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初恋のキミ、今は彼女

作者: WING

何となく書いた短編です!

楽しんでいただければ嬉しいです!

 ――好きだった女の子が転校した。


 まだ小学生の時だった。

 白髪が綺麗な女の子が、小学2年生の時に転校してきた。

 彼女は転校してすぐ、イジメの標的となった。

 イジメられているのにも関わらず、彼女はニコニコと愛想笑いを浮かべていた。

 学校が終わった放課後、彼女がイジメられている場面に遭遇した。


「気持ち悪いんだよ!」

「なんだよの髪、白髪みたい」


 男女混ざって複数人で彼女の髪を掴んだりして罵っていた。

 そんな中、一人の女子がハサミを持って彼女の髪を掴んで切ろうとしていた。

 彼女のか細い小さな声色が耳に入った。


「髪だけは、髪だけはやめて……!」


 僕は自然とその子の前に出て、ハサミを持った女の子の手を掴んだ。


「何する気なの?」


 彼女は割って入った僕を見て、驚いた表情で見ていた。

 よく見ると彼女は今にも泣きだしそうだった。


「何って……」

「髪は女の子にとって大事なものでしょ。それを髪色が違うって理由だけで勝手に切っていいもんじゃない。自分も切られる覚悟があるってこと?」

「ご、ごめんなさい」

「「ごめんなさい……」」


 女子は彼女に頭を下げて足早に去って行った。

 そして男子達が僕を睨みつけていた。


「なんだよ朝陽?」

「お前はそんな気持ち悪い奴の味方か?」

「いつもヘラヘラしやがってる奴を庇ってどうするんだよ」

「女の子を助けてヒーロー気取りか?」


 僕はヒーローなんかじゃない。

 大勢を助けられるヒーローとは違い、僕に沢山の人を助けることは出来ないから。


「違うよ。僕は大勢を助けることなんて出来ないから」


 僕は続ける。


「でもイジメは見て見ぬフリはできないんだ。見て見ぬフリしたら、死んだばあちゃんとじいちゃんに怒られちゃうからね。それに髪色が違うだけでイジメるのは良くないと思うよ。あと、まだやるってなら僕が相手になるけど?」

「……ふん。つまんねぇ。みんな行こうぜ」


 男子達は僕のことをつまらなさそうに見て去って行った。

 残った僕は彼女に手を差し伸べ立たせてあげる。


「大丈夫だった?」

「……うん。ありがとう」

「なら良かった。女の子にとって髪は大事だからね。それで、どうしてイジメられてるのに助けを求めないの?」


 僕の疑問に彼女は愛想笑いが消え、無表情でこう返した。


「……パパやママに迷惑をかけたくないから。前の学校でも私は友達がいなくて、それにこの髪が原因でイジメられてきたの。だからあなたも私に関わらない方が――」

「なんで?」

「――え……?」


 彼女は間の抜けた表情で僕の顔を見上げた。


「関係ないよ。周りがなんて言おうと、僕はキミの髪は綺麗だと思っているし、その目もキレイで、とても可愛らしいと思う。それに――もっと周りに迷惑をかけていいんだよ。とはいっても程々にだけどね」

