学園祭[アカデミーフェスティバル]開催!!
季節は廻り、アルト達がアカデミーに入校してから1年が経とうとしていた。
「アカデミーに来てからもう1年になるんだね。」
「そうだな、色々あって早く感じる1年だったな。」
「リーちゃん、アーくんにとっては短く感じただろうねぇ。」
「僕たちにとっても刺激的で楽しい1年でしたよ。」
「これからもよろしく頼むよ。 クロア、ミーア」
「えぇ、こちらこそ。」
「今年は3年に1度のアカデミーフェスティバル、略してアカフェスがあるし楽しみだね!」
「あ、ここの学祭ってそんな名前だったんだ・・・」
1年を振り返り、また次の年に思いをはせる4人だった。
しかし、そのアカデミー主催の大規模な祭りの裏で蠢く闇の存在を4人はまだ知らなかった・・・
ある日の放課後、珍しくリースと講義が分かれたアルトは武具のメンテナンスのため、製造科の工房に向かっていた。
ちなみにアカデミーではいくつかの学科で分かれており、
アルトやリースなど卒業後冒険者になるものや騎士団などへの入隊を目指す大多数の生徒は[育成科]
武具工房の跡取りやポーションの製造、同じ冒険者であっても後方支援に特化した人材を目指す者は[製造科]
冒険者としてではなく、大聖堂等への所属を目指し聖職者を志望する者は[聖職科]
と、なっておりさらにその中から自分の好きな講義を受けるシステムになっている。
また、希望すれば他の学科の講義を取ることも可能である。
「アルトー、どこ行くのー?」
後ろからアルトを呼ぶ声がした。
確認するまでもなくリースである。
「武器のメンテで工房に行くところ、一緒に行くか?」
「勿論いくよ、何見てもらうの?剣?杖?」
「杖だな。」
「あー、アルトの杖はちょっと特殊だもんね・・・」
2年に進級してからアルトは剣も使うようになっていた。
元々剣と魔法の二刀流を目指しており、右手に杖、利き手である左手に剣を持つスタイルだった。
1年次は魔法の強化に集中するため杖のみを使っていたのである。
アルトの現在のステータス、装備はこうなっていた。
‐‐‐‐‐‐アルト=イクティノス(16)‐‐‐‐‐‐
レベル:79
STR:70(Atk:149)
AGI:100
DEX:50
INT:90(Matk:169)
装備
頭 :なし
体 :極楽鳥のローブ(Matk+10%、属性魔法ダメージ軽減)
右手:古代樹人の杖(Matk+40%、地属性魔法に補正、
両足を地につけてる間治癒力上昇/徐々に魔力回復)
左手:軽銀の剣
靴 :風のブーツ(敏捷性に補正)
アクセサリ
王女のバングル(Matk+20%、火属性魔法に補正)
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
リースが特別だといった[古代樹人の杖]は、古代樹人の木材を素材に作成された杖で、とあるクエストで出向いた先で、偶然樹人を救った際にお礼として貰った素材から作られている。
樹人は魔物に属するが人にも友好的で、中立を維持している種族である。
ちなみにローブは16歳になった記念に両親から送られたもので、魔法によるダメージを軽減する特殊な機能を備えている。
そんな話をしながら製造科の区画に着いた2人は馴染みの工房へ足を向けた。
「親方ー、いるかい。」
と、工房の扉を開けたアルトに金槌が飛んできた。
それを受け止めながら、金槌の飛んできた方に目を向けた。
「ひどいな、一応常連だぞ俺は」
「喧しい、親方と呼ぶなとあれ程言っただろう。」
のっそりと出てきたのは、如何にもドワーフといった風貌の小柄な男だった。
名前をガンドルといい、ドワーフ特有ともいえる貫禄のある顔つきをしているが、アルト達と同じアカデミー2年目の同学である。
腕の方は確かで、ある切っ掛けから知り合い、それからアルトは彼に装備の製造からメンテナンスまで依頼をしていた。
リースもアルトの伝手で色々依頼をしていたりする。
「で、今日はなんだ。」
「杖のメンテを頼もうと思ってね、よろしく頼むよ。」
