アカデミー入学!冒険者への第一歩
アカデミーに入り中を歩いていると、至る所から視線を感じた。
「なんか、見られてるような・・・アルト、もう何かしたの?」
「なんで俺なんだ、見られてるとすればリースだろう。 何たって王女殿下が入学してくるんだからな。」
「うーん、お父様がどう言ったのかはわからないけど、いずれバレるにしてもそんな目立つような事言うとは思えないのよね。」
「だな、だとすれば何処からか情報が漏れたってことか。」
「遅かれ早かれだからバレるの別にいいんだけど、これは・・・ん?」
2人が話しながら歩いていると、同じアカデミーの学生だろう貴族風の男が目の前に立っていた。
「お初にお目にかかります、リースリット王女殿下であらせられますか?」
「人の名前を聞く前に、まずは貴方が名乗ったらどうです。」
男の不躾な質問にリースリットは機嫌悪そうに答えた。
「これは失礼致しました、私はカーマセ子爵家のワンブル=カーマセと申します。」
「そうですか、確かに私は第二王女のリースリットですが、何か用ですか? 私はこれから入学の挨拶に向かうのですが。」
「勿論存じ上げてございます、そこまでのエスコートをさせていただきたくこうして参上いたしました。」
「結構です、場所は解かっていますしこうして供もいますので。」
供?と、この時初めて認識したかのようにワンブルと名乗った男はアルトの方を見た。
「何だ貴様は、見てないで名乗ったらどうだ。」
「(こいつ、今まで気づいてもいなかったくせに)自分はリースリット王女の供をさせてもらっている、アルト=イクティノスです。どうぞ、よろしく」
そう言ってアルトは右手を差し出したが、その手が握り返されることはなく、
「ふん、誰かと思ったら成り上がり者のイクティノス家か、道理で平民臭さが抜けてないはずだ。」
返ってきたのはアルトの家を馬鹿にするような言葉だった。
周囲からも微かに笑い声も聞こえた。
「確かに自分の家は新しい貴族とはいえ、それも功績を上げて正当に評価されての事。 そのような物言いをされる筋合いはないし、爵位を与えた国王に対しても侮辱にあたると思うが?」
「同じ子爵家とはいえ、格はこちらの方が上なのだあまりなれなれしい態度をとるなよ平民。」
そう言うと、ワンブルは2人の前を後にした。
「途中から私、空気だったんだけど。 それにしても失礼な奴だったわね。」
「兄さんも色々あったと言っていたから覚悟はしてたけど、初日からとは思わなかったぞ。 まぁいいや、そんなことより学長の挨拶が始まってしまうから、早く行こうリース。」
「そうね、アルトを馬鹿にしたことは忘れないでおくけど、今はそれどころじゃないわね。」
気づくと周りには人がいなくなっていた、結構な時間が過ぎていたようだ。
2人は急いで講堂の方へと向かった。
何とか間に合ったアルトとリースは学長の話しに耳を傾けた、
「諸君、入学おめでとう。 私が学長のルーゼン=ロイ=ミッズガルドである。 我がアカデミーでは貴族であったり平民であったり獣人であったり、多種多様な生徒を受け入れている。 そしてこのアカデミーの中では全員が平等であり、特別扱いは無いものと思って欲しい。 出身や人種の壁を失くし、先の未来を見据えて今日からの3年間を過ごしてほしいと思う。」
ミッズガルド・アカデミー学長、ルーゼン=ロイ=ミッズガルド。
前国王、即ち現国王アークの父の弟にあたり魔法使いとしても高名を博している。
リースリットに取っては大叔父にあたる。
「流石、大叔父様・・多分あれは貴族出身者への牽制ね。 貴族と平民の軋轢はどうしたって出てくるもの。」
「俺、獣人って初めて見たんだけど、結構いるんだな。」
ゲームでも様々な種族があり、アルトやリース等人族や、身体能力に優れ動物ような特徴を持っている獣人、所謂エルフやドワーフ等に属される幻人、一説では魔物を祖に持ち魔力に優れる魔人等が存在する。
ちなみに人間以外の種族を纏めて「亜人」と呼ぶ層もいるが、一般的ではない。
「私も魔人は見たことないけど、アルトも玄人なら会ったことあるわよ?」