「………………」


 彼女は答えない。

 今まで同級生で、それもクラスメイトからこのような言葉を言われたことがなかったのだろう。

 僕は笑顔で彼女に手を差し伸べた。


「僕がキミの友達一号だね!」


 彼女は僕の差し出した手を見つめ迷っていた。

 手を取ろうと出したが躊躇い、そして戻そうとしたが、僕が強引にその手を掴んだ。

 一瞬、ビクッと驚いて僕の顔を見た。


「僕は朝陽、君は?」

「真冬」

「よろしく、真冬!」


 今まで向けられることのなかった純粋な笑みには抗えなかったのだろう。


「よろしく、朝陽くん」


 それから僕と彼女は一緒に遊ぶようになった。

 僕が遊ぶようになってからイジメはなくなり、彼女は心から笑うようになった。

 だがそんな楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

 一年後の小学二年最後の日。

 桜が満開に咲いている日のことだった。

 彼女が桜の木の下で寂しそうな表情で、覚悟を決めた顔で告げた。


「あーくん、私、転校することになったの」

「てん、こう……? なんで? ユキちゃんはどこに行くの?」

「分からない。でもお父さんの仕事で遠くに行くことになったの。だからあーくんと遊ぶのはこれが最後、なの……」


 彼女は今にも泣きそうだった。

 だが、それは僕も同じだった。

 早い別れだった。


「じゃあね、あーくん! またどこかで――」

「――絶対にまた会おうね! 約束だから!」


 それが僕と彼女の最後だった。



 ◇ ◇ ◇



 俺、久我朝陽(くが あさひ)の初恋は小学生の時だった。

 白髪碧眼の女の子。

 転校してすぐに髪色が原因でイジメられていたが、俺は彼女を助け仲良くなり、遊ぶようになった。

 だが、一年しないで両親の仕事で転校してしまった。

 朝日がカーテンの隙間から部屋を照らす。


「……久しぶりにあの時の夢を見たな。元気かなユキちゃんは」


 朝というだけで憂鬱なのに、あの時の、それも小学生の時の記憶でさらにテンションが下がる。

 それは当時も今も好きだった女の子が出てくる夢。

 今どこで何をしているのかさえ不明であり、連絡手段もない。

 時が経ちすぎたせいか、本名がすぐに思い出せない。


「はぁ……」


 朝から深い溜息を吐いた俺は、起き上がり身支度を整える。

 今日から新学期で、俺は高校二年になる。

 マンションを出て学校に向かうため、歩を進めた。

 桜が満開で、土手沿いに菜の花が咲いているのを見ると、自然と春の訪れを感じる。

 心地よい風が通り抜けた。


 学校が近づくにつれて、新入生だろう生徒や、二年生や三年生が多くなってきた。

 俺は校門を通り抜けて昇降口に向かい、そのまま新しくなったクラスに入った。


「よっ、朝陽も同じか」


 俺が教室に入るなり声を掛けてきたのは、一年の時同じクラスだった鏑木海斗(かぶらぎ かいと)だ。

 イケメンでモテるが、彼女ありだ。


「おはよう海斗。同じクラスみたいだな」

「だね。結華も同じみたいだから嬉しいよ」

「なになに? 二人して私の話をしているの~?」


 割って入って来たのは海斗の彼女である、涼宮結華(すずみや ゆいか)