「いい加減、杖はエルフどもに頼めと言ったろう。 ドワーフにとって杖は専門外だ。」
「でも、この杖作ったのガンドルじゃんか。」
本来ドワーフは剣や鈍器等、金物類の製造を得意としていて、木を素材にするような杖は不得手としていた。
しかしガンドルは、「鍛冶神様を信奉するドワーフとしては武具関連で不得手を作りたくない。」との理由で、杖の製造過程も学んでいた。
「この杖が出来たのは偶々だからだ、今の俺の腕では同じものは作れん。」
「まぁまぁ、変なところが無いか見てくれるだけでいいんだからさ、頼むよ。」
「ちっ、今回だけだぞ。 剣も貸せ、ついでに見てやる。 姫さんはいいのか?」
毎度、同じやり取りをしているのだろう2人を見ながら、
「うん、私は大丈夫。 アルトのだけ見てあげて。」
「じゃあ、ちゃっちゃと見ちまうか、少し待ってろ。」
そう言うとガンドルは真剣な目つきでアルトから渡された武器を見始めた。
「杖の方は・・・問題なさそうだな、刻まれた魔法陣にも欠損は見当たらん。 剣の方はお前の手に対して少し握りの部分が細いか?少し巻きを厚くしておいてやる。」
すばやく2つの装備を確認し、剣の方に手を加えながら、
「そういや2人は学祭では何かやるのか。」
そんなことを聞いてきた。
「いや、今のところ予定はないよな?」
「うん、しつこく人気投票に出ろって言ってくるのがいたけど無視してるわ。」
「そ、そうか姫さんも大変だな・・・貴族様達が随分と入れ込んで参加するみたいなんでな、お前たちはどうかと思っただけだ。」
どうやら、アカデミー内の貴族出身者が祭りの中で派手に何かを行うらしい。
それを聞いた2人は、
「それなら尚更大人しくしてるとしようかね。」
「だねー、何かやって衝突しても嫌だしねー」
「まぁ、俺たち製造科にとっては名前を売るチャンスなんでな、作った物を露店で売ろうと思ってる。 時間があったら見に来てくれや。 ほれ、持ち手を直してやったぞ、違和感無いか確かめてくれ。」
無造作に投げられた剣を受け取り、軽く振ってみる。
見てもらう前よりもしっくりくる感じがした。
「いい感じだ、流石の腕だなガンドル。」
「世辞はいい、支払いは500APだ。」
「はいよ、ありがとさん。 それじゃ、また頼むな。」
「おう、偶にはメンテナンスだけじゃなく、何か作らせろよ。」
支払いを終え、工房を後にしたアルト達だった。
にわかに学祭、アカデミーフェスティバルへの熱気が高まる中、ある日の昼食時だった。
「私たち4人で何かお店でもやろうよ!」
と、突然ミーアが言い出した。
「唐突だな、いきなりどうしたんだ。」
「すまない、周りが準備に忙しくし始めて、急に自分も何かやりたくなったみたいだよ。」
クロアが補足、ではなくこれまでの経緯を話した。
「でもいまからだと何ができるかな・・・」
「食い物屋とかしかないだろうけど、奇麗どころが2人もいるんだ集客は十分見込めるだろう。 俺は裏で調理でもしてるわ。」
急なアルトの発言に照れるリースとミーアだったが、飲食店というのはいい案だった。
「そ、そうね! アルトの料理ならお客に出しても問題ないだろうしね。」
「どうせならクーくんも表にでればもっとお客呼べるね!」
「いや、僕は人前はちょっと・・・」
「俺は表に出れないから配膳だけでもやってくれると助かるな。」
「なんで表に出れないって・・・そうかアルトは他の貴族に受けが良くないからね。」
「そういうこと、アルトが関わってるとなると変な妨害もあるかもしれないしね。」
「かといって、俺だけ蚊帳の外も嫌なんでな。」
「じゃあ、3日間の初日だけにして、調理はアーくん私たちは接客! 何のお店にするかは後で決めるとしてさっそく参加申請してこよー!」
そんなわけで、急遽アカフェスに参加することになったアルト達は出店参加の申請を行った。
ちなみに他の参加者の内容を見てみると半分以上が食べ物関連だった。
「やっぱり食べ物屋が多いね、内容は色々だけど。」
「うん、一品だけに特化したものから普通のお店みたいのまであったね・・・」
「ミーアはどんな店にしたい?」
