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指名クエスト?魔物討伐と謎の黒幕

 翌朝、準備を終えた2人はクエストに出発した。

 ちなみに授業はクエストを理由に休みにしてある。

「アルトはこの依頼についてどう思う?」

「1年に任せるには強すぎる魔物、クエストでも訪れたことの無い村からの指名、これだけでも十分きな臭いよな。」

「でも、ギルドの方でも魔物は確認できてるって話だし、全くの嘘!ってわけじゃないのが厄介よね・・・」

「そこだよ、指名されてるのにそれだけの理由で断れば、また色々言われかねないからな。」

「ま、アナンダの討伐だけなら問題ないでしょ? さくっと終わらせて帰りましょう。

 様々な懸念はあったが、とにかく討伐を終わらせてしまえばいいと考え、2人は目的地に向かった。

 依頼のあった村に到着し、村長と話をすることになった。

「依頼を受けていただき、ありがとうございます。 見ての通り貧しい村でしてギルドへの依頼料を支払えないのです・・・」

 確かに村は閑散としていたが、そこまで財政的にひっ迫しているようにも見えなかった。

 ここで、アルトは始めに感じたある疑問をぶつけてみた、

「ちなみに自分たちはこれまでこちらの村の依頼を受けたことは無かったと思いますが、指名された理由はあるのでしょうか。」

「それは、この村の領主様が御2人に依頼を出せば確実だと言っていたものですから・・・」

「領主・・・ですか。 どなたでしょうか?」

 ミッズガルド王国では、一部を除き貴族が領地を拝領し運営を行っている。

 ヨハンのように騎士団など国直属の組織に所属している場合はその限りではない。

 その領主が2人を推薦したというのならば知っている人物かもしれなかった。

 しかし、その予想は悪い意味で当たってしまった、

「わが村の領主様はカーマセ公になります。」

「うわぁ・・・ここで来たか。」

「領主から直接ですか? その息子とかではなく・・・」

 リースは遺恨のある息子ワンブルの仕業ではないかと思い、念のため確認したが、

「いえ、確かにカーマセ公から直接伺いましたが。」

 その期待も裏切られる結果だった。

 こうなると裏で何が動いているか分からなくなった、2人の中でクエストの難易度が爆上がりした。

 村長との話を終え、2人は問題の森へと向かった。

「こりゃ、意味もなく俺たちを指名したってわけじゃなさそうだな。 何があることやら・・・」

「そうね、気を引き締めて行きましょうね。」

 一抹の不安を胸に2人は森に足を踏み入れた。

 森の中を進むとその奥は光が差し込んではいるが、鬱蒼としており薄暗かった。

「よし、一旦懸念の方は置いておいて、当初の討伐に集中しよう。 《索敵》スキルを使いながら慎重に進もう。」

 アルトが注意を促すと同時に四方の草むらが動き、そこからゴブリンが飛び出した。

「リース、俺のそばに。 風刃乱舞エアスライサー!」

 2人を囲む形で飛び出してきたゴブリンに対して、アルトは風魔法:風刃乱舞を使用した。

 ゲームでは自分を中心に周囲に竜巻を発生させ、敵を纏めて攻撃できる便利な魔法だ。

「グギャァァァァァ!」

 竜巻に巻き込まれ、その身を斬り刻まれたゴブリン達は魔石を残し消えていった。

 魔石は魔物を倒した証としてギルドなどに提出したり、武器や防具の強化などに使用できその用途は様々だ。

「びっくりしたねぇ、急に出てくるんだもん」

「俺も焦ってでかい魔法使っちゃったな、アナンダに気づかれたかもしれな・・・」

「!アルト、下がって!! 《守護聖盾[プロテクション]》!!」

 リースが何かに気づき、前方に魔法の盾を作り出す。


‐‐‐‐ドカァ!‐‐‐‐


 その直後、何かが激突した。

 それは討伐対象である、アナンダの1体だった。

 盾にぶつかったアナンダが警戒少し下がったところで、