「結華!」


 海斗が結華を見て嬉しそうな表情で名前を呼んだ。


「いや、海斗が涼宮と同じクラスで嬉しいって話していたところだ」

「そっかぁ~、えいっ!」


 涼宮は笑い、そして海斗に抱き着いた。

 突然抱き着かれたことで驚く海斗であったが、受け止めて抱きしめた。

 周りの視線が二人に注がれ、注目を浴びている。


「おい、少しは自重してくれ」

「す、すまん……」

「ごめん、つい嬉しくって……」


 二人は謝り席に着いた。

 海斗と鈴乃は俺と席が近い。前の席に座る海斗が俺に話しかけてきた。


「そういえば朝陽、転校生が来るらしい」

「そうなのか」

「つまんなさそうだね」

「実際に興味ないからね」


 海斗は反応が薄い俺に「少しくらい興味持てよ……」と残念そうにする。

 クラスは転校生の話題で持ちきりだ。

 程なくして先生がやってきて転校生の紹介になった。


「転校生の水瀬真冬だ。みんな仲良くするように。水瀬からも一言どうだ?」

「みなさんよろしくお願いします」


 透き通るような肌に吸い込まれそうな青く澄んだ瞳。

 手入れのされた、輝くような綺麗な白髪が、開けられた窓から入る風で靡いた。

 まるで白糸のような髪と彼女、水瀬を見てあの日の記憶が蘇った。


「気のせいか……」


 そう思うことにした。

 それから数日が経過した。


「水瀬さんは綺麗だけど、感情が乏しいというか、無口というか。全く人と関わろうとしないよね」


 海斗の言う通り、水瀬はあまり人と関わろうとしていなかったのだ。

 口数は少なく、女子との会話でも多少笑っているが、俺には作り笑いに見えた。


「……何か事情があるんだろ。人には話せないことが。無理に聞き出そうとするのは良くない」

「優しいよな」

「カイくんの言う通り、久我くんは誰にでも優しいよね」


 海斗の言葉に涼宮が同意するように頷いた。


「俺は死んだばあちゃんとじいちゃんの言いつけを守っているだけだよ」

「久我くん、前にもそれ言ってたね」

「話したな。俺はじいちゃんとばあちゃんを尊敬している。二人に誇れるように生きていきたいんだ」

「立派なことだと思うよ」

「私もそう思う」

「ありがとう。そうだ涼宮」

「なに?」

「涼宮から見て、水瀬ってどう見える? 俺は少ししか話したことがなくて」


 俺の質問に、涼宮は口元に人差し指を当てて「う~ん」と考えたあと口を開いた。


「私も少し話すけど、積極的に人と関わろうとしないんだよね。なんだろう、避けているっていうのかな? そんな感じがして」

「なるほど」

「どうしたの? もしかして水瀬さんのことが気になるの?」


 なんて言い方だ。

 俺が水瀬に抱く感情に、恋愛などが一切ない。


「気になるって言えば、気になるが。それは恋愛感情などじゃなくて、ただの興味本位だよ。昔だから名前は忘れちゃったが、小学生の時に同じ髪の女の子がいてね」

「ふ~ん。なるほどねぇ~……」


 程なくして先生が来たので俺達は会話を辞めた。

 先生の話は進んでいく。


「それじゃあ最後に係を決めて終わるぞ~」


 次々と決まっていき、残るは日直となった。

 そしてここで何も決まっていないのは俺と水瀬のみだった。


「それじゃあ久我と水瀬、頼んだぞ」


 半強制的に係は決まるのだった。

 係が決まったその日の放課後。


「久我と水瀬、このプリントを職員室の私の机まで運んどいてくれ」


 そう言うや、先生は教室を出て行ってしまった。

 他の生徒も帰っていく中、不意に俺の背中が叩かれたことで振り返る。


「って、海斗か。なんだよ。嫌味でも言いに来たのか?」

「違う違う」


 まさか、といった表情で手を振って否定する。

 なら何が言いたいのか。聞こうとして海斗が、俺の耳元に口を寄せてこう告げた。


「水瀬さんと二人きりだな。頑張れよ」

「二人ともまた明日ね~!」


 再び肩をポンと叩き、爽やかな笑みを俺に向け、涼宮と一緒に教室を出て行った。


「……は?」


 振り返るとそこにはもう海斗の姿はない。

 廊下から海斗と涼宮の楽しそうな声が聞こえてくる。

 俺は水瀬を見た。


「……とりあえずこれ、職員室まで持って行こうか」

「ええ」


 水瀬が俺の顔をジーっと見つめる。

 何これ、凄く気まずいんだけど……


「俺の顔に何か付いているか?」

「何でもない」

「そうか? ならいいんだが……」


 俺の前を歩く水瀬を目で追うと、教卓に置かれたプリントを全部持とうとしていた。

 なので俺は声を掛けてそれを止めた。


「水瀬さん、待って」

「どうしたの?」

「俺が持つよ」

「別にそこまで重くないけど」


 そうは言っているが、実際そこまで重くはない。

 だが、二人いて半々で持つということを何故しないのだろうか?