「わ、私? うーんと、カフェみたいな感じでお客さんが休憩に使えるようなお店・・とかどうかな?」
「いいじゃん、丁度1階の教室を場所として抑えられたし、飲み物充実させればメニューも絞れそうだしな。」
「コーヒーや紅茶を出すなら、僕に任せてもらえないかな。 アルトにだけ厨房を押し付けるわけにいかないしね。」
「じゃあ、ジュースとかは少なめにしてクロア君の出す飲み物に誘導する感じにする?」
「市販の飲み物を横流しにするだけじゃ芸がないからな。 それでいこう、早速メニューの試作でもするかー。」
「後は服かな?いつもの制服じゃ新鮮味がないよねー。」
「なら、それは私に任せてもらっていい? 良い伝手があるのよ。」
「じゃあ、いったん解散するか。」
「準備の時間も短いけど、頑張っていこー!」
「「「おー」」」
その夜、寮の部屋でメニューの試作をしているアルトにリースが話かけた。
「ねぇ、アルト。 どんなメニューにするの?」
「カフェみたいなってコンセプトだから、軽めのメインを2~3品それとデザート系を何品かってところだな。」
「飲み物は子供も来るだろうから、果実のジュースをいくつかと・・あとはクロア君次第かな?」
「だろうなー、リースの方は衣装の伝手って王宮だろ?」
「ふふーん、昔から王宮に務めてる服飾担当の人がいるからね、その人に相談しようかなと思ってるの。」
「なるほどね・・・と、メイン候補その1が出来たから、試食してみてくれ。」
アルトが出したのは、味付けして炒めた米を卵で包んだ、所謂「オムライス」であった。
「ふわぁ・・・見たこと無い料理だけど、バターのいい香りがして美味しそうだね。」
リースの言う通り、通常「オムライス」はこの世界になく、アルトが前世の記憶を元に作った料理である。
元の世界にあった調味料がなかったため、少し味付けは変わっていた。
「それじゃ、いただきます。」
まずはリースが一口食べてみる、
「ん~! 甘めの卵とちょっと濃い感じのライスがいい感じにマッチしてて、美味しいよ!」
「どっか気になるところはあるか?」
「カフェで出すには味付けが少し重いって感じがするかなぁ・・・私には丁度いいけどね。」
「ふむ、卵に入れる砂糖に米の味付けに使ってる調味料を少し減らしてみるか。 ありがとうリース。」
ふと、参加しないと思っていた学祭の準備に夢中になっている自分がいて、それに気づいたアルトは少し笑っていた。
それに気づいたリースは、
「なんかアルト楽しそうだね。」
と、こちらも楽しそうに聞いてきた。
「まぁね、アカデミーに来て1年たったわけだけど、お前と学生らしいことをするのは初めてだな、と思ってな。」
「私はアルトと一緒にいるのが楽しいし、クエストやったりするのも楽しいけど、皆で何かをするってのはいいよね。」
「だな、誘ってくれたミーアには感謝しないとな。」
色々あったが、改めてアカデミーでの生活を楽しんでいる・・・それに気づいた1日だった。
夜、アカデミー内某所。
「どうやら、例の平民貴族。 何時もつるんでいるいる亜人どもと一緒に学祭に出るらしいですよ。」
「ほう・・・それなら顔を出してやらんとな。」
「食べ物屋をやるらしいので、出てきたものをこき下ろしして赤っ恥かかせてやりましょう。」
「ふ、どうせ連中の出すものなど、口にできるものではないだろうからな。」
「「「ふはははは!」」」
次の休日、アルトは珍しくリースではなく、こちらも珍しくミーアとは別行動のクロアと一緒だった、。
なぜ別行動かというと、リースとミーアは学祭用の衣装を仕立てるために王宮に向かっているのであった。
リースたっての希望で、アルト達には学祭の前日までどんな衣装かを秘密にしたいからとのことである。
「ミーアが王宮で失礼をしないか・・・心配です。」
「クロア、以外に過保護だな。」
付き合いが長いせいか、そばで見ていないと不安なのが見て取れた。
「まぁ、リースも一緒だし多分表からの訪問じゃなく、内密で~って感じだろうからそんな堅苦しく考えなくて大丈夫だぞ。」
「それならいいのだけど・・・」
