶または舞台から落ちると失格となります。
等が確認された。
「もう質問はないかの。」
質問が止まったところでルーゼンが最後の確認をする。
誰もいなそうだったため、アルトが
「紙にはグループしか書かれていませんでした、開始前の立ち位置はどうなるのでしょう。」
と、質問する。
「開始前は各々が好きな位置に着いてください、舞台の隅にいようと中央にいようと自由になります。」
これには驚きの声が上がる、開始前に四隅のどこかを取れば、背後から攻められるのを防げるので有利となる。
「勝負は開始前から始まっておるということじゃ。 他になければこれで解散とする。」
「AからDのグループの方はすぐに予選が開始となります。 準備をお願いします。」
どうやら4グループ同時に行うらしく、アルトは予選の様子を見るために一度上へ上がる。
「アルトー、こっちこっち!」
どうやら先に来ていたらしいリースの声が聞こえる。
ミーアやクロアも一緒だった。
「かなりの人数みたいだね、予選はいくつだったんですか。」
「一番最後のHグループだった。 4グループ同時みたいだからあまり関係なさそうだけどね。」
クロアと話をしていると、
「何か気になる人とかいた?」
リースが出場者について聞いてきた。
「お祭りの大会だからそこまで・・・いや、1人いたか。 金髪を後ろで束ねて仮面を付けた人、あれは強いと思う。」
「あ、じゃあ今出てきた人かな。 Aグループみたいだね。」
舞台の方を見ていたミーアが気づいたようで、その方向に指を向けている。
アルトも目を向けると、確かにあの通路で会った仮面の男だった。
「ふーん、確かに強そうな・・・あれ?」
リースが何かに気づいたような声を上げる。
「どうしたリース。 何かあったか?」
「ううん、なんか知ってる人に似てる感じがしたけど、その人がここにいるはずないから気のせいだと思うよ。」
「(リースが知ってるとしたら王族関係者か・・・ゲームのストーリークエストで「国王」が変装してプレイヤーと一緒に戦う、なんてのがあったけど、流石に関係ないか。)」
リースの言葉が少し気になったが、
「ま、お祭りだ。 勝ち負けもあまり気にすることはないさ。」
と、軽い感じに言ってみたところ、リースも
「それもそうね、ワンブルさえ黙らせられればそれでいいものね。」
同じく軽く返してくれた。
舞台の方では、選手が出そろい今か今かと開始が待たれていた。
4つの舞台の中央にイレーヌが立ち、すっと腕を上げた。
「それでは予選グループAからグループDの試合を開始します・・・始め!」
‐‐‐‐ドォォォン!‐‐‐‐
イレーヌの開始の合図とともに、爆音が鳴り響く。
開始と同時に範囲系の魔法を使ったのだろう、対応しきれなかった数名は爆発の余波で舞台から落ちていた。
「まぁ・・・バトルロイヤル形式ならこうなるよね。」
クロアがぽつりと漏らした。
アルトも同調するように、
「だな、ただこうなる可能性を予測できていれば対応しやすいし、何より術者にとっては諸刃の剣だ。」
「どういうこと?」
「ここまで視界が悪くなると、次の攻撃が予測しづらい、端を陣取ってる場合は下手に動くと落ちる可能性もあるしな。つまりは・・・」
舞台の方に目を向ける、中の様子は分かりづらいが、爆発の後でも何人か舞台から落ちてきているので、動きがあるようだった。
次第に視界が晴れてくると、舞台の様子も分かってきた。
Aグループは仮面の男とアカデミー生の剣士が残り試合終了。
Bグループは複数名が範囲魔法を使ったため、開始と同時にほとんどが落下した、残ったのは魔法に耐えきり残りの選手を堅実に1人ずつ落としていった盾騎士の男と範囲魔法を使ったアカデミー生が残った。
Cグループは視界が晴れるまで膠着状態が続いていたようで、試合はまだ続いている。
Dグループだけは魔法の使い手がいなかったのか、通常のバトルロイヤルの様相を呈していた。 その中で獅子に近い風貌をした獣人の男と二刀流のエルフの女性剣士が残っていた。
「あ、パパだ」
ふいにミーアが衝撃的な言葉を発した。
同じくクロアも、
