1話
警視庁の資料室。
遅くまで必死に資料を読み漁っている男性が1人。
「クソッ、どうしてだ……どうして、何も情報が無いんだ」
相棒として、親友として。信頼していたし大好きだった彼。
そんな彼は、とある事件により殉職してしまった。
「どう、して……」
事件から数年が過ぎたが、心の傷は癒えないまま。
ぽたぽたとファイルの上に涙が落ちる。
「会いたいよ……」
会って、話がしたい。
また、2人で笑い合いたい。
その後もしばらく資料を見ていた男性だが、大きなため息を吐いたと思うと、散らばった資料を片付け始めた。
「……おれも、はやくとーやのところ、いかなきゃ」
ふらふらとおぼつかない足取りで資料室を出る男性。
殉職してしまった親友に会いに行くために向かうところは、ただ1つ。
誰もいない、真っ暗な屋上。
手すりを乗り越え、足場の淵に立つ。
自殺を試みたのは何回目だっただろうか。
今までは失敗ばかりしていたが、ここまで高いところから身を投げれば、きっと死ねるだろう。
身体を傾け、自然の流れに身を任せる。
これで、きっと。
そこで彼の意識は途切れた。
目を覚ますと、目の前には見慣れた天井の景色。
「え、……?」
あんなに高いところから落ちたと言うのに、自分はまた死ねなかったのだろうか。
いや、それともこれは死後の世界、と言うやつなのか。
「……」
キョロキョロと辺りを見回していると、ガチャ、とドアが開き、誰かが部屋に入ってきた。
「……とう、や……?」
そこには、狐面をつけた親友の姿があった。
「いやー、お前、あんなに高いところから落ちたら人間死ぬぞ。分かってやってたのか?あれ」
「冬夜、冬夜なのか」
姿形は殉職した親友そのものだったが、声が何だか違う。
「本当に資料どおりだなぁ、お前は」
「資料?」
「天界には全ての人間達の資料があって……って、この話は別にいいか。今は関係ないし」
天界?人間達の資料?
やはりここは死後の世界なんだろうか。
「なぁ、人間。いや、朱雀、か」
「人間、って、お前も人間、だろ……?」
『オレは死神だ』
目の前の親友の姿をした何かは、なんの躊躇いもなくそう言い放った。
「しに、がみ……?」
「ああ。死神。名前くらいは聞いたことあるだろ?」
「……死神って、あの、人間の魂を狩る……?」
頭が理解に追いついていない。死神?
親友の姿をした死神なんて、聞いたことがない。
「魂を狩る……っつーか……う〜ん、説明が難しいな。まぁ、死期が近い人の側に寄り添って、出来るだけその人が死ぬまで幸せに暮らせるようにするのが俺達の仕事だな。そいつが死んだ後は魂を天界に持っていって、転生するように上の方に引き渡す」
「……は、はぁ……」
「まー、人間の幸せって感情はよく分かってないんだけど。そのせいでよく怒られてるんだよな」
「な、なぁ。お前、冬夜じゃないのか?」
「ん?おー。この姿の方が動きやすいんでな。ちょっと借りてる」
「冬夜に会わせてくれよ、ここは死後の世界だろ?」
「あ?いや、お前はまだ死んでねーけど」
「は?」
死んでない?あんなに高いところから落ちたのに?
「死んでねーし、寿命もまだまだある。だから精々、悔いの残らないように生きるんだな」
「……だったら、死なせてくれよ。死神だろ?」
「俺達に人間を殺す能力はないよ。ただ見守るだけ」