 俺は半ば強引に水瀬が持つプリントの半分を奪い取った。

 急にプリントを半分奪われたことで、水瀬が俺に視線を向けた。

 何も言わないが、言いたいことはわかる。だから俺はその答えを口にした。


「何でも一人で抱えるのは良くないと思うよ。水瀬さん、周りに迷惑をかけたくないようにしているよね」

「……どうしてそう思うの?」


 初恋のあの子に似ているからとは言えない。


「まあ、前にそういう人がいたからかな。両親に迷惑をかけたくなくて愛想笑いを浮かべている人をね」


 少し驚いたような表情でこちらを見る水瀬に俺は告げた。


「――もっと周りに迷惑をかけていいんだよ。とはいっても程々にだけどな」


 俺は最後の「程々」というところで苦笑いを浮かべた。

そんな俺の言葉にだが、水瀬が驚いたような表情を浮かべたあと、小さく呟いた。


「あの時の言葉と同じ……」

「……あの時?」


 何を言っているのかよくわかないが、少し水瀬が笑ったような気がした。


「ううん。何でもない。それじゃあ半分お願いします」

「おう。任された」


 そこから頼まれたプリント職員室まで持って行った帰り。

 俺の後ろからは水瀬が付いて来ていたが、少しくらいは会話くらいした方が良いのかと考えてしまう。

 俺が悩みながら歩いていると、ふと、満開に咲き誇る桜の木が視界に入り、思わず立ち止まった。

 懐かしく感じてしまう。

 それと同時に忘れることのできない記憶が蘇ってくる。

 そこで俺の後ろを歩いていた水瀬の足音が止まったことで、振り返った。

 すると、俺と同じように懐かしそうに、それでいて寂しそうに、悲しそうに見上げていた。


「水瀬も桜の木に何か思い出が?」

「……あなたも?」

「ああ、小学生の時、大切な人が転校しちゃってさ」

「私は、優しくしてくれた大切な人との別れだった」


 俺は独り言のように話し始めた。


「その子、髪色が原因でイジメられていたんだ。ある日その子の髪が切られそうだったのを見かけて助けて、そこから仲良くなったんだ。結局は一年しか遊んでなくて、今日みたいな桜が満開な日に、唐突に転校を告げられてね。親の仕事で遠くに行くって。俺はその子の友達一号だったのに」

「――あーくん……なの?」


 あーくん。確かにその子は俺のことをそう呼んだ。

 俺と彼女は互いにあだなで呼んでいた。

 俺が『あーくん』で彼女が――


「もしかして――ユキちゃん……?」


 彼女の目から一筋の涙が流れ落ちた。

 時が止まったように感じた。

 何を言えばいいのか、何を話せばいいのか、言葉が出てこない。


「また、あーくんに会えた」


 嬉しそうに微笑んだ彼女は泣きながらも言葉を続ける。


「もう会えないのかと。これから先も出会わないのかと思ってた。でも、こうしてまた会えた。あの時の約束、守ってくれたんだ……」


 確かに俺はあの時、「絶対にまた会おう」と約束した。

 でもこれは、神様が気を利かせてくれたのだと思う。

 そうでなければこうして再び、彼女と会うことがなかったかもしれないから。

 これが運命ならば――


「君がいなくなってから、俺はどこかぽっかりと空いた空白の時間を送っていた。もう会えないのかとすら思った」

「でも、こうして会えた」

「ああ。だから今度はキミに伝えたいことがある」

「うん」


 俺と水瀬は向き合った。

 彼女の目元はまだ赤い。

 そして俺は、あの時に言えなかったこの想いを、今この瞬間、彼女に伝える。


「――時が経った今も、キミのことが好きだ」


 今伝えなければ、またどこかに行ってしまうかもしれない。

 そう思ったのだ。

 彼女が、水瀬は静かに微笑んだ。頬がわずかに紅潮している。

 そして――


「私も、あの時から今もずっと、あーくんのことが好きです」


 オレンジの空が、満開ともいえるような笑顔を見せる彼女の顔を照らすのだった。



最後までご愛読ありがとうございます。

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