「母さん、何やってるんだこんなところで・・・」
どうやら獣人の男はミーアの父で、女性剣士はクロアの母のようだった。
ミーアは上から父に向って声をかける、
獣人の男はミーアに気づいたようで笑顔を作りこちらに顔を向けた。
が、視線がアルトに向くと途端に殺気めいた何かが飛んできた。
それは隣の女性剣士も同様だった。
「あれ、俺って2人の親に嫌われてる?」
「いや、そんなことは無いと思うけど・・・」
「クロアのお母さん、私を見てないかな?」
「うーん、何か変な誤解とかしてなきゃいいけど。 とりあえず会いに行ってみよう!」
ミーアに促され、会いに行くことにした。
通路で待っていると、2人が姿を現し、
「貴様がミーアを誑かした男かぁ!」
突然アルトに拳が飛んできたが、すんでの所で避けたが、直撃していたらただでは済まなかった。
避けたためか、次々と拳が飛んできて止まらなかった。
「うぉぉ!いきなりなんだ!誑かすってなに?!」
過去一番と言っていいほど頭に疑問符が湧くアルトだった、そこに
「ふん!」
ズドン、とミーアの拳が男の懐に刺さっていた。
「落ち着いてよパパ、何が何だかミーアにも分からないよ。」
「お前からの手紙に急にクロア以外の男の名前が増えたのでな、よもや別の男が・・・と思って、オリヴィエと一緒に来たのだ。」
「あのねぇ・・・」
かくかくしかじかとアカデミーに入ってから今までの事を父に話すミーア。
納得したのか、アルトの方をバシバシと叩きながら、
「グハハ!ミーアの父でレオと言う、さっきは済まなかったなアルト君。」
「はぁ、相変わらず先走りが過ぎるんだから2人は・・」
ミーアが珍しくため息をついていた。
「2人?」
ハッと思い、リースの方を見ると、
「貴方はクロアとどういう関係なのかしら、詳しく教えてほしいわ。」
クロアの母に詰め寄られていた。
「母さん、落ち着いて。 リースさんとは友人なだけだよ、それに彼女には他にパートナーがいるんだ。」
クロアがそう言うと、
「そう、まさかミーアちゃん以外の彼女が出来たなんて!と思ってレオと来たのだけれど、早とちりだったみたいね。」
『彼女』と言われ、珍しくミーアは赤面しクロアはしどろもどろになっていた。
「うむ!ミーアにクロア以外の男の影がと思ったが、勘違いだったようだな!」
と、豪快に笑う。
「そ、それにしてもお2人ともかなりお強いようですが、冒険者をしておられたのでしょうか?」
リースが話題を変えるように話しかけた。
「いいえ、私たちは流れの傭兵をしていたのよ。 昔は玄人や獣人の冒険者登録も簡単には取れなかったからね。」
「ウム、オリヴィエとは昔馴染みでな、今の村に落ち着くまではあちこち転戦したもんだ。」
2人に歴戦のオーラのようなものを感じるのはそんな理由があったからか、と妙に納得した。
そのうちCグループの試合が終わったようで、続く予選の開始を告げる声が聞こえた。
「あ、アルトそろそろ出番じゃない?」
「おぉ、アルト君も出場していたのか。」
「えぇ、まぁ不本意ながら・・・さて、では行ってくるかな。」
「予選は大丈夫だろうけれど、気を付けてねアルト。」
「アー君ファイト!」
「上で見てますからね、頑張ってください。」
三者三葉の応援を背中に受け、会場へ向かうアルトだった。
アルトがHグループの舞台に着いた時、既に選手は揃っており「中央と取り囲む」ように立っていた。
「(こりゃ、かませ犬に買収でもされたか?)」
アルトが感じたことはレオやオリヴィエも当然気づいており、
「妙な立ち位置だな、アルト君以外が連携しているかのような・・中央以外にいける場所がないぞ。」
「それにアルト君へ向ける視線がおかしいわね。 祭りの試合で向けるようなものではないわ。」
しかし、
「まぁでもアルトだし。」
「そうだねアー君だもんね。」
「アルトなら罠と分かっていても中央に行くでしょうね。」
リース達の予想通り、アルトは中央に立った。
他の舞台に目を向けると、Fグループにいたらしいワンブルはニヤニヤと笑みを浮かべていた。
参加者が出揃ったようで、再びイレーヌが会場の中央に出てきて、
