プロローグ
天井にあしらわれた玻璃から降り注ぐ柔らかな陽光が、謁見の間を隅々まで照らしている。
光の乙女の国に相応しい光溢れる美しい広間には、不吉な染みのように黒い影が一つ。
玉座の前で形式的に跪いてはいるものの、黒一色の使者は不遜な視線で玉座に座る王を真っ直ぐ見上げる。
「二ヶ月の猶予を与えよう。だが、それ以上は待たぬ。二ヶ月後……ソフィア公女殿下を迎えに参る」
「それは……あまりに突然で強引ではありませぬか」
王の隣に立つ宰相が色を失って、口を挟む。
そちらをジロリと見やって、使者はゆるゆると首を振った。
「貴国と接する我が国の領地には、近頃、魔物が頻繁に出没している。あらぬ疑いを掛けられたくなければ、この話に異論を唱えず、素直に従うが得策かと思うが」
「馬鹿な……光の乙女を抱く我が国が、魔物をけしかけたと仰るか!」
思わず声を荒げた宰相を抑え、王は苦渋に満ちた顔付きで使者に語りかける。
「我が国のような小国が、帝国と争うはずもない。皇太子殿下の妃を我が娘達から望まれると言うならば、応じよう。だが……ソフィアは、王嗣だ。他の娘でお願いしたい」
「ならぬ。理由は先ほど説明した通りだ」
「しかし……」
「承知いたしました」
言い募ろうとした王の言葉の途中で、凛とした声が割って入る。
玉座から少し離れた場所に立っていた少女が、ゆっくりと前へ出た。金色の豊かな髪がふわりと揺れ、鮮やかな翡翠色の瞳が揺るぎなく使者へ向けられている。
「そのお話、お承けいたします。ただし、条件がございます」
淡々と告げる少女の条件に、使者は元々険しい顔を更に険しくさせた―――。