クロアの不安を和らげるように心配いらない理由を告げる。
「特にミーアなんかは王妃が好きなタイプだからな。 あの人、小さくて可愛いのが好きだから。」
クロアは少し驚いたような表情をしていた、この国の貴族を見ていると当然の反応かもしれない。
「面白い人だよ、側使えに玄人を置いたりしてるし獣人にも偏見無いからな。」
「王妃様ってそういう人なんだ・・・」
「王家はみんなそんな感じだぞ、国王様も身分を隠して冒険者をしていたみたいだし、見識が広いんだろうな。」
「なるほどね、じゃあ安心できるかな。 ミーア自身が粗相を侵さないかっていうのは別だろうけど・・・」
「まぁま、その辺はリースが上手くやるだろうさ。 俺たちは学祭の買い出しを任されたんだから行こうぜ。」
「むむむ・・・」
いまいち心配が拭いきれない様子のクロアだが、アルトに促されアカデミーの売店へ足を運ぶのだった。
時間は少し戻り、休日の朝。
リースとミーアは寮の前で待ち合わせをしていた。
学祭で着る衣装の作成で、王宮に向かうためである。
合流した2人だったが、ミーアは見るからに緊張しているようだった。
「ミーア、緊張しすぎよ。 耳だって、無理に隠す必要ないのに・・・」
ミーアはいつもの制服姿に加え、獣人特有の耳を隠すため普段使わない帽子を被っていた。
「いいのいいの、たまには帽子を被ってみたいなって思っただけだから、気にしないで!」
リースを気遣っての事だと気づいているため、これ以上追及することはしなかった。
「そう?それならいいけど。 気を取り直してうちへ向かいましょうか。 迎えを呼んでるから、そちらへ行きましょう。」
「それにしてもリーちゃんのお願いとはいえ、王宮で服を作るなんて良く協力してくれたね。」
「うちの家族はこういうイベント事が好きなのよ。 特に母様なんて、私たちを着せ替え人形にした挙句、自分が作るとか言い出しかねないわ。」
「なんか面白そうなお母さんだね。」
「怒るとものすごいけどね、ミーアなんかは特にお母様が好きなタイプだから気を付けてね。」
「どう気を付ければいいの・・・」
そんな話をしながら、アカデミーの正門から少し外れた所まで来た。
そこに1台の馬車が止まっており、1人の騎士がまるで1本の剣かと思わせるほど奇麗な立ち姿で待っていた。
勿論、リースの元の護衛騎士であるリアナだった。
「リアナ、久しぶり。 お迎えありがとう、ごめんね突然で。」
「姫様、お元気そうでなによりです。 本日はアルト君がいないとの事で、私が参りました。」
「うん、アルトとは別行動。 今日はこちらのミーアと一緒だからよろしくね。」
簡単に再開の挨拶を交わすとミーアを紹介した。
「み、ミーアです!本日はよろしくお願いします。」
「姫様のご友人ですね、私はリースリット王女の護衛騎士をしております、リアナと申します。」
帽子が落ちんばかりの勢いでお辞儀をするミーアといつもと変わらない調子のリアナも挨拶をした。
「それじゃ、よろしくね。」
「はい、では出発だ!」
「これ、土足のままで大丈夫なの?」
ミーアは靴を脱ごうかどうしようかと、恐々と馬車に乗る。
リアナが御者に声をかけ馬車を出す。
「それにしても姫様、アカデミーでも変わらずのご活躍のようですね。」
リアナが少し茶化すようにリースに話しかけた。
「私たちが特別何をしたってわけじゃないんだけどね、厄介なのに絡まれてそれの対処をしただけよ。」
「カーマセ家のワンブルですか、あの者自体は大した人物ではありませんが、親が曲者のようです。」
「調査の方に進展は無し?」
「はい、昨年に姫様とアルト君を襲ったという賊も、どこの手のものか分からずじまいです。 お2人に依頼を出した件も色々と話題の人物で腕も確かだという理由で面識はないが依頼した、と煙に巻かれた感じです。」
「そう、魔物の件はどう?」
「そちらは国の機密が含まれますので、姫様にも伝えられることは限られるかと・・・。」
「そ、まぁこの件はお父様が任せろってことだから、私がどうこうはできないわ。 ワンブルの方も今のところは大人しくしているみたいだから放っておきましょう。」