「それでは予選グループEからグループHの試合を開始します・・・始め!」
開始と同時にアルトに向け、魔法やスキルが放たれる。
範囲の広い攻撃をしなかったのは、同士討ちを避けるためだろう、それが災いした。
アルトは直撃する瞬間に上へ飛び上がりそれを避けた、対象を失ったそれぞれの攻撃はアルトがいた場所を素通りし、その先の他の選手に直撃する。
結果複数の選手は舞台から落ち、失格となった。
「ま、所詮買収される奴なんてこの程度だな。」
着地したアルトは、素早く間合いを詰め混乱する選手を次々と落としていく。
最後にワンブルの取り巻き2人を残し、
「罠にはめるつもりならもう少し巧くやるんだな、あんなあからさまじゃ分かってくれと言ってるようなもんだぞ。」
片方を落として予選を終わらせた。
他のグループは混戦となっており、
Eグループでは、老魔術師と斥候風の短剣使いが、
Fグループでは、女性格闘家と辛くもワンブルが残っていた。
Gグループでは、槍使いの男と場違いに感じる踊り子風の女性が、
そしてHグループはアルトとワンブルの取り巻きの1人が残り、予選は終了した。
「以上で予選を終了します。 本戦は昼の刻より組み合わせ抽選を行います。」
無事予選を通過したアルトはリース達の下へ戻った。
「お疲れ様、余裕だったね。」
「あんな分かりやすい罠が罠として機能するわけないってな・・・」
「ワンブルと取り巻きは良いとして、それ以外は結構曲者揃いって感じかな?」
「パパとクー君のお母さんもいるしね。」
「あれ、そういえばその2人はどこに?」
「ご飯食べに行ったよ。アー君の勝ちが決まった所までは一緒に見てたけど。」
「そっか、じゃあ俺たちも何か食べに行こうか。」
「「「おー」」」
本戦まで少し時間があったため、4人で昼食を取ることにした。
露店の料理に舌鼓を打っていると、
『まもなく闘技大会本戦の試合抽選を行います、出場者の方はお集まりください。』
と、アナウンスが入る。
「ん、もう時間か。」
「頑張ってね、アルト!!」
リースの声援を受け、アルトは会場へ向かった。
途中、レオやオリヴィエと合流し、
「是非ともアルト君とは当たってみたいものだな!」
「えぇ、息子たちと行動を共にする以上、どの程度戦えるのか見ておきたいわ。」
自分と戦いたいという2人に対してアルトも同意見だった、
「自分もお2人とは手合わせをしてみたいですが・・・抽選次第ですね。」
会場に着くと選手は既に集まっており、観客の中でも早い者は既に席で試合の開始を待っているようだった。
やがて進行役が現れ、
「それでは、Aグループから抜けた順に紙を引いてください。」
次々と予選通過者達が組み合わせの抽選券を引いていく。
抽選の結果は、
第1試合:槍使いの男‐アカデミー生(魔法使い)
第2試合:レオ‐ワンブルの取り巻き
第3試合:短剣使いの男‐仮面の男
第4試合:踊り子‐盾騎士の男
第5試合:アルト‐オリヴィエ
第6試合:アカデミー生(剣士)‐ワンブル
第7試合:老魔術師‐斧使いの女
第8試合:女格闘家‐男格闘家
以上の組み合わせになった。
「まもなく第1試合を開始いたします。 この本戦では・・・」
進行役が改めてルール等を説明する。
舞台には最初の試合の選手が上がっていた。
「それでは第1試合・・・始め!」
開始の合図とともにアカデミー生は後ろに下がり距離を取ろうとするが、槍使いはそれ以上の速度で間合いを詰め槍を繰り出す。
生徒の方も多少AGIを上げているのだろう、回避をしようとしているが槍で突かれる速度が上回っていた。
生徒は回避は無理と悟ったのか、足元から《石壁[ストーンウォール]》を出し無理矢理に距離を取る。
槍使いは突如現れた石の壁に驚き、後ろに下がった。
が、すぐに後ろに下がる危険を思い出したのか、槍スキル《螺旋槍》で《石壁[ストーンウォール]》を破壊する。
しかし、生徒の方は既に次の魔法を放つ準備が完了しており、石の礫を飛ばす《石弾[ロックバレッド]》を放った。
槍使いもいくつかの礫は槍を使って防いだが、如何せん数が多かった。