「え、そうなのか?」
「リアナよ、彼女はエルフの玄人なのよ。」
「し、知らなかった・・・結構長いこと一緒にいたのに。」
「普段は耳を出さないように髪で隠しているから、知らなかったのも無理ないわよ。 リアナも敢えて伝えようとはしていなかったしね。」
そんな話をしている間に学長の挨拶は終わりを迎え、次いでアカデミーのシステムの話になっていた。
「アカデミー内では金銭での取引は行われておらず、装備品の購入、改修等、全ては授業や実習そしてこの後説明する決闘で手に入るアカデミーポイントで行う。 最初は全員に1000ポイントを渡すためいきなり使い切らないようにな。」
アカデミーでは基本生活費はかからないが、武器や防具等の装備品や回復薬等の備品の購入には、アカデミー独自のポイントでやり取りされていた。
これも産まれによる格差を取り払うための措置と考えられ、取得には毎日の授業や実習に参加すること、アカデミー内のクエストなどを消化することで貰え、テストや実習で好成績を納めた者には特別ポイントの授与等があったりする。
「では、本アカデミーの最大の特徴である【決闘】システムについて説明する。 決闘は1対1の個人戦と3対3または5対5の団体戦とし使用する武器、防具はアカデミー指定の物とする。」
「決闘は両者、または団体戦代表者同士の了承を第三者立ち合いの上で確認し、執り行うこと。 立場を利用しての一方的な決闘はアカデミー側からペナルティを化すことになるので注意するように。 勝者には負けた方から所持ポイントの2割の譲渡を行う。」
「(所謂対人戦・・・PvPか、ポイントのやり取りとかこういうところは改めてゲームっぽいな)」
「ポイントの譲渡方法などは明日からのオリエンテーションで説明があるためそこで確認するように。」
アカデミーの説明が終わり、最後に学長が登壇した。
「では、これで入学の挨拶を終わりとする。 諸君らの3年間が有意義なものとなるよう祈っている。」
「この後は各自寮の部屋に行き、明日からの準備を行うように。 詳細は通知しているのでステータス画面を確認するように。」
学長や教師が講堂を後にし、周囲には喧騒が戻ってきた。
アルトは早速ステータス画面を開き、通知を確認しようとした。
「建前上、俺はリースのお付きってことで来てるんだが、寮まで一緒にはならないだろうな。」
「多分ね、大叔父様にはお父様から話が言ってるとは思うけれど・・確認してみましょう。」
2人でステータス画面を見てみる、そこには同じ部屋番号が表示されていた。
「嘘だろ・・・男女一緒の部屋にするとか、あの人たち何考えてるんだよ。」
「これってもしかして、同棲ってこと! まだ早い・・・ううん、未来に向けての予行練習ってことね。」
むんっ、と妙に気合を入れるリースとは対照的に困惑顔のアルトであった。
「流石にこれは問題だろう、ちょっとアカデミー側に確認してくる。」
「あら、今までだってお泊りとかしたことあったんだから別にいいじゃない?」
「昔の話だし、今は色々とダメだろ。」
「もしかして、アルトは意識しちゃってるの? 私と一緒の部屋だと緊張しちゃう?」
「え・・・」
「私たちは学びに来てるんだから、何か間違いなんて起こるわけないじゃない? なのにアルトは・・・」
リースはまるで意識してしまっているアルトが問題かのように、挑発するように言った
「お、おぅ・・。 そうだな、確かに何の問題もないな。 意識なんてしてないからな!」
「なら良かった、早速寮の部屋に行きましょう。」
アルトは完全にリースの掌の上だった、乗せられる形で同部屋を許可してしまったのであった。
寮についてみると、恐らくアルト達と同学年だろう、部屋の準備にごった返す生徒の姿が多く見られた。
さらに驚いたのが、男女で同室になっている者が多数見られたことだ。
「俺たち以外にも男女同室ってのがいたんだな。」
「確か入学前に寮の部屋希望について聞かれたことがあったみたいよ? そこで理由を一緒に出しておいて、アカデミー側で許可された場合は男女同室が認められるみたい。」