「助かった、ここからは俺が前に出る。 リースは後ろで援護を。 念のため、結界魔法で後ろからの襲撃に備えてくれ。」

「うん、気を付けてね。 《守護聖鎧[ガーディアン]》!」

 リースの返答と同時にアルトは《身体強化》と《魔法力変換》を使用しアナンダを強打した。

 アルトの攻撃で吹き飛び、アナンダは後ろの大木に体を打ちつけた。

「やった?」

「いや、手ごたえが微妙だった。 蛇の柔軟性に打撃は効果が薄いな。」

 アルトの言葉通り、アナンダは平然と動き出した。

 今度は警戒したのか、唸り声を上げて威嚇し飛び込んでこようとはしなかった。

「火は使えないし、打撃もダメなら切り裂くだけだな。 《風魔力付与[エンチャント・ウィンド]》」

 打撃が効かないと理解したアルトは杖に風を纏わせた。

 魔力付与は武器に魔力を宿し、攻撃力を上げる魔法である。

 地水火風雷など様々な属性が存在する、今回アルトは風属性を付与しているため風属性攻撃と風による斬撃が可能となっている。

 攻撃態勢を整えたアルトにアナンダが飛びかかってきた。

「動きを止めるわ! 《縛鎖[チェーンバインド]》!!」

 地面から魔力の鎖が伸びアナンダを拘束するが、それを力づくで千切ろうとする。

 その一瞬の隙にアルトは間合いを詰め、付与した風をドリル状の竜巻に変化させ、強烈な突きを繰り出した。

 胴体に風穴を空けられたアナンダは力なく倒れた。

 その体は粒子となって消え、後には魔石が残されていた。


「まずは1体だな、ギルドの確認通りなら後4体か。」

「そだね、それ以上いないといいけど・・・」

 魔石を回収し、さらに森の奥へと足を踏み入れた。

 道中、ゴブリンやその他の魔物に襲われながらアルトはふと呟いた。

「ギルドからの報告を聞いた時は気にしなかったんだが、群れのボスについて触れられてなかったのがちょっと気になるな。」

「確かに気になるけど、報告にないなら普通にアナンダだけの群れだったんじゃないかな。」

「(ゲームではアナンダが「群れ」を作るときは、その上位種が中心にいたが・・・この世界ではどうなのか分からないな。)だといいけどな、細かな事を気にしすぎるのが俺の悪い癖だな。」

 アルト達はこの時感じた悪い予感が、的中してしまうとは夢にも思わなかった。


 その後、森を進みながら3体のアナンダを撃破したアルト達だったが、

「これで合計4体、あと1体だけど本当にそれで終わるのかな・・・」

 不安に感じたリースがそう呟いた。

 群れで確認されていたはずのアナンダが、1体ずつでしか襲ってこないところもおかしな点だった。

 その不安はアルトも感じていたが、敢えて軽い感じに

「さっきは気になるといったけど、俺たちへの依頼はアナンダの討伐だし、倒して少し見回って何もなければ引き上げればいいんだ、さっと倒して終わろうぜ。」

 と、応えた。


 そして、5体目のアナンダを倒し、

「これで5体の討伐完了! 魔石を回収して戻ろうね。」

 と、リースは魔石を回収しようとした時だった。

 アルトの《索敵》に無数の反応があった、それは明らかに魔物とは違うものだった。

「リース、下がれ!」

 アルトがリースを引き寄せると、


‐‐‐‐ヒュンッ‐‐‐‐


 と、風切り音がし、今までリースのいたところに矢が立っていた。

 アルトが呼ばなければ、リースの首に刺さっていただろう。


「いるのは分かっているんだ、隠れていないで出てこい。」

 怒気を含んだアルトの声が矢が放たれた方向に向けられた、

 しかし、そこからは何の反応も帰ってはこなかった。

 奇襲が失敗したからか、続けて仕掛けてくることはなかったが気配が引くこともなかった。

 改めて《索敵》を使用すると、少し離れた木の上だろう場所から、2人を囲むように10人ほどの気配を探知することが出来た。

「(《隠密》スキルで隠れてる可能性もあるけど、10人程度なら問題ないな。)リース、10秒後に頭上に《聖光[ホーリーライト]》で目くらましを頼む、その後はまた自分に結界を張ってくれ。」