いくつか被弾しながらも、残りを戦士系スキル《衝波》で吹き飛ばす。
《衝波》は戦士系の基本スキルの1つで、武器等を振った際に発生する衝撃波を敵にぶつけるスキルである。
本来は一直線に相手へ向かうのだが、今回は払うように使うことで衝撃波の壁を作り、《石弾》を吹き飛ばす使い方をしている。
槍使いは追撃が来る前に再度間合いを詰める、生徒も同様に次の魔法を放とうとするが槍使いの動きは速かった。
そのため、再び《石壁》を使用するがそれを読んでいただろう槍使いは、《石壁》を回避し生徒の横に出る。
そしてそのまま槍の一撃を加えられ、生徒は舞台の外に落ちて行った。
勝者が宣言され、会場は歓声に包まれた。
「中々いい試合だったな。 槍使いは冒険者としての経験が豊富なのだろうが、生徒の方もひけを取らなかったな。」
レオが見た目とは裏腹に冷静な分析を行っていた。
「アルト君は何が勝因だと思う。」
「勝因と言うよりも敗因になりますが、2回目の《石壁》で自分の視界を塞いでしまった結果、対応が遅れたことでしょうか。 自分なら槍使いの突撃に合わせて《石槍[ロックランス]》をカウンター気味に出すか、《泥沼[マッドドグ]》あたりで足止めですかね。」
オリヴィエの質問にアルトが返すと同じ考えだったのか、頷いていた。
「では、俺も行くとしようか。」
そう言うと、第2試合に出るレオは席を立ち舞台へと降りて行った。
対するワンブルの取り巻きも舞台へと姿を現した。
両者が揃ったのを見て、進行役が試合の開始を宣言する。
「第2試合・・・始め!」
開始と同時に一気に前に出るレオ、それに対して取り巻きは剣を構えて迎え撃つ。
が、レオの突進の勢いは凄まじく、そのスピードに全く対応することができなかった取り巻きは場外へ吹き飛ばされたのだった。
観客があっけに取られる中、進行役は第3試合を開始すべく選手の名前を呼ぶ。
第3試合、仮面の男の圧倒的な剣技の前に短剣の男は成すすべなく敗れた。
第4試合は踊り子の女性は武器を扇に持ち替え、《衝波》を連発することで防御を固める盾騎士の男を場外に落とそうとしていた。
しかし、盾騎士の男も剣を杭のように地面に突き立て、踊り子の精神力切れを起こすまで耐えきり、最後は盾を前に構えた突進技で踊り子を舞台から落とした。
「今の試合は見ごたえがあったわね。」
「そうですね、踊り子の人が扇から《衝波》を撃つのも珍しかったですが、それを耐えきった騎士の人もすごいですね。」
互いに今までの試合も感想を言いながらも、
「次は私たちの出番だが・・・他の連中に負けない試合をしよう。」
「はい、お願いします。 こっちも全力でいかせて貰います。」
アルトとオリヴィエはお互いに握手を交わすと、それぞれの入場口へ向かった。
「それでは第5試合を開始します。 アルト=イクティノス、オリヴィエ両者は舞台へ上がってください!」
アルトとオリヴィエが舞台へ上がる。
オリヴィエはショートソードを2本持つタイプの二刀流スタイル、アルトは反りがある片刃の剣で所謂[カタナ]を持っていた。
「へぇ、カタナとは珍しい物を使っているわね。」
「普段は杖とかロングソードですけどね、こういう機会なので使わせてもらってます。」
カタナは遠くアマツクニで使われている武器で、ミッズガルド大陸では珍しいものだった。
アカデミーにも稀にアマツクニ出身者が出てくるため、用意してあるようだ。
「慣れない武器だからと手を抜くようなことはしないわよ、私は」
「大丈夫です、よろしくお願いします。」
両者が武器を構えたところで、進行役が右手を上げ、
「それでは、第5試合・・・始め!」
ガカッ!と剣同士がぶつかり合う、開始と同時にお互い相手の懐に飛び込んだのだった。
オリヴィエの2本の剣が別々の生き物のようにアルトに襲い掛かる。
それをアルトがカタナの反りを利用して受け流す。
「(なんて力だ・・・まともに受けてたら剣が折れるな。)」
この猛攻の中で、アルトは相手の攻撃を冷静に分析しており、徐々にオリヴィエの癖を見抜き攻撃を受ける回数を減らしていた。