「それがよろしいかと、姫様たちは余計なこと気にせず、自分たちのことを頑張れとのことです。」
一連の事件の経緯は聞いていたが、詳しくは知らされていなかったミーアは普段と違ったリースの姿も相まって、ポカンとした表情をしていた。
「ミーアどうしたの?」
「ううん、いつもアー君の隣でニコニコしてるリー・・・王女様しか見たことなかっからちょっとびっくりしちゃった。」
「ミーア殿、私の前では普段通りでいてくださって大丈夫ですよ、帽子も取っていただいて問題ありません。 それに姫様は普段の姿が素なので気にしないでください。」
ミーアに普段通りで大丈夫だと告げるリアナ。
それなら、とミーアは帽子を外した。
それまで押さえつけられていただろう猫耳がピョンッと立ち上がった。
「これは、みごとな毛並みですね。」
「ねー、可愛いよね。」
「リアナさんはあまり驚かないんですね。」
「ミーア殿の事は姫様から聞いていましたし、あまり公にはしていませんが王宮にも獣人の勤め人はいますので。 かく言う私も玄人ですから。」
髪をかき上げ、ちらりと玄人特有の耳を見せるリアナ。
「そういえばアルトったら、リアナが玄人だったことに全く気付いていなかったみたいよ?」
「アルト君には特に話をしていませんので、当然かと。」
「あはは・・・」
そんな話をしつつ馬車は王宮への道を進んでいった。
王宮の少し外れの建物の前に着くと、リース達は馬車を降りた。
そこには1人のメイドの衣装に身を包んだ女性が立っており、リース達を迎えてくれた。
その女性を見たリースは笑いを堪え、リアナは頭が痛いような仕草をしていた。
「ようこそお越しくださいました、衣装の準備はできていますので、こちらへどうぞ。」
メイドの女性に促され、建物に入っていくリース達。
廊下を進み、最初の角を曲がったところでリースは立ち止まった。
リアナはリースの意図を察し、ミーアは不思議そうな顔をして、
「どうしたのリーちゃん?」
と、リースに問いかけた。
「もう演技はいいでしょ、いつまでメイドの真似をしているのよ「母様」」
ミーアは驚き、メイドの方に目を向けた。
すると、メイドは悪戯がバレたときのようにペロッと舌を出し、
「もう、バラすのが早すぎるんじゃないかしら、リース?」
そういいながら、頭のキャップを外し髪を解いた。
服装こそメイドのものだが、その顔はミーアでも見たことのあるアリシア=ロイ=ミッズガルドその人だった。
「ふふ、どうかしら? 私もまだまだイケるわよね。」
スカートの裾を持ちクルリと回って見せるアリシア。
「えぇ、母様は世界一可愛いわ。」
リースのおざなりな返答に少し不機嫌になったが、
「と、とても良くお似合いです!」
次のミーアの一言に機嫌を良くしていた。
「ありがとう、貴女がミーアちゃんね? 思っていたよりもずっと可愛いわね。」
目線をミーアに合わせ、笑顔を向けるアリシア。
それは同性であっても魅了されてしまうように奇麗だった。
ミーアは顔を真っ赤にしながら、
「み、ミーアです。 リーちゃん、リースリット王女様にはいつも仲良くしてもらっています!」
精一杯の挨拶をした。
「あぁ、リースがアルト以外の友達を連れてくるなんて、夢のようだわ。」
「それじゃ、まるで私がぼっちみたいじゃない・・・」
「あら、アルト以外に親しい人を連れてきたことがあったかしら?」
「ぐむむ・・・」
やはりアリシアには勝てないようで、リースも言い淀む。
馬車の中に続き、珍しいリースの姿を見れてミーアは少し楽しそうだった。
そんなやり取りをリアナが諌める。
「王妃様、姫様もそこまでにしてください。 本日はお2人の衣装を見に来たのでしょう。」
「あら、怒られてしまったわ。」
「まったくもう、ごめんねミーア。」
「ううん、色んなリーちゃんが見れて嬉しいよ。」
2人の仲の良いやり取りにアリシアとリアナもほっこりしていた。
ようやく目的の部屋に着き、中に入ると既に衣装合わせの準備は済んでいるようで、早速着替えることにした。