 と、小声でリースに指示を出した。

「相手、結構いるんでしょ? 私も動いた方が・・・」

「相手の狙いが分からない以上、最優先で守るべきはお前だ。 それに全員倒す必要はないさ、何人か捕えて残りが撤退してくれるのを祈るだけだな。」

「もう、分かったわよ・・じゃあ、今から10秒後に《聖光》を使うわ。」

 作戦を纏めた2人に対し、謎の集団も次の襲撃に備えているようで段々と包囲を狭めていた。

 そして・・・

「《聖光》!!」

 リースの声が響き、上空で光の玉が弾けた。

 その瞬間、

「《速度上昇》&《身体強化》」

 速度を限界まで強化したアルトが、木から木に飛び移りながら襲撃者たちを落としていった。

「がっ・・」「ぐぁ!」「くそ、何も見えん・・ぐぉ。」

 次々と落とされ、その衝撃から悶絶するような声も聞こえた。

 そして最後の10人目に狙いを定めたが、その先に姿は無く


‐‐‐‐ギィン‐‐‐‐


 後方から金属を弾くような音が聞こえた。

「・・・リース!!」

 そこには襲撃者のリーダーと思わしき人物がリースに斬りかかり、それを《守護聖鎧》で防ぐリースの姿があった。

「貴様!リースから離れろ!!」

 一瞬で間合いを詰め、その人物に攻撃を仕掛けるが、軽く回避され距離を取られた。

「くく、中々に良い手だったが・・・甘い、甘いな所詮は子供の冒険者ごっこに過ぎないか。 誰一人殺してないとはな。」

「首謀者は誰かを話して貰わないといけないんでね。 まぁ一人二人いればいいから、他は消すぞ?」

 両者ともに殺気を出し、再びぶつかろうとしたその時だった、

「ジュアァァァァァァ!」

 襲撃者の背後から巨大な魔物が襲い掛かっていた。

 三つに別れた首、その中央の頭には王冠を模したような角、そして引き連れた多数のアナンダ。

 アルト達が懸念していた、アナンダの群れを統率する上位種、アナンダキングがそこにはいた。

 背後から襲われた襲撃者たちは1人2人と餌食となっていった。

 リーダーの男はアナンダを迎撃しながら、

「ちっ、あの方の放ったアナンダの群れか、よりにもよってこんな時に襲ってくるとは・・・ぐぁぁぁ!」

 意味深な言葉を放った男だったが、襲撃者たちは全員アナンダの群れに飲まれていった。

 アルトはリースを抱え、群れから距離を取った。

「妙なことを言っていたけど、それも聞けなくなったな。」

「うん、あの方・・・いったい誰なのかしらね。」

「予想は着くが確証も証拠もない、連中も皆犠牲になって確認も取れない・・・今はどうしようもないな。」

「それよりもあの群れね。 一度戻ってギルドか騎士団に協力してもらうしか。」

「そうしたいところだが、どうやら次の標的は俺たちのようだ。 このままじゃ外まで引きつ入れて行っちまう。」

 襲撃者たちを襲ったアナンダの群れは次の標的にアルト達を定め、追ってきていた。

「(アナンダ「クイーン」じゃなくて幸いしたな、キングなら群れの追加は無い)連れてきたアナンダの数も少ない、ここで食い止める。 援護を頼むぞ。」

「りょーかい!」

「まずは取り巻きから削る。 《攻撃力変換》+《風刃[エアスラスト]》3連!」

 《風刃》は字のごとく、風の刃を射出する魔法である。

 それを3連、つまり3枚に展開された風の刃が取り巻きのアナンダに向けて放たれた。

 《攻撃力変換》により魔法攻撃力を増加、強化された《風刃》はアナンダを一掃した。

「次いで《炎弾[ファイアバレット]》5連、燃えてしまえ!!」

 続けて炎の弾丸を打ち出す《炎弾》をアナンダキングに叩きつけた。

 轟音を上げ、アナンダキングは燃えながら横たわった・・・かに見えたが、尾でアルトに攻撃してきた。

「《守護聖盾》!」

 死角を突かれたアルトだったが、近くに来ていたリースの魔法で事なきを得た。