そして、オリヴィエが右の大振りになるタイミングにカウンターで合わせようと一歩前に出る。
しかし、それを見越していたかのように左の剣がアルト懐に刺さる・・・が、間一髪のところで持ち手で防いだ。
カウンターにカウンターで合わせられたアルトは舞台端まで飛ばされ、今までの動きが罠であったことを悟った。
「やってくれますね、今までのは全部癖であるように見せかけていたわけですか。」
「君の眼がいいのは分かったからね、これくらいの罠は張るものよ。」
お互いの動きを確認し合い再び剣を構える、しかしすぐには動き出さなかった。
先ほどの激しい攻防が嘘かのように静かになる2人、それに合わせるかのように会場も静まり返っていた。
「(焦るな、オリヴィエさんだけに集中しないで全体をよく視ろ・・・掴んだ感覚を忘れるな。)」
自分に言い聞かせるように先ほどの感覚に身を委ねる。
アルトの強みはステータスやスキルではなく、その眼の良さにあった。
相手の筋肉の細かな動き、微量の魔力の流れをも見抜き、そこから相手の次の動きを予測し合わせることができた。
だからこそ、先ほどのオリヴィエの攻撃にも対応できたのである。
今までも瞬間的に見えることはあったが、それを使いこなすことは出来ていなかった。
オリヴィエという強者との戦いの中、そこに勝機を見出すことでモノにできたのである。
とはいえ、基本的なスペックでは劣っているため、厳しい試合なのは変わらなかった。
先に動いたのはオリヴィエだった、元々難しいことは考えない性質のため、回避されるのを前提にそれ以上の速度で攻撃を繰り出せばいいと判断したのである。
先ほどと同様・・・いや、それ以上の速さで二刀の剣が襲い掛かってくる。
眼では追えているものの、徐々に体がついていけなくなっていた。
「ほらほら!アルトくん、段々遅くなってるわよ!!」
「貴女が速くなってるんですよ!」
受けているばかりではジリ貧で、このままでは敗北は確実だった。
アルトは《速度上昇》に脚力に比重を置いた《身体強化》を重ね、動きの速度で攪乱することにした。
オリヴィエの連撃の隙間を見極め、後ろへ回り込む。
攻撃の速さで優位に立とうとするオリヴィエに対し、アルトは動きの速さで対抗した。
そして、瞬間的に《身体強化》を両腕へ集中させオリヴィエに一撃を与える。
体を飛ばされたオリヴィエに対して間合いを詰め、今度はアルトが攻撃する番だった。
攻守の入れ替わりが激しくなり、アルトが攻撃しオリヴィエが受ける、オリヴィエが反撃しアルトが隙をついて回避するを繰り返していた。
「ハァハァハァ・・・ここまでやるとは思わなかったわ、アルト君」
「フー、フー。 いいお手本が目の前にいるのでね、お陰で剣士としての動き方が色々わかりましたよ。」
両者ともに疲労の色が濃くなっており、決着が近づいていることを感じさせた。
アルトはフッと息を吐き、何度目か分からないオリヴィエの懐へ飛び込んだ。
その動きは試合開始時とは比べ物にならない程に洗練されていた。
オリヴィエも対応するが、疲労のせいか反応が遅れた。
アルトは剣を下から上へ振り払い、オリヴィエの剣を弾いた。
瞬間、『しまった』とオリヴィエは思った、気づいた時には舞台の端まで押し込まれていたのである。
両腕を上げる形で懐ががら空きになったオリヴィエに掌底を当て、アルトはそのまま押し出した。
バランスを崩したオリヴィエはそのまま舞台の外へ転落した。
その瞬間、割れんばかりの歓声が会場を包み込んだ。
「参ったわ、君が前にいるならクロアを安心して預けられるわね。」
「そういえば、そんな趣旨でしたね・・・」
「ミーアちゃん共々、あの子の事よろしく頼むわね。」
オリヴィエと握手を交わし、アルトは次の試合へ駒を進めた。
試合を終えたアルトをリースが出迎える。
「お疲れ様アルト、いい試合だったね。」
「ありがとう、オリヴィエさんは強かったよ・・・あれはまだ手加減してくれてたんだろうな。」
「でも、楽しかったんでしょ?」
「そう・・・だな。楽しかったし、いい勉強になったよ。」