「あれ、俺そんなの聞かれたことがないぞ。」
「私もよ、どうせお父様・・・親たちが勝手に決めたんでしょ。」
「違いない、それじゃ俺たちも部屋の準備をしてしまおうか。」
部屋は2階の角部屋だった、既に事前に送った荷物は到着していた。
「へー、結構いい部屋よね。」
「思ったより中は広いな、キッチンも使いやすそうだし。」
「目線が完全に主夫よ、アルト。」
「いいじゃないか、冒険者になれば1人で料理する機会も増えるんだ、折角家で覚えたんだし錆びさせるわけにも行かないさ。」
「じゃあ、料理はアルトに任せてもいいわね。」
「いや、リースも冒険者志望なら覚えておいた方がいいだろ・・・俺もリースの手料理を食べてみたいしな。」
「ふ、ふーん。 そこまで言うならやってみてもいいかな・・・」
先ほどの意趣返しとでも言わんばかりのアルトだった、リースも乗せられる形で承諾した。
アカデミー初日は部屋の準備で慌ただしく過ぎて行った・・・。
翌朝、授業初日は晴天に恵まれた。
少し早く起きたアルトは朝食の準備をしていた、ちなみにメニューはパンにハムエッグ、サラダと簡単な物にした。
準備を進めていると、リースが起きてきたようで、
「おはよ~アルト、良い匂いだね~」
「おはようリース、早く顔洗ってきな。」
そうする~、と言いながらリースは洗面所に向かった。
「さぁ!今日から授業開始だね、がんばるぞー。」
リースは大好きな木苺のジャムをたっぷり塗ったパンを頬張りながら気合を入れていた。
朝食を済ませ、制服に袖を通し身支度を整えた2人は部屋を出て、校舎へと向かった。
「おい、平民」
清々しい朝を壊すように、聞いたことのある声がかかった。
そこには先日も話しかけてきた、ワンブル=カーマセとその取り巻きが居た。
「昨日も声かけてきたけど、もしかしてお友達にでもなりにきたのか?」
流石のアルトも面倒くさそうに応対した。
リースの方は名前を思い出せないようで、
「えっと、誰だったっけ・・・顔は覚えてるけど、名前が思い出せないの。」
「俺も微かにだけど、ワンなんとかだった気がする。」
「ワン・・・ワン・・・ワンダフル?」
「あぁ、それだ。 何か用か、ワンダフル君?」
「ワン!ブル!だ! それに友達だと? はっ、分を弁えろ。 貴様ごとき平民出の貴族が私と友になれるはずがないだろう。」
「別にいらないしな。 教室に向かいたいから手短にしろよ。」
「ふん、貴様が王女殿下の供などという分不相応な役目をしているのでな、それを代わってやろうと来たのだ。」
「はい、お疲れ様。 アルト行きましょ、話にならないわ。」
リースが不機嫌そうにアルトの手を引き、その場から離れようとする。
しかし、取り巻きたちが前を塞いで、
「ワンブル様の話だけでも聞いてください、きっと王女殿下にとっても損にならないかと。」
「私の意志も無視しておいて勝手なことを、それにアルトと引き離そうとしている時点で損しかないのよ。」
珍しく本気で怒った様子でリースが反論する、アルトとしてはここまで言われると気恥ずかしい物があった。
そこにワンブルが割り込んで来た、
「王女殿下、高貴な方は供も高貴であるべきです。 それにはイクティノス家は不足かと。」
「問題ありません。 供の件については国王も承知の上です。貴方の出る幕はありません。」
自分の事なのに蚊帳の外に置かれたアルトだったが、
「で、結局どうするつもりなんだ。 俺は役目を代わる気はない、リースもそれを望んでいない。 もう諦めてくれないか。」
「王女殿下に目を覚ましていただくことが一番だったが、ならば決闘で決着を付けようではないか。 成すすべなく敗れる貴様の姿を見て、王女殿下も誰が自分の供に相応しいかを解っていただけるだろう。」
決闘の勝敗条件にリースのアカデミー内における供の変更を入れるという、滅茶苦茶なことをワンブルは提案した。
「呆れたな、決闘の勝敗のやり取りはポイントのみだろう。 そんなこと認められるはずが・・・」