まずはミーアが街のウェイトレスの制服に着替えてみる。
「動きやすそうなデザインで、快活なミーアに良く似合うね。」
「姫様も着るにはスカートの丈が気になりますが、彼女のスタイルには合っていますね。」
リースとリアナの感想にアリシアと服飾担当の者も頷く。
次いで、ギルド受付職員の服に着替えると、
「落ち着いた雰囲気で普段の彼女とのギャップが良い感じだね。」
「えぇ、伊達眼鏡など掛けてみてもいいかもしれないですね。」
3着目、飲食店の接客で着るとは思えにようなドレスが出てきて、
「おぉ、どこかのお姫様みたい・・・って、これ私のドレスじゃない!」
「だって貴女全然こういうの着ないじゃない、折角だし持ってきたのよ。」
「こんなの初めてだけど、なんか恥ずかしいね・・・さぁ、次はリーちゃんだよ!!」
まずは、騎士団が任務以外の時に着ている制服に着替える。
「ピシッとして引き締まる感じだね、リーちゃんに良く似合うよ!」
「騎士団が事務整理などをする際に着ているものですが、姫様が着るだけで印象が変わりますね。」
2着目、アマツクニで着られているというキモノに袖を通す。
「こっちだと珍しい格好だし、目立っていいかも?」
「着るのに時間と手間がかかりますので、当日こちらに寄っていただく必要が出そうですね。」
3着目、アマツクニの隣にあるという、ハナノクニで着ているスリットの入った衣装を着る。
「・・・ミーアは好きだけど、ちょっと大胆過ぎないかな。」
「これは学祭の場には少し向かないですね。」
「でもアルトなら、これを見せればきっとイチコロよ!」
「一体何の話をしてるのよ・・・」
それ以外にも色々と着てみる2人だったが、中々しっくりくるものがないようで、
「うーん、これっていう衣装がないね。」
「そうね、作るにしても方向性とかないと作りようがないしね・・・」
「申し訳ございません、こういった方面には疎いもので、的確な助言が出来ませんでした。」
「それはいいのよ、見て感想を言ってもらえるだけで、でもどうしようかしら。」
そんな時、ふと視線を向けた先には、未だにメイド服に身を包んだままのアリシアがいた。
あっ、と声を上げるリースに視線が集中する。
「どうしたのリース? 突然叫んだりしてはしたないわよ。」
「それよそれ、うちの王宮のメイド服はどうかしら?」
まだ着たことのなかったメイド服にしてみようと言うリース。
「あ、いいねそれ。 王宮でも着てるってことは機能性もいいんだろうし、可愛いし。」
「それでしたら、こちらの服をベースにリースリット様やミーア様に合うよう仕立ててみましょう。」
学祭のための衣装も決まり、そろそろ帰ろうかというところで、
「まだ少しは時間があるでしょう? ちょっとお茶でもしていかないかしら。」
アリシアからお茶のお誘いがかかった。
「うーん、アルト達も買い出しから帰ってるだろうし・・」
「リーちゃん、少しならいいんじゃないかな?」
思えば母と会うのは久しぶりだった、ミーアが乗り気なのもあり、
「それじゃ、ご馳走になろうかしら。」
「良かったわ、それじゃリアナお茶の準備をお願いね。」
「かしこまりました。」
短い時間ではあったが、アカデミーでのこと、アルトとのあれこれなど、沢山の話をしリースとミーアの休日は過ぎて行った。
アリシアとのお茶会を終え、馬車でアカデミーまで戻ってきたリース達。
「それでは姫様、衣装の方が完成しましたら、お届けに伺います。」
「えぇ、よろしくねリアナ。」
「いえ、それではミーア殿も失礼したいします。」
「うん、リアナさん今日はありがとう。」
リアナを見送り、寮へ戻る途中、丁度買い出しを終えただろうアルトとクロアを見つけた。
「アルト! お疲れ様、ごめんね買い出し押し付けちゃって。」
「いいよ別に。 それにしても・・・」
リースの顔をまじまじと見るアルト。
「な、何?何かついてる??」
「いいや、それじゃ合流もしたことだし寮に戻ろうか。」
「何よ、気になるじゃない!!」
他愛もない話をしながら、学祭に向けての準備を進めて行くアルト達だった。