2人が話していると、次の試合を開始するアナウンスが入った。
通路の奥から、ワンブルが取り巻きを伴い歩いてくる。
2人を見つけると、ニヤニヤと笑いながら近づいてきた。
「見ていたぞ平民貴族、せかせかと見苦しい戦い方だったな。」
「あっ、はい」
最早アルトに相手をする気はなく、適当にあしらうことにした。
「ふん、今は調子に乗っているがいい、次の試合で貴族の戦い方を持って公衆の面前で恥をかかせてやる。」
そういいながら、舞台に上がっていくワンブル。
アルトとリースは互いに顔を見合わせながら、
「貴族の戦い方ってなにかしらね?」
「さぁ・・・貴族様のご威光で棄権でもさせるのかな。」
さほど興味も無かった2人は、観客席のクロア達と合流することにした。
クロア達と合流すると、そこにはレオとオリヴィエも一緒にいた。
「おぉ、アルト君。 先ほどのオリヴィエとの試合、見事だったぞ!」
「ありがとうございます、レオさんは危な気もなかったようで。」
「ガッハッハ!まだまだ学生には負ける気はせんよ。」
「それはアルト君に負けた、私への当てつけかしら?」
オリヴィエがそういうと、レオは冷や汗をかきながら笑ってごまかしていた。
大会の方はというと、ワンブルの相手になるはずだったアカデミー生が姿を現さず、ワンブルの不戦勝となっていた。
これで、次の試合アルトとワンブルがぶつかることが確定した。
続く第7試合は第1試合の再現のようになった。
試合開始とともに距離を取ろうとする老魔術師に対して、距離を詰める斧使い。
《石壁》を出し、斧使いの視界を塞ぎつつさらに下がる老魔術師。
これを読んでいただろう斧使いは躊躇なく石壁を破壊する、第1試合と違ったのはこの石壁の先に老魔術師は《泥沼》を展開していたことである。
突如現れた沼地に足を取られる斧使いに対して、老魔術師は《雷弾[サンダーバレット]》を放つ。
身動きの取れない斧使いを雷の弾丸が襲い、感電による気絶で老魔術師が次の試合に駒を進めた。
第8試合は格闘家同士の試合となり男格闘家は所謂空手、女格闘家は中国拳法のようなスタイルだった。
女格闘家が素早い蹴りを繰り出すスキル《瞬連脚》を放つ中、男格闘家はスキル《金剛》を使い守りを固める。
そして、女格闘家のスキルの切れ間を狙い、深く腰を落としスキル《正拳突き》を放った。
《正拳突き》にはそれまで受けたダメージを蓄積し、それに応じて威力が上がる効果があった。
そのため、突きを受けた女格闘家は舞台の外まで吹き飛ばされていた。
1回戦の全試合が終了し、準々決勝に駒を進めたのは、
激しい魔法の嵐を掻い潜り、勝利を収めた槍使い
屈強な肉体を惜しげもなく使い、強者との戦いを楽しんでいるレオ
未だその実力の全てを見せてはいないだろう、仮面の剣士
圧倒的な防御力から耐えて耐えて勝利を掴んだ盾騎士の男
オリヴィエとの激闘を抑え、成長しながら勝ち進んだアルト
アルトへの復讐(逆恨み)に燃えるワンブル
その老練とも言える魔法技術で駒を進める老魔術師
武器は己の肉体だ、と言わんばかりの男格闘家
この8名となった。
進行役が2回戦第1試合の開始を告げ、槍使いとレオの名前を呼ぶ。
「さて行くか、次は歯ごたえのある戦いができるといいのだがな」
レオは指をぽきぽきと鳴らし、笑いながら舞台へと向かっていった。
舞台には既に槍使いが待っており、レオが到着したことを確認した進行役が開始を合図する。
1試合目と同様に開始と同時に突っ込むレオ、対する槍使いもレオに向け槍を突き出す。
「ウラウラウラウラウラウラウラウラ!!」
「オォォォォォォォォォォ!!」
舞台の中央で強化したレオの拳と槍とがぶつかり合い、無数の衝撃を生み出す。
何度衝突したか分からないが、先に音を上げたのは槍使い・・・ではなくその槍だった。
次第にヒビが入っていき、最後には粉々に砕けてしまった。
「ふむ、槍が壊れたようだな・・・まだ続けるか?」
「いや、槍使いが槍を破壊されればそれは敗北だ、棄権する。」
「そうか、良い闘いだったぞ。」
レオの勝利となり、2人は握手を交わした。
激闘の熱気冷めやらぬ中、次の試合のアナウンスがされる。