「ふん、これだから貴族同士の繋がりもない平民は困る。 昔からアカデミー内での決闘では裏ルールとして勝者が敗者に対する、ポイント以外の条件を付けるのだ。 私はアカデミーの先達よりこれを聞いて、王女殿下をお救いする良い手段だと思ったのだ。」
恐らくは暗黙の了解のようにアカデミー内に蔓延っていたのだろう、決闘時における生徒間の独自ルールだった。
「そもそも決闘はお互いの了承の上実行されるものだろう、だれがそんな条件で・・・」
「いいわ、アルト受けましょう」
「そう受ける・・・リース?!」
リースは決闘を受諾するように言ってきた。
これにはアルトも驚き、小声で
「こっちには受けるメリットが無いぞ、貴族側の顰蹙を買うだけじゃないか?」
「断ってもずっと付きまとわれるだけよ、そんなの嫌だもの。 アルトがコテンパンにしてしまえばいいだけだわ。」
余程腹に据えかねたのだろう、今後のことも考えてここで厄介事を済ませてしまおうというリースの考えだった。
そこには決してアルトが負けることはないという、信頼が見て取れた。
ここまで言われてしまえば、アルトの答えは1つだった。
「しょうがないか、いいだろう。 その決闘、受けるぞワンダフル君」
「私の名はワンブルだと何度言えば・・・!!」
‐‐‐‐パンパン‐‐‐‐
今にも戦闘が始まりそうな空気の中、拍手が響いた。
「貴方たち1年ね、随分と元気が良いみたいだけど、もう1限目が始まるわよ。」
教師の服に身を包んだ女が発した威圧感にワンブルと取り巻き達は後ずさり、
「ちっ、お前たち行くぞ。」
そう言い放ち、ワンブル達は去っていった。
「王女殿下、ここではリースリットと呼ばせていただきます。」
「はい、構いません。 特別扱いされたくてここに来たわけではないので。」
「それでは・・・校舎前で揉めていると聞いて来てみれば、初日から決闘の約束をする生徒なんて聞いたことありませんが・・・」
「彼らがしつこく絡んでくるので、厄介事を早めに処理するために受けました。」
「決闘の詳細は追って連絡があると思います。 あなた達も教室に向かいなさい。」
女教師に促され、2人も教室へと向かった。
教室に入ると、それまで騒がしかった室内が一瞬静かになり、その後噂話をするような小さな会話が聞こえてきた。
2人は窓際で一番後ろの席に座った。
「あれだけ悪目立ちすれば仕方ないけど、小声で話されるのも気分がよくないな。」
「ほとんどワン何とかさんのせいだけどね、それも決闘までの辛抱よ。 それが終われば少しは静かになるでしょ。」
2人が話していると、前の席に座っていた猫耳の少女が話しかけてきた。
「ねぇねぇ、2人が早速決闘をすることになったって噂の人?」
「やるのは俺1人だけどね、君は?」
「私はミーアっていうの、見ての通り猫の獣人! こっちはクーくんだよ。」
クーくんと言われたエルフ耳の男もこちらを向いて挨拶をした、
「クロアです、所属はエルフ族になります。 貴女が噂のリースリット王女ですか。」
「うん、この国の第二王女でリースリット=ロイ=ミッズガルドよ。 こちらはアーくん、よろしくね。」
「誰がアーくんだ、改めてアルト=イクティノスだ。 よろしく。」
お互いに挨拶を済ませると、ミーアが食いつくように話しかけてきた。
「りーすりっと・・・それじゃぁ、リーちゃんだね!」
「こら、ミーア。 王女に対してそれは失礼だろ。 すいません、ミーアは名前の頭文字を伸ばして呼ぶ癖があって・・・」
「あら、私は構わないわよ? こちらもミーアちゃん、クロアくんって呼ばせてもらうし、クロアくんも王女なんて堅苦しい呼び方じゃなくて、リースリットでいいわよ。」
家族やアルト以外に愛称で呼ばれたリースは少し嬉しそうに応えた。
「呼び捨ては恐れ多いのでリースリットさんと呼ばせてください、私の事はクロアで構いません。」
「ミーアもミーアでいいよ! アーくんもそう呼んでね。」
「(アーくん呼びが定着してしまった・・)じゃあミーア、クロアって呼ばせてもらうよ。 随分と仲が良さそうだけど2人は幼馴染か何かか?」
「そうだよ、クーくんとは家が隣同士なの。」