‐‐‐‐パキパキパキ‐‐‐‐


 アナンダキングは脱皮を行うことで傷の治癒を行った、心なしか体も一回り大きくなったように見える。

「あらら、火もダメみたいよアルト。」

「だな、キングにしては小さいと思ったけど・・・産まれたてか?」

「このスピードで脱皮を繰り返されると手に負えなくなるわね。」

「再生力も高い、下手な攻撃では倒せないな。」

「どうする?」

「ちょっと待ってろ《鑑定》」

 アルトは《鑑定》スキルを通してアナンダキングを視た。

 《鑑定》は武器や防具等の性能を数値、言語化して見ることの出来るスキルである。

 通常「物」に対して使用されるが、生物に対して使用すると名前や種族、その属性が見えるようになる。


‐‐‐‐‐‐‐アナンダキング‐‐‐‐‐‐‐‐

レベル:71

種族 :動物

属性 :毒

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


「属性が毒・・・魔法が通りづらい、面倒だな。」

「私の聖属性魔法ならどう?」

「よくて等倍ってところだな・・・でも、良い手を思いついた。 いつでも撃てるようにしておいてくれ。」

 リースに魔法の準備を伝えると、再び自身を強化しアナンダキングの方へ走り出した。

 アルトの姿をみたアナンダキングもより素早い動きで向かってきた。

「《竜巻[トルネイド]》&《氷弾[アイスバレット]》」

 アナンダキングから距離を取り、氷魔法を乗せた竜巻で攻撃を行った、周囲には冷たい空気が漂っていた。

 3つの頭から繰り出される攻撃を避けつつ、2度3度と同じ魔法をぶつけ続けていると、アナンダキングの動きが段々と鈍ってきているのが分かった。

「魔物とはいえ蛇だ、寒くなれば眠くなってくるだろう。」

 アルトはダメージを与えるのではなく、寒くなれば冬眠するという蛇の習性を利用して、アナンダキングの動きを止めることに成功した。

 また、ただ氷魔法をぶつけるのではなく、風に冷気を乗せることでその周囲の温度も下げていた。

 ゲームのようなダメージの取り合いだけでなく、リアルならではの攻め方で戦いを有利に進めていた。

「(敵の習性を利用したり、複数の魔法をかけ合わせたり、こういうやり方はゲームではなかったな)最後だ、《氷固》!!」

 すでにまとも動けなくなっていたアナンダキングを《氷固》で氷漬けにした。

 そして準備万端で待っていたリースにアルトは声をかけた。

「リース、とどめを頼む。」

「待ってました! 《退魔聖斬[ディバインセイバー]》!!」

 《退魔聖斬》は聖属性の剣を作り出して攻撃する魔法である。

 熟練者になると複数の剣を創造したり、生み出した剣をそのまま武器として使用したりなど、幅広い用途がある。


‐‐‐‐カシャァァァァン‐‐‐‐


 まるでガラスを砕くかのような音を出し、氷漬けになっていたアナンダキングは粉々砕けた。

 アルトは残された魔石を回収して、

「ふぅ、ようやく終わったな・・・」

「なんか何日も経ったみたいな気分だよ、結局途中で襲ってきた人たちについては分からなかったね。」

「そうだな、こいつの件とも併せて帰って報告だけしておこうか。」


 討伐後、依頼元の村へ戻り、森にいたアナンダは全て討伐した(アナンダキングの事は伏せている)事を伝えた。

 村長は泣いて喜び、「御2人に依頼してよかった」と言っていた。

 報告が終わり、2人は帰路に着いた。


 アカデミーの門が見えたところで、何やら慌ただしい雰囲気が伝わってきた。

 騎士団の部隊が複数、門の前に集結していたのだ。

「何だろう、大型の魔物でも出たのかな?」

「だからってアカデミー前に集まるか? ん、あれは父さん・・・?」

「ヨハンさんが出るほどだと、かなりの脅威がいるってことだよね。」