仮面の男と盾騎士の試合である。
仮面の男が舞台に上がるとリースは、
「うーん、やっぱりどこかで見たことあるような気がするのよね・・・」
と、呟く。
「まぁ、俺が勝ち進めば決勝で当たるし、そこで確認してみるさ。」
「それってパパが負けてるような・・・まぁいいや。」
ミーアの呟きはスルーされた。
会場の方では、二刀を使う仮面の男の連撃に対し盾騎士は防御を固め、じっと耐えていた。
しかし、耐えるだけではなく偶に剣を受け流し、攻撃に転じることもあったが仮面の男が攻める時間が続く。
そんな仮面の男の剣を見て、オリヴィエが
「奇麗な剣技だ、乱雑に攻撃しているように見えてその中に一定の型がある。粗野な私の剣とは違い、騎士団のそれに近い。」
そんな事を言い出す、それを聞いたリースは少し頭を抱え、
「どうしよう、私分かっちゃったかも・・・」
アルトも正解が見えてきていたが、リースの言葉を待つことにした。
「あれは・・・父さまね。」
リースの言葉に驚く面々、
「父さまって、国王陛下?」
確認するように聞いてくるクロアにリースは頷き、
「昔から、バレないようにお祭りに紛れ込むのが好きなのよ。 今回はアルトと腕試しできるからって理由もありそうだけど。」
「まぁ、目立つ人だから大抵バレるんだよな。」
過去にもあったのだろう、リースとアルトは少し遠い目をしていた。
試合の方は、仮面の男が盾騎士の守りをこじ開け、盾を弾き飛ばしていた。
そして、相手の喉元に剣を突き立てたところで、盾騎士はギブアップを宣言した。
次の試合・・・アルトとワンブルを呼ぶアナウンスが入る。
「さて、行ってくるか。」
アルトが席を立ち上がる、
「頑張ってね、コテンパンにしてきちゃってよ!!」
少し興奮気味なリースのエールを受ける、同様にミーアとクロアからも声援を貰う。
「わかってる、そろそろあれの相手も飽きてきたしな・・もう2度と関わりたくないくらいにしてやるさ。」
珍しく好戦的な発言を残して、アルトは舞台に向かう。
舞台へ向かう通路の途中で2つの人影が見える、顔をフードで隠し見るからに一般客では無い風貌だった、
「誰だあんたら、ここは一般客の入場は出来ないぞ。」
一般客改め、襲撃者は無言で短刀を取り出し構えた。
「別に答えなくてもいいけど、どうせすぐ対戦するバカボンが送ってきたんだろ? 相変わらず、まともに勝負できない奴だな。」
目深に被られたフードがピクッと動いた。
アルトの挑発に少なからず反応を見せたことで、この襲撃がワンブルまたはそれに組する者の仕業とわかる。
素早く間合いを詰める襲撃者、その攻撃に対しアルトは《守護聖鎧》を発動させる。
アルトの周囲に張られた結界に阻まれ、短剣が動きを止める。
「《爆炎[ブレイズボム]》」
襲撃者に向け魔法を放つ。
会場まで続く通路は煙に包まれ、視界が悪くなる。
ここで魔法を使うとは思わない襲撃者が戸惑った瞬間、アルトの拳が腹部に深くめり込む。
同様にもう1人に方も首に手刀を入れ気絶させる。
その2人を引きずりながらアルトは会場に入り舞台に上がる。
会場内は突然の爆発と通路からの煙でざわついていた。
そこにアルトが登場、しかも不審者を引き連れていたのだからさらに騒めきは大きくなる。
舞台に上がったアルトは眼前のワンブルに気絶させた2人を投げ、
「こんなの差し向けたところでなんにもならんぞ、かませ犬君」
ワンブルは額に青筋を作るが、平静を装い、
「ふん、何のことか知らんがこんな連中は見たこともない、妙な言いがかりは止めてもらいたいものだな。」
そういうと、襲撃者たちを舞台外に落とす。
警備を請け負っていた騎士が2人を連れて行くのも気にならないようだ。
「(ふぅん、今回は本当に知らないのかね・・・)まぁ、いいや。 そろそろ始めようか?」
アルトが進行役に眼を向けると、ハッとしたように手を上げ、
「そ、それではアルト=イクティノス対ワンブル=カーマセの試合を開始します!」
開始が宣言されると、ワンブルは槍に斧が付いた武器、所謂ハルバートを構え《身体強化》を発動させる。