「まぁ、腐れ縁と言う奴ですよ。 昔から僕は無茶をするミーアの尻拭いばかりで。」
「わかる、わかるぞクロア。 俺もな・・・」
妙な部分で共通点を見出した2人はお互いの苦労話で盛り上がっていた。
「男同士でなんか盛り上がってる。 ところでミーア、その耳って・・・」
「勿論本物だよ、触ってみる?」
「いいの? それじゃ、失礼して・・・わ、フワフワだぁ。」
リースもミーアの猫耳を触って満足そうだった。
そこにこの教室の担任だろう、教師が入ってきた。
朝にアルト達の仲裁に入ったあの女教師だった。
「皆さん、おはようございます。 私がこの教室を担当する、イレーヌ=アイゼンです。」
凛とした表情と、まるで剣が入っているかのような芯の通った立ち姿に、男子だけでなく女子も溜息を付いていた。
初日は簡単な説明とアカデミー内の施設説明で終わるようだった。
「よし、これで説明は終わりです。 本日は解散となります、皆さん明日からの授業の準備を忘れないように。 最後にアルト=イクティノス君は少し残るってください。」
「初日から大変ですね、それではまた明日。」
「リーちゃん、アーくんまたねー。」
続々と生徒たちが帰る中、アルトは名指しで残るように指示があった。
恐らく、今朝の決闘の件だろう。
教室にはアルトとリース、それとイレーヌだけが残っていた。
「残ってもらって悪いわね、解っているとは思うけど・・・」
「今朝の決闘の件ですよね、何か問題があったのでしょうか?」
「いえ、ただ例年だと上級生が決闘のデモンストレーションをやるのだけど、それにあなた達の決闘を使うことになりました。」
「それは、私たちがデモンストレーションを行うということでしょうか。」
「いいえ、内容自体は普段の決闘と同じです。 ただ、今年の1年全員が見に来るということになります。」
「わかりました、自分の方は問題ないです。」
「そうですか、では先方にもそのように伝えます。 開始は恐らく明日の午後になると思います。」
それだけ伝えると、イレーヌも教室を後にした。
アルト達は寮への道を歩きながら、
「しかしリース、本当にコテンパンにしてやっていいのか? 一応相手は貴族だし親父さんたちに迷惑がかかるんじゃ・・」
「大丈夫よ、幾ら子供がひどい負け方をしたとしても、親としてそれをどうこう言うほど愚かではない・・・と、思うわ。」
「それじゃ、徹底的にやらせてもらうか。」
「・・・アルト、実は結構怒ってるでしょ。」
そして、決闘当日。
決闘が行われる、闘技場には1年全員が集まっていた。
中には上級生も多数見られた。
リースはミーアやクロア達と共に最前列に座っていた。
「アーくん大丈夫かな。」
「平気よ、アルトは強いんだから!」
「そろそろ時間ですね、先生が出てきましたよ。」
立ち合いを務めるのだろう、イレーヌが闘技場の中央に出てくるとそれまで騒がしかった闘技場内が静寂に包まれた。
「決闘の立ち合いを行うイレーヌ=アイゼンです。 今回は決闘の説明も兼ねさせてもらいます。」
イレーヌは決闘の概要は先日の説明にある通りと前置きをし、
「決闘のルールとして、
1つ、使用する武器防具はアカデミー指定の物を使い、自前の装備品は不可
2つ、使用するスキル、魔法に制限は設けない
3つ、開始前からの強化スキル、アイテム等の使用は禁ずる
4つ、回復アイテムの使用は禁ずる、魔法による回復は可
5つ、勝敗はどちらかが敗北を宣言または意識を失った時
以上とします、当然ですが観覧席からの第三者の手助けも禁じます。」
イレーヌが決闘におけるルールを説明し、再び静寂が訪れた。
「では、アルト=イクティノス、ワンブル=カーマセ、両者とも闘技場に入ってください。」
右の扉から杖を携えたアルトが、左の扉からは両刃斧を持ったワンブルが取り巻きを引き連れ入ってきた。
「ワンブル君、今回は個人戦であったと記憶していますが。」
「はい、勿論です。 ですが、相手は平民ですのでどんな卑怯な手を使うか分かったものではありません。 ですからこの者達に場内の確認を・・・」