「ちょっと聞いてくるわ。」

 アルトは父の姿を確認し、今何が起こっているのか聞きに行った。

「父さん、父さん、これはいったい何事なの。」

「ん?アルトか・・・アルト?!」

 珍しくヨハンが聞いたことの無いような大声を出した。

 何事かと集まっていた騎士団の騎士たちもこちらに視線を向けた。

「びっくりしたな、どうしたのさ・・・」

「いや・・・アルトがいるということはリースリット王女は・・・」

「私も一緒です、お久しぶりですヨハンさ・・・」

 ガシッ!とヨハンは2人を小脇に抱え、

「私は少し学長室へ行ってくる!準備はそのまま進めておいてくれ。」

 と、騎士団の面々に声をかけ、ヨハンは走り出した。


 そして、アカデミーの学長室前に着き、2人を降ろすと、

「王女殿下それにアルト、突然済まなかった。」

「いったいどうしたってのさ、父さんらしくもない・・」

「それについてはこれから話す。」

 そう言うと、学長室のドアをノックし、

「ヨハンです、入ってもよろしいでしょうか。」

 部屋から、入ってこいとの応答があり、まずヨハンが学長室に入った。

 中には学長のルーゼン、担任のイレーヌ、冒険者ギルドのギルドマスター、そして国王のアークの4人がいた。

「ヨハン、捜索の準備はどうだ? いつになったら出発できそうだ。」

 アークに問われ、ヨハンは

「アーク・・・捜索の必要はない、どうやら我々は謀られたようだ。」

「どういうことだ。」

「2人とも入ってきなさい。」

「あのー、話が見えないんだけど・・・どういうことなの?」

 リースが顔を出すと、アークそしてルーゼンは喜んだように駆け寄ってきた。

「おぉぉぉ!リース、無事でよかった!!」 「うむ、元気そうでなによりだ。」

「お父様、大叔父様、2人とも落ち着いてください。」

 喜び合う王族を尻目にアルトはヨハンに聞いた。

「さっきの口ぶりだと、まるで俺たち2人が行方不明にでもなったみたいだけど?」

「まさにその通りよ、2人がクエストに向かってからしばらく立って、ギルド経由でアカデミーに連絡が来たの。」

 イレーヌが事の経緯を説明し、ヨハンが補足をいれた。

「あぁ、依頼を受けてくれた2人がまるで戻って来ないとね・・・お前たちに限ってそれは無いと思ったが念のため捜索隊を組んで、問題の森へ出向こうとしていたところだ。」

「でも、それって何かおかしいわよね、だって依頼を出した村はギルドに依頼するだけのお金が無いからアカデミーに依頼を出したって言っていたし・・それなのにギルドにまず連絡が行くって変じゃない?」

「このクエスト自体が初めからおかしな点が多々あったんだ、今から説明するよ。」

 アルトは討伐したアナンダキングの魔石を出し、クエストを受けた経緯、謎の襲撃者、討伐対象に関するギルドの事前調査との乖離について話した。

 話を聞いたギルドマスターは、

「ギルドの事前調査と実際にクエストで、数が違ったりすることはあるんだが、流石に上位個体まで出てきたとなると話は変わってきますな。」

 アークはまた別の視点で、

「ギルドに依頼を出すだけの金を用意できないほど困窮した村があることが問題だ、どのような統治をしているか早急に話を聞く必要があるな。」

 イレーヌとヨハンは、

「そもそも2人が討伐地へ入ってから、緊急連絡を入れるまでが早すぎるわ、まるで「2人がいなくなること」が決まっていたかのような気さえしてくるわ。」

「襲撃者の件もある、指名された依頼であることを考えると2人を狙ったと見るのが妥当か。」

 最後にルーゼンが、

「あの方とやらが今回のアナンダを森に放ったみたいな話も言っていたようだしの、初めから襲撃者に2人を襲わせ、その襲撃者はアナンダの餌食になるって寸法だったのじゃろう。」