そして、始めてアルトと戦った時の意趣返しと言わんばかりに先制攻撃を仕掛けた。
しかし、速度が余りにも違いすぎた・・・アルトの眼にはワンブルの動きがはっきりと見えていた。
突きつけられた穂先を避け、カウンター気味に木刀を叩きこむ。
それを回避することができず、まともに喰らったワンブルは舞台の端まで吹き飛ばされる。
飛ばされたワンブルはすぐに体制を立て直すが、距離を詰めたアルトが眼前に立っていた。
「(こ、この平民が!いつのまにここまでの力を・・・)」
「お前、まるで成長してないな。最初の決闘から今まで、一体何をやってきたんだ?」
心底残念そうな顔をし、距離を取るアルト。
その言葉に激しく怒るワンブルは最早返す言葉も発さず、アルトを睨み続けていた。
そして全身を強張らせ、さらに《身体強化》へ魔力を集中させる。
対してアルトは特に構えを取ることも無く、体の力を抜き《身体強化》を発動させる。
炎のように全身から魔力を拭きあがらせるワンブルに対し、まるで水のように静かに魔力を流しているアルト、
その試合を見ている観客のほとんどは両者の魔力を見て、ワンブルの力強い魔力に分があると見ているようだった。
しかし、
「これは、末恐ろしい才能ね。」
オリヴィエがぽつりと呟いた。
それに対してクロアがどういうことか訊ねると、
「一見、あのワンブル?っていう子の《身体強化》で吹き出る魔力の強さに眼を引かれるでしょうけど、その吹き出る魔力のほとんどが余分なものなのよ、云わば「身体強化に慣れなかった魔力」ということね。対してアルト君の《身体強化》はその余分な魔力がほとんど出ていない、あの年でここまで使える子を私は見たことが無いわ。」
「アルトは努力してますから。」
まるで自分が誉められた時のような誇らしい気持ちになりながら、リースが返事をする。
ミーアも判ってます、と言わんばかりにうんうんと頷いていた。
「クロア、同じ年の友達にああいう子がいるのは幸運よ、近くでしっかりと学んでおきなさい。」
「判ってますよ、母さん。彼からは教わることが多いですからね。」
エルフ親子がそんな話をしている中、舞台の方でも動きがあった。
ワンブルが再びハルバートを槍のように構え、アルトに向かって突進していった。
アルトも逆袈裟切りの構えを取り、ワンブルに向け駆けて行った。
両者が舞台の中央でぶつかろうかという時、ワンブルが射程を活かして槍を突き出す、
「(殺った!)」
と、ワンブルは思っただろう、しかしアルトは木刀の柄の頭部分で槍の軌道をずらした。
そして剣先を拳で押上げ、ワンブルの顎をかち上げるようにして打撃を与えた。
最早、意識の外から攻撃を受けたような形になったワンブルは何をされたのか分からず、その体を宙に浮かせていた。
顎を強打されていたワンブルは舞台に倒れた時には気を失っていた。
対するアルトも槍の軌道をずらしたとはいえ、掠っていたのだろう肩から少し血を流していた。
結果を見届けた進行役が勝者を宣言すると、会場は拍手と喝さいに包まれた。
医務室に連れていかれるワンブルを後ろに見ながら、アルトは舞台を降りた。
通路を歩いていると、前で仮面の男が待ち構えていた。
「良い闘いだった。彼も将来有望だったろうに残念だ。」
色々と含みを持たせた言い方だったが、あえて応えることなく次の言葉を待った。
「君も色々思うところがあるだろうが、カーマセ家に関しては調査が進んでいる。表に出せない件も含めて処分は王家に任せておいてほしい。」
「そこまで言ったら、自分は王家の関係者だってバレバレになっちゃいますよ、アークさん。」
突然自分の名前を指摘された仮面の男はあからさまに動揺していたが、
「じ、自分は王家の関係者ではあるが、アークなどというイケた親父では決してない!自分はカーマセ家についての話を伝えに来ただけだ、それでは・・・決勝で会えるのを楽しみにしているよ。」
と、言いたいことは言ったとばかりにそそくさとその場を去って行く仮面の男だった。
ああいうところはリースにそっくりだな、と思いながら皆の待つ場所へとアルトは向かっていった。