「必要ありません、事前の確認は教員で行っています。 それと先ほどの発言はアカデミーの趣旨に反しています、断じて看過できませんよ?」
イレーヌの発する圧にワンブルが息をのむ様子が見て取れた。
「は、はは。 どうやらこちらの勇み足だったようですね。 それでは始めましょうか・・・王女殿下、貴女に相応しいのが誰かこの場で証明致します。」
リースに捧げるような言葉を放つワンブル。
闘技場の視線がリースに向けられるが、
「うっさいバーカ、さっさとアルトに倒されちゃいなさい。」
突っぱねるようなリースの言葉に闘技場中がシンッ・・となった。
その言葉にワンブルは額に青筋を浮かべ、怒りの矛先はアルトに向けられていた。
ここまでアルトは一つも言葉を発してはいなかった。
「はぁ・・では互いに開始位置についてください。」
2人が中央の開始位置に立ったことを確認し、イレーヌは手を挙げた。
「・・・始め!」
合図とともに手が下ろされ、決闘が開始した。
この時ワンブルの頭の中ではアルトが杖を持っていたこと、鎧を着ていなかったことなどから後衛の魔法職だと思い込んでいた。
「(魔法職であれば近接戦闘に弱い、まずは身体強化で一気に距離を詰める)スキル《速度上昇》はつど・・・」
ワンブルのスキルが発動することはなく、その体は吹き飛ばされていた。
アルトは開始と同時に《速度上昇》と《魔法力変換》のスキルを使用し、攻撃をしかけていた。
《魔法力変換》はステータス[INT]を上げることで上昇するMatk(魔法攻撃力)をAtk(攻撃力)に換えるスキル。
逆にAtkをMatkに換える《攻撃力変換》も存在する。
《速度上昇》を使用したアルトの動きは誰の目にも止まることはなく、一息で相手の懐に入っていた。
そして《魔法力変換》で強化した杖の突きでワンブルを吹き飛ばしたのであった。
ちなみに《鑑定》スキルで魔法力に補正が入るのを確認した上で、使用武器に杖を防具にローブを選んでいる。
‐‐‐‐ドォォォン‐‐‐‐
アルトの突きで飛ばされたワンブルは、闘技場の壁に打ちつけられた。
呼吸はしているようだが、意識を失っている。
「先生、どうやら気絶してるみたいですが、これで終わりでしょうか?」
「・・・ハッ。 それまで、勝者アルト=イクティノス!」
闘技場が静まりきる中、誰かの拍手は鳴り響いた。
それに続く形で割れんばかりの歓声が上がった。
ちなみにリースは当然とばかりにうんうんと頷いていた、どこか誇らしげである。
取り巻きが回復を行い、ワンブルは意識を取り戻し、状況を認識すると
「ふ、不正です! あの速さでスキルが発動するわけない、禁止事項にあった事前のスキル使用が・・・」
「認められません、スキルの使用状態については常にチェックが入ります、その上で彼に不正は見られませんでした。」
「しかし、そうでなければ私が平民ごときに敗れるわけ、」
「見苦しいですよ、ワンブル君。 貴方は敗れたのです、その結果は変わりません。」
「そういうわけだから、もうリースのお供になろうだなんて2度と言うな。 ポイントだけ払ってさっさと消えろ。」
アルトの言葉に再度飛びかかろうとするワンブルだったが、イレーヌに静止された。
「ワンブル君、これ以上の戦闘行為はアカデミー側からペナルティが発生することになりますよ。」
その言葉にワンブルは武器を置いた、アカデミーに入り僅か1日でペナルティなど家の名誉に傷が付きかねない。
「アルト=イクティノス、この屈辱は忘れんぞ。」
と、恨み言を言い放ち立ち去ろうとした。
その後ろからアルトは、
「捨て台詞が三下みたいだぞ、ワンブル・・・いや、かませ犬君。」
「アルト、かませ犬ってどういう意味?」
決闘が終わったため、下に降りてきていたリースが聞いた。
「遠い東にある、アマツクニってところでは引き立て役のことをこう言うらしいぞ。 名前も・・・ほら、ワンブルって犬の鳴き声みたいだし、家名と合わせるとぴったり合うだろ?」
もはや爆発するのではないかというくらい紅潮したワンブルは最後に、
「この私を虚仮にしたこと覚えておけ・・・」