 各々が今回の件についての疑問点を上げていたが、件の襲撃者が全滅、遺留品も無いことからそれ以上の調査もできないだろうと結論付けられた。

「2人にはキング討伐を含めたクエストの完了報告をアカデミーに提出し、普段通りの学生生活に戻ってもらうとしよう。 もちろん襲撃者の件は伏せておいてな。」

「それでは、私が引率いたします。 2人とも行きましょうか。」

「わかりました、それでは自分たちは失礼させていただきます。」

「あぁ、疲れて戻ってきたところを済まなかったね。」

 イレーヌに促されアルトとリースは学長室を後にしようとした、

「あぁ、最後に・・・聞かれなかったので言いませんでしたが、今回の依頼を出してきた村を統括していたのはカーマセ公で、依頼に俺たちを指名するよう言ったのもカーマセ公だそうです。」

「・・・そうか、それについてはこちらで調査を行うとするよ。 君も早まった行動だけはしないでくれると助かる。」

「分かっています、それでは失礼します。」

 アルトが退出し、残った4人は「ふーっ」と息を吐き、

「子供同士のいざこざに、まさか親がそこまですまいとは思っていたが・・・」

「カーマセ公は元々黒い噂の絶えない人物でしたが、人工的な魔物の繁殖でも行っているのでしょうか。」

「物的証拠はないが状況証拠だけでもかなりのものが出てきてしまったな、しかし事を急いてはいかんな。」

「うむ、2人についてはアカデミーとしてもそれとなく目を配るようにしよう。」

「カーマセ公については内々の調査は王宮で行うが、騎士団やギルドでもそれとなく調査をお願いしたい。」

「承知いたしました、ギルド内でも信頼できる人物に依頼を致します。」

「騎士団としては自分が軽々に返事はできんな、後で団長に話をしておく。」

 今後の方針を固め、4人も解散した。


 アルトたちはクエストの完了報告を行い、イレーヌとは別れていた。

 アナンダキングとの突発的エンカウント、その討伐でクエスト受付は大騒ぎとなり、アルト達も詳しい状況を報告した。

 寮への帰路に着いた頃にはすっかり日も落ち、夜が訪れようとしていた。

 リースは伸びをしながら、

「ん~、すっかり遅くなっちゃったね。」

「そうだな、腹も減ったし早く帰ってゆっくりしたい。」

「だね~、ん?」

 寮の前で2つの人影が見えた。

 それは2人の帰りを待ってただろう、ミーアとクロアだった。

「リーちゃんお帰りー!」

 ミーアがリースに飛びついてきた。

「お2人ともお帰りなさい、大変だったようですね。」

「あはは、ただいまクロア君。 ミーアも」

 ミーアはうんうんと頷きながら、リースから離れようとはしなかった。

「クエストに行ったお2人が、消息不明という噂が流れてきててね、結果嘘だったようですけどミーアは2人の姿を見るまで安心できないって、寮の前で待つと言ってきかなかったんですよ。」

「そうだったのか、心配かけてすまなかったな。 ご覧の通り、問題ないぞ。」

 まさか学生間でもその話が流れていたとは思わなかった。

「その噂って誰から言い始めたかわかる?」

 何かを感じたのだろう、リースがクロアに話の出所を訊ねた

「いえ、私も通りがかりに聞いただけなのではっきりとは・・・」

「そうよね、ごめんね変なこと言って。」

「それより寮に入ろう、いつまでもここで立ち話もあれだしな。」

「じゃあ、食堂に行こうよ! この時間ならまだ開いてたはずだしね。」

 ミーア・クロアに迎えられ、2人はようやく戻ってきた実感を得た。

 そして食事をしながら、その日あったことを4人で語り合い、夜はふけていった。

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