と、だけ残し去っていった。
「はい、それでは皆さんは解散してください。」
イレーヌがそう告げると、生徒たちは帰っていった。
「アルト君、見事な戦いぶりでした・・・と、言いたいところですが最後の言葉は余計だったのではないですか。 あれでは禍根を残しただけでしょうに。」
「確かに余計でしたが、あれの事です今後も色々やってきそうなので、その矛先を自分に向けるためですよ。 あの様子なら、リースにちょっかいかけることは無さそうですね。」
最後にワンブルを挑発した理由をアルトは告げた。
ワンブルの発言に思うところのあったイレーヌはそれを聞き納得したのか、
「わかりました、今後彼との間に何かありましたらまずは教師に相談してください。 今日はあなた達も帰りなさい。」
そういうとイレーヌも闘技場を去り、アルト達も帰路に付いた。
寮への帰り道でミーアが訊ねてきた。
「それにしても決闘でのアーくんの動きはすごかったね、私でも目で追えない速度だったよ。 昨日は聞けなかったけど、どんなステータスしてるの?」
「丁度いいから4人のステータスを確認してみない? こういうの憧れてたのよ。」
リースの提案に4人とも頷き、ステータス画面を開いた。
まずはアルトが話だし。
「俺はAGIを基準に近接も魔法もいけるようにフラットにしてるな、最近はスキルを優先してるからステータスは上げてないが・・・今はこんな感じだな。」
‐‐‐‐‐‐アルト=イクティノス(15)‐‐‐‐‐‐
レベル:68
STR:62(Atk:130)
AGI:95
DEX:44
INT:70(Matk:138)
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
アルトは自身が言った通りAGI(敏捷性)を中心として、リースと出会う前の『何でも一人でこなせる』コンセプトはそのままに、剣も魔法もこなせるようなステータスになっていた。
「(そういえば、ゲームではレベルは99を超えて成長できる仕様になっていたがこの世界ではどうなんだろうか・・・)次はリースだな。 リースのステータスを見るのも久しぶりだ。」
「なんか恥ずかしいんだけど、私はINTが中心ね。 アルトの後ろでサポートできるようにしてるわ。」
‐‐‐リースリット=ロイ=ミッズガルド(15)‐‐‐
レベル:61
STR:33(Atk:94)
AGI:48
DEX:60
INT:82(Matk:143)
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
リースのステータスは王都の神殿に仕えている司祭達を参考にしている。
始めはアルトのように前に出て戦うスタイルを考えていたのだが、アルトと出会ってから起こったある事件をきっかけに、前で戦う人(主にアルト)を守れるようになるために方向性を変えたのだった。
「ふわー、2人ともレベル高いねー」
「そうですね、僕らは動物等の狩りを生業にしているのでレベルは高い方だと思ったのですが、お二人はさらに上でしたね。」
ミーアもクロアも同年代の中では突出して高いだろう、2人のレベルに感嘆の声を漏らした。
「いや、2人だって今の年齢なら十分高いほうだろ。」
「そうよね、2人も前衛後衛がはっきり別れてるのね。」
‐‐‐‐‐‐‐‐‐ミーア(15)‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
レベル:48
STR:64(Atk:112)
AGI:70
DEX:56
INT:15(Matk:63)
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
‐‐‐‐‐‐‐‐‐クロア(15)‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
レベル:53
STR:29(Atk:82)
AGI:62
DEX:74
INT:30(Matk:83)
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
ミーアは身体能力の高い獣人らしく前に出て戦うスタイルらしい。
INTが低いのはご愛敬だが、STR/AGI/DEXのバランスが良く、前衛としては十分だった。
クロアは弓を得意としているらしく、弓の攻撃力に関係するDEXを上げ命中率を高めていた。
「僕たちの暮らしていた集落ではエルフと獣人が共に暮らしていて、獣人が前に出てエルフが弓で仕留める狩りのスタイルが定着していたので、僕たちも自然とこんな感じになりました。」
「だから、魔法を使う人って少なかったんだよね。 回復も薬草を煎じて作った薬とかだったし。」
「お陰で薬になる草花と毒になる草花の見分ける目も鍛えられたしね。」
それはスキルに依存しない、暮らしの中で磨かれた技術だった。
「それいいな、今度時間があったら教えてくれよ。」
「構わないけど、2人なら魔法を使った方が早いんじゃないですか?」
「いつでも魔法を使えるとは限らないし、風邪とかは魔法は治らないからな。 医者が近くにいないこともあるだろうし、覚えておいて損は無さそうだ。」
「そういうことなら喜んで。」
4人で話しているうちに空は夕焼けに染まっていた。
「あら、もうこんな時間ね。 そろそろ帰りましょうか。」
「うーん。 スキルについても聞きたいことあったんだけど、そういうのってマナー違反だよね?」
「手の内を明かすようなものだからな、まぁ追々解ってくるさ。」
「それでは、今日はこれで。 また明日ですね。」
ミーア、クロアと別れ2人は帰路に着いた。
それからしばらくの間、平穏な日々が続いた。
授業を受け、学内のクエストを2人で・・時にはミーア達と4人で受けたりもした。
偶に決闘を挑まれたりもしたが、アルトが一蹴していた。
未だ色々な噂は絶えなかったが、2人の気にしない様子やアカデミー内での姿からそれも徐々に沈静化していった。
そして、入学してから6カ月が過ぎようとした頃には2人(主にアルトに関することだったが)の噂を聞くことはなく、凡そ普通の学生らしい日々を過ごしていた。
ある日の授業が終わった放課後、いつものようにクエストを受けに行った日の事だった、
「あ、リースリットさん、アルトさん、あなた達に指名で受けてもらいたいというクエストが来ているのですが・・・」
と、いつもの受付の人に声を掛けられた。
「指名ですか。 初めてですが、こういうことってあるんですか?」
「あまり多くはないですが、あることはあります。 ですが、それは以前にも依頼を受けた人にもう一度という形なので、初めての人に対して指名というのは聞いたことありません。」
「とりあえず、依頼内容を見せてもらってもいいですか?」
リースは依頼書を受け取ると、中身の確認を始めた。
アルトも後ろから依頼書を確認した。
「これ、依頼元は近くの村か? 内容は討伐系で、対象が近辺の森で確認されたアナンダの群れか・・・」
「アナンダ、蛇の魔物よね。 倒せなくはないだろうけど、これ本来ならギルドに頼むべきよね?」
アナンダは大型の蛇の魔物で力が強く、特に締め付けられると強固な鎧を纏った騎士でも苦戦を強いられる。
なにより厄介なのが強力な毒と再生力を持ち、群れで行動することだった。
これにはアカデミーも困ったようで、
「はい、なので依頼元の方にも確認してみたのですが、どうしても2人に受けてもらいたいの一辺倒でして・・・」
「困っているのは事実なんですか?」
「そうですね、ギルドと連携して確認もしたのですが、討伐対象の個体が5体ほどいるのは確認できました。 ギルドの方もあちらで引き受けてもいいと言っているのですが。」
「どうする、リース?」
リースは少しの間考え、
「受けましょうか。 どんな理由かわからないけれど、態々私たちを指名ということは何かあるんでしょうね。」
「了解。 受付さん、これ受諾します。」
「わかりました、無理だと思ったらすぐに引き上げてくださいね。」
「はい、ありがとうございます。」
指名の依頼を受けることにした2人は早速準備